第二種目も終わり、レクリエーション前の昼休憩。
相澤先生からの呼び出しは説教ではなくタンクトッパーの仲介依頼だった。なんでもタンクトップ同好会を育てたいが、ヒーロー科の交換は現生徒の実力的に無理、ヒーロー科の増科も人員の都合で無理とのこと。だから放課後意欲ある者を指導する人員を仲介してほしいとのこと、僕はそれを承諾し後日連絡すると伝えた。
そんな用事を済ませたら、今度は待ち構えていた轟君と話すことになった。
彼の根幹とも言える人生を。
彼が何故僕に宣戦布告したのかを。
父エンデヴァーのやらかしたこと、
母が彼にしでかしてしまったこと、
彼の出生、彼の過去、彼の目的。
いや僕にどうしろと。
なんか師匠役なのに影薄いなって感じのオールマイトとの関係性に気付いたのは凄いけどさ。
そんな話されても反応に困るよ。
コミックだったら主人公だって背景だけど、えっと警察か家庭裁判所に連絡するべき?
エンデヴァー、これ大スキャンダルですよ。
「さらにお前は、あの無個性ヒーロー達とも知り合いなんだろ?」
「うん、タンクトップマスターは師匠だし、豚神さんとも超合金クロビカリさんとも知り合いだけど」
「番犬マンは?」
「会ったこともないよ」
マスターなら面識くらいはありそうだけど。
「クソ親父は無個性ヒーローに負けた」
いやまあ当然だよね。
あの人達ってほら、バグだし。
「自慢の炎はクロビカリの皮膚に焦げ目すらつけれず、番犬マンに至ってはプロヒーローで徒党組んでも返り討ちだ」
あの無自覚に煽るクロビカリさんと、無個性ヒーロー最強の番犬マン相手じゃ仕方無くない?
特に番犬マンは、無個性ヒーロー3人がかりでも勝てないって本人達言ってるし。
「タンクトップマスターとは関係ないみたいだが、お前がオールマイトに目をかけられてタンクトップマスターの弟子なら」
「親父の個性を使わないでお前に勝って、奴を完全否定する」
それは否定になるのかな?
「時間とらせたな」
そう言って去って行く轟君に僕は告げた。
「今の君でいいのか?」
「何?」
「今の君の姿は誰かに誇れるのか?」
「訳わかんねえよ」
そう言って今度こそ轟君は去って行った。
ハァー、なんと言えばよいのやら。
「君はどう思う?勝己」
曲がり角にいる幼馴染に尋ねる、スッキリしない気分のままに。
「知ったこっちゃない、ってのが本音だな」
「だよね」
「同情はできるし、重いもん背負って辛そうだなとは思うがそれだけだ。こっちができることなんざ何もねえ」
「家庭の事情だし、助けを求められてもいない」
「ましてや最終種目のトーナメント、お前はアイツに負けるか?」
「ありえない」
個性の技量、個性の習熟、轟君がそれらを高い水準で修めているのは認める。けど、
「タイマンバトルで遅れをとるかよ俺達が」
格闘技術で分があるのは僕らだ。
それに個性、身体能力強化だけでも圧倒できる。
負ける気はまるでしない。
「左使えば勝てます、って言ってるみてえな態度も気に入らねえしな」
無自覚だろうけど、炎使えば余裕だ、みたいな感じだったよ轟君。でもね、
「お前はスッキリしてねえんだろ?」
そうこの気持ちはなんだろう、今の轟君を見ると湧き出るこの気持ちは?
どうして最後にあんな言葉を告げたんだろう。
「助けたいからだろ?」
え?
「あんな奴に手を差し伸べたいから、タンクトップ着てんだろ?」
それは、
「いつも見たくそう言って、助けちまえ」
そうだ僕は、轟君が迷子に見えたんだ。
辿り着きたい場所も分からなくなった迷子に。
縋り付いた手を払われた迷子に。
寂しくて涙を流す迷子に。
呆然と途方にくれた迷子に。
僕は見えたんだ。
だから、手を差し伸べたいんだ。
僕がしてもらったみたいに。
「助けたいからと言葉探すなよ。
言葉尽くすだけじゃ意味がねえ。
腹から湧き出る言葉が相手に響いたら助かるんだ」
下手な言葉じゃ伝わらないだろうし。
「全力でぶつかってやれ、先ずはそっからだ」
「相変わらずお人好しだよ勝己は、ほら轟君の心配だってしてる」
「はっ、俺はただ決勝戦でテメェをぶっ倒すのに余計な茶々いれられたくねえだけだ」
そういえば本格的な決闘は初めてか。
「テメェを倒して、強くなるのにタンクトップは関係ねえことを証明してやるよ」
ああ、受けて立つよ。親友。
僕は全てに勝利して君と戦う。
でもね、
君は勘違いしてるみたいだけどさ、挑むのは僕の方。
子供の頃憧れたヒーローに僕は今日挑むんだ。