【ウマ娘】六平さんがオグリ(成人)に酒を解説するSS【シンデレラグレイ】 作:木下望太郎
(これまでのあらすじ)
――オグリキャップ、有馬ラストランを経ての引退からしばらく後。
六平(むさか)トレーナーは慰労を兼ね、成人したオグリを呑みに連れ出した。
六平は悪酔いしないコツや酒の選び方、各種ビールや日本酒の解説を交えつつ、和やかにオグリと呑んでいたのだったが…。
北原と交際しているのか突っ込んだところを聞かれたオグリは、ごまかすために酒を一気に呑んで爆睡。
寝込んだオグリを泊めてもらうよう、六平は旧知である「メジロのおばあ様」に連絡を取った――。
(幾人かの使用人により、オグリが客間のベッドに寝かされた後。俺――六平――は応接室へと通された)
(天井から下がるクリスタルガラスのシャンデリアが、部屋に暖かみのある色合いの光を投げかけている)
(落ち着いた色の壁にはいくつかの絵画が掛けられているが、どれも自己主張のない静物画のみ。メジロ家の威光を誇示するような肖像画や、レースの場面を描いたものは意外にもなかった。火の灯っていない造り付けの暖炉の上にも、トロフィーの一つも置かれてはいない)
(そうしたものを見せつけないことは、貴族的な奥ゆかしさによるものだろうか。あるいは、わざわざ見せる必要もないと考えてのことか――メジロ家に赫々〈かくかく〉たる栄光のあることは、天に日のある如く当然のことである、と)
(どちらの考えであってもおかしくはない、彼女なら――
くるぶしまで埋まりそうに柔らかな絨毯を踏み分けた先、一人がけのソファーに腰掛けたナイトガウンの老女。王女を描いた肖像画のように、鷹揚(おうよう)に笑みを浮かべたその老ウマ娘なら――)
――「御久し振りね。その後いかがです、六平トレーナー。さ、おかけになって」
ああ、久しぶりだ。変わりはないさ……酔っ払ってる他はな。夜分急にすまなかった。
――「お気になさらず。でも……ふふ、本当に珍しいお客様がいらしたこと」
そんなに珍しいか、呑んだくれたジジイがよ。
――「いえ。ただ……葦毛の酔客となると、いくらか…ね」
……。
――「……なかなか信じられないわ。あのお嬢さんが『葦毛の怪物』……。うちの子たち以上に走った、なんて」
それは……いや、急に押しかけたのは悪かった。だがあれも嫁入り前の娘だ、本当に当てがなかっ――
――「いえ、いいのです、そのことは。それに…うちの子たちはよく走りました。アルダンは全てを振り絞りました。ライアンはまだまだ伸びるでしょう。ただ――」
(そう言って彼女は天を仰いだ)
――「中継を見たわ、あの有馬の。あのお嬢さんの勝利に沸き立つ観客たち、地響きのように轟く歓声。天も地もかき混ぜるかの如く巻き起こる熱気――。一つのレースであれほど熱狂が渦巻くことなど、未だかつてなかった……ひょっとしたら、これからも」
――「あのお嬢さんは、今は酔って寝ている怪物は……走りで、この国一つを酔わせた」
……酒ってのは、どうやって出来るか知ってるか。
――「……?」
酒は……そうだな、日本酒なら原料のかなりの部分は『水』だが。水は放っておいても水のままだ。
そこに米が、麹(こうじ)の働きが、多くの人の手が。様々に加わってようやく酒になる。
…あれを越えようとする者たちがいたからこそ、その走りが世の中を酔わせた。もしもそれが無かったなら……あれは、水のままだった。
――「……ふ。ふふ、ほほほ……。可笑しいわ、貴方、そんな気遣いが出来るようになられたのね。長生きはするものですこと」
…………ふん。
――「さて、楽しませていただいたところで、先に失礼させていただきます。体が思わしくありませんのでね。貴方はどうなさるの、お部屋は用意させているけれど」
いや、ジジイの世話までさせちゃ悪ぃ。失礼して、どっかで呑んで帰るよ。何せあいつが寝込んだもんで、中途半端にしか呑んでねぇんだ。
あいつが朝起きたら、悪いが家まで送ってやってくれ。
――「ええ、そのように。…そうそう、呑み足りないのでしたら。いただき物のお酒が随分余っているの、うちの人たちはあまり呑みませんのでね。よろしければ味見していかれるか、好きなだけお土産になさって」
(言うと、彼女はソファーの陰に立て掛けていた杖を取る。それにすがるように立ち上がった。ウマ娘にとって第二の心臓ともいえる脚、それに杖が必要なのか――)
……体を、大事にな。
――「! ほほ……ほほほ!」
……何だい、何がおかしい。
――「可笑しいわ、ふふ、ああ可笑しい。これを見ると皆同じ顔をなさるの、貴方もそうだなんてね。それが見たくて、こんな物持っているのですけれどね」
(言うと、彼女はくるくると手首を回し、杖をもてあそんでみせた。そのまま確かな足取りで部屋を後にする)
…………食えねぇ婆ぁだ。
????「何が食べられませんの?」
(聞こえてきた涼やかな声は、幸いにも先の老女のものではなかった)
(メジロアルダン――メジロ家令嬢にしてオグリの同期。つまり、葦毛の怪物を追い続けた者の一人)
…おう、久しぶりだ。いや何、変なところで呑みを切り上げたんでな。つまみもろくに食えなかった、ってな。
???「でしたら、折り良いところです。何か用意致しましょうか、我々も少々たしなんでいたところでした」
(凛とした別の声はヤエノムテキ。彼女もまた同期だった。オグリに挑み続け、そして引退の手前で一矢を報(むく)いた者)
……へえ、意外だな。お前たちが酒を呑むなんてな。
ヤエノ「我々も成人した身。人並の興味は湧こうというものです」
アルダン「ヤエノさんはトレーナーさんとお酒を飲みに行かれたことがあるそうなので。それでお願いして、教えていただいていたところでした」
あの師範代とか。そのときは何を呑んだんだ?
ヤエノ「師範代はおっしゃっていました。
『良いかヤエノ。漢は黙ってカルーア・ミルク』
『もしくはキッス・イン・ザ・ダークかシンガポール・スリング……華やかな道を臆さず進むがよい』
『フローズン・ダイキリってシャクシャクして超美味しいよねー、かき氷みたいで』と」
……乙女かあの髭野郎。まあ、甘いカクテル好きだったなあいつは。
アルダン「それで、うちにあったいただき物のお酒を試していたのですが…」
ヤエノ「どうも思わしくありません…我々にビールは合わないのかも知れませんね」
なるほどな。まあ、ビールをいきなりすいすい呑める奴の方が珍しいか。
俺が何か、呑みやすいものでも見つくろってやろう。他に何か、もらい物ってのはあるか?
アルダン「ええ、こちらに」
(通された客室のテーブルの上には、二人が呑んでいたのだろうビールの瓶とグラス、いくつかのつまみがあった。そしてもう一つのテーブルは、隙間を埋め尽くそうとするかのように。様々なワインの瓶、他にいくらかのビールとソフトドリンクが置かれていた)
……どんだけ呑む気だったんだ。
アルダン「いえ、どれが良いのか分かりませんでしたので…」
ヤエノ「あるものを、目につく端から持ってきてみました」
まあいい、ワインなら果実味の強いものもある。そういうやつなら呑みやすいだろう。どれ、これか…あと、こっちのは冷やしておいてくれ。氷水につけておくといいだろう。
(アルダンが使用人を呼び、選んだ白ワインを冷やすよう伝えた。また別の使用人がワイングラスや追加のつまみを運んできた)
さて。白ワインが冷えるまで時間がかかる、赤ワインから試してみるか。本当は白ワインの方が、渋みがなくて呑みやすいんだが。
ヤエノ「私は構いません。赤ワインの方が、いかにも葡萄(ぶどう)酒といった感じで気分も出ます」
アルダン「それにしても、六平トレーナーはワインにお詳しいのですね」
いや、俺もそんなに詳しくはねぇよ。銘柄だの醸造所だのは、ほとんど知らないしな。
ヤエノ「え? しかし詳しくなければ、あれだけの数の中から呑みやすいものをすぐに選び出せるとは…」
ああ、それな。難しいことじゃねぇ、一つ二つの点を見りゃ分かるんだ。
まずはそう、赤ワインの味の分類から話すか。
『フルボディ』とか『ライトボディ』って聞いたことねぇか?
『フルボディ』は『渋味が強く』『コクが深い』。『重い』と表現される、しっかりした口当たりだ。
『ライトボディ』は逆に『渋味は弱く』『すっきりとしている』。『軽い』と表現されるなめらかな口当たりだな。
その中間は『ミディアムボディ』だ。
ブドウの絞り汁のみを発酵させる白ワインと違って、赤ワインはブドウの皮や種も発酵させる。そこから出るタンニンという成分、これがいわゆる『渋味』だ。
この『渋味』が強いほど、ボディも重いとおおむね考えていいだろう。
ヤエノ「タンニン……日本茶にも含まれる成分ですね。そう考えるとなるほど、いかにも渋みがありそうです」
ああ。どれぐらいの重さのものがいいかは個人の好みだが、慣れていないと渋味の強いものは呑みにくいかもな。
で、だ。
ここに赤ワインが二本あるが、ぱっと見てどっちの渋味が強いか分かるか?
アルダン「と、おっしゃられても…正直私にはさっぱり…」
ヤエノ「…そうです! 渋味が強いもの、つまり濃厚なものなら色も濃いのでは?」
ほう。それは確かにそのとおりだ。
だが、紫外線による劣化を防ぐため、ワインの瓶は濃い色がついてることが多い。この瓶もそうだな。栓を開けずに中の色を判断することは難しいだろうな。
アルダン「それ以外で違いというと…瓶の形、でしょうか? …それがどう関係するかは分かりませんけれど…」
そうだ。正解を言うと、こっち――長方形に近い形、『いかり肩』をしているような瓶――のものは渋味が強い。
逆にこっち――五角形に近い形、『なで肩』をしているような瓶――は渋味が弱いんだ。
なぜそんな違いがあるかっつうと、これも『渋味』に関係がある。
渋みが強いものの場合、『
いかり肩のボトルなら、ワインを注ぐときにこの肩の部分に澱が引っかかり、グラスに入りにくい。
逆に、渋みが弱いワインならそもそも澱は多くない。なので、澱を気にしない、なで肩のボトルに入れていいわけだ。
まあ、澱ってのは長年熟成させたようなワインにできるものだ。普段呑むようなワインの場合は気にすることでもないんだがな。
ヤエノ「なるほど……優れた武道家は相手の道着の着方を見ただけで実力を推し量ることが出来るといいますが、六平トレーナーも正にその域……! 感服致しました」
いや、別に俺が発見した法則とかじゃねぇんだが……まあいい。
ま、とりあえず呑んでみるか。こいつはおそらく、比較的渋味が少なく果実味があるはずだ。さ……乾杯、と。
ん……美味いな。思ったより少し濃かったか。
アルダン「…本当です、濃厚な……100%のぶどうジュース、それをもっと濃くしたみたいな味わい」
ヤエノ「そうですね、そこにわずかに渋味を足したような……でも気になるほどではありません。むしろ、これがワインというものか、という実感があります。美味しいです」
なるほど、まあまあ読みどおりといったとこだな。
アルダン「でも不思議です…銘柄には詳しくないとおっしゃいましたけれど、でしたらなぜ味が予測できたのですか?」
それはな、ラベルを見るんだ。ああもちろん、親切なものはボディの強さを裏のラベルに表示してあるんだが。ないものも多い。そういうときは何を見るか?
ラベルには色々書いてある、銘柄だの醸造所だの何年産だの。だが、その辺は気にしなくていい。プロじゃない俺らはな。
見るのは一つ。『ブドウの品種』だ。
この場合だと『テンプラニーリョ』、これだな。
ワインってのはブドウの味がダイレクトに出る。基本的には『ブドウを発酵させる』というシンプルな工程だからな。
一方で日本酒なんかは加工する工程が多く、米の品種による違いはそこまで出ないんだ。
まあそれは余談だ。要するに、『主なブドウの品種と特徴を覚えておけば、ワインの味は分かる』ってことだ。
ヤエノ「なるほど……武術においても打つべき急所というものがあります。他の箇所には目もくれず、急所を押さえるその姿勢……非常に武術的であると、感服致しました」
そうか……まあいいが。
とりあえず、赤ワインのブドウについて解説しておくか。メジャーなものは五種類だな。
ボディの重い順に、まず『カベルネ・ソーヴィニヨン』。
こいつはとにかくしっかりした渋味があるな。一方、酸味や甘味、香りも強い。
全力でどっしりとした主張をしてくる、フルボディの王道ともいえる品種だ。
次に『メルロー』。
全体のバランスはさっきのカベルネと似ているが、こっちの方が主張は抑え目だ。
一方で、きめの細かい渋味、『シルキー(絹のよう)』ともたとえられる柔らかな口当たりがあり、ふくよかなボディとも表現されるな。
『シラー』はミディアムボディ、やや渋味が強いことも多いか。
濃厚な果実味や甘味が楽しめる一方、黒コショウにもたとえられるスパイシーな香りもある。
オーストラリア産の場合は『シラーズ』と呼ばれ、さらに果実味が強く呑みやすいな。
さっき呑んだ『テンプラニーリョ』、スペインを代表する品種だな。
濃厚な果実味がありつつまろやかで、親しみやすい味わいといわれている。一方で、シラーにも似たスパイシーさもあるな。
味の濃いスペイン料理にはまさにぴったりだ。
最後は『ピノ・ノワール』。最初に言ったカベルネの対極に位置しつつ、同様に赤ワインを代表する品種だ。
渋味はごく少なく、酸味が強い。イチゴやバラにたとえられる華やかな香りがあり、口当たりは軽やか。
カベルネの骨太さを『王者』とするなら、こっちは繊細な『女王』といったところだな。
ま、ボディの重さについちゃ熟成度合いなんかも関係してくるが…とりあえずは気にしなくていいだろう。
それともう一つ覚えとくといいのは『生産国』だな。
アルダン「やっぱりフランスが本場とか、そういうことですか?」
いや、もっとざっくりした分け方だ。
『ヨーロッパ』か『それ以外』か。『旧世界』『新世界』って言い方もされるな。
ブドウの味には気候が大きくかかわってくるんだが。『温暖な気候であるほど果実味が増す』んだ。
だから、同じ品種のブドウから造っても、ヨーロッパ産なら辛口に感じる。アメリカやオーストラリア、チリといった新世界産なら、果実味があって甘く感じるだろうな。
ついでに言やあ、ヨーロッパのワインはブドウの品種が表示されていないことも多い。その意味でも、初心者は新世界産のワインから入った方がとっつきやすいかもな。
特に『安くてそれなりの質があるもの』を探すなら新世界産のものがいいっていうな。
アルダン「まあ……。こうしてみると、ワインと言っても様々なのですね」
ああ。さて、呑み過ぎてもいけねぇ、このワインはいったん置いとくか。口にラップをかけて輪ゴムで止めて、冷蔵庫に入れといてくれ。口を開けたワインは酸化しやすいんだが、これで数日はもつ。
そういや白ワインも冷えた頃か。今度はそっちを試してみるか。
ちなみに赤ワインの飲み頃の温度は16度前後、白ワインは10度前後だ。最適な温度となるとボディの重さや味の傾向で多少前後するが。
冷蔵庫で3~4時間か、氷水につけて15分ぐらいで白ワインの適温だな。
赤ワインは常温でいいなんてよく聞くが、そりゃヨーロッパの話だ。日本の気候なら少し冷やした方がいい。冷蔵庫に保存してたなら、呑む1時間前ぐらいに室温に出しておけばいいだろう。
さて、白ワインだが。味の基準として、通常は赤ワインのような『ボディ』で語られることはないな。というのは、赤ワインと違って――
アルダン「分かりました! さっきおっしゃっていたことですね、『赤ワインは皮や種も発酵させて渋味が出る』『白ワインはブドウの絞り汁のみを発酵させる』って。つまり――」
そうだ、よく覚えてたな。白ワインには、赤ワインほどの渋味がない。だから、渋味が大きな要素となる『ボディ』では語られないんだ。もちろん濃い薄いってのはあるがな。
あと、赤ワインのような瓶の違いも特にないな。
白ワインの基準とされるのは主に『甘口』か『辛口』か、だ。
これがちょっと難しいんだが……
ヤエノ「? 甘いのでしたら糖分が多いということでしょう? 特に難しいとは思えませんが」
もちろんそれもある。『糖度が高ければ甘口』『低ければ辛口』だ。
だが、もう一つ要素があってな。『酸味』なんだが…分かりにくいだろうが、これが二種類ある。
『まろやかな酸』――ヨーグルトのような風味ともたとえられる――か、
『シャープな酸』――青いリンゴのようなキリッとした酸味――か。
イメージしにくければ『まろやかな酸=酸味が弱いもの』『シャープな酸=酸味が強いもの』という解釈でもいいだろう。
甘口・辛口ってのはこの『糖度』と『酸』を合わせての評価だ。
『糖度が高く』『まろやかな酸』なら甘口。
『糖度が低く』『シャープな酸』なら辛口になる。
それに、さっきも言ったが『ヨーロッパ産のブドウは酸味が強く辛口』に、『新世界産のブドウは果実味が強く甘口』になる傾向がある。
特に白ワインの場合、地域によってガラッと味が変わるやつもあるからな……覚えておいた方がいいだろう。
さて、白ワインも主な品種を三つほど教えておくが…さっき言ったみたいに、土地によって大きく味が変わるのもある。この品種だから甘口、とかは一概に言いにくいんだが。ま、とにかく解説していこう。
『シャルドネ』、これがそのガラッと変わるやつだ。
気候や土壌で変化を受けやすいらしく、ヨーロッパならシャープな酸のさわやかな辛口、新世界なら果実味やコクのあるふくよかな甘口になる。
白ワインは魚料理や天ぷらによく合うが、シャルドネは特にクセがなく、様々な料理に合うと言われているな。
次に『ソーヴィニヨン・ブラン』、これはややシャープな酸か。
だが、グレープフルーツやライムのような香りと果実味が強く、そこまで辛口には感じにくい。新世界産のものは特にそうだな。
草原や芝生のようなさわやかな香りとも言われ、これも多くの料理に合うんだ。
そしてドイツの『リースリング』。この品種自体は非常にシャープな酸の辛口だが…さっき冷やしてもらったやつもこの品種だ。
まずは呑んでみるか。
ヤエノ「どれ……な、甘ッ!? 甘い、全然辛くなんてありませんが!?」
アルダン「本当、冷たくてとろりとした舌触り、濃縮されたような甘味とブドウの香り……ブドウのシャーベットというか、まるでこれ自体がデザートみたいな……」
これは気候と言うより、造り方によって大きく変わってくる。
普通に造ればそのまま辛口なんだが、糖度を高める技法があるんだ。本来は糖分が発酵してアルコールになるんだが、発酵を途中で止めてしまうことで、糖分を残したまま甘いワインに仕上げる。
ドイツじゃあ、甘いほど格の高いワイン、と見なされることもある。
そうしたワインにも種類があるが、こいつは中でも第二の格。『アイスヴァイン』と呼ばれるデザートワインだ。
アルダン「確かにブドウのアイスクリームみたいですが……」
これは特殊な造り方でな、凍ったブドウの実を使う。そうすると水分が凍結して、糖分が凝縮されるらしいんだが……正式なアイスヴァインはさらに特殊な手間が定められている。ブドウを収穫せず冬まで待ち、枝についたまま凍った実を使う、というものだ。
ヤエノ「な……まさか、ただでさえ手間がかかるであろうワイン造りに、さらなる手間が……! その信念と自然の力の前に、頭(こうべ)を垂れざるを得ません……!」
まあ、そりゃあいいが。とりあえず主要な品種はそんなとこだ、これだけ知ってりゃ好みのワインもすぐ見つかるだろう。
じゃ、後は自分らで試してみてくれ。俺はこの辺でおいとまさせてもらうとするか。
ヤエノ「もう帰られるのですか? まだあまり呑んではおられないと思いますが」
なに、歳を取るとあまり無理できなくてな。早めに切り上げさせてもらおうか。
アルダン「あの……六平トレーナー。差し出口かとは思いますが…私たちのことなら、お気づかいは無用ですよ?」
……。
アルダン「いえ、トレーナーご自身が気まずく思われていたのでしたら、申し訳ありません。教え子の同期、それも……ふふ、教え子が散々に打ち負かした同期たちと呑むなんて、と」
アルダン「……私も最初は、声をかけて良いか迷ったのです。トレーナーがおばあ様とお話しされていたとき。……私自身の中で、気持ちの整理はつけていたつもりですが……」
アルダン「でも、トレーナーはおっしゃって下さいました。私たちみんながいたからこそ、あのレースはあのレースになり、オグリさんはオグリさんになった、って」
アルダン「……私自身もきっとそうなのでしょう。みんなと競い合って、全てを出し尽くして……そうして今の私がある」
ヤエノ「私も同感です。……引退後、一緒に呑みに行った日、師範代はおっしゃいました。
『ヤエノ、お前には余りに多くの敵があり、壁があった』
『時として、好敵手と呼ぶにも余りあるほどの敵が十重二十重にな。……お前は決して無敵ではなかった』
『だが、それでいい。壁がもしも無ければ、その敵との切磋琢磨が無かったなら……お前は、今ほどのお前にはなっておらぬ』
『その敵がいたからこそ……お前は真になれたのだ。ワシの誇り、“ヤエノムテキ”にな』
『さ、シメのパフェを選ぶが良い。ワシはこの“デカ盛りベリーベリーパルフェ~天使のキッス味のソースを添えて~”に決めた』
――と」
……ふ。二人とも、何だかすっかり大人だな。オグリの奴に、お前たちの爪のアカでも煎じて飲ませてぇよ。
ヤエノ「……ふ。確かに、彼女はどこか抜けていますからね。それはそれで、憎めないところでもあるのですが」
アルダン「ええ。……それに、私の方はまだ引退したわけではありません。全てを出し尽くした私の、まだ先があるはず……今は療養中の身ですが、秋までには必ず」
ああ。……しかし、悪ぃウマ娘がいたもんだぜ。療養中に客を引き止めてまで呑もう、なんて奴がな。
アルダン「あら。そのウマ娘にお酒を教えるなんて、もっと悪いトレーナーさんもいたものですね。ふふ」
全くだ。……さてと、お言葉に甘えてもうちょい教えるとするか。次は別の品種にしてみるか?
ヤエノ「それも良いのですが……一度、オグリさんの様子を見てきませんか。大事ないとは思いますが」
その方がいいか。案内してくれ。
(オグリが寝ている客室)
オグリ「~~zzz…むにゃ……むぐむぐむぐ…」
…よく寝てるな。
ヤエノ「そのようですね」
アルダン「あら、でも布団がずり落ちて…直しておきますね」
オグリ「う~ん、むにゃむにゃ……北、原……」
(布団をかけ直したアルダンの手を、突如つかむオグリ)
アルダン「……え?」
オグリ「うむむ…この華奢な手はやっぱ、り、北原……ふわぁ……やっと来てくれたのか(すりすり)」
アルダン「ひっ……!?」
オグリ「うふふ……ずっと待ってたんだぞ、早く捕まえない……と、逃げてしま……うぞ、逃げウマじゃあない、けど…むにゃ」
アルダン「あの、ちょっ、離して」
オグリ「うふふ二度と、二度と…zzz…離さないzz…私は葦毛の、お姫さまだからな…王子さまを、さらいに来た…んだ」
アルダン「あの、誰か、誰か……」
オグリ「うふふ…大好き…北原…なでなでしてー…うふふー……(ちゅっちゅちゅっちゅ)」
アルダン「ひ……いやあああああっっ!!?」
オグリ「!!? あれ、アルダン…北原、は…………」
アルダン「………………」(固まっている)
六平「………………」(目をそらせている)
ヤエノ「………………」(赤面して顔を隠している)
オグリ「………………。えっ」
オグリ「えっ。……うわああああああああああ!! あぁあああああああああ!!!!」(この世の全てに絶望した顔)
アルダン「いやあああああああああ!! あぁあああああああああ!!!!」」(とにかく心底びっくりした顔)
六平「うわああああああああああ!! あぁあああああああああ!!!!」(オグリを呑みに連れ出したこともこの家に来たことも後悔している顔)
ヤエノ「うわああああああああああ!! あぁあああああああああ!!!!」(みんなにつられて思わず叫んだ)
オグリ「ああああああああ!! ぁぁああああああああああ!!!」(誰でもいいから早く私を介錯してくれ、といった顔で起き上がり、部屋の外へ走り出した)
六平「ああああああああ!! ぁぁああああああああああ!!!」(ヤバい、すぐ追いかけてくれ、と思いながら二人を見る)
アルダン「ああああああああ!! いやぁぁああああああああ!!!」(それどころじゃないほどびっくりしている)
ヤエノ「ああああああああ!! ぁぁあああ…って、押忍!! 私が追います!」
(はだしのまま広大な庭を駆け抜け、木の葉を散らして植木を跳び越え、外壁に跳びついてよじ登るオグリ。そのまま敷地の外へ飛び下り、道路を駆ける)
オグリ「ああああああああ!! うわぁぁああああああああああ!!!」
ヤエノ「くっ、速い……! はだしであれだけ走るなんて…靴を履いてきたのはかえって、取り返せないロスだったか……!」
(六平はメジロ家の使用人に車を出してもらい、同乗して後を追う)
六平「フォームはめちゃくちゃだ、いつものあいつほどの走りじゃない……だが相当先に行かれてる。当分追いつけないか…それまでに奴が事故でもしようもんなら…」
オグリ「ああああああああ!! うわぁぁああああああああああ!!!」
(排水溝を跳び越え、砂利を蹴散らし走る――線路の上を)
六平「マズい…! わざと入ったわけじゃねぇだろうが…終電は、終電はもう過ぎてんのか!?」
オグリ「ああああああああ!!」
?????「おやこれは……狂えるオルランドかはたまた嫉妬に焦がれたロルダンか。いずれの真似にせよ、個性的なトレーニングをするお嬢さんだ」
(いつの間にか、線路の脇を続く道路に。オグリに並ぶように走る姿があった)
(中等部に入ったばかりといった体格、学園のジャージに身を包んだ、短い栗毛のウマ娘)
オグリ「あああ、ああああ!!」
?????「ふむ、止まる気配はないようだが…しばし併走をしてもよろしいかな」
?????「何、ボクのことならお気になさらず。と言っても美しいこのボクのことがどうしても気になるようだね、さもありなん」
オグリ「あああ、ああああ!!」
?????「いい質問だ、なぜこんな時間に走っているのかって? それは月がまぶし過ぎるからさ…ああ、美しいボクの登場を待ちきれず、この街という舞台にスポットライトを投げかける月よ! さあごらん、ようやく主役のご登場だ!」
?????「♪さぁ……見よ! ♪乱れに乱れた世 ♪正すべく 現れた騎士~~~♪」
六平「何だあいつ……いや、何もんだ」
六平「悪路とはいえオグリに併走して息一つ切らさねぇ…どころか、気持ちよさげに歌ってやがる。アホみてぇな心肺能力…!」
(その時、線路の遥か向こうに小さく光が見える。おそらくは電車のライト)
六平「マズい…!」
?????「♪ひるがえる 旗は 勇気示し~~♪ ……おや、どうやら新たなスポットライトが、ボクを照らしたがっているようだが」
オグリ「あああ……あ、あ…!!?」
(ライトに気を取られたか、オグリが線路の枕木につまずく。高速で走っていたその体が前のめりに宙を舞う)
?????「! とうっ!」
(歌っていたウマ娘が飛び出し、空中でオグリを抱えた。着地すると線路から駆け下り、横の道路に出る)
?????「フッ…危ない危ない。君もスポットライトを狙っていたとはね。だが、ライトの中心は常にボクのもの…誰であれ渡しはしないさ! ハーッハッハッハ!」
(ぐったりしたオグリをお姫様抱っこしたまま、高らかに笑うウマ娘。…が、オグリはすでに限界だった)
オグリ「う……お…おぶぇえええええ…」(思いっきり吐いた)
?????「ハッハッハぎゃあああああああ!!?」
(ウマ娘の悲鳴は、すぐ横を通っていった電車の音にかき消された)
(その後、オグリとウマ娘、ヤエノらを車に乗せ帰ってきた六平)
(ウマ娘はタオルを借りて体を拭き、六平らがいた客室で座っている)
――「フ…今宵は新たなる発見の時だったよ。何せ――」
(手鏡を取り出して自分を眺める)
――「汚穢(おわい)に汚れてしまったボクだが……それでもなお美しい。ということはつまり…通常のボクはどれほど美しかったことか! おおすまない、世の民草よ…美の化身たるボクが、ボクの美しさを知らなかっただなんて!」
六平「……よく分からねぇが。すまねぇ、本当に助かった。ありがとう。このことは、また改めてきちんと礼を――」
――「ふ。いや城主(カスティリャーノ)殿、ボクのことなら何も構うことはないさ。何しろボクにとっては『鎧兜こそ我が晴れ着、戦(いくさ)こそは休息なれ』というわけなのでね」
六平「いや、とにかく礼を……トレセンの生徒か、名前を教えてくれ」
――「いやいや、遠慮させていただこう…下世話にも『危険は遅延にあり』などというもので、すぐにでも旅路につきたい気持ちが煽り立てられるのでね…では、さらば」
アルダン「待って下さい、連絡先とか…そうだ、せめてクリーニング代を」
――「ふむ…どうしてもと言うならば。それよりも、そこなる美酒をば一献(いっこん)いただけまいか」
六平「……ああ、注いでやろう。そら」
(泡立つ赤いグラスの中身をしばし眺めた後、ウマ娘はそれを口に含んだ)
――「ふむ…舌の上を軽やかに駆ける泡の向こう、そこにある確かな果実味…そして甘味。渋味を抑えた中にも感じられるボディ…これは間違いなく、フランスはブルゴーニュのテロワール(土地による風味)。良い葡萄だ……よほどの当たり年のものだね」
――「堪能させていただいた。さらば! ――あっすいません玄関はどちらで…あ、ありがとうございます――さらば!」
――「♪我は そう ドン・キホーテ! ラマンチャの騎士さ! ♪宿命が我を呼ぶ~~♪ 吹き荒ぶ風よ 我を運べ ♪栄光の下へと~~~♪」
(廊下にいた使用人に道を聞いた後、ウマ娘は歌いながら駆けていった)
六平「……何だったんだ」
ヤエノ「さあ……そういえば、さっき出したワイン。あれはどの分だったのですか」
アルダン「そうですね、よほど美味しい――」
六平「ファンタだ」
アルダン「え?」
六平「ファンタ・グレープ。無果汁だ……そこらのソフトドリンクの中にあった。明らかに未成年だったしな」
アルダン「ファン、タ…」
ヤエノ「ファンタにどこからあの解説が……」
六平「しかし……何者かは知らんが。楽しみな奴だ」
六平「(その後、そのウマ娘に改めて礼をしたかったのだが)」
「(しばらく他の用事でバタバタして、その機会がなかった)」
「(何せ翌日から、ジョーとオグリの間で色々あったのだ。その色々はその後も続いて関係者は皆バタバタ……何があったかって? 聞くだけ野暮だ、とだけ言っておくか)」
六平「(だが、偶然にも俺は彼女を知ることになる。たまたま知り合った新人トレーナー、そいつの担当の一人が彼女だったのだ)」
六平「待てよ、どういうことだ…あいつのクラシック登録をしてねぇだって?」
新人トレーナー「ええ…。確かに彼女には光るものもあります、が…どうも素行が、というか、夜間に学外へ抜け出すことが多くて…」
「いえ、学園側から登録を差し止められたわけではないんですが、反省をうながす意味で僕から――」
六平「反省だ? そんなもん引退してからにしろ!」
「いいか、悪いこたぁ言わねぇ。今すぐ登録しろ、追加登録ってのがあんだろ!
今はオグリのときとは違うんだ! 何しろ、奴なら見せてくれるかも知れねぇ」
新人トレーナー「見せるって、何を」
六平「さあな……ひょっとしたら、オグリのつけた蹄跡、その先をよ」
「奴が、テイエムオペラオーが…な」
(おしまい)
オペラオー「――という歴史があって、ついにボクの伝説が始まったというわけさ! ハーッハッハッハ!!」
ドトウ「さすがオペラオーさん! すごいです~!」
「じゃあここからはさっそく、シンデレラグレイ外伝・世紀末覇王伝説が――」
オペラオー「ふっ、ドトウ。君ともあろう者が奥ゆかしさという美徳を忘れているようだね」
「このボクの偉業を語る権利は誰にでもある……この先を語る栄誉は他の者に与えようではないか」
「――『Forse altri cantera con miglior plettro』!」
(おそらく誰か他の者が、よりめでたく歌うであろう)」
アドマイヤベガ「(こいつ、そのセリフを引用したかっただけなのでは……)」
(再びおしまい)
(おまけ)
(ワインの解説というよりSS要素が強くなってたので……ワインの品種について再度まとめておきます)
(なぜか『グラップラー刃牙』風にな……!)
アルダン「――――。あれ、ここは……レース場? 私、いつの間にこんな所に…」
ヤエノ「あなたもやってきましたか。この『東京ドーム地下レース場』に」
アルダン「えっ」
六平「知ってのとおりここでは、武器の使用以外全てを解禁したルール無用の地下レースが行なわれているわけだが…今日のレースは中でも特別だ」
アルダン「えっ、えっ?」
ヤエノ「ええ……ときにアルダンさん、我々ウマ娘の中にはワイン用のブドウ品種をつかさどる『ブドウマ娘』がいることはご存知ですね」
アルダン「えっ何それ、知りませんけど」
六平「ああ…そして今日は彼女らが集い競い合う『ブドウマ娘最大トーナメント』…」
アルダン「えっ何、いったい何……」
六平「地上最強のブドウマ娘を見たいかーーーっ!!」
観客たち「オオーーーーーーっっ!!!」
アルダン「(観客いたんだ…)」
六平「俺もだ、俺もだみんな!! …選手入場!」
(アナウンス)――全 選 手 入 場 で す!!
――まずは赤ワイン主要五品種!
――絶対王者は生きていた!! 更なる研鑽を積み、フルボディの深みを極めてきた!
――皇帝・シンボリルドルフがつかさどる『カベルネ・ソーヴィニヨン』だァーー!!!
ルドルフ「勇往邁進…この深き味わいの、王者の道を進むのみ!」
六平「『カベルネ・ソーヴィニヨン』…豊かな渋味からなる骨太なボディ。濃厚な香りや甘味、酸味の主張もありつつバランスが取れている」
六平「長期熟成用の高級ワインとしても最適な一方、メルローなどとのブレンドでも力を発揮する、チームリーダーとしての一面もある…まさに絶対王者」
六平「ま…育成が難しい分、ダジャレしか言わないポンコツがたまにまぎれてるんだが」
ルドルフ「エアグルーヴ、果物でもどうだ。ブドウをひとつぶどう?」
――特に理由はないッ、酸味が強いのは当たり前!!
――ブルゴーニュの生んだ芸術品! メジロマックイーンがつかさどる『ピノ・ノワール』が来てくれたーーー!!! メジロ家には内緒だ!
マックイーン「優雅に、軽やかに…貴顕の務め、果たしてみせますわ」
六平「王者『カベルネ・ソーヴィニヨン』あれば、女王『ピノ・ノワール』あり…。カベルネの対極に位置しつつ、赤ワインを代表するもう一つの品種だ」
六平「繊細かつ渋味のない軽やかな味わい、バラやスミレにも似た華やかな香り…まさに芸術品と言えるだろう。一般に熟成向きのワインは渋味が強いが、これは例外的に熟成に向くと言われている。一方、熟成せず呑んでも十分に味わえるという万能性もある」
六平「…が、これも難しい品種だ。食ってばかりのポンコツがたまに混じってる」
マックイーン「パクパクですわ! パクパクですわ!」
――サポートする子たちの前でなら、私はいつでも全盛期だ!!
――母なる大地の香り、スーパークリークがつかさどる『メルロー』!! ソロで登場だ!
クリーク「みんな、やわらか~く包んであげますね。うふふ♪」
六平「『メルロー』…さっきも言った、カベルネなどとのブレンドで力を発揮する品種だ。カベルネの強い渋味を『メルロー』の柔らかな渋味が包むことで荒々しさが消え、まろやかになる」
六平「だが単独でもバランスの取れた味わいがある。きめ細かい渋味のふくよかなボディ、絹にたとえられるなめらかな舌触り。ダークチェリーや土…腐葉土にもたとえられる落ち着いた香り」
六平「特に、熟成されたメルローは化ける、と言われているな」
アルダン「というか…何なんですか、この集まり」
――バーベキューがつまみなら、このスパイシーさがものをいう!!
――ワイルド&ジューシー! タイキシャトルがつかさどる『シラーズ』!!!
タイキ「Let’s BBQ partyデース! Yeah!」
六平「旧世界産なら『シラー』、新世界産なら『シラーズ』。品種としちゃあ同じだが、新世界産のものがより果実味が強くスパイシーな香りがあると言われている」
六平「強い果実味とブラックベリーのような香りがあり、濃厚で力強くも呑みやすい」
六平「バーベキューやジビエ――狩猟肉――といった、ワイルドな味わいの肉料理にはまさにうってつけだ」
アルダン「だから何なんですかってば」
――南欧の太陽が磨いた情熱の味!!
――スペインの怪鳥(デンジャラスバード)! エルコンドルパサーがつかさどる、『テンプラニーリョ』だ!!!
エル「ジューシー・おいしー・スパイシー! この情熱、味わうがいいデース!」
六平「『テンプラニーリョ』…濃厚ながらもエグみが少なく親しみやすい、果実味の強い味わい」
六平「価格としても手頃なものが多く、その意味でも親しみやすいな」
六平「スペインのアヒージョ、日本の焼鳥…濃い目の味との相性がいい」
アルダン「あの、ですから…」
――続いて白ワイン、主要三品種!
――ヨーロッパでは辛味を制覇だが新世界なら甘味があたしのものだ!!
――万能の変態、アグネスデジタルがつかさどる『シャルドネ』だ!!!
デジタル「推しのためならどこまでも! アナタ色に染まってみせます!! うひひ…じゅるりら☆ 」
六平「気候や土壌の影響を特に受けやすい『シャルドネ』。旧世界のものはシャープな酸の辛口、新世界のものはふくよかな甘口に仕上がる」
六平「白ワインには一般に白や緑の色をした料理が合うが…クセのないシャルドネは、特に多くの料理に合う万能選手だな」
六平「さらに言えば、樽による熟成を経ているかどうかでさらに味が分かれる」
アルダン「あの、ですから……。いえ、もういいです」
――爽やかさなら絶対に負けん!!
――草原の風見せたる、清涼感隊長! ウイニングチケットがつかさどる『ソーヴィニヨン・ブラン』だ!!!
チケット「うおおおーっ! アーターシーはーかーぜーだあああぁっっ!!」
六平「『ソーヴィニヨン・ブラン』…柑橘類の他、草や芝生にもたとえられる爽快な香り。熟成していないものは色さえ緑がかっている…まさに草原の風を思わせる品種だな」
六平「シャープな酸がある反面、果実味から辛味は比較的感じにくい」
六平「魚料理やサラダ、これも様々な料理に合う万能性がある」
アルダン「へー、なるほどー」
――私は辛味最強だけではない、甘味でも最強なのだ!!
――御存知ドイツ出身・エイシンフラッシュがつかさどる『リースリング』!!!
フラッシュ「剣のように鋭く、お菓子のように甘く…正確に、貴方の口へ」
六平「本来はシャープな酸のごく辛口だが、職人の手によって甘口に生まれ変わる…それが『リースリング』」
六平「アイスヴァインの他、最上級の貴腐ワイン『トロッケンベーレンアウスレーゼ』というのもある」
六平「ドイツの他のブドウでは『ゲヴュルツトラミネール』というライチのような香りの品種もあるな」
ウオッカ「く……鎮まれ、オレの右腕の『ゲヴュルツトラミネール』…! 行くぜ、最後の一撃……禁・千百弐拾壱式最終決戦奥義!『トロッケンベーレンアウスレーゼ』!!」
六平「……何だあいつ」
アルダン「選手じゃないんですか!?」
六平「知らん、何あれ…怖…」
――ここからはその他赤ワイン品種!
――毎年の解禁日を知らしめたい!!
――ボジョレー・ヌーボーでおなじみ! ハルウララがつかさどる『ガメイ』だァ!!!
ウララ「うっらら~♪ 秋が来たよー! それと冬が来るよー!」
六平「『ボジョレー・ヌーボー』にはこの品種が使われる。『ガメイ』」
六平「熟成に向かない、新酒に特化したフレッシュな味わい。育成もしやすい、大衆的ながぶ呑みワインだ」
六平「とはいえ、人気だけに終わらない実力もある。まさに『ブドウ酒』といった裏表のない味わいだな」
――ルールのないワインが造りたかったからワイン法を飛び出したのだ!!
――ボルドー式のブレンドを見せてやる! マルゼンスキーがつかさどる、スーパートスカーナ! 『サンジョヴェーゼ』!!!
マルゼン「テーブルワインと同じでいい、格付けもいらないわ…このブレンドの能力を確かめるだけでいい」
六平「『サンジョヴェーゼ』これ自体は『キャンティ・クラシコ』と称される、一連の高級ワインに使われるものだ。酸味が強いが熟成するとコクが出る。高級品だけでなく手軽なワインまで色々あるな」
六平「だが、あえてイタリアのワイン法を外れた、フランスのボルドータイプのブレンドがなされることもある。主体はカベルネ・ソーヴィニヨンなんだが」
六平「そうしたワインにはイタリアでの格付けは全くない。だが海外では高く評価され、『スーパートスカーナ』と呼ばれているな」
――日本食(ジャパニーズ・フード)ならこいつが怖い!!
――日本産のお祭り娘、キタサンブラックがつかさどる『マスカット・ベーリーA』だ!!!
キタ「祭りだ♪祭りだ~♪」
六平「生食用のマスカットを、ワイン用のベーリーと交配させた『マスカット・ベーリーA』」
六平「生食用にもなるブドウの軽やかな味わいは、繊細な和食の味を損なわない。味噌や醤油の味と合わせるには最高の逸品だ」
――そして白ワイン品種!
――日本ワインの本場は今や山梨にある!!
――私を驚かせる奴はいないのか!! グラスワンダーがつかさどる『甲州』だ!!!
グラス「不退転…富士の山を見上げつつ、たゆむことなく進みます」
六平「『甲州』、日本を代表する品種として世界でも評価されている」
六平「潤いのワインとも言われる、すっきりとした口当たり。もちろん和食との相性も抜群だな」
――以上十二名により、ブドウマ娘最大トーナメント、チャンピオンベルト争奪戦を行ないます!!!
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――
―――
――――……。
アルダン「……という夢を見たのですけれど…」
バンブーメモリー「へー…というか、怒らないで聞いて下さいね。夢オチなんスねそれ…いいんスかね、ここまで引っ張っといて。忌憚(きたん)のない意見って奴っス」
ヤエノ「というか、どういう競技で戦うのかが気になります…レースなのか格闘なのかワインの味比べか…」
(みたび、おしまい)