「速攻タンクトップパンチ10連打ァ!!」
警備室の操作盤の椅子に腰掛けていたヴィランをオーバーキル気味に仕留める。
一応登る時にメリッサさんを固定していたベルトで縛り上げるが、個性によっては拘束が無意味なんてことは現場ではよくあることだ。確実に意識を断つまでの攻撃がヒーローに推奨されているのはそんな背景もある。ちなみにヒーロー達がヴィランを拘束する道具類は、多少の保障を政府から受けられるけど、ほぼ全額ヒーロー達の自腹で、そういった道具の必要ない拘束系の峰田君や瀬呂君、あとはB組の茨さんとかは(金の無い)ヒーロー達から大人気だったりする。拘束具はかなり高いけど消耗品の上、性能によっては値段が天井知らずなのだ。
僕が倒して拘束している間にメリッサさんは警備システムの解除を実行している。
瞬く間に移り変わる画面と目で負えない速度の指の動き、僕には理解できないことを彼女はあっさりとこなしていた。
殴打された後で個性か薬で意識を奪われている元々ここに居た警備員達を、命に別状はないか確認した後一纏めにしていたら、出来た、とメリッサさんがホッとしたように呟いていた。どうやら終わったようだ。
「メリッサさん」
「終わったわ、マイトオジサマもヒーロー達も開放されたわ」
モニターを見ればパーティー会場のヒーロー達が鬱憤を晴らすかのようにヴィラン共を鎮圧していた。
活動限界が心配だったオールマイトも大丈夫なようですぐにこちらに向かうようだ。
「行くの、イズク?」
「ああ」
オールマイトがトップヒーロー達が開放された以上僕らがやるべきことをない。
プロヒーローに任せて避難すべきだ。
だが、
「パパを助けにいくのね」
モニターの一画面に映しだされる屋上の光景。
ヘリコプターに血を流す博士を引きずる鉄仮面の姿。
逃がすかよ。
個性社会において空中移動はリスキーだ。
飛空系のプロヒーローには現在の飛行機類を上回る者も少なくはない。
今さらヴィラン共が逃げても海上で捕らえられる可能性は充分にある。
それでも、
「それがヒーローだからね」
傷ついた人に手を差し伸べるのが、僕が成りたい存在なのだから。
「私も連れてって」
出来ることはもうないけど見届けたいというメリッサ。
「もちろん、君はパートナーだしね」
彼女がいなければ今回は何もできなかったのだから。
再び彼女を抱えて駆け出す。
屋上に辿り着いたが、既に飛び立ち空中を行くヘリコプター。
慌てたのかドアを閉めていない状態で鉄仮面は勝ち誇っていた。
もはや部下はいないにも関わらず、それでも目的は達成だと。
Iアイランドなら上空の備えも万全の筈だったが、この期間は花火などのため警備が変更されている。
直ぐに動けるのは僕だけだ。
ワンフォーオールの強化だけでは心許ない距離。
ならば浮遊の個性も使用して助け出す。
力をこめて発動しようとすると、ヘリコプターを金色の流星がぶち抜いた。
プルス・ウルトラァァァ!!との叫びから間違いなくオールマイトだけど、広い屋上の上空じゃなかったら大惨事ですよ(汗)
屋上に落ちて爆発とともに燃え上がるヘリコプターを背景に友を抱えて悠然と歩いてくるオールマイト。
これで終わりか。
デヴィット博士は助け出し、警備システムも元に戻した。セントラルタワー内部のヴィランはプロヒーロー達に勝己、さらに復旧した警備ロボットがなんとかするだろう。
オールマイトがデヴィット博士を下ろして声をかけようとした所で、僕はオールマイトと博士がケースを持っていないことに気が付いた。
鉄仮面が持っていたから巻き込まれたかと思った瞬間に悪寒が走った。
すぐさま危機感知を発動し、オールマイトを突き殺そうと迫る柱サイズの鉄の槍をタンクトップパンチで弾き飛ばした。
だが、危険度の高い危機を優先したせいで、鉄のケーブルがデヴィット博士を拘束し引き寄せることを防げなかった。
「ハハ、大した効果だこの個性増幅装置はなぁ。
触れずともここまで操作できるようになるとは」
ヘリコプターの残骸地点を中心に、鉄を盛り上げた舞台に立つ鉄仮面。
その周囲にはウネウネと触手のように鉄の棒が蠢いている。
とんでもないモノを開発したねデヴィット博士。
操作タイプ個性でここまで出力が上がるなら、肉体に依存するタイプの個性は発動したら爆散するんじゃないかな?
そら研究を封印されるわけだ。博士が手掛けるならともかく、理論から模倣した場合どれだけ犠牲者が出るかわからないぞ。立証するべきではない理論、その恐ろしさと危険性を目の当たりにした気分だ。
「パパ!!」
「デイブ!!」
毛糸玉のようにケーブルに包まれ拘束されるデヴィット博士、その姿を見て叫ぶメリッサさんに、白煙を吹き出し始めたオールマイト。彼はもう限界だ、それでもプルス・ウルトラでやりきってしまいそうな気がするが、これ以上はやらせられない。
いや必要もないか。
二人の前に立ち、襲いかかる鉄の槍の群れを流水岩砕拳でいなしながら僕は確信する。
駆けつけてきた気配達を感じたから。
「旋風鉄斬拳」
屋上に空いた穴から爆炎を巻き上げ飛んできた彼は、広げた両掌を渦巻くように振るう。
如何な原理かそれだけで強靭な筈の鉄のケーブルは切り刻まれ、拘束されていたデヴィット博士が宙に投げ出される。そこへ現れた氷のレール上をエンジンで加速した飯田君が駆け抜け博士を受け止める。
そして現れるクラスメートであるヒーロー達。
誰一人欠けることなく、せっかくの衣装がボロボロだったり頭皮から血を流したりウェイだったりするけど、彼らは此処に辿り着いた、ヒーローとして此処に来た。
「ったく何してんだ出久。後続が追いついちまったじゃねえか?」
「なーに、君は見せ場を外さないって知ってるからね」
「へっ」
「ところでいつ旋風鉄斬拳なんて体得したのさ?」
「体育祭後にボンブさんが、ライバルが流水岩砕拳を使うなら教えてやるって話かけてきてな。
人にゃ使えねえが打撃が効きにくいこういった時は便利だな」
いやこの短期間で体得できるシロモノじゃないんだけど、相変わらず天才だな勝己。
「後はアレだけか?」
僕の横に立ち、勝己は問う。
「ああ、博士の研究成果で強化された金属操作の個性を使う熟練のヴィラン。
アレを倒せばお終い」
「厄介なのは範囲と威力だな、生身で受け止めれるヤツは今はいねえ。後ろには動けないシールド親娘にオールマイトもか?」
「ここまでで手傷を負ったみたいでね」
「ならやることは簡単だな」
「ああそうだね」
僕ら二人は並び同じ歩幅で歩き出す。
いつものように、いつもそうしてきたように。
長い年月を過ごしてきた幼馴染は、苦難を超えてきた親友は、共に競い合ってきたライバルは、
同じ目標に向けて走り出す。
「轟、氷の壁だ」
「飯田君、君を中心に越えてきた鉄の対処を」
「「後ろは任せた」」
「行くぜタンクトップオールグリーン」
「勝つよバクリュー」
さあ、タンクトップを締めよう。
これがラストバトルだ。
「なあトシ、僕は君のためにあの装置を創った。
君がずっと平和の象徴でいられるように、あの輝きを失わないために」
「デイブ」
「友情だ、そのためだ、そこに偽りなんて一欠片もないと断言できる。
けどね、僕はただ失うのが怖かっただけだったのかもしれない。僕の目に焼き付いた君という光を」
「デイブ、それは私もだ。
いつだって考えてたさ、私がいなくなった世界はどうなってしまうのか。いつか必ずくる未来が不安で怖くてしかたなかった。
でもね、最近は違うんだ」
「そうなのか?」
「私なんてそれ程大したものじゃない、長い長い人の歴史のほんの一欠片。私の才覚を凌ぐ者達が今この瞬間にも産声を上げて、いずれ私を超えるヒーローになってくれる。
安心してこの立場を引いて良いのだと、そう思えるのさ。無個性ヒーロー達にエンデヴァー、雄英高校の教え子達、そしてあの二人を見てるとね」
「オールマイト。そうだね。
やれやれ自分達が替えの効かない偉大な存在だと思うのは、年寄の悪癖だね。若い頃は散々反発してたってのに。
まあバクリューはちょっと羨ましいけどね」
「爆豪少年がかい?」
「だって私は君の相棒として支えてきたけど。
君に並んで共に戦うなんてできなかったんだからね」
襲いかかる鉄の槍?帯?筒?ケーブル?とりあえず触手状の何かの上をワンフォーオールとタンクトップで強化した肉体で駆け抜ける。流水岩砕拳では捌ききれない分は黒鞭の個性で弾く。実戦では普段使わないが、ベストジーニストとの特訓の成果は着実にでている。
横の勝己も爆破に旋風鉄斬拳を併用して切り刻み吹き飛ばす、打撃と破壊力がウリな冥躰拳は向いてない相手だしね。
黒鞭について気になってはいるみたいだけど、察しの良い彼は、それが林間合宿後に話す秘密だと気付き何も言わない。だからこそ存分に僕は戦える。
「ガキ共がァァァ!!」
後ろの飯田君達も狙っていた触手が、突き進む僕らに集中して襲いかかる。
「道を、こじ開けるっ!!」
まずは発勁、からの、
「タンクトップタックル!!」
発勁の衝撃で緩んだところにワンフォーオールで強化した体をぶち当てる。
「馬鹿が」
嘲笑う鉄仮面。触手の群れの先には巨大な鉄の立方体が待ち構えていたかのように浮かんでいた。
そのまま押し潰そうと迫るソレを前に臆する道理など有りはしない。
「馬鹿はテメェだ、鉄クズ野郎」
爆裂震虎拳。
実際にくらったから分かるけど、一撃の威力なら文句無しに最強な必殺奥義。タンクトップを着てなければ即死だったね。
鍛え抜かれた勝己の拳に磨き抜かれた爆破の個性、巨大な鉄の塊程度が耐えられるものか。
さあもう後はない、ヴィランは目の前だ。
追い詰められたにも関わらず、ヴィランのニヤケた面は変わらない。破った勢いのまま空中を飛んだ僕らは、足元から伸びたケーブルに全身を縛られた。なるほどこれがその顔の訳ね。でもさ、
「もう飽きたわコレ」
旋風鉄斬拳は手首を動かせれば放てるし、
「何度も見たからね」
体からでる黒鞭のエネルギーで壊せるよ。
「?!」
驚いたみたいだけど、もうお終いだ。
「フザケンナ、フザケンナよ、俺がこの俺がオールマイトですらねえ、こんなガキ共にィィ!!」
頭部につけた個性増幅装置がより輝き、周囲全ての鉄を集め巨大な柱となる。
うんヤバいね、ビルみたい(足場のセントラルタワー程じゃないけど)
というかアレは形的に、
「鉄の固まりでできた龍?」
「いやあの触手のワサワサ感からむしろ」
「「ムカデだね(な)」」
いや困った、今の僕達のいかなる必殺技もアレを破壊するには足りない。無力を感じ絶望するほどの脅威であるはずなのに、何故か僕たちは顔を見合わせて笑った。
「狂ったか、何がオカシイィィ!!」
そう僕達個人の必殺技なら通じない。
けど今は二人だ。
二人並んで此処にいる!!
「やるよ」
「ああ」
打ち砕こうとビルのような巨体が迫る。
僕らは二人、鏡合わせのように同じ構えをとり、流れるままに動く。
「旋風」 「流水」
「「轟 気 空 裂 拳」」
放たれた技はかつて一度だけ見た、バング師匠とボンブさんの合体奥義、年経た二人には一回きりが限度と言っていた大技の威力は絶大と言っても過言ではない!!
直撃をくらい弾き返され大きく仰け反った後、くまなく巡った衝撃が一拍遅れてその巨体を弾け飛ばす。
「はっ?」
信じがたい光景に呆ける鉄仮面、その頭部の個性増幅装置は出力が出しすぎたか輝きを失い、ひび割れる。
「「これで終わりだぁ!!」」
僕の左拳、勝己の右拳、並んで打たれた一撃が今回の事件の幕引きだった。
「なあトシ、忘れていたんだな僕は」
「何をだい?友よ」
「どんなに絶望的だって夜は明けて、必ず希望の日は昇るってことをさ」
オールマイトという光が焼き付いたその目には新たな光が見えたのだから。
気絶したヴィランを引きずる両者に駆け寄る若きヒーロー達、日の出に照らす彼らこそ希望そのものだ。
後日談ともいえる、その後の出来事。
激闘の末力尽きた僕はメリッサさんに抱きしめられることになる、タンクトップ力が尽きかけているから新しいタンクトップの補充を望むが泣いている彼女は放してくれなかった。両側の麗日さんと百さんは仕方ないかという表情だったけど。
ちなみに勝己は格好良かったと芦戸さんが大胆にも頬にキスをして、対抗した耳郎さんまでも反対側に、本人は顔を真っ赤にして気絶(疲労困憊で限界だったし)ははザマア。
轟君飯田君は俺達も次は一緒にだと意気込んでいて、何気に元気だった。やっぱり拳法の有無が連携に関わるからね、二人の師匠になれる人いるかな?
上鳴君峰田君はいつもの。いや頑張ったんだろうな二人とも、特に峰田君のイザという時の勇気は尊敬すらしている。
そして駆けつけてきたプロヒーロー達に回収され病院に搬送された、それよりもタンクトップを。
なお幸いにもオールマイトはぎりぎり活動限界は保てて秘密はバレずにすんだ。
入院して半日、新しいタンクトップを着ても轟気空裂拳の疲労は抜けきれず体が重い。
「いや俺は指一本動かないんだが」
タンクトップ着ないからだね(断言)
ベッドに体を横たえる勝己には世話できるのが嬉しいけど、心配そうな顔したクラスメートの女性陣。
邪魔しちゃ悪いから、Iアイランドの見学してくるね。お土産はタンクトップでいいね。
「待ちやがれ、せめてコイツラも連れてけ。せっかくのIアイランドを病院で過ごさすなよ」
お大事に〜(笑)
事件の主犯達は全員逮捕、ヴィランを招きいれた元凶たるサムは自室で金目のものを掻き集めていた所で捕まった。むしろ此処は出ていくことが不可能なんだよ。
ただいかに鉄壁でも内部から招かれると危ないという意識が警備隊に生まれ、同型とも言えるタルタロスと共同で対策が講じられるようだ。
助手の捕まったデヴィット博士も責任を問われたが、今回の騒動の被害額の全額を特許をいくつか手放すことで支払い、済んだようだ。
もとより彼は被害者で今回の件の功労者だからね。
大まかなところはそんな感じだ。
あ、あと一つだけあった。
プロヒーロー達が駆けつける少し前、ドローンにて屋上の様子を探られていたらしい。
そのため奮闘するみんなと僕と勝己の様子がプロヒーローと富豪達に見られてしまったのだ。
個性などのヤバい情報は知られてないようだけど、僕達はまた大きく名前を知れ渡らせることになってしまったのだ。
さらに後日編集して報道される可能性も高いらしい。
とりあえず、上鳴君どんまい!!
そして数日、色々な用事を終えた僕達はIアイランドを去ることになった。
クラスメートの一部は既に帰り、残るは僕とオールマイトだけ。
見送りにはデヴィット博士とメリッサさんがいた。
「ありがとう、イズク君。
全ては君のおかげだよ。オールマイトの後継者、その大任を果たすためこれからも頑張ってほしい」
「博士」
「イズク、ありがとう。本当にありがとう」
こんな勇気があり頑張り屋な素敵な女性に礼を言われるなんて、男冥利に尽きるね。
「また、すぐに会えるから!!」
「だったら嬉しいよ」
Iアイランドに居るのだからそうそう会えはしないだろうけど。
「うん!!本当にすぐだから!!」
?
「じゃあまた『すぐに』会おう!! 未来の平和の象徴よ!!」
博士もやたらと強調してるな。
責任問題は解決してもやること多いだろうに。
別れ飛び立つ飛行機の外には未だ手をふる二人の姿が映っていた。
それはデヴィット博士が入院してすぐ、個性による治療が可能のため即日退院も可能だと言われた後の事。
彼の病室にオールマイトが訪ねてきた。
「私が友の見舞いに来た!!」
「おいおいすぐに退院だよ、軽い怪我だしね」
「ああ知っているともデイブ、でも君に頼みがあってね」
「君がかい?珍しい。僕にできることならならなんなりと」
オールマイトは勢いよく頭を下げ懇願する。
「あの個性増幅装置を作ってほしい!!」
「トシ?」
「違法なのは承知だ、しかし必要なんだ。ただの一度だけ使えればいいんだ」
その様子に博士は察する彼の目的を。
「今度こそ決着をつけるのか」
「ああその機会は近いだろう。私はその最後になるであろう戦いを万全の状態で臨みたい」
「平和の象徴としてかい?」
「次代を託すものとして、次代にその背中を生き様を見せたいのだ」
「条件がある、決して死ぬな。それだけだ。
未来で次代の輝きを日本で共に縁側に腰掛けながら見ようじゃないか」
「デイブ」
「機関との交渉のやりようはある、他ならぬ君だし。相手が相手だ。
勝つぞオールマイト、二人の最後の大仕事だ」
「ああっ!!」