「焼き殺す気か燃え親父ーーーっ!!」
ガインッ
後にエンデヴァーインパクトと教科書に掲載されるビルボードチャート発表が終わった舞台裏、なんとか熱気から逃れることはできたが温度が温度のためガチで命の危機だった。
ヴィランではなく新ナンバーワンにトップテンが殺されるなんてどんな事態だよとツッコミたくなる。
故にナンバーファイブヒーロー、女性ヒーローのトップであるミルコが激昂して蹴りかかるのは当然のことだと納得できる。
まあその結果は酷いものだ、頬をおそらく本気であのミルコに蹴られたに関わらずエンデヴァーは平然としており、蹴られた筈の頬は人類を蹴ったとは思えない鋼鉄を蹴ったような音を出してかつ軽く赤くなる程度のダメージだ。蹴ったミルコ本人が痛えーーっ!?と蹴った右足を抑えながら床をゴロゴロ転がっているのに。
「む、口の中を切ったか。クロビカリ先生の域は未だに遠いな」
下手したら首もげるレベルの一撃なんですけどソレ。
鍛え上げて体がどんだけ頑丈になったのやら、やはりエンデヴァーさんは最高だ。
ヒーロービルボードチャート舞台、ヒール役を演じろ、調子にのった発言をしろと上からの命令に従ったが内容は割と本心だったりする。今までのままじゃ通じない時代はスタートした。オールマイトのいない世界であるともっと意識しないと。
そう、この短期間でより大きな背中を魅せてくれたエンデヴァーみたいに。
無個性ヒーローとヒーロー公安委員会の連絡役も担っている俺は超合金クロビカリのスケジュールも当然把握している。そして当たり前のようにエンデヴァーがクロビカリに師事したことも知っている。筋肉とヘルフレイムは混じり合い最強の力へと昇華したんだ。
最高かよエンデヴァー!?
事務所の立地やエンデヴァーの実力とかもあって中々接触できない、けど今回直にマイクを渡せたしこちらの言葉に反応してくれて、本当にヒーローやってて良かったよ。
と、いつまでもエンデヴァーさんとその他を見てるわけにはいかないな。目的を果たさないと。
「すいません皆さん」
声をかける相手は、エンデヴァー、ベストジーニスト、エッジショット、ミルコ。自分を含めたヒーロービルボードトップファイブにして無個性ヒーローと縁のあるヒーロー達。そしてヒーロー公安委員会がオールフォーワンや異能解放軍と無関係だと断じたメンバー。
「ちょっと時間貰えます?」
待たせていたリムジンを親指で指しながら彼らに要件を伝えた。
「カンパーイ」
アレ、無反応。
いやミルコは人参を齧ってるな。
「どうしたんです皆さん?せっかくの親睦会なんだから盛り上がりましょうよ」
場所を移してヒーロー公安委員会御用達しの飲み屋。多くの職員が利用する行きつけだ。
メニューも酒も種類豊富だし注文に無理が効く、さらに接客態度も良い評判の店なんだけど、ミルコ以外は手もつけずに腕を組んでいる。
寡黙なエンデヴァーさんも最高だが、ジーニストとエッジショットはオールマイトを見習ってノリを合わせるべきでしょうに(オールマイトと飲んだことないけど)
「それで本題はなんだ?集められたメンバーからしてただの親睦会ではないのだろう?」
流石はエンデヴァーさん、察しの良い。
「そうです、ただの親睦会ではありません」
もう少し飲んでから明らかにするつもりだった目的を悟るとは正にナンバーワンヒーロー。
懐から巻いた紙を取り出し壁に貼り付ける。
そこに書かれた文字は、
『無個性ヒーロー愚痴大会』
「「「帰る」」」
即座に立ち上がる三人のヒーロー達。
「もはや彼らに遺恨などないわ」
「友を悪し様に言う趣味はない」
「というか神野の時にしか関わりがないんだが」
いやあ、予想してた反応ですね。
嫌そうな反応の二人に困惑気味なエッジショット。
でもエッジショットは話を通しておきたいヒーローなんですよね。
「ングングング、プハーッ!!
番犬マンはもっと私を構えーーッ!!
面倒くさそうな反応すんなーーーッ!!」
生ビールのジョッキを飲み干して叫ぶ日本最強の女性ヒーロー。マイペースな彼女は普通にはじめていた。
まあ常に無表情で鉄面皮な番犬マンが面倒くさそうな表情をするんだからよっぽどウザ(兎に非ず)絡みしていたんだろうなミルコ。
そのミルコの叫びに呆気に取られたエンデヴァーとベストジーニストはせっかくの機会だからと席についてくれた(エッジショットは二人にあわせて)
そして愚痴を言い合う親睦会ははじまった。
「なぜだ焦凍よ、なんで筋肉ではなくタンクトップなんだ」
「大体タンクトップマスターは過保護と言うにはあまりに舎弟を好き放題させ過ぎだ。タンクトップのようにフィットさせるなら、ジーンズの手入れのようにきちんとした指導が必要だというのに」
「構えーー、遊べーー、真剣にこっち見ろーー」
「いやなんだこの状況、というか会長まで」
「普通に愚痴あるじゃないですか皆さん」
飲んで愚痴を零す三人についていけずに困惑してるエッジショット。
無個性ヒーローって意外と性格はマトモだけど裏を返せば、性格がマトモなことが意外に感じるくらいぶっ飛んだ行動ばかりってことなんですよね。
一見マトモなタンクトップマスターもかなり言葉が通じないタイプだし。一番マトモなのが豚神さんの時点でお察しだけど。
「俺を見てくれーっ!」
「脱ぎだすな燃え親父っ!」
「聞いているのかタンクトップマスターっ!」
「見てますよっ!エンデヴァーっ!」
「待て主催者も酔っぱらい側に回るなっ!
そしてどこから出したその団扇」
そんなの羽の間に決まってるでしょ。
酔いが回り脱いでポーズを決めるエンデヴァーとエンデヴァーに蹴りをいれるミルコ、個性でタンクトップマスターを形作り説教するベストジーニスト。
ミルコが再び足を押さえてゴロゴロ転がる中で団扇を振ってエンデヴァーを応援する俺。
一人乗りきれないエッジショットはツッコミだ。
うん、普段はマスコミとかの目があるけどこんな機会もアリだな。
とはいえそろそろマジの本題に移るか。
「じゃ、皆さんに集めた本題を話しますね」
その一言で全員の意識が切り替わる。
切り替えの速さもヒーローの必須技能だ。
「親睦会はカモフラージュか」
「そっス。どこに連中の目があるか分からないですからね。未だに信望者のいるだろうオールフォーワンに、一般人の中堅者層に支持される異能解放軍。皆さんを集めて普通に会議は無理ですね」
現状警戒すべき組織はヴィラン連合に異能解放軍。
それ以外だと突き抜けた単独ヴィランのみだ。
ヒーロー公安委員会職員が良くやる無個性ヒーローへの愚痴なら疑われる心配もない(ちなみに無個性ヒーロー関連なら経費で飲み代は落ちたりする)。
トップヒーローで集められたのがこの四人なのも信頼と実力もあるが何より無個性ヒーローと関係あるからなんだ。
「それで本題とは?」
エンデヴァーさんの言葉に俺は応える。
「俺は上の命令でヴィラン連合に取り入ります。
素早く情報を集め対処しなければいけないんで」
「オールフォーワンを捕縛したのにか?」
「脳無作成者を筆頭としたヤツの腹心達の存在がまだ不明なのと、死柄木弔が危険過ぎます」
「単なるガキじゃねーのかソイツは?」
「タンクトップオールグリーンが最大級に危険視してます、あいつは滝を昇り龍へと至る鯉だと」
「彼の見立てなら確かだろうな。そういえば三度の機会で捕縛できなかった事を悔やんでいたな」
「しかし良いのか?必要なのは理解できるがあまりにも酷い役割だ」
エンデヴァーさん、貴方に気遣われる事実だけで俺は満たされますよ。
こんなに嬉しいことはないです。
「ヒーロー公安委員会、いや世界各国はもう個性黎明期から続くオールフォーワンとの戦いに決着をつけたいんです。もううんざりしてるんですよ、アレに世界が振り回されることに」
決戦は起こる、全てを終わらせる大戦が。
その時に完全に準備を整えるために俺の役割こそが重要なんだ。
「分かった、こちらの手が必要なら言ってくれ。
取引に必要な情報も提供する。
だが、連中が事件を引き起こすなら犠牲者は出ないよう尽力するがな」
「そこはヒーローだから全力で救助を頑張ったと言い張りますよ。俺の立場は向こうも重宝するでしょうし」
「頼んだぞ、ホークス」
俺はホークス、速すぎる男。
ヒーローが暇を持て余す社会。
必ず手に入れてやる、俺の出せる最高速度で。
オマケ小ネタ
エンデヴァーインパクト後病室にて。
「誰がそのコスチュームを縫うんだい?」
「す、すまん」
「コスチューム会社でしょ母さん」
「「ハハハハ」」
「「??」」
とある国民的アニメのセリフを言う母親と理解して笑いだす長女に次男。アニメを知らない父親と末っ子は訳が分からずに首を傾げていた。