タンクトッパーイズク   作:規律式足

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第104話

 

 さて色々な騒動があっていよいよ僕達雄英高校一年A組の出し物直前。

 体育館の横断幕裏にて衣装合わせの済んだ皆は揃って最後のミーティングをしていた。

 僕の見てきたアレコレに文化祭を見て回るのが楽しみだとはしゃぐが、緊張は消えずにドキドキとどこか挙動不審だ。

 人前に出るのは慣れている。

 練習は十分に積んできた。

 事前準備に怠りなく。

 会場は経営科のおかげで万全。

 あとは本番、演るだけだ。

 

「失礼するよ」

 

 そんな胸を押さえて落ち着こうとしている時だった、彼らが現れたのは。

 僕らが発表に集中できた要

 共同企画を提案してきた経営科のリーダー達だ。

 彼らは僕達の前で襟を正すと、

 

「本番前だが、言いたいことがあってな」

 

 盤坂君は息を吸って思いをこめるように、

 

「経営科のやるべき準備は万全に完了した。

 君達はただ発表に集中してくれ。

 共同企画に賛同してくれたことに感謝している、これは私の夢の一つの形なんだ。

 だから、君達は存分に輝いてくれ」

 

 そう言った。

 後ろに控えた色間君はウンウンと頷くが彼から言葉はないようだ。

 その一言だけで彼らは去っていった。

 ただ利益のためじゃない、これもまた誰かの夢であるならよりやる気がでるというものだ。

 彼らからの激励により胸が熱くなり緊張なんてどこかに行ってしまうね。

 

 そして始まる本番。

 勝己の爆発音から音が響き、ダンス班はそれに乗る。リーダーである耳郎さんの挨拶を皮切りに僕らは踊りだす。 

 自ら手がけた想いをのせた彼女の歌。

 支えるバンド班の演奏。

 揃って踊るダンス班の身体のキレ。

 合間に盛り上げる演出班のアイデア。

 見せ場の青山君打ち上げミラーボールをしたところで僕は自分の変化に気づいた。

 両の瞳から流れる滂沱の如き涙に。

 悲しみからではない雫。

 まるで母みたいに止まらぬ涙。

 興奮しているがまだ涙を流す程ではないのだと自己分析した所で気付く、誰が泣いているのかと。

 これは彼らだ、彼らの感情だ。

 僕に託された個性、ワンフォーオールに宿る先代達の想いだ。

 散っていった彼らが感動し奮え、泣いているのだ。

 この光景が見たかったのだと。

 こんな日常のために戦ったのだと。

 こんな日々のために散ったのだと。

 こんな未来のために託したのだと。 

 個性の発生による起きた混乱。

 好意的に受け入れられなかった異能。

 諍いの元に、戦いの道具に、騒乱の種になるしかなかった力。

 彼らは知っている、彼らは見てきた。

 けれどそんな騒乱の中望んできたのだ、個性が誰かを喜ばせる力となることを。

 それが今叶っているのだと。

 ゆえにその歓喜の想いが涙となって溢れ落ちる。

 望んだ輝きにその目を焼かれながら。

 クラスの皆が輝いている。

 各々の想いをのせて。

 観客の人々が輝いている。

 その熱狂に包まれて。

 個性が輝いている。

 これは笑顔を創り出せる力なのだから。

 

 一つになった会場は盛り上げる。

 そこにあった反感も何もかも流しつくして。

 楽しかった。

 舞台が終わった後、誰もがそう言った。

 A組の出し物初日はそうして大成功のまま幕を閉じたのだった。

 

 

「にしてもスゲー泣いてたね緑谷」

 

「ダイヤモンドダストに負けてなかったぞ」

 

 本当に母みたいに泣いたからね。

 いや無個性じゃなくコレが個性だったんじゃないのかってくらいだし。

 

「しかし良かったね」

 

「うん、文化祭だけじゃなくもっとやりたいね」

 

「やりゃいいだろ?

 来年のその次の年も卒業してヒーローに成ってからも、こうして皆で集まって何度でもやればいい」

 

 勝己はニヤリと笑いながらそう言った。

 未来日記を埋めるような約束をみんなとして。

 けどね勝己さん、確かに良い提案なんだけどプロポーズみたいな言葉とその笑顔に一部女性陣がときめいちゃっているよ。勢いのまま飛びかかりそうなんですけど。

 いや良い提案なんだけどね。

 今にも飛びかかりそうな女性陣と勝己から巻き込まれたくないメンバーがそろそろと距離をとっていると、コンコンと扉を叩く音がした。

 経営科の人達かなと扉を開ければそこには見たことのない人達がいた。

 ペストマスクを付けた青年とブサイク大総統のお面を付けた少女というなんとも奇妙な二人組だ。

 

「すまないね、関係者じゃないから入っちゃまずいと思うがどうしても伝えたいことがあるんだ」

 

 青年は自分は今回雇われたイベント会社の治崎廻と名乗った。

 

「ほら、笑理」

 

 優しく背中を押されて少女が前にでる。

 

「あのね、最初は大きな音でこわくって、でもダンスでピョンピョンなってね、ぶわって冷たくなってね、プカーってグルグルーって光ってて、女の人の声がワーってなって私、わああって言っちゃった!」

 

 拙いながらも自身の情動を全身を使って表現しようとする少女。その姿にその精一杯の称賛にクラスの皆の顔がほころぶ。

 

「妹はこんなにも喜んでね、失礼を承知で来てしまったんだ」

 

 治崎さんはまだ体を動かして伝えている妹さんの頭を優しく撫でながらこちらを見る。

 一度何か思い返すように目を伏せるが、まっすぐにこちらを見て彼にとって重要なことを語りだす。

 

「俺にとって個性は病気だった。

 人を隔たせる病気、既存を壊す病気、混乱を起こす病気だとね。

 その事実が不快で仕方無くて、そんなことで居場所が壊されることが許せなくて、個性そのものを無くそうと手段を選ばなくなるほどに躍起になったりもしたことがあったんだが、けどね」

 

 彼は一度言葉を切ってから言う。

 

「こんな風に皆が一つになれるようなものを生み出せるなら個性も悪くないなと思えたんだ」

 

 個性の存在そのものに嫌悪を抱いた人は、

 個性の存在によって起きた悲劇を知る彼は、

 僕達の発表を見てそう言ってくれた。

 

「素晴らしい舞台だったよ、ありがとう」

 

 それが誠意であるかのようにペストマスクをとって彼はそう言った。慣れてなさそうな不器用な笑みで。

 時間ができたらウチの屋台に来てくれと彼は言う、親父直伝の焼きそばとたこ焼きが自慢なんだそうだ。私もお手伝いしているのっ!、とピョンピョン跳ねながら笑理ちゃんも言って彼らはその場を後にした。

 手を繋ぎながら仲良く歩く二人。

 僕には何故かそれが一つの奇跡のように見えた。

 きっかけ一つ違えたらあり得なかった、そんな未来のように。その後同じように感じた皆と一緒に去ってゆく彼らを見送った。

 さて後片付けしたら明日の用意をして、今日が終わるまで文化祭を楽しもう。

 文化祭は、まだこれからだ。

 

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