夏合宿中、この子……じゃなくて私が吉兆の方角を占い、森の中へ開運ダッシュを決めた時のことです。
迷っちゃったんですよね。
私の占いって当たる確率が半々なので、まぁこういうこともあります。色々頑張ってみたんですが、にっちもさっちもいかなくて途方に暮れてしまったんですよ。
それで一旦落ち着いてみて、太陽の位置と現在の時刻から大まかな方角を割り出してみようと思ったんですね。合宿中は砂浜でトレーニングするので、海の方に歩いていれば最終的に抜け出せるだろう、と。
それで歩いていたら、廃屋が見つかったんですよ。どうも家畜小屋?といった感じの。離農かなにかで手放しちゃったのかな~とか思いながら通り過ぎようとしたんですが、よくよく見てみると、そこそこ大きい土地を所有していたようで、似たような廃屋がたくさん並んでいたんです。
この辺りに畜産の歴史があったなんて知らなかったなぁ、だなんて思いながら歩いていたらですね、なんだか好奇心が湧いてきちゃいまして。ちょっと探索してみようと思ったんですよ。
長く伸びた雑草に苦戦しながら一通り見ていると、やっぱり海沿いだけあって腐食がずいぶん進んでて、手放されてからかなり時間が経ってるように見えました。たった数年間ではこうはならないと思うんですよね。
それで、どうもこの農家さん、ふれあい牧場的なこともやってたみたいでして、ところどころに注意書きの張り紙がされていたんですよ。子供にもわかるようにひらがなで書いてある物もあったりして。
微笑ましいなぁって見てたんですけど、一枚変な張り紙があったんですよね。
『QR決済可能です』
という張り紙。
対応してる会社も一緒に書いてあったりして、へー進んでるなーって一瞬思ったんですけど、でも変なんですよ。
その対応してる会社っていうのが、最近QR決済を始めた会社だったんですよね。CMでもよく見るので印象に残っていたんです。よくよく考えてみたら、こんな古びた家畜小屋にQR決済、というのが既にミスマッチですし。失礼かもしれませんけど。
実際はさほど時間が経っていなかったのかも、とも思いましたが、張り紙の日焼けによる色あせ、破け方、劣化の仕方が時間の経過を雄弁に語っていました。これは間違いなく、たった数か月のそれではないと。
それに気づいてからはなんだか気味が悪くなっちゃったので、廃屋を出て元の道に戻ったんですね。
なぜだか後ろ髪を引かれる思いがありましたが、自分の不安感を優先させました。
そのまま歩いていたら、さっきとは違う廃屋を見つけたんです。
そこは平屋建ての学校のようで、校庭とおぼしき広い空間もありました。
誰もいない校舎なんてただでさえ怖いですし、さっきの件もあるので、そのまま通り過ぎてしまおうと思ったんですよ。
でも、なんだか、その校舎に強く惹かれてしまって。どうしようもなくなって。
気が付いたら校舎の中へ足を踏み入れてしまって。
ああヤバいなぁ、これ絶対ダメだ、そうは思いながらも、歩みを止める気にはならなくて。
廊下を歩いていたら、楽しそうな声が聞こえてきたんですよ。小さい子たちのかわいい声。
知ってるなぁこれ、って思いました。聞き覚えのある声だったんです。
でも変なんです、変なんです、絶対に変で、だってそれは、私が小学生だった時のクラスメイトの声で。
そうだ、六年生のころだ。小学校のかけっこ大会で、フクキタルも走ってて、あの子ビリっけつで、あぁ、可哀想に、って。
私はあのとき優勝したけど、フクキタルはどう思ってたんだろう。何を考えていたんだろう。
あぁ、分かっていた、知っていた、あの子の自信を奪っているのが私だって。
でもどうすればいいか分からなかったんだよ、私は、どうすれば、あぁ、ああ、もう、なんで、こんな。
謝りたかった、言いたかった、たとえビリっけつでも、それでも笑顔でいるフクキタルに、憧れていたんだって。
でも言えずに終わってしまった。もう言えなくなってしまった。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
もう一度チャンスがあれば、やり直すことが出来れば、あなたに寂しい想いを絶対にさせないから。
この扉の向こうには、あの時の教室があって、過去があって。
そうすれば、きっと、あなたとまた、フクキタルとまた。
今度はもう、一人にしないから───
───そこで、記憶は途切れてしまったんです。
気が付いたら夜になっていて、周りを見回しても、妙な廃屋は一つも見当たりませんでした。
少し歩いたら海に出て、あぁ良かったと胸をなでおろして。
で、そのとき、何故か小さいダルマを手に握っていたんですよ。耳飾りのとは違いますよ?これはお祖母ちゃんからもらった『だるまん』なので。
……私は、今回の件で、後悔の念を突かれると脆いことを知りました。
元々、後悔があるから居着いてしまってるので、仕方がないのですが、それでこの子を危険な目に合わせたら本末転倒ですし。
……扉の向こうに行けたら、どんなに良かったんだろう。
でも、きっと、扉の向こうには何もなかったんでしょうね。
『過去』は過ぎ去ってしまったから、『過去』なので。
そこにあるわけがないんですよ、絶対に。