タンクトッパーイズク   作:規律式足

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閑話、爆豪視点

 

 強くなりたい。

 そう思ったのはいつだったか。

 一番になりたい。

 そう思ったのはいつだったか。

 ヒーローになりたい。

 そう思ったのはいつだったのだろうか。

 そして、

 こいつに勝ちたいと、自分が下だと当たり前に認識してしまったのは、果たしていつだったのだろうか。

 爆豪勝己にとって緑谷出久とは一体どんな存在なのだろうか。

 

 スイリューという天才がいる。

 十ヶ月間雄英高校に進学するまで師事した武闘家。

 あの男は天才だった。

 才能だけで最高峰まで登り詰めてしまった天才だ。

 稽古とは名ばかりのボコられ煽られた日々の中、結局一度も勝つことは疎かまともに一撃もいれることができなかった。

 いつか必ず超える。そう思っている相手だ。

 でも、緑谷出久に抱くような思いではない。

 下にいることが我慢ならない相手ではない。

 それは、スイリュー自身がイマイチ真剣ではないからかも知れない。彼自身に負けてもいいやと投げやりな部分があったからかも知れない。

 でも緑谷出久は違う。

 アイツには負けたくないと思う。

 何も全てにおいて連敗してるわけじゃない。

 勝つことも多いし、負けっぱなしではない。

 ただ向こうも我慢ならないようで、下だった分野はなんとしても超えようとしてくる。

 張り合う相手。

 それが緑谷出久との関係なのだろう。

 だから、

 

「勝つぜ出久」

 

「負けないよ勝己」

 

 こんな飛び切りの舞台。

 誰もが見てる場所で、負けたくはない。

 否、勝つ。

 

『さあいよいよラスト!!

 雄英一年の頂点がここで決まる!!

 決勝戦 緑谷 対 爆豪!!

 今!!スタート!!』

 

 ゆっくりとお互い歩み寄る。

 拳の届く位置へと。

 お互い一礼し、拳を合わせる。

 観客も司会も、大声で囃し立てる中。

 はじまりは、水を打ったように静かだ。

 ゆっくりと拳を突きだす。

 向こうもまた確認するかのように受け流す。

 稽古でもしているのかと野次が飛ぶ。

 だが動作こそゆっくりなだけで、それが必殺であると知っている。

 技量差あれば即座に決着がつくと知っている。

 ゆっくりとした武技の応酬だからこそ、お互いの実力が拮抗していると理解できる。

 繰り返す内に不平を叫んでいた者たちも黙りだした。

 その頃には加速しだしたお互いの拳打が、武の心得のない者には追い切れなくなっていた。

 

「凄いね、勝己。たった一年でここまでやるなんて」

 

「テメェがあれもこれもと手を出し過ぎなんだよ」

 

 タンクトップで得た個性が肉体強化だけとは思えない無自覚な予備動作がコイツにはある。

 複数の個性の可能性、確かに公にはできないだろう。

 だが使われてない事実が手加減されているようで腹が立つ。

 

「俺の爆破に冥躰拳、手加減して捌けると思うな」

 

「(場面ごとには使えるけど常時発動は練度的に微妙なだけなんだけど)加減なんてないさ、全力だ」

 

「「いくぞ(よ)!!」」

 

 稽古然とした武術の応酬ではない、機動戦。

 お互いに距離をとり、両手を爆破し加速。

 出久も強化した際の紫電を鳴らし駆ける。

 ぶつかりあい、弾き合い、軌跡を描きながら激突し、セメントスが拵えたリングを所狭しと動き回る。

 爆発音と激突音が会場中に響き渡る。

 いつまでも続くかと思われたそれは、出久が静止することで止まる。

 (溜めか)

 技を打つための予備動作。

 打ってくださいとばかりの硬直。

 ここで接近し大技で決めれば勝てると思わせる隙。

 だがそれが露骨な罠だとしても、ぶち抜けば勝ちだ。

 

「冥躰震虎拳!!」

 

 大型トラックも真正面から粉砕する必殺技を叩き込む。

 仮に先程やりあった切島やB組の鉄哲のような頑強自慢でも平たくできる一撃。

 いくらおかしな耐久力のテメェでも効くだろう。

 

「グフっ」

 

 口や鼻からの出血、確実なダメージ。

 

「君なら、ここで打つと思ったよ」

 

 だが苦悶の表情の中でも緑谷出久は笑う。

 耐えきれる自分と恐らくタンクトップを確信して。

 

「この間合いなら避けられない」

 

 それは極ありふれた正拳の挙動。

 しかしそれはあまりに速すぎた。

 

(ワンフォーオール50%にタンクトップの動き易さ)

 

「一撃必殺タンクトップ正拳!!」

 

 恐らく正しく認識できたのは、イレイザーヘッドをはじめとした体術に秀でたヒーローと、直撃した俺だけだろう。

 アイツの緑谷出久の拳は、確かにこの瞬間。

 音を置き去りにした。

 

(決まった)

 

 反応など出来るはずもなく、体が爆散するんじゃないかと思うくらいの衝撃に意識が飛びそうになる。

 けどな。

 来ると分かってんだから、耐えられる。

 勝利を確信した出久の顔に、睨み付けるように笑う。

 

「テメェがタンクトップで耐えられること、俺が耐えられないはずねえんだよっ!!」

 

 どこ裂けたか分かんねえけど、口内に溢れる血を吐き出しながら叫ぶ。

 さあ、これで終いだ。

 リングをぶち抜く踏み込みの威力をのせた突き上げるような拳に、最大火力の爆破。

 

「爆裂震虎拳!!」 

 

 だけじゃねえよ。

 出久のジャージが吹き飛び白目をむく。

 浮かんだ体にもう一撃。

 上体を後ろに下げ、捻り回転をかけた右腕に爆炎を纏わせ放つ。

 

「爆流鳳昇拳!!」

 

 ぶち破る右正拳に追いかけてくる爆炎。

 エンデヴァーの赫灼熱拳にはまだ及ばねえだろうが大した火力だろ?

 リング中央から渦巻く炎が真横に走る。

 セメントスが個性で壁を張るが熱気が周囲を炙る。

 

(決まったことに浮かれんな、残心だ)

 

 勝利が確定するまで油断すんな。

 相手は、タンクトッパーだぞ。

 喰らった一撃のダメージに全力の弐連撃。

 飛びそうになる意識をなんとか繋ぐ。

 霞んだ視界の中、撒き散らした熱気がゆらゆらと空気を歪めその光景を映し出す。

 仰向けに倒れた緑谷出久の姿を。

 

(勝ったのか?)

 

 意識はないように見える、全身は黒焦げだ。

 なら俺は、この戦いに、

 

 ビクリっと仰向けになった死に体の筈の出久の両腕が動きだす。

 確認のため近寄っていたミッドナイトがギョッとした顔で飛び退く。

 は、まじかよ。

 両腕は、ジャージが焼け飛んで剥き出しになったタンクトップをグイと引っ張ると、まるで鼓動のようにバチンっ小気味よく鳴った。

 すると白目向いた目に意識が戻り、何事も無かったように立ち上がった。

 司会のプレゼント・マイクも主審のミッドナイトもクラスメートも観客もヒーローもテレビの向こう側の連中も悲鳴上げて驚いてんだろうな。

 

「一応聞くぜ?なんで立てんだ?」

 

 ったくよお。

 立ち上がりこちらを見つめる出久の瞳は揺るぎない。

 

「タンクトップマジックさ」

 

 当たり前のように、その超現象を言う。

 マジでどうなってんだよコイツはよ。

 本当にどうなってんだよタンクトッパーって生き物は。

 余力はねえ、立ってんので精一杯。

 でも負けねえ。

 

「ワンフォーオール100%

 タンクトップタックル!!」

 

 構えた体にぶち当たるタンクトッパー。

 トラック直撃なんて目じゃない一撃をくらい、僅かな期間宙を浮いた感覚がしたが、背中のぶつかった衝撃を最後に意識を失った。

  

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