幼馴染はどうやら転生しても続くらしい   作:孤高の牛

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第二十一話『マリエの想い』

「んっんー、良い朝だ。久々に快眠らしい快眠が取れた気がする」

 

 朝日が眩しく、小鳥の囀りが気持ち良い朝を教えてくれる。

 最近は決闘までの計画で気を緩める事が出来なかったり、決闘後は決闘後で大怪我があって、気絶してから目覚めるまで以外ではそれどころじゃなかったし、バルトファルト家じゃ良い感じに眠れたとはいえ例のエリカの事でちょくちょく胃痛に苦しめられたしで中々ここまでの快眠を取れなかった。

 昨日はと言えば、あの後しっかりみっちりお説教はされてその後兵団の方にも交際の報告をしに行ってと色々やったのだが最大のポイントは『寝室がマリーと同じになった』事だろう。

 

 正確に言えばマリーが俺の寝室で一緒に寝たのだが、まさかそうなるとは思わずびっくりしてしまった。

 

 母さん曰く「正式な婚約者になるのだから違和感は無いでしょ?」との事。

 うーんこの説得力の塊、最高か?

 

「やっぱりウチの嫁は世界一可愛いな」

 

 勿論隣にはマリーがいる。

 まだ起きる気配が無いのかすうすうと可愛い寝息を立てて心地良さそうに眠っている。

 昨日の夜一番緊張していたのは恐らくマリーだろうに、結局一番安心して眠れる場所もここだったって事なんだろうな。

 

 因みに昨日の夜二人きりになって何をしていたかは秘密だ。

 そりゃあ俺にだって隠したい事の一つや二つはあるのだから、その辺は各々のご想像にお任せしようと思う。

 

「さて、もう少しマリーの寝顔でも見て――」

 

 こんな日にはまったり過ごすに限る。

 まだみんなが起きるまでにも時間があるしマリーの寝顔をじっくり観察しながら過ごそうと思っていた。

 

 そんな矢先の事だった。

 

「た、大変だ兄貴!!」

 

 静かで穏やかな朝は一瞬でぶち破られた、ヴェンによって。

 

「ヴェン、流石にノックの一つくらい……」

 

「そんな事言ってる場合じゃないんだって!!」

 

「むにゃ……どーしたの~……?」

 

 あ、ほらマリーも起きちゃったし。

 全くヴェンは何をそんな焦ってるのやら。

 

「朝から何なんだよヴェン」

 

「と、とにかく父さんのとこまで来てくれ! 姉さんの事で緊急事態が起きてんだよ!!」

 

「は? マリーの事で?」

 

「……へ? アタシ?」

 

 話が変わった、マリーの事で緊急事態ならそりゃ急ぐに決まってる。

 寧ろ変な礼節無視してまで飛んできてくれた事に心から感謝を送りたい、流石自慢の弟である。

 

「……真面目な話なんだな?」

 

「あ、ああ」

 

「分かった、すぐ行く。マリーは寝起きだからすぐには来れないだろうけどなるべく早く来てくれ」

 

「う、うん」

 

 早る気持ちを抑えつつ速攻で着替えて親父の待つ部屋へ向かう。

 こんな朝からの緊急事態となるとラーファン家か若しくはマリーと親しい人間に何かしらあったとしか思えない。

 

 が、まずリビアやアンジェの場合リオンがいるから有り得ない。

 俺達の二人きりの時間を作らせる為にわざわざあっちに残ったカイルも今はリオンの身の回りの世話をしてくれる様にリオンと話してそちらに置いているから何かあった可能性は無い。

 マルケスならわざわざマリー関連にはならず俺に連絡が行くし、そうなると自ずと可能性はラーファン家に何かあったという事が有力になっていく。

 

 急がば回れと気を落ち着かせてしっかり着替え髪を整え、水を飲み深呼吸して早足で居間へ足を向かわせる。

 原作においてラーファン家に何かあったという記憶は俺には無い。

 あくまでもマリーを強く虐げ無駄遣いの権化みたいな金の使い方をして下手したら貧乏男爵より貧乏なレベルまで落ちていた生活を送っていたという情報しか残っていない。

 

 そんなところが今更何をしたのか……正直嫌な予感しかしない。

 

「親父、こんな朝っぱらから呼び出したって事は相当な事なんだな?」

 

「来たかアル。これに関しちゃマリエちゃんがメインで聞かないといけない話だから揃ったら話そう……」

 

「ま、そうだろうと思ったよ。マリーもそろそろ来ると思うけど……」

 

「ご、ごめんなさい遅れてしまって!」

 

「いや、こんな朝から呼び出した私にも責任があるから気にしないでくれ」

 

 俺が来てすぐにマリーが来た事から、マリーとしても只事じゃないと察知したのか……ヴェンがあんなに慌ててたから当たり前ではあるんだが。

 ああ俺はこれから胃痛薬が手放せなくなる生活になるんだろうか……

 

「……それで、話ってのは」

 

「そうだったな……その、落ち着いて聞いてほしいんだが……正式なアルとマリエちゃんの婚約の話を昨日中に送ったら……ラーファン家から『マリエとは縁を切る』と……」

 

「は? 父さん……い、今なんて言った……?」

 

「……ラーファン家から、『マリエと離縁する』と連絡が……あった……という事だ……」

 

 

 

 

 

「……アタシ、これからどうしよっかな……」

 

「ま、まさかいくら何でもこんな簡単に離縁なんて有り得ねえ……」

 

 ラーファン家からの衝撃的な連絡から小一時間後、気持ちを落ち着かせる為に二人きりになった俺達だったが流石にマリーの沈んだ顔を見て落ち着ける程出来た人間ではなかった。

 

 話に寄れば都合良く借金半分を『家族だから』とか何とか言って押し付けてったというんだからキレそうになるのも無理は無い。

 

 確かにラーファン家はマリーを娘ではなく使用人の様に扱うゴミクズ一家だった、それはどの世界線でも変わらない事実だった。

 だがマリーを手放すなんて聞いてない、聞いてなさ過ぎる。

 アレか、体良く食い扶持を減らす為にこの時を待ってた的な事か?

 更に借金も半分押し付けてって……だとしたらどんだけクズなんだよ。

 

「家族とも思えない家族だったけどさ……いざ離縁されるとやっぱりキツいわね」

 

「ったく……あっちからしたら体良くって思ったのかもしんねえけど俺達からしたら露骨過ぎて体裁もへったくりも無いぞ……何にせよ戻る家が無いならウチに来れば良いから心配すんな。これからはただの幼馴染の関係じゃなく、婚約者としていられるんだから。もう俺達は家族なんだよ」

 

「あ、アルぅ……」

 

「まあそれに? 俺は殿下達と和解して協力関係も結んだから何れにせよマリーを切ったラーファン家は終わりだしな!」

 

「いや今感動しかけた感情どうすんのよ」

 

「ふっ……そうやってツッコミ入れられるくらいなら安心だな」

 

 実際この話は後々……というか今日にでも書面で殿下達五人衆には伝達する腹積もりだ。

 折角築いた協力関係だものここでマリー大好きクラブ達を動かして、マリーに都合の悪い連中を排除出来るなら願ったり叶ったりだ。

 まあ実際に動けるのはこれからステファニーが起こす空賊騒ぎで手柄を挙げてその手柄をブラッドとグレッグにほぼ全部放り投げて廃嫡撤回させてからだがな。

 

「……ありがとね、アル」

 

「気にすんな。大好きな人の為になら何だって出来るのが俺様の良いところだ、なーんてな」

 

「……ねぇ」

 

「なんだ?」

 

 マリーが神妙な顔付きになる。

 それに釣られて俺も真面目な顔になってしまう。

 ただ顔をジッと見つめる。

 

「アタシね……考えたの」

 

「何を?」

 

「アルの事……本当に愛してるのかどうか」

 

 

『今は答えなくて良い。幸せになりたい一心で必死だっただろうから、俺に対して恋とかそういうのを本気で抱けてるのか自分自身に疑念を持ってるだろうし』

 

 

 決闘の時、マリーに掛けた言葉だ。

 本当はすぐにでも答えが欲しかった、大好きだよって、愛してるよって答えてほしかった、だがそれでは俺のエゴにしかならない。

 だから俺はグッと堪えてこの言葉を語り掛けた。

 

「……答えは見つかったか?」

 

「うん」

 

「聞いても良いか?」

 

「……大丈夫」

 

 ずっと友達以上恋人未満で過ごしてきた。

 それは前世の時も、逆ハーレムしてる時も同じで、結局は本当の恋だったのかどうなのかはずっとずっと曖昧のままで。

 

 だから。

 

「アタシ……アルの事今なら『愛してる』って、自信持って言える。決闘の後からずっと、恋って何なんだろうって考えて、辛い時とか悲しい時とか、そっと寄り添ってくれたのはアルで。そう思うといつも隣にいてくれたのはずっとアルで、じゃあアルのいない人生って考えたら凄く悲しくなって。その時にね、アタシはアルの事が本当に好きで、本当に愛してるんだって思ったの」

 

 そう言われて嬉しくならない訳がなかった。

 マリーの心の中に、俺がちゃんといてくれた事が、何よりも。

 何十年も待ち続けた先にくれた言葉という事も含めて、真剣に考えて出した結論がそれだと言う事実を噛み締めたい。

 

「……ずっと待ってたぜ、その言葉」

 

「待たせてごめんね」

 

「待つのは得意なもんなんでね」

 

 ふと二人顔を見合わせる。

 そう言えばアンジェと初対面したあの日以降、決闘に向けた鎧のメンテナンスや試運転、決闘後は大怪我にアンジェとの仲直りでバルトファルト家に行ったりと忙しくて昨日の夜までキスもまともにしてなかった事を思い出す。

 

 勿論昨日は今まで出来なかった分を埋め合わせる様にそれはもうした訳だが、今日は、いや今はそれとはまた違う。

 本当の意味で俺とマリーの心が恋人として初めて繋がった。

 本当の意味で、俺は大好きな女の心をやっと射止められたのだ。

 

「これからもずっと一緒にいよう。今度はただの幼馴染じゃなく、恋人として、婚約者として、生涯共に」

 

「うん……絶対離さないんだからね……覚悟しときなさい」

 

「愛してくれて俺は幸せ者だよ」

 

 どちらからともなく唇と唇が接近して、重なり合う。

 これまで何回もしてきたと言うのに、そのキスはとても甘くて、幸せで、初めての味がした。

 

 

 

 

 

 その後だが、夏休みが終わる前までに両親はマリーを子宝にあまり恵まれなかった、それでいてディーンハイツ家と親交のあった五位上の男爵家に養子として迎え入れる手筈を整えていてビビった事を付け加えておく。

 いやまああっちとしても願ったり叶ったりなんだろうが、そう急に決められる事なのか……? となったが、借金の事はそっちの男爵家が持たずマリーが自分の力で少しずつ返済するとの事で、本人も複雑そうな顔をしつつも少し嬉しそうにしてたしまぁ良いのか……いや理不尽に山分けされた借金とか良くないんですけどねえ!

 

 そして夏休みは終わりを迎え、舞台は文化祭へと移行するのだった。




アンケートですが最速で100行ったもので継続していきます

【調査その3】独自解釈で話を進めていく展開が将来的にあるけど大丈夫そう?

  • 大丈夫だ、問題無い
  • 無理
  • アルマリでイチャイチャしろ

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