はい、マチカネフクキタルです。   作:回覧板

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不快

『幽霊が出るレース場』の噂、ご存知ですか?

噂の内容は、まぁ読んで字のごとく、あるレース場で幽霊が出るんじゃないかーっていう、簡単でありがちな奴ですね。

 

ただ噂にしては結構しっかり目撃情報があるんですよ。なんでも、レース場のど真ん中に、ぽつんと立っているウマ娘がいるらしいんですよね。

 

その幽霊が出るタイミングっていうのはマチマチでして。レース中にふと目を向けると『それ』が立ってたり、夜中の清掃作業中に視線を感じて振り向くと『それ』が遠くの方にいたり。

 

でもこういう噂にしては珍しく、害とか危険性は特になにもないんですよ。よくあるじゃないですか、怪談でありがちな、「○○をしないと襲われる〜」みたいなヤツ。

 

それがないんです。

 

ただ立ってるだけなんですって。目撃者の多くは、『それ』を確認しても、気がついたらどこかに行ってしまった、それだけで終わりらしいんです。

 

怪談としてはパンチが弱いですよね。オチがないんですから。

 

だからこそ、信憑性があるなと、そう思ったんです。

 

 

 

私の推測としては、生き霊に近いものなんじゃないかなぁ、と思うんですよね。そこのレース場、結構有名で格式高い所なので、重賞の開催場としてもよく使われてるんです。

 

プレッシャーと期待がかかる大きな舞台、そして多くのレースが行われる場所。

 

当然、事故は多いです。不幸にも大怪我を負ってしまった例は、両手で数えきれないほどありますね。

 

だからまぁ無念というか、そういう薄暗い気持ちを集めやすいと思うんですよ。本人のはもちろん、期待を込めていたファンの方々も含めて。

 

これはちょっと違う例なんですけど、スズカさんが怪我してしまったあと、復帰するための実戦的な練習をしていた時のことです。

 

その時スペちゃんは遠くの方でレースをしていたんですけど、まるで一緒に走ってるような感覚になったんですって。

 

お互いがお互いにかける想いが起こした奇跡といいますか、正の方向性だとこういう例もあるんですよね。

 

逆に、負の方向性で似たようなことが起こる可能性もあるかもしれない。私は今回の噂をこう推測しました。

 

そこで、行ってみたんですよ。そのレース場に。

 

まぁやっぱり、私もよくお世話になる所なので、 万が一があったら怖いですもんね。不安の芽は摘んでおきたかったんです。

 

スタッフの方に許可を取って、一日様子を見ていてもいいことになりました。如何せんタイミングが掴めないので、とにかく時間をかけて見張るしかないんですよ。

 

レースを見たり、占ってみたりしながら、日が沈むまで粘っていたところ、ようやく『それ』は現れました。

 

遠目からではよく見えなかったんですが、大きな耳に尻尾と、シルエットとしては間違いなくウマ娘です。

 

「噂の幽霊だ!」そう思い駆け寄りました。目撃情報では「目を離したらすぐいなくなってしまった」という話が多かったので、なるべく目をそらさないようにしながら。

 

それでですね、その幽霊との距離が10mほどになった辺りでしょうか。暗くてよく見えなかったその姿が、ハッキリと見えたんです。

 

 

男の人でした。

 

 

頭から血を流した、男の人です。

 

 

どうやら、耳だと思っていたのは、何か三角形の物が突き刺さっていただけみたいです。

尻尾も、棒状の何かが突き刺さっているようでして。

 

私の推測は大外れだったみたいです。距離を保ったまま、試しに声をかけてみました。

 

返事はありません。

 

もう少し近寄ってみました。何かを凝視しているようで、まったく目が合わなくて不気味でした。

 

そこで、耳だと思っていた物が何か分かりました。

 

手なんですよ。

 

こう、指を内側に寄せるようにして、耳っぽい形にしてですね。それを頭にズボーっと。

 

もしかして、この人の手なのかな、と手元に視線を落としてみましたが、あるんですよね、手。

 

じゃあ誰か他の人の手だと。でもそんなことあります?

 

尻尾を確認してみようと、男の人の後ろに回り込もうとしました。そうすると、これまでピクリとも動かなかったのに、急に素早く動いて、尻尾を隠したんです。

 

驚いて視線を上げてみると、今度は私をじっと見つめているではありませんか。そして口を開き、

 

「どうしてこんなことをするの?」

 

そう聞かれました。

 

私が返答に困っていると、男の人は続けて言います。

 

「人が嫌がることは、しちゃいけないよ」

「君と、君もそうだ」

「何人も引き連れて、人を見せ物みたいに」

「そういうのって、お行儀が悪いよ」

 

男の人は、まるで生徒に注意をする教師のように、視線を動かしながら話を続けます。

 

「今回は勘弁してあげるけどね。もしもう一度同じ事をしたら、おこるよ」

 

それを最後に、口を閉じて何も言わなくなりました。

 

話しかけてみても、目の前で手を振ってみても、無反応。

きっと、再び尻尾を見ようとすれば、何か起きたかもしれません。

 

ですが私は、それをしませんでした。どうなるか、見当もつかなかったので。

 

私は今回の経験から、この男の人は「尻尾を見ようとしなければ無害」だと、そう結論づけました。

 

これ以上の深追いは危険だと感じたのもあります。

 

 

 

 

私は、レース場の土地に、なにか曰く付きの事件でもあるのではないかと考え、色々調べてみました。

 

その中で気になったものが一つ。

 

江戸時代にですね、殺人鬼がいたらしくって。

その殺人鬼は『他者の手』に強い執着を見せていたらしいんです。両手を切り落とされ、どこかに持ち去られる遺体が複数見つかったんだとか。

 

その殺人鬼か、もしくは被害者の幽霊かもしれない。そう思ったんですけど、どうも殺人鬼は普通に捕まって公開処刑にされたらしくて。

 

持ち去られた手も、殺人鬼の倉庫で人数分見つかったあと埋葬されましたし。

 

殺人鬼の死因も普通に打ち首でした。

 

 

 

今回の話はなんだったのか?

 

さぁ、私にもわかりません。

 

なんだったんでしょうね、アレ。

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