【ウマ娘】六平さんがオグリ(成人)に酒を解説するSS【シンデレラグレイ】   作:木下望太郎

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(前編)  ビール編

 おう、来たかオグリ、遅かったな。こっちだ、まあ座れ。…え? 部屋間違ってないか、だと? 

いいんだ、たまにはこういう、ちっとお高い所で呑まねえとな。それに個室でも取らねぇと、店じゃなくお前の方に行列が出来ちまう。なんせお前はもう、日本一有名な……

 

 何? 

「やっぱり部屋を間違えてる。ここはきっと、テーブルの下を工事中なんだ」「穴が空いている…畳に座ろうとしたら足が落ちてしまうんだ」?

 …バカ野郎。いいんだよこれは、掘りごたつ、っつうんだよ。座布団に座ってだな、足を下に垂らしてイスに座るみてぇにしてたらいいって気楽な席なんだよ。

 

 まあ何だ、その分じゃあどこかへ呑みに出るのなんて初めてだろうな。当ててやろう…遅れたのだってどうせ、一人で来るのがおっかなくて店の回りをうろうろしてたんだろ? 

 え? 

「時間どおりに来たんだが、店の人がなかなか案内してくれなかったんだ」? 「『予約していた、ろっぺいですが』ってちゃんと言ったのに」

 

 ……あのな。お前いったい何年俺が、仮にもトレーナーとして……え? 「分かってる。感謝している、むさかトレーナー」……おう。……そうか、おう。

「案内してくれなかったというのは冗談だ。カサマツンジョークなんだ」

 …アメリカンジョークみたいに言おうとしたのか?

大体、だったら何で遅れてーー

「仕方なかったんだ。駅前にケバブと生パスタの屋台が出ていたんだ、私のせいじゃないんだ」

 お前のせいだよ。

 

・・・・・・全く。大体呑みに行く前にメシを・・・まあそりゃいい、どうせお前のことだからまだ足りないんだろう。今日は俺のおごりだ、好きに食って呑め。

「それはありがたいが…どうしたんだ、急に『差しで呑もう』なんて」

 ……なに、ジジイのおせっかいだ。お前も成人したことだ、酒を呑む機会も何やかやあるだろう。そういうときに変な酔い方しねぇように、スマートな呑み方ってのを教えといてやろうと思ってな。それに、美味い酒の選び方も。

 ああ、何か聞きたいことがありゃ話の途中でもいい、適宜聞いてくれ。俺に分かる範囲でなら答える。

 

「そうか、おせっかいありがとう」

 …かわいげのねぇ奴だな…まあいい。とにかく、何か頼んで乾杯といくか。

「知ってるぞ、こういうときは『トリマ・ナマチュー』っていうのを頼むんだろう?」

 …言っとくが酒の名前じゃねぇからな、それは。まあ、普通に生ビールでもいいが……いや、小瓶のビールにするか。他の酒も色々教えてぇし、呑み過ぎねぇようにな。

 

 あと、適当につまむものも頼んでくれ。料理はおいおい頼むとして、枝豆とかすぐ出てくるやつを……そう、そこのボタンを押して店員を呼んで

「すいません。カツ丼一つ特盛で」

 いきなりメシを頼むな! 

 ……いや、いいよ、頼んで悪いってこたぁねぇよ。しかし何か、すげぇなお前…。ていうか、そんなガッツリしたもん置いてたのかこの店。

 ああそうだ、それとお冷(ひや)を、でかいコップで二つくれ。

 

 …とにかく、だ。こうして会うのも久しぶりだな。お前の引退試合、いや引退式以来か。お前ぐらいだぞ、東京、京都、笠松と三回も引退式やった奴は。もう何だかんだの取材もひと段落したか? そうか。

 先に引退した奴らはどうしてる……何、イナリは大井のレース運営にたずさわって、クリークは保育士資格のため勉強中か。タマは…日本一のたこ焼き名人を目指してキッチンカーを乗り回し、全国行脚の修行に出る? …適当に言ってねぇか? 何、タマから聞いた? ……お前多分、からかわれてるぞそれ。

 

 っと、そうこうするうちにビールが来たな。そら、注いでやる…ささ、オグリ先生おひとつどうぞ、ってな。よし、じゃ……乾杯。

……。なんだ、火のついたネズミ花火でもかじったみてぇな顔だな。本当に初めてだったか、どうだ感想は? 

「苦い」

そうか、まあそうだろうな。

「でも何だろう、コーヒーやお茶とは違う・・・・・・軽い苦さだ」

 おう、お前いけるクチだな。

 

 ま、グッといけ…いや、ビールじゃなくお冷を、水をな。

 悪酔いしないためのコツだよ、水をたっぷり飲みつつ酒を呑むんだ。アルコールを分解するには体内で大量の水分を使うらしい、ほっとけば脱水症状になりかねねぇし、悪酔いもする。

 別に恥ずかしいことじゃねぇ。『チェイサー』とか『[[rb:和 > やわ]]らぎ水』っつって、ごく普通のことだよ。特に強い洋酒を呑むときにはな。もちろん、それ以外の酒を呑むときにもやった方がいい。目安としちゃ、たとえば日本酒一合呑むなら水も一合飲む。できるだけ代わる代わるに、酒呑んだら次は水、ってな。

 

 さて、次は何を呑むかな。そら、メニューだ。料理もそろそろ頼むか。

「こうして見るとビールも色々あるんだな。アサヒ、キリン、サッポロ……どう違うんだ?」

 ああそれな。同じだ。

「…ん? でも、違うじゃないか。メニューに別々に…」

 ま、細かい味の違いはあるがな。実際のとこ、ホントに細かい違いでしかねぇよ。何せそこらは全部、同じ種類のビールなんだ。

 『ラガー』っつう種類、その中の『ピルスナー』。細かく言や『ジャーマン・ピルスナー』って品種。日本で普通に流通してる大手のビール、そのほとんどはそこに入る。

 

「……どういうことだ?」

 ああ、順番に話すか。まずビールってのは、大きく分けて二種類ある。さっき言った『ラガー』。そして『エール』だ。

 

 細かいことは省くが……『ラガー』は『近代にできた種類』『爽やかなキレがあって喉越しがいい』『キンキンに冷やして飲め』。

 さっきも言ったが普通に売られてるビールの大半はこれだ。つまりCMで、ぷっはー美味ぇ! ってやってるやつだな。さっき呑んだ瓶ビールも当然これだ。

 

 で、もう一方『エール』の方は『ずっと昔からある種類』『香りが高くコクがある』『冷やし過ぎない方が香りが立っていい、何なら常温でもイケる』。

 映画とかで見たことねぇか、ヨーロッパのパブでオッサンが集まって、世間話しながらぐだぐだちびちび呑んでるのがこれだ。

 

 まあ温度についちゃ、細かく言やあラガー系は4度から8度、エール系は10度から16度が適温らしい。

 缶ビールなら、冷蔵庫で3~4時間冷やせばラガーの飲み頃。

 冷蔵庫から出して3~4分おいて、室温のグラスに注げばエールに適温の13度前後だ。これは常温というわけじゃなく、少しひんやりした感じだな。

 ラガーでもキンッキンに冷やしまくるのは味が分かりにくくなるからダメだ…とも言うが。ま、その辺は好みだな。

 

 ん? ラガーとエール、どっちが上等かって? 

 もちろん、どっちが格上ってこたぁねぇ。ただまぁ、最近はクラフトビール――大手企業だけじゃない、個人でやるような小さな醸造所が作る個性的なビール――がブームでな。そうじゃなくても、海外にも多くの銘柄があるし、この店でも色々扱ってる。その中でも個性の出やすい、エールをいくつか頼んでみようじゃねぇか。

 もちろんクラフトビールにもラガーはたくさんあるがな。単に珍しい、話のタネになりそうな方を呑んでみようってわけよ。

「そうか、つまり…ナウなヤングにバカウケのものを呑もうということか」

 …マルゼンスキーに何を吹き込まれた? 

「いや別に、ただウーパールーパーとエリマキトカゲが――」

 そうか、全部忘れろ。

 

 さて、ごたくはこのぐらいにして注文してみるか。何にするよ?

「…いっぱいあってよく分からないな…どうやって選べばいい?」

 ま、気になったもんから適当に選べばいいが……外さないやり方としちゃ『淡い色のものから濃い色のものへ』だな。

「どういうことだ?」

 

 目安として、色で判断するっつうのが意外と有効なんだよ。

ビールの味の基準としては『コクがある重い味か、それとも軽いか』『苦味が強いか、弱いか』ってのがあるが。

 基本的に、『色が濃い』のは『コクと苦味が強い』。

 『薄い、明るい色』をしてるのは『あっさりして苦味が弱い』。

 

 コース料理でもほれ、いきなりメインディッシュが来たりしねぇだろ? 最初にスープやサラダ、前菜が来て、その後に肉が出る。

 ビールも――いや、酒全般そうだが――最初にガッツリした濃いのを呑んじまうと、後からあっさりしたのを呑んでも物足りなく感じちまうんだ。

 だから、色々試したいなら『あっさりしたものから呑む』のが定石だな。もちろん、気に入りの銘柄があってそればっか呑みたいなら、それでも構わねぇ。

「私はいきなりメインディッシュでもいっこうに構わないんだが?」

 お前はそうだろうな。

「とりあえずガーリックステーキを十皿と……」

 今頼むな。

 

 …もう一つ言っとくと、『料理の色味とビールの色を合わせるといい』ってのもある。

薄い色のビールにはあっさりしたもの、和食全般や魚、鶏肉。やや濃い色のビールならハンバーグやタレつきの焼鳥。濃い色のビールにはガッツリした、ローストビーフや肉の煮込みとかだな。

 

 まあ、最初は俺が選んでやろう。

 淡い色のエールとくれば『アメリカン・ペールエール』がまあ定番か。

で、あっさりした料理は、と……刺身か揚げ出し豆腐がいいか、その辺りを注文して……と思ったら何だ、呼んでもないのに店員が……何、お待たせしました、って?

 …持ってきちゃったよカツ丼。しかもソースカツ丼、ガッツリ味濃い奴だろこれ。

「こういうの好きだなシンプルで、ソースの味って男のコだよな」

 いきなり食ってんじゃねぇよ。だから最初はあっさりしたやつから……

「モノを食べるときは誰にも邪魔されず自由で、何と言うか救われてなきゃあダメなんだ」

 ……そうか、もういい。何のグルメなんだお前。

 …まあ、店員がいるうちにほれ、好きなもん頼め。ビールは俺が適当に頼んどく。

 

 しっかしあれだな、本当に変わらんなお前。色気もクソもねぇというか……何か浮いた話とかねぇのか。

「……いや、特に」

 ……そうか。

「でもクリークは何だか、誰かを逆指名しましたとか何とか…」

 何だそりゃ、詳しく聞かせろよ。

「そこまでしか聞いてないんだが」

 …ホントに色気ねぇなお前。

 

 で、そうこうするうちにビールが来たな。小瓶で色々頼んどいた、順に試してみようぜ。ああ、料理は適当に食ってていいぞ。

 まずはさっき言った『アメリカン・ペールエール』。ほれ、どうぞ、と。

「なるほど、確かに淡い色だな。透き通った金色……最初のビールと同じか、少し薄いぐらいだ」

 味も試してみろ。ほれ、乾杯と。

「…なんだか、マーマレードじゃないけど…オレンジというかレモンというか、柑橘類の皮みたいな匂いがするな。いい香りだ。スッと呑めるけど…さっきのビールよりはコクと言うのかな? しっかりした味がする」

 おう、そこまで味が分かるんなら、やっぱりお前いけるクチだな。

 

 実は大手の会社でも、最近それなりにエールの扱いはあるんだよな。で、大体その場合、エールっつったらこの種類を指すんだ。『アメリカン・ペールエール』…正直、こればっかりエール扱いされるのには閉口するがな。

「嫌いなのか?」

 いや、そんなこたぁねぇ。爽やかで呑みやすい、エールの中じゃラガーに一番近いっつってもいいやつだ、入門編としちゃ最適だ。好きだよ。

 だがまぁ…エールがこの種類だけで完結しがちってのは気に食わねぇな。

 一応言っとくと、別に柑橘類を使ってるわけじゃねぇ。酵母の働きでそういう香りがついてるんだ。もちろん、果物やハーブで香りづけするビールも他にはあるんだが。

 

 というわけで次だ。『ペールエール』。

「ん? さっきのと同じ種類じゃないのか? それにしては…色が全然違うんだが。茶色、というか琥珀色? ぐらいの色か?」

 ああ。ちなみに『ペール』ってのは『薄い色』って意味だ。

「さっきのはともかく、これは全然薄くないんだが?」

 まあそうだな。で、味はどうだ?

「柑橘の香りはほとんどしないな…さっきより苦味と、ずしっと重い味わいがする。でも、さっきの仲間だって言われると確かにそうだ」

 こっちは元祖ペールエール、あえて言うなら『イングリッシュ・ペールエール』ってところか。イギリスでこれが出来た当時としては、他のエールと比べて淡い色だった。それでこの名前だ。これがアメリカでアレンジされたのがさっきの『アメリカン・ペールエール』ってわけだ。

 

「ところで思ったんだが、ろっぺいはビールを注ぐのが下手だな」

 あぁ? 何だよそりゃ。

「このビールを注いだとき、全然泡が出てなかった。他のときはCMみたいに泡あわだったのに」

 

 それはな、泡立てない方がいいビールってのもあるからだ。泡が立つと、その中にビールの旨味や苦味が逃げちまう。だからエールみたいな『コクのあるタイプのビールは、泡を立てない』方がいい。

 逆にラガーや、エールでも『口当たりの軽いタイプのものは泡を立てる』方がいい。細かな泡が立てばまろやかな口当たりが出るし、泡が空気の層を作ってビールの酸化を防ぐ、という意味もあるんだ。

 

 注ぎ方は、泡を立てたくなけりゃとにかくグラスを寝かせてそっと注ぐ。

 泡を立てたいならグラスを真っ直ぐ、少し高いとこから勢いよく注ぐ。グラスが泡で一杯になったら、泡が落ち着くまで待ってそっと注ぎ足す。これで、もちもちっとした細かい泡が出来るわけだ。

ま、エールでも泡があった方が美味そうでいいって奴もいるだろうし、その辺は各自の好みだな。

 特に、酵母が生きてるタイプのクラフトビール――うっすら濁ってるようなビール――を、陶器のジョッキに注ぐとだな。雲が起こるみてえにもくもくと泡が出て、たまらん香りが立つ。これはこれで悪くねぇもんだ。

 

 さて、もう一つペールエールの系統をいってみるか。これはこれでメジャーなやつだな。

「これは、完全に色が濃いな。焦げ茶色に近いが…本当に同じ系統なのか?」

 ああ。味はどうだ。

「柑橘の香りはするが…さわやかを通り越して、はっきりと濃いな。味は苦味が強い…なんというか、アメリカン・ペールエールをずっと濃くした感じだ」

 おう、まさにそれだな。『インディア・ペールエール』。

 大航海時代、赤道を越えてインドに向かうイギリスの船のために、ビールが悪くならないように大量のホップを使って濃いビールを作った、ってのが始まりらしい。『IPA』って略称で呼ばれることが多いな。

 実はIPAも色々バリエーションがあるが、これは特に香りが強い『アメリカンIPA』だ。

 

 次に行くか。色の濃さからいくと逆戻りになっちまうが…それと、こいつは泡を立てて飲むタイプだ。

「つまりあっさりした味なんだな? 色も、ラガーより薄いぐらいの金色だ。味は……何だろう、甘いというか…苦味がすごく少ないな。ラガーより呑みやすいぐらいだ。香りも甘い、ちょっとパンみたいな匂いだ」

 『ウィートエール』、小麦を使ったエールだ。ドイツの『ヴァイツェン』、ベルギーの『ホワイトエール』がこの系統だな。軽い飲み口でとっつきやすい品だ。

 

 次は逆にこれだ。

「何だこれ…真っ黒だが…コーラじゃないよな? 」

 もちろんビールだ。『黒ビール』つって聞いたことねぇか。イギリスの『ポーター』やドイツの『シュバルツ』。まあドイツのはエールじゃなくラガーなんだが。

で、これはアイルランドの『スタウト』だ。まあ呑んでみろ。

「でも、色が濃いほうが苦いということは…ものすごく苦いんじゃないか?」

 まあ、一口試してみろ。

「…実は醤油だった、とかじゃないよな?」

 いいから呑んでみろって。

「麦茶だと思って飲んだ麺つゆの味ほど強烈なものはないんだ…まさかそういうタイプのドッキリを仕掛けて……」

 んなことするかバカ野郎! …確かにそういうときの麺つゆは強烈だが。

「どれ…。……! 何だこれ、甘い…けど苦い。でも甘い…コクというか、濃い感じはすごくするけど」

 

 ビールは主に麦芽とホップから作られるんだが、麦芽は甘さやコク、ホップは苦さやキレに影響を与える。そのバランスで味わいが作られるんだが…『甘さも苦さも強い』みたいな複雑なのも往々にしてあるわけだ。

 ビールの分類ってのは難しいんだ…『苦くない=甘い、とは限らない』んだからな。

だからまあ、好みのものを探すなら『キレのあるもの=ラガーか色の淡いエール』、コクのあるものがいいなら『色が濃い目のエール』ってとこから入って、色々な銘柄を試すしかねぇだろうな。

 

 今呑んだ以外に、ラガーもエールも色々種類はあるが…とりあえず、エールでメジャーなとこは味見したな。後は料理をゆっくり食って…まだ呑めそうなら、次は日本酒でも選んでみるか? 

 

 

(日本酒編に続く)

 

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