タンクトッパーイズク   作:規律式足

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閑話、飯田視点

 

「天哉、ヒーロー殺しと会ったら逃げろよ」

 

 幸いしばらく入院すれば後遺症なくヒーローに復帰できると診断された兄、ターボヒーローインゲニウム。

 

「保須市のマニュアル事務所に行くんだろ?

 だったら絶対に立ち向かったりしないでくれ」

 

 若くして独立し、多くのサイドキックを従えている兄は自分に重傷を負わせたヒーロー殺しステインの実力を理解していた。

 僕では勝てないと。

 

「喧嘩のトラブルで個性を使用したり、金欲しさで個性を使う犯罪者や、力を振るいたいチンピラなんかじゃない。揺るぎない思想の元自らを鍛え上げ、多くの実戦で経験をつんだ存在だ」

 

 今時そんなにいるタイプではないらしい。

 自らを鍛え上げられるならヒーローを目指すのが今の社会だから。

 

「お前が、俺のことで怒ってくれるのは嬉しいし。

 マニュアルの所に行くのも反対はしない」

 

 けれど、ステインとは戦わないで欲しい。

 そう兄は告げた。

 実際に遭遇したからわかっていたのかも知れない。

 ステインは再び保須で凶刃を振るうことを。

 

 

 職場体験2日目、マニュアルさんとのパトロール中にその騒動は起きた。

 爆発音に悲鳴。

 ヒーロー殺しの騒動で市外のヒーローすら集結している状況で起きた事件。

 本来ならこんな状況では息を潜めやり過ごすのがヴィランであり、そのためのパトロールだとマニュアルさんは言っていた。

 だからこそ、普通じゃない状況にプロヒーローといえど驚きは隠せないでいた。

 

「天哉くん!現場行く!走るよ!」

 

 だがすぐに反応し行動できるのもプロヒーローだからだろう。

 アレは?

 背中を追おうとふと路地裏をみたら、キラリと光が奔った気がした。

 

「マニュアルさん!」

 

「どうした天哉君?」

 

「路地裏に何かいるようなので確認してきます」

 

「本当かい?」

 

「はい、ただ気の所為かもしれませんが気になって」

 

「じゃあ僕も行こう」

 

「マニュアルさんは現場に!確認次第後を追います!」

 

 見間違いの可能性が捨てきれず、明らかに起きている事件を優先してほしいと頼む。

 

「分かった、けどもしヴィランがいたら逃げて助けを呼ぶんだ!!」

 

 僕の言葉を理解して、そう返事をしてくれた。

 どちらにしろ一刻を争う事態なのだ。

 

「はい!」

 

 騒動に乗じての犯罪かも知れない、急がないと!

 

 

「その人を離せ!!」

 

 路地裏の薄暗がりの中見えたのは、頭を掴まれた人て刃物を振ろうとする男。

 声を上げ取り押さえようと飛びかかるが、返す刀でヘルメットがふっ飛ばされた。

 

「スーツを着た子供、何者だ」

 

「俺はヒーロー事務所で職場体験中の雄英高校生だ!

 凶器を捨てて、その人を離せ!」

 

「消えろ子どもの立ち入っていい領域じゃない」

 

 起き上がり睨みつければ、その人物が誰だか分かる。

 血のように紅い巻物と全身に携帯した刃物、ヒーロー殺しステインだと。

 そして悟る、その目的を。

 同時に思い出す、悔しそうにベッドで横になる兄の姿を。

 

「既にヒーローに連絡した、お前は捕まる!

 だからこれ以上人を傷つけるな!」

 

 憎悪はある、復讐したい気持ちも。

 逃げなければ行けないとも思う、立ち向かってはならないという言葉も思い出す。

 けど、

 

「ここで逃げたらあの人が死ぬだろうが!」

 

 憎悪も復讐心も恐怖も教えも約束も吹き飛ばして、助けなければならないと心が叫ぶ。

 僕のなりたい、僕の憧れた、僕が追いかけた存在は、そんなヒーローなのだから。

 

「仇討ちの目をしてるかと思えば、それを飲み干す信念もあるか。

 下がれ、お前は標的ではない。学生ならばさらに学び強くなり悲劇を知り、真のヒーローとなれ」

 

 ふざけるな。

 ふざけるな!

 

「真のヒーロー? 兄さんをインゲニウムを襲っておいてヒーローを語るな!」

 

 激昂し、エンジンを熱くし蹴りを放つ。

 だが目的は掴まれたヒーロー。

 解放されれば逃げてもらえる。

 だが、

 

「熱くなったかと思えば、逃がすための布石か。

 ヒーローらしい良い判断だ」

 

 ステインは加速した僕をあっさりと捌き、靴の鋲で腕を穿ち、刀を刺した。

 

「弱いな、お前もお前の兄も弱い。

 信念あろうとそれでは贋物だ」

 

「贋物なんかじゃない、兄さんは多くの人を救け導いてきた立派なヒーローなんだ」

 

 あの人がやってきたこと、たくさんの人間の為になれて嬉しいと言う兄が、どこが贋物なんだ!

 

「あの人は、インゲニウムは、僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんだ!!」

 

「だが弱い」

 

 思いと叫びを断ち切る、ギロチンのような声。

 

「弱いんだよ、インゲニウムにお前は、

 その程度の力で良いと甘えているんだよ、お前達は」

 

 冷たく憤りすらかんじる重い声。

 

「だから俺程度の悪に敗れるし、いつだって信念と強さを兼ね揃えた真の英雄達を頼っている」

 

 僕たちが甘えている?

 

「徒に力を振りまく犯罪者を捕らえるだけが精一杯で、裏で蠢く巨悪に気づきもしない、さらに立ち向かう実力すらない。

 戦うのは真の英雄達だけだ。

 そんな貴様らが彼らと同じヒーローと名乗ることを許すことができない」

 

 何を言っているんだ?

 

「平和の象徴オールマイトが創り出した平和が、貴様らヒーロー紛いの軟弱化を招くなら、俺がヒーロー共の危機感となり社会に警鐘を鳴らそう」

 

 身体が動かない、これがステインの個性か。

 

「お前は生かそう、見込みがある。 

 だから眼の前の死を学び、己の無力さを知れ。

 いずれ真の英雄になるためにな」  

 

 ヒーローに向かって凶刃を振り上げる。

 

「待たせたな、だが誇るんだなお前の死は若きヒーローの芽を育つ役に立てる。

 じゃあな正しき社会への供物」

 

「やめろー!!」

 

「救けに来たよ飯田くん」

 

 無力に叫びを上げる僕の眼の前で、空を駆けて現れ、ステインを殴りた飛ばしたクラスメート。

 同期でありながら飛び抜けた実力を誇る友人。

 最悪のピンチに、最高といえるタイミングで彼は救けにきてくれた。 

 タンクトップオールグリーン、緑谷出久は。

 

 

 

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