はい、マチカネフクキタルです。   作:回覧板

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要求

これは私のクラスメイトの……Bちゃんとしましょうか。Bちゃんが体験した、ちょっと不思議な体験談です。

 

その日、Bちゃんは遅くまで練習をしていました。大事な模擬レースを目前に控えていたので、体を動かしてないと中々落ち着けなかったらしいんです。

 

気が付いた時には日が沈んでいて、携帯を確認してみると門限の直前でした。「ヒシアマさんに叱られる!」Bちゃんは慌てて寮へと向かうと、あることに気付きました。

 

どうも、校舎の方で声がするんですよ。それも、絶叫に近いような金切り声が。

 

とはいっても、何かに驚いたり、怖がっている感じではなかったんですって。大声を出そうとすると声がひっくり返っちゃう子っているじゃないですか。そういう感じの、深刻さはあまり感じられない、どこか楽しそうな声だったらしいんです。

 

この不可解な声に、Bちゃんは強く興味を惹かれました。元々彼女は好奇心が強いタイプなんですよね。私の占いもふんふんと聞いてくださって、ついたくさん話してしまうんですよねぇ。

 

ですが、今回に限っては、その好奇心があまり良くない結果をもたらしてしまったようです。好奇心は猫をも殺してしまうので。

 

結論から言うと、彼女は門限には間に合いませんでした。ヒシアマさん曰く。

 

「カミナリを落としてやるつもりで寮の入り口に立ってたんだ。そしたら、まぁ、ありゃ異様だったよ。汗も涙もボロボロ出しながらさ、アタシに抱きついてきたんだ。そんで寮の鍵を閉めるよう必死に言われてさ。あんなの見ちゃあ、叱るとかそういう気持ちにはなれなかったね」

 

まぁ尋常じゃありませんよね。一体Bちゃんは何を見てしまったんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

Bちゃんが声の方向に歩いていると、どうやら声は大樹のウロの方からしているらしいことに気付きました。

 

「あぁ、何か嫌なことでもあったのかな。昼間じゃ叫べないようなことなのかな」などと考えながら校舎の影から覗いてみると、Bちゃんは目を疑いました。

 

誰もいないんですよね。

 

誰もいないんですよ。

 

でも声はしてるんですよ。

 

不思議ですよね。

 

Bちゃんは「あれ?」と思いました。「もしかして、もうちょっと奥にいるのかな?」そう考えて大樹のウロを通りすぎてみたら、今度は声が遠ざかっていって。

 

やっぱり大樹のウロで声がしてるんですよね。でも声の主は見当たらない。

 

Bちゃんはちょっと怖くなってきました。帰ろうと考えた所で、「もしかして、ウロの中から声がしているんじゃないか?」、そう思いました。

 

どうせ通るのだからと、ウロの上に顔を出してみると、案の定声の主はウロの中にいるようでした。

 

Bちゃんは青ざめました。

 

まさか、誰かがこの中に落ちちゃって、自力で抜け出せなくなってるんじゃないか?

 

もしそうなら大変です。Bちゃんはウロに向かって叫びました。

 

「ねぇー!!!大丈夫ー!!?」

「出れなくなっちゃったのー!!?」

「何か必要な物とかあるー!!?」

 

すると、ピタッと声が止まりました。少しして。

 

「……助けてくれるの?」

 

ウロの中から返事が来ました。

 

「うん!私がなんとかする!絶対だから!」

 

「……本当に?」

 

「本当!今どういう感じ!?縄とか必要かな!?」

 

「必要。……だけど、必要なのは縄じゃなくって」

 

「縄じゃないなら、何が欲しいのー!?」

 

「必要なのはね、私が必要なのは、」

 

 

 

「脚」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「立ち上がるための脚。走るための脚。レースをするための脚」

「それがないからダメなの。それがないから何もできない」

「欲しいな、欲しいよ、欲しいね。くれるんだよね?」

「くれるんだよね」

「絶対って言ったもんね」

「本当って言ったもんね」

 

「くれるんだよね?」

 

 

 

 

Bちゃんはこの時、何を言っているのかわからなかったらしいです。発言の内容はわかるんですけど、意味が飲み込めないというか。

 

でも、これ以上いるのはヤバい、と。それだけは確かに感じたらしいんです。なので顔を引っ込めたんですよ。

 

そしたら、また絶叫に戻ったんです。でもちょっと違うんですよね。明確に笑い声が混じってるんですよ。さっきまでは「楽しげ」の範疇だったのに。もう完全に笑っちゃってて。

 

Bちゃんは気味が悪くなって、一刻も早く誰かに会いたくなり、寮に帰ろうと思いました。

 

突然ですが、ウマ娘って耳がいいんですよね。レース中でも、後ろにいる相手の位置を足音で見極められるくらい。かなり重要な器官なんです。

 

だから、なんですよね。Bちゃんは気付いたんですよ。

 

笑い声が、下から上に上がっていってることに。

 

 

 

そこからはもう、分かりますよね?

 

全力疾走で寮に戻り、ヒシアマさんに抱きついて、ですね。

 

Bちゃんからこの話を聞いたのは、彼女が悩んでいることがある、と相談に来てくれたからです。

 

なんでも、その日から変な夢が続いてるらしいんですよ。何て言うんでしょうかね、色んな知らない記憶が矢継ぎ早に切り替わるんですって。それも、悪い記憶が。

 

レースで負けて、才能のなさにうちひしがれた記憶。

脚を怪我して、レースを引退することになった記憶。

 

あんまり気持ちのいいものじゃないですよね。夢見が悪いと目覚めも悪くなるし、目覚めが悪いと起きた後のパフォーマンスに響くので。

 

Bちゃんは、夢占いをしてほしい、ということで私を頼ってくれたみたいです。でも正直、なんにもわからなかったんですよねぇ。私って霊感の類いはありませんし。

 

なので、『私』がなんとかしようと思ったんですよ。『この子』にも、もしかしたら危険がおよぶかもしれないので。『この子』はおっちょこちょいですからね。

 

 

 

……で、ここが現場です。

 

今は門限が近いくらいの時間ですね。声は聞こえています。

 

ただ、今回は既に笑い声が混じっています。

 

Bちゃんとの触れ合いで何かが進行してしまったようですね。やっぱり来ておいてよかった。

 

さて、それじゃあ話しかけてみましょうか。

 

「すみませーん、何かあったんですかー?」

 

声が止まりました。

 

「……出ることができないの」

 

「そうですかー、必要な物とかありますかー?」

 

「必要なのは、あ「脚ですよねー?」」

 

「………………」

 

「合ってますよねー?」

 

……笑い声が大きくなりました。

 

さぁ、多分ここからは姿を現そうとするはずです。声が登ってきている感覚があります。

 

「くれるんだよね?」

 

……それはそうと、Bちゃんはヒシアマさんに泣きついたあと、顛末を話したそうです。説教を誤魔化しているようには見えなかったので、翌日の昼間の内にウロの調査が行われました。

 

結果は、空振り。あっさり底にたどり着き、何もないのが確認されました。

 

「くれるんだよね?」

 

というか、ここだけの話、ウロの中って結構浅いんですよ。知ってる人は少ないんですけどね。

 

普通に考えて、出られないわけなんてないんですよ。ウマ娘なら尚更です。

 

じゃあどうして出られないのか?どうして、日中には姿を現さないのか。

 

「くれるんだよね?」

 

簡単な話、『これ』は、つもり積もった不安の権化だからです。

 

「くれるんだよね?」

 

姿を現しました。

 

 

「よこせ」

 

 

「あ─────っ!!!私も死にたくなかったなーっ!!!」

 

 

『これ』は動きを止めました。

 

 

「私だって、フクキタルと一緒にいたかったよー!!!なんで死ななきゃいけなかったんだよー!!!もぉー!!!」

 

『これ』は困ったように右往左往しています。

 

「死んじゃったせいで、あの子はずっと傷付いたままなんだよぉー!!!私があの子の心の大切な所を奪ったような物なんだよぉーっ!!!どうしてこんなことになっちゃったんだぁー!!!!!」

 

『これ』は行き場を失い、ウロの底へ戻っていきました。

 

場は、静寂に満たされました。

 

 

さぁ、それじゃあ帰りましょうか。

 

 

 

 

……おそらく、ウマ娘たちの不安や不満を吐き出され続けたことで、ウロの底には膿のようなものが溜まってしまったんだと思われます。

 

日中はいいんです。「不満の捌け口」という役割がある限りは、そうすることで膿は沈殿していくので。

 

でも夜はダメなんです。膿はやがて自分を「不幸なウマ娘」だと思い込むようになっていきます。

 

肉体を得て幸福になろうとするんですよね。だから夜中に役割を思い出させてやる必要がある。

 

なので、ちゃんと面と向かって言わないと意味ないんですよ。「お前はつくづく捌け口でしかない」と突きつけてやらないと。

 

……きっとしばらくは平気だと思います。彼には気の毒ですがね。

 

 

 

……結局、私はなにかって?

やだなぁ、最初に言ったじゃないですか。

 

 

 

えぇ、はい、マチカネフクキタルです。

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