雄英高校に通う学生は優しさでできている。
俺、爆豪勝己はそう思っている。
雄英高校といえばオールマイトにエンデヴァーやベストジーニストといった偉大なヒーローを輩出してきたヒーロー科こそ主役だと勘違いしがちだが、他の科の生徒も学力、実力、容姿、モラルにおいても数ある高等学校においても最高峰であると断言できる。
もう一度言おう、雄英高校に在学する生徒は優しさでできている。
そう、
先日の雄英高校体育祭において、ある意味というか色んな理由で有名になった生徒。
ヒーロー科であるB組の生徒。
一年はおろか学校全体でも、彼って性格アレだよね、と認識されている問題児、『物間寧人』が、なんと頭にウサ耳バンドをつけて登校してきても、一度見て顔を引き攣らせたり、高速で二度見こそしても、騒ぎ一つ起こさずに優しげな顔で通り過ぎるのだから。
というかアレ見覚えあるのだが、タンクトップ事務所屈指の変態タンクトップラビットの付けウサ耳だよなと思いはするが、雄英高校生らしく優しさでできている俺は全力で他の生徒達と同じようにできる限りの優しげな表情を作り通り過ぎた。
正直朝から疲れたから回れ右して家に帰り、出久に献上されたタンクトップガール写真集を見て癒やされたくなった。
そんな職場体験明けの朝の始まり。
スゲー盛り上がってんな。
クラス内は朝から賑やかだ。
職場体験一週間、一部除いて久しぶりに顔を合わせる同い年の面子との会話は途切れることがない。
当然話題は職場体験のこと、無難にパトロールや業務説明で終わった者、避難誘導や後方支援を行った者、隣国の密航者捕縛を行った者、格闘技に目覚めた者や女性にトラウマを植え付けられた者にチヤホヤされた者と人それぞれだ。
ただ、そんな中一番クラス内で気にされていたのは現在日本中でもっとも話題になっているヒーロー殺しの件に関わった俺達四人、もっとも俺は現場に居たレベルでほとんど関わりがないのだが。
ヒーロー殺しを発見し、ヒーローを助けようとした飯田に出久、ヒーローを引き連れて駆けつけた轟、エンデヴァーと一緒に合流した俺。
翼の生えた空飛ぶ脳無にヒーロー殺しがトドメを刺した後に出久達と合流したが、その後の瀕死の肉体でのステインの咆哮に俺は気負された。
はっきり言って屈辱極まりない経験だ、たとえヤツの言動に一理あろうと。
あの中で唯一動けたエンデヴァーの怒りの鉄拳は、俺だって放つべきだったのだ。
家族という大切な日常がある身としては。
尾白と障子がヒーロー殺しとヴィラン連合との関わりがあるという件でUSJにヤツがいなくて良かったと安堵し、上鳴が最近ニュース以上に騒がれている動画について感想を言う。
突き抜けたヤツは格好良い。
それはオールマイトにエンデヴァーの例もあり否定はしない、だが飯田という身内に被害が出ている者の前で言うことではない。
出久の反応で、それに気づいてすぐ謝れるから悪いヤツではないが、軽薄で考えが浅いトコあるよな。
もっとも、飯田も俺と同じでヒーロー殺しの咆哮と信念に一理あるようだ。
だが、迷いはして悩みはしたようだが己のヒーローとしてあるべき姿は定まったようだ。
粛清対象であった兄は間違ってなく、自分が目指すべき姿はそれであると。
ちなみに件の動画、ヒーロー殺しの咆哮及びエンデヴァー怒りの鉄拳もとい炎拳は、英雄回帰と日常讃歌という2つの思想として広まっている。
ヒーロー殺しの過去、教育体制から見えるヒーロー観の根本的腐敗という考えに、個人による街頭演説と諦念。
『英雄回帰』
ヒーローとは見返りを求めず自己犠牲の果てに得うる称号であり、誰にも負けない圧倒的強者でなければならないという思想。
現代ヒーローは英雄を騙る贋物であり自分にすら劣る者は英雄たる資格はないと粛清を繰り返すことで、世間にその事を気付かせる。
他者を害したいヴィランに大義名分を与えかねないこの思想は、ヴィラン以外にもヒーロー観の定まらないヒーロー候補にも広まるのではないかと懸念されている。
それに対して『日常讃歌』
エンデヴァーの怒りの炎拳の叫びから広まりつつあるそれは、ヒーローの守るべきモノをあらためて世間に訴えた。人々の日常とはヒーローの日常であり家族、それを害する存在から守り戦うことこそがヒーローであると世に示した。
よりによってソレを叫んだのが笑顔溢れるオールマイトではなく、功績第一主義と認知されていたエンデヴァーであり、また一部ヒーローが透けて見えてしまうアピールではなく本心からの叫びであることが影響の原因となっている。
古参ガチ勢エンデヴァーファンからはアンタ変わったよと血涙流して否定されたりしているようだが、有名なエンデヴァーガチ勢の某速すぎたヒーローは、コレはコレで有りと発言している。
ステイン被害者の遺族からは感謝、妻子持ちのヒーローから賛同と称賛、未婚女性ヒーロー達は結婚願望を増すという影響もでているとか。
不動のナンバー2ヒーローが、ナンバーワンになる日も遠くないかもしれない。
その後、気を取り直した委員長が始業だからと席に付くよう促した。
ちなみにそんな渦中にあったエンデヴァー事務所に居た俺と轟はどうだったかと尋ねられたが、
「「クロビカってた」」
二人揃ってそう答えた。
いやだってあの45歳ヒーロー、仕事後に超合金クロビカリとずっとトレーニングしてたし、張り詰めた筋力の光景が目に焼き付いてるわ。
最後らへん、俺の冥躰震虎拳くらっても軽く血を吐く程度の耐久力ついてたし。
事件よりそっちのインパクトの方があるわ。
さらに卒業後にエンデヴァー事務所に就職しないかと勧誘されたし、家の娘なんかどうだと現在教師をしている長女の冬美さんを勧められもした、余程気に入られたらしい、轟も爆豪なら有りだなと頷くし。
家のお袋が初恋を忘れる良い機会(余程なお世話だ)と乗り気なため縁談するハメになりそうな感じだ。
あの事件以降考え込むことの増えた出久が心配なんだが、俺自身もやるべきことが増えたためどうすべきか。
スイリュー以外にもあの爺さんから習いだしたため、時間が足りなすぎる。
とりあえず、同じく出久の様子を気にしてる連中集めてなんとかするか。