「救けに来た、か良い言葉だ。
ならばその学生を連れて下がれ。
俺の目的はコイツら贋物の粛清だ」
ヒーロー殺しステインの目的は動けないヒーローの殺害。飯田君はその対象ではない。
ならば飯田君を連れて逃げることが正しい。
けれど、
「ソレをさせないために僕が来た」
動けないヒーローはずっと目で訴えていた。
助けてくれ、じゃない。
俺が標的だから君等は逃げろ、と伝えていた。
自らを省みない者がヒーローだと言うなら、彼が贋物なんてありえない。
彼は、ヒーローだ。
「下がらないでぶつかり合うというのなら、弱い方が淘汰されるわけだが、さァ、どうする?」
USJの時のチンピラ共とは違う、殺人者の目。
「決まっている、ここで引いたらタンクトップは着てないよ」
怪人脳無とは異なる強さ。
暴威が如き怪力ではない、研ぎ澄まされた殺意の刃。
「苦境を打ち破るモノ、それがタンクトップだ」
「良いなお前。やはりタンクトップマスターも素晴らしい、タンクトップジェントルといい、お前といい、他者を導き育てる才がある」
「憧れる背中だからね」
ヒーロー殺しステインの個性対策のため一太刀も受けずに捌く。
あの殺意ののった刃を相手にどこまでやれるか。
「いくぞ」
「こい!」
パンチの多いタンクトップ技では隙が大きいため、流水岩砕拳で凶刃を流しそらす。
狭い路地裏では動きに制限のあるはずの太刀がまるで大蛇のように自在に動き迫る。
本来流した力を転じて迎撃する流水岩砕拳が、返す余裕もなく捌くことに精一杯にされている。
いや、ステインの技量が凄まじいのは事実だがそれのみではない。込められた殺意が、ヴィランなどとは一線を画している。
ヒーローでは勝てない事実に納得する。
ヴィランの個性ありきの攻撃は強力なれど、使うこと自体が目的のヴィランに殺意がのるはずもなく、軽いのだ。込められた思いにより重みがここまで違うとは。
人を殺すために研ぎ澄まされた技術に僕は恐怖と感嘆を抱いていた。
危機感知、タンクトップセンサーを併用して流水岩砕拳でようやく捌ける、ヒーロー殺しステインとはそれほどの存在だった。
「お前は強いな、それで良い。
ヒーローとは強くなければならない。
素晴らしい理想も、正しき理念も、輝かしき未来も、強くなければ貫けない。
汚泥の如き悪意に塗り潰されぬために、ヒーローとは強き存在でなければならない!!」
ステインが叫ぶ。
彼の見てきた裏社会の脅威がために。
「足りないんだよ、ヒーロー共に。
悪意を跳ね除ける力が、俺如きに敗れる者にヒーローを名乗る資格はない!!」
「だから殺すのか!弱さを理由に!」
「そうだ! 拝金主義者という論外、名誉に取り憑かれた俗物、個性を振るいたいだけの阿呆、実力の足りない贋物、全てを粛清しヒーローを取り戻す!
信念と強さを兼ね揃えた真の英雄を!」
「今のこの社会、今のこの世界は」
ステインの言葉に理解を示したくなるのは歴代達からの記憶を見たが故か。
けれど、
ステインの言葉を否定するのは、歴代達の記憶を命を最期を知るが故だ!
「力が無くても、誰かのために命をかけて戦い。
希望を繋いできたからだ!」
オールフォーワンに討たれた歴代達。
彼らは託し、それがオールマイトへと平和の象徴へと繋がったのだ。
そしてオールマイトが守りたい日常は、力無くとも優しさある者たちが形作っていたものだ。
「迷子の手を引く優しさを、力無いからと否定することは許さない。
僕に手を差し伸べてくれた人は、強いから手を差し伸べてくれたわけじゃない」
力なき正義に価値はない。
だが、
優しさ無き日常にも価値はない。
弱くとも誰かを助けられる存在に価値はある。
「お前の言葉は正しい。認めるだけの価値はある。
ならば跳ね除けて見せよ、俺という脅威を!」
太刀だけではなく、全身に仕組まれた凶器をもって襲いかかってくる。
血を一滴流せば終わる。
けれど、タンクトッパーであって、クロビカリの無敵の肉体を持たない僕ではステイン相手に無傷なんて不可能だ。
流水岩砕拳を抜かれ、一撃受けることがゆっくりとした視界の中で悟ると、そこに割り込む姿があった。
「子どもにここまで言われて、大人が大人しくしていられるか!」
割り込んで来たのはヒーロー。
ステインに殺される寸前だった、動けなかった彼。
腹部にサバイバルナイフがめり込みながらも彼は叫んでいた。
ヒーローとして、大人としての矜持を。
「レシプロバースト!」
そしてそれは彼も同じ。
「兄は贋物なんかじゃない。
そう、兄さんは平和な日常を作るヒーローなんだ!」
動きを止めたステインの太刀を砕き、凶器を弾き飛ばす。
虚をつかれ、動きを止めるステイン。
だがそれも一瞬、彼の凶気たる信念は己の停滞を許さない。
しかし、僕にはその一瞬で充分過ぎる。
「ワンフォーオール100%、タンクトップタックル!!」
加速した身体がステインの身体を、反対車線の潰れたテナントに叩きつける。
「ガハッ」
手応えあり。いかに鍛えようとワンフォーオールで強化された筋力による一撃は耐えきれない。
「ここか!緑谷!」
ヒーローの傷を塞ぎ路地裏から出てきた所、ヒーローを引き連れた轟君がいた。
「悪い一斉連絡きたけど、脳無みたいのと便乗したヴィランに手間取った。
今親父と爆豪が対処している」
そうか、エンデヴァーもいるのか。
「コイツ、ヒーロー殺しか!」
瓦礫に埋まるステインに気づいたヒーロー達が手早く拘束し、ついでに傷の具合も確認していた。
「おい小僧、対処しても良いとは言ったワシの視界から離れるな!」
飛び出していったのはグラントリノでしょうに。
時間で言えば五分程度の戦いだった。
けれど、濃密な殺意を受け極限まで集中していたためもっと長く戦っていたように感じた。
バサッ
その音にグラントリノのだけではなく僕も気づいた。
だからその方向を見て、その脳無を見て、僕の思考は停止した。
「翼君?」
姿形は脳無だ。
しかしその個性が、こちらに向ける眼差しが。
かつて勝己達と一緒に遊んでいた友人を想起させてしまった。
動きを止めた僕を捕らえる脳無。
掴まれてなお、止まった思考が身体を反応させない。
「何してる小僧?!」
グラントリノの叫びにようやく動きだそうにも、もはや上空だ。
だが、隠しナイフで拘束から逃れたステインが、零れた脳無の血を舐め個性を発動し脳無に止めを刺した。
「贋物が蔓延るこの社会も、
徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ。
全ては正しき社会の為に」
そのタンクトップタックルをくらい重傷の筈のステインにその場の全員が圧倒されていた。
「何をしている! そっちに一人逃げたハズだが!」
「轟、飯田と出久はどうした?!全員無事か!」
そんな中駆けつけてエンデヴァーに勝己。
取り逃がした脳無を追って来たようだ。
脳無から解放されて、地面に着地した僕はステインから距離をとる。
「あの男はまさか」
「エンデヴァー」
「ヒーロー殺しか!」
エンデヴァーが炎を構え放とうとするが、ステインもまたエンデヴァーを認識し叫ぶ。
「贋物、正さねば、誰かが血に染まらねば!
英雄を取り戻さねば!
蘇る巨悪に、人々が平和が蹂躪される前に、
積み重ねられた屍と犠牲が無駄にされないために、
力と信念を持つ真の英雄が必要なのだ!」
その言葉に、百戦錬磨のグラントリノが、プロヒーロー達が、僕や飯田君や轟君に勝己が、気負されて後ずさる。
「俺如きに怯むか!!
そんな者達が平和の担い手が務まるか!!」
「黙れ悪党」
そんな中、エンデヴァーだけは動いていた。
右手に炎を纏い、大きく振り上げて、
「人々の日常を守る、己の家族を守る!
ヒーロー達の家族を泣かせてきた貴様が!
ヒーロー達の日常を、幸せを壊してきたテメェが!
ヒーローを語ってんじゃねえっ!!」
怒りの叫びとともにステインにその拳を打ち込んだ。
「それで良い」
衝撃と炎に包まれたステインは、エンデヴァーの言葉に笑みを浮かべるとそのまま意識を失った。
ヒーロー殺しステイン。
ヒーロー讃歌を謳う凶人にして殺人鬼。
強く無私なる者こそがヒーローとする彼は、自らを否定し打ちのめす存在を期待していたのかも知れない。
情を持つ強者を。
正直、今までの行いからエンデヴァーがそうだったことに僕は驚いたけど。
家族との和解が彼をそうさせたのかも知れない。
(オールマイトを超えるナンバーワンヒーローか、遠のいたかもね)
自分の目標がより高い存在になったと思う。
なぜかそれが嬉しくて同意を求めるように勝己と轟君を見れば、二人とも苦虫を噛み潰したような顔で頷いていた。
しかし、あの脳無、もしあれが翼君だとしたら。
思考に浮かんだ懸念を頭から追い出し、後始末の手伝いへと向かった。