春休みも佳境に差し掛かる頃。
二年生に上がったタイミングでアルゼル共和国へ行く身支度をある程度整えておこうとか、マルとステファニーの恋路が気になるとか色々やる事が増えている中、俺の境遇というのもリオンと連動する様に変わってきてしまっていた。
「あっ! アル様だわ!」
「アル様〜!」
「やあ、春休みが終われば正式に君達の先輩になれるね。その時はよろしくね」
「もちろんです〜!」
「そのそのっ、王国の窮地にリオン様と王国軍の指揮をとって大勝したってお話本当に感動しました! すごくカッコよくて、憧れなんです!」
「いや〜ありがとう、君達は学園に染まらず今のままの純粋でかわいい君達でいてくれよ?」
「キャー! やっぱりアル様カッコいいですわ〜!」
なんなんこれ、いや俺も結構ノリノリだけども。
学園内では味わえないこのモテモテ振りにやはり男の性というべきかこうしてテンション上がっちゃうのは仕方ないってのは置いといて、確かに王国軍指揮したし結果的に王国軍の死者とかほぼ出なかったけどリオンと同じくらいモテてないかこれ。
俺別にそこまでカッコよく決められた訳でもないし何ならすげえダサい事現在進行系でしてるのにここまで慕われる意味が分からん。
「むぅ……アル、行くわよ!」
「分かったよ、じゃあ入学楽しみにしてるからね」
「全くもう……少しモテてるからって楽しそうね?」
「ちょ、待て待て誤解だってば。俺が異性として好きなのはマリーだけっていつも言ってるだろ?」
お陰でマリーの当たりが最近まあまあキツい。
嫉妬はかわいいものだが、ボロが出ない様にするのは中々に骨が折れるものだ。
いやまあまだ杖が必要なくらいには折れてるんですけどね?
何はともあれずっと外に出ないのも嫌な訳でこうして出てきてるって事だ。
「はいはい……そう言えばラウダも今度遊びに行きたいって言ってたわね」
「なら今度はもっと人数増やして出掛けるか」
そう言えば、だが。
戦争が終結した後、俺は出歩く事が中々困難だったから知るのが遅くなったがかなりの早さで公国陣営の処遇が決まったらしい。
戦争を主導及び前国王夫妻を殺害した貴族は全員死刑が確定、バンデルやバレントみたいな一介の兵士や駒になっていた下級貴族に関しては公国解体で生じる公爵家への逆戻りの際にそこの所属になるのが殆どとかなり良心的な処置。
そしてラウダとルーデ、国王代理の侯爵家だが、完全に道具として利用されていた背景を踏まえ無罪、現在は公爵家の立て直しとしてファンオース領まで出向いてるらしいが春休みが終わるまでには帰ってくるらしい。
「……戦争で多少犠牲者は出たけどさ、最後は平和に終わって良かったよ。ラウダもルーデも無罪になって、春休みが終わればルーデは編入して来てラウダも将来的には学園に入ってくる。まあ俺達は留学するからルーデと本格的に一緒に過ごせるのは来年一年だけだけど、そんでもあの子達と平和に過ごせるのは本当に嬉しいよ」
「そうね。でも……あの二人の性格を考えると留学に着いてきたりしてね」
「ハハ、笑い事で流し切れないのが怖いところだな」
原作では公国が敗北する最後の最後まで敵として抗ってきて、ラウダは死にルーデは肩身の狭い思いをする事になり、対等に過ごせる事は終ぞ叶わなかった。
だから、俺という『唯一モブせかのストーリーを知っている二人に好意的な存在』がその運命に抵抗して、こうして掴み取れた未来があるのはやはり嬉しいものである事に違いは無い。
犠牲者に付いても、フランプトン派閥以外は1/10程度。
それこそ死者0人というのは達成出来なかったが、あれだけ大規模な戦争をしといてこちら側の生き残りが原作比で男女比が変わらない程度にしっかり生き残ってるのは大きい。
何だかんだこの王国のシステムはクソだと思うし周りからの罵声罵倒も面倒だと思っても、そんな下らない日常でも守りたいと思えるくらいには愛着があるのが今の俺だ。
……一番は、原作知識を持ってる人間なんだから責任を持って犠牲者を最小限にしないといけないという使命感からだが、まあほぼほぼ達成と言っても過言ではないだろう。
「あ、ねえアル! 次はあそこに行きましょ! 服見たいと思ってたのよ!」
「おう良いぞ良いぞ、今日は俺のリハビリも含めてるから色んなとこ連れてってくれよな」
「任せなさい!」
ま、難しい事言ってても結局はマリーと過ごす日常が楽しいからこの日常を守れて良かったって事に帰結するんだがな。
戦争直後とか少し距離取ってたけど、結局のところ俺がマリーを好きな事自体には抗えないらしい。
だってこの子天使ですよ? 俺以外相手だと性格に難アリなところも出るけど料理上手だし甘やかし上手だし耳かき囁き最高だし、子守唄も癒される。
こんな事されて落ちない男っている? いねーよなあ!?
確かに俺はクズだから、本当の意味で心の底から『愛してる』を言える事は無いがそれはそれとしてデロデロに甘やかされるのは俺の心の平穏を保つという名目という言い訳の元で許されるのである、多分、メイビー。
あとこの後めちゃくちゃ服買ってあげた。
全部似合うんだから仕方ないね、是非も無いよネ。
「このまま充実しながら春休みを終えられると思ったんですけどね……」
翌日、俺は王妃様に呼ばれていた。
何でもリオンには話していたこの国の歪な仕組みやら今回の顛末やら何やら話してくれるとか。
そう言えば忘れてたよそれ……
「足は大丈夫ですか、アルフォンソくん?」
「ええ、お陰様で少しずつ良くなってきていますよ。春が終わるまでには完治すると思います」
部屋に入るなり心配してくれてる辺り本当に王妃様は良い人だと身に染みて感じてしまうところがある。
だからこそこの歪な下級女貴族達のアレやこれやの真相を思い出すだけで頭が痛くなってくる。
「それは良かったです、何かしら不便があったら言ってくださいね」
「助かります、本当にありがとうございます……それでお話というのは、リオンにも言っていたという……?」
「そうですね、そちらを話してしまいましょうか……貴方には知る権利がありますし」
あ、王妃様もあんまり話したくはないんだろうなってのが伝わってくる。
そりゃそうか、こんな意味の分からない仕組みの話なんて創作の中だけにしてほしいもんだ。
……と、まあ重い口を開くと思っていた通りの事柄が紡がれていく。
あーカットカットカット、いくら聖人君子の言葉と言えど聞きたくもない真実聞かされる身にもなってほしいよ。
王族には都合の良い話なのかもしれないがちょっと前の俺やリオンみたいな男の下級貴族や子息達からしてみれば良い迷惑だ。
何にせよこの人に罪は無い訳だけど。
「……と、言う訳です。貴方達には辛い思いをさせてしまいましたね」
「頭を上げてください王妃様、これはそもそも今代の王家が謝る責任では無いですよ。そんなもんを作った連中が悪いんです」
「やはり……英雄は違いますね。リオンくんも同じような事を言っていましたよ」
「俺は英雄なんかじゃないですよ……リオンの横にいて、ちょっと手伝っただけで。一人じゃ何も出来ない腑抜けに過ぎません」
それよりも俺はミレーヌ様から英雄扱いされる方が心苦しい。
リオン以外には晒さなかったとはいえあんな醜態や秘密を晒しておいて英雄なんて馬鹿げてるとしか言い様が無い。
「いえ……貴方は英雄ですよ。なんたって戦争を終わらせた事もそうですが、こんな腐り切った悪習に染まった貴族達を一部とはいえ改心させられたのですから」
「……そ、そこまで言われたなら……お言葉、有難く受け取っておきます」
でもこればかりは事実なので否定が出来ない。
俺とマリーのイチャイチャでクラスメイトの思考が変わったのはこの俺自身が見てきてるし、否定すればマリーとのイチャイチャを否定する事になるからそれだけは無理なのだ。
全く俺が否定出来ないの分かってて言ってそうなのがこの人なんだよなあ。
「ふふ、これからも期待しているんですからね。次期伯爵さん?」
「……そこまで行くとは思ってなかったんですけどね」
というかローランドとミレーヌ様に英雄認定されて宮廷貴族になって次期伯爵とか完全に俺の未来の就職先決定してるんだよなこれ。
リオンの隣で色々手伝ってそこそこの子爵の立ち位置で下級貴族として暮らす計画はどこへ消えてしまったんだ。
げんなりしてしまうが、間髪入れずに留学の話が来て慌ただしい共和国編が始まる事が確定してるし文句ばかり言ってる訳にもいかないんだけど。
それはそれとして、どうしてこうなったと心の中で叫ばせてほしい、いやほんとに……
ただこの場にいる事は悪い事だらけでも無い訳で。
「あ、それと」
「なんでしょうか」
「……これからもユリウスと仲良くしてあげてね。常識的な価値観持ってる友人なんて貴方くらいなものだから……ワガママ言ってるのは承知しているのだけど」
「それこそ、構いませんよ。確かに突飛押しもない事で振り回されそうになる事もありますけれど、殿下……いや、王妃様にはもう関係はバレてますよね。ユリウスの企みに俺自身から乗る事もあって、それなりに楽しくやらせてもらっていますので。……夏休み前の事も、許してもらえましたし」
この人から公認で、ユリウスと仲良くしてほしいと言われたのだ。
本来この場面では『マリエ』と馬鹿五人がまたもややらかすシーンだが、色々あったとはいえ仲良くなったお陰でマリーだけじゃなくあの五人の窮地も回避させられた。
ともあればアイツらをまともな人間に戻せつつあるのかと、今の友人達の現状にホッと胸を撫で下ろす。
このまま行けば、悪友レベルには到達出来るだろう。
それに団結力が上がれば最大の山場共和国編の聖樹暴走も未然に防げる確率は今でも高いのがほぼ100%となる。
「それなら安心ね。また迷惑も掛けると思うけどその時は言ってちょうだい」
「迷惑掛けるのはお互いさまですよ……」
「そう、本当にありがとう。……そろそろ私は予定があるので失礼しますね。アルフォンソくんも気を付けて」
「はい。では、俺もこれで失礼致します」
……あ、そうだ。
打算的な事を考えていたが俺はふと『良からぬ事』を思い付いてしまった。
そう、それは原作ではこの後で起こるイベント且つこの世界線では恐らく起こらないイベントだ。
「……ミレーヌ様、一つだけ宜しいでしょうか。本格的な相談はまた後日という事になりますが」
「? なんでしょうか」
「実は……」
ま、一応。
自ら疎遠になったとはいえ俺はアイツの友人で、幼馴染な訳だし。
俺からのお祝いも何かしら送っておきたいからな。
そんな悪巧みを最後に俺の一年生は幕を閉じたのだった。
何となくもう一話挟みたくなった
【調査その3】独自解釈で話を進めていく展開が将来的にあるけど大丈夫そう?
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大丈夫だ、問題無い
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無理
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アルマリでイチャイチャしろ