幼馴染はどうやら転生しても続くらしい   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

74 / 83
第七十四話『英雄は……』

 俺は結構な数、失敗してきたと思う。

 それこそ前世からアヤを守り切れなかったり、この世界に転生してきてからもリオンに危うく殺されかけ、マルケスがステファニーに謀略されかけ、新道寺みたいな外道に引っ掻き回され。

 この戦争でも本当は上手い事立ち回ってバレントと手っ取り早く合流して証拠を王宮に献上して完全勝利のはずだったのに、俺はバンデルに満身創痍まで追い込まれてクロカゲは完全に機能停止して長期修理は免れない状態。

 確かに俺は完璧じゃないし何度も失敗してきた。

 

 だが、流石にこれは有り得ないと思っていた。

 

「なんでラウダが攫われてるんだよ……!!」

 

 懐中時計の映す映像には、一人の男が麻袋片手に疾走する姿。

 俺は『ラウダを探してくれ』と言われた。

 それでこの映像が出された意味が分からない程馬鹿では無い。

 

「うっ……お、えぇ……」

 

 殆ど空のはずの胃から血と共に胃酸が吐き出される。

 俺が油断したからか?

 大丈夫だと気を逸らしていたからか?

 助けられると傲慢さを出したからか?

 何だ何だ何が原因だ。

 混乱する度にストレスで吐き続ける。

 

《マスター、焦燥している場合では無いと判断する。救出が最優先事項であると断定する》

 

「……!! す、スマン、そうだったな……ゴホゴホ……まだ間に合わないと決まった訳じゃねえ……」

 

 そうだ、後悔して焦ってる場合じゃない。

 まだラウダは死んで無いはずだ、あの男が誰だったとしても魔笛を吹かせずに殺す道理は無い。

 つまり、今ラウダを攫っている理由は魔笛を吹かせる為。

 そうなると魔笛も奪取されてるのはほぼ確実だが……ならば逆に魔笛を吹くのに最適な場所を先取りしてしまえば良い話だ

 

「それにこのルートから算出される目的地点は……時計台か! チッ、俺のクロカゲさえ無事なら良かったが……間に合ってくれ」

 

 俺は急いでネズミを取り出すとヘルシャーク隊へ向け連絡を入れる。

 

「はぁ、はぁ……ヘルシャーク隊全艦に緊急で通告する事がある……」

 

『だ、大丈夫なんですかい頭領!?』

 

「俺の事は後回しだ……現在とある情報源によりヘルトラウダ王女殿下が攫われている事が分かった。それに通達が入ってない事から秘密裏に攫われたものだと断定。そして俺のルート算出結果から到達地点は王宮近くの時計台と思われる。迎えるか?」

 

『だったらまだある程度機能する鎧を持ってるマルケスの坊ちゃんを向かわせます! あの人の鎧なら速さも申し分無いはずですぜ!』

 

「分かった、レディックは至急マルを急行させてくれ。そんでレディックは悪いが俺のエアバイクを射出してくれ。クロカゲは故障して動けねえんだ」

 

『全く頭領は……言っても聞かないんですから。分かりやした、無茶だけはしないでくださいよ!』

 

「そう来なくっちゃ」

 

 マルケスの雷龍なら他のどの鎧より速く移動出来るから一番可能性があると思っている。

 ならば任せるしかあるまい。

 偶然か必然か、ラウダの運命の人の条件にも当てはまってるし、最近仲良いみたいだしな。

 もしもそうなら、それこそ助けられるのは、死の運命を変えられるのは、マルケスしかいないはず。

 

 だが俺だってここでこのまま戦線離脱なんてする訳が無い。

 あの男が万が一、最悪新道寺だった場合俺が手を下す必要がある。

 クロカゲが動かないとしても、量産型の鎧に乗ってでもアイツだけは何があっても俺が殺す、殺さないといけない。

 

 それにあの子は、ヘルトラウダは、俺がマリー以外で『必ず』運命を変えると決意した一番最初の人でもある。

 なら、ここで俺が引く訳にはいかない。

 あの子の兄貴分で、騎士である為に。

 

《マスター、ここは戦線離脱し治療すべきと判断する。万に一つでもここで現場に向かえば死亡確率の上昇が見込まれる》

 

「悪いが男にはな、ハイリスクローリターンだと分かっていても逃げちゃいけない戦いがあるんだよ」

 

《それが今だと》

 

「ああ。ラウダは俺が救うと決めたんだ。だったらこんなところで俺が戦線離脱しちゃなんねーんだわ。妹を救うのは兄の役目だ、だとするなら兄貴分の俺だって黙ってる訳にゃ行かねーんだよ」

 

《御意。マスターの決意を肯定し助力を決断。現地点から時計台までの最短ルートを算出、エアバイク到着時刻と合わせ『雷龍』の二分後が到達時刻との解》

 

「……ありがとな」

 

《マスターとは『前の時間軸』からの契約が継続中。マスターの意志を尊重するのが最適な判断と断定》

 

 そうこう話してる内にエアバイクが到着する。

 ぐらつく身体にムチを打ちながら、懐中時計を首からぶら下げる。

 堅い言葉は使っているが、俺との相性は悪くないらしい。

 血で汚れた口元を手で拭い、エアバイクに跨る。

 

「そんじゃ案内は頼むぜ、相棒!」

 

《御意》

 

 間に合ってくれと願いながら、俺はフルスロットルでラウダの元へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

「やれやれ、遮蔽物の無い場所で吹かないと意味が無いなんて本当に使いにくいものを切り札にしちゃったよね。お陰でわざわざ王女も魔笛も回収してからじゃないと出来ないじゃないか」

 

 同時刻、ヘルトラウダを攫っている男はそう呟きながら足を止めない。

 麻袋の中には腹を殴って気絶させたヘルトラウダが入っており、魔笛も持ちながら走っているので少しでも止まるのは致命傷に繋がる。

 割と面倒な事態になっている事に男は深く溜め息を付く。

 

「はぁ……でも呼び出せれば王国の戦力は削れるしアルの歪んだ顔が見れるからね♡ ついでにそのままアルも殺してアヤをいただいちゃおうかな♡」

 

 この男の正体は、アルフォンソが危惧していた最悪の事態を引き起こしかねない人物である『ロイズ』その人であった。

 彼はエルフの村長に成り代わった後、目的のロストアイテムを回収し適当な男エルフに再度成り代わり専属使用人として王国に侵入していた。

 そしてそこである程度権力があり、尚且つ完全にはフランプトン侯爵派閥に付いていないギリギリの立場の貴族を殺しその記憶や言動、性格を馴染ませた後にヘルトラウダの誘拐をするという徹底振りを、リオンやアルフォンソの知らぬ間に披露していた。

 

 そうして王国を完全に出し抜いた彼は意気揚々の目的地までの最短ルートを、バレない様に走り抜けていた。

 

「さあて、着いちゃった♡」

 

 着いたのは……アルフォンソの計算通り、時計台だった。

 しかしいくら全知全能を自負する彼、ロイズと言えどイレギュラーアイテムの懐中時計の仕組みまでは知る由も無い。

 未だ気付かれていないと確信しつつ時計台の頂上まで登り詰める。

 

「んふふ……僕が探していたロストアイテム……数百年前一度だけ記述のあったこれさえあれば……『生きている人間に憑依出来る』」

 

 ロイズが取り出したのは大きめの注射器の様な、針の付いたロストアイテムであった。

 

「自分の血を相手に注入するだけで憑依が出来るなんて革新的で素晴らしいじゃないか! アハッ、いくら成り代わったところで一度契約者が死ねば契約解除になるこの魔笛をどうしようかと思ったけど……殺さず精神だけ貰っちゃえば呼び出せるからね♡」

 

 恍惚の笑みを浮かべたロイズは、躊躇無く自分の首に針を突き立て血をある程度吸い出す。

 まるで痛みなど感じていないかの様な彼の笑みは、ただただひたすらに狂気を感じさせるものであった。

 

「それじゃあ……注・入♡」

 

 そして吸い上げが完了すれば後はヘルトラウダにそれを注入するだけ、そう言わんばかりにこれもまた躊躇無く首に針を突き立て注入する。

 そうすると、見る見る内にロイズの身体にノイズが走り、そしてやがて薄くなり消える。

 

「ああ……ああ……!! 成功したんだね!! 素晴らしい……素晴らしいよ!! これが、これこそが僕に必要だったラストピースッ!! 全知全能の神になる為の最後の一欠片だったんだねェ!! なんて心地良いんだ……生きている人間をも支配出来る優越感、これでこの世界の人間全てを掌握したも同然!! 僕は……僕はッ!! 神になったのだ!! アッハッハッハッハッ!!」

 

 ロイズに支配されたヘルトラウダは、狂気的に、高らかに、笑い叫ぶ。

 それは普段、王女として振る舞う威厳ある彼女からも、素の割かしお転婆で冒険好きで甘えん坊な彼女からも、全く持って程遠い笑みであった。

 

 一頻り生きている人間の精神を掌握した心地良さに身を委ねていたロイズはふぅ、と一つ息を吐き出すと落ちていた魔笛を拾う。

 

「肉体が死んでも今の僕は精神体。抜け殻の身体から抜け出せば死ぬのは無能な王女一人。なんてコスパが良いんだろう!」

 

 誰も聞いていないと言うのに大手を広げる様は、まるでミュージカルか演劇を見ている様に錯覚させる。

 しかし彼の発言は一つ一つが外道そのものであり、アルフォンソやリオンが聞けばたちまち乱闘は避けられない程の悪意に満ちた発言である。

 

「もう少しこれに浸ってたいけど、当初の目的も果たさないとね♡ それじゃ、ヘルトラウダちゃん……その命の絞りカスまで全部全部、搾り取ってあげるからね♡」

 

 悪意に満ちた狂気的な表情から一転、一瞬で落ち着いた表情に変わり、目を閉じ魔笛に口を当てる。

 その表情は、傍から見れば美少女の美しい一幕に見える程、ロイズは感情の起伏が激しかった。

 

 そして音色が奏でられる。

 その音色は、落ち着いたものでありながら、力強く、そうでありながらどこか儚い、命の散る音と言っても過言では無い、そんな音色であった。

 

(たった60秒、されど60秒……ここさえ達成出来れば僕は新世界を創造するに等しいレベルの革命を起こせる。前前世で上手く行かなかった事も、アヤを奪えなかった事も、ヒロに殺された事も、全ての屈辱が無に帰る。僕は今度こそアヤを手に入れて、全て全て思い通りのパーフェクトな人生を送るんだ)

 

 彼が振り返るのは、前前世と前世の記憶。

 特に前世アヤ……マリエに惚れてから狂ったと思っている彼は言葉以上にアルフォンソへの強い憎悪があった。

 アイツさえいなければ全て上手く行っていた……そう思った時から、彼は最優先事項にアルフォンソを絶望に落としてから殺すと決めていたのだ。

 

(……30秒、これで海の守護者を呼び出す条件は整った。後は残り30秒……空の守護者さえ呼び出す条件が整えば良い)

 

 まだ、誰か来る気配は無く残り20秒を切る。

 

(19、18、17……ああ、僕が神になる為のカウントダウンだ……)

 

 静けさの中、10秒を切る。

 彼は、確信していた。

 もうこれで完全勝利だと。

 アルフォンソに辛酸を舐めさせられる事も終わりだと。

 

(5、4、3、2)

 

 ――だからこそ、彼はほんの一瞬気を緩めてしまった。

 

 それこそが、痛恨のミスだった。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「……は? うぼぉ!?」

 

 残り一秒、『彼女の為の』英雄は来たる。




実はメンタルが強い様に見えて敵に躊躇無いだけで割とボロボロになりやすいアルフォンソ
そのバランスは毎回ギリギリで保たれているが…それはアルフォンソ自身が思うより、遥かに壊れやすいもので――

【調査その3】独自解釈で話を進めていく展開が将来的にあるけど大丈夫そう?

  • 大丈夫だ、問題無い
  • 無理
  • アルマリでイチャイチャしろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。