「かっちゃん、もしかして、タンクトップ信じてないの?」
ボムッ
自身の個性の音と悍ましい寒気に跳ね起きる。
炎熱個性や可燃性の高い個性、汗などの分泌物が特殊な効果のある個性のための特殊繊維寝具は個性が暴発しても傷一つつかない。だが流石に音は階下に響いているだろうから、またお袋にオネショかよとからかわれてしまうだろう。
「クソが」
お袋のからかいはいつものこととはいえ、親父の心配そうな態度は申し訳なくなる。
夢見が悪くて個性の暴発、睡眠時の個性対策は未だに完全解決していない個性問題の一つだ。
だがそれ以上に。
「幼馴染が
頭を抱えながら夢で見た幼馴染の姿をその言葉を思い出す。
からかう?いや純粋な疑問としての一言。
「タンクトップ着たからって強くなれるわけねーだろ」
その返事がアレだ。
零距離でこちらをまるであの水の枯れた井戸のような目で見つめ、地獄の底から這い寄るような声で言う。
ああ認めたくねーけど認めてやる。
クソ怖ーよ。
トラウマと言っても過言ではない記憶。
多分アレなかったらもっと傲慢な性格だったんだろうな俺と思いつつ、笑い声を噛み殺したお袋が呼ぶ朝食の席へと向かった。
なおオネショはしていない、確認した。
「えーお前らももう3年ということで、本格的に将来を考えていく時期だ!」
タンクトップのない星に行きたい。
いやそっちの進路じゃねーよ。
クラスメート大半がヒーロー志望、まあ個性を活かせる仕事で一番わかり易いしな。つってもヒーロー飽和社会とか言われてるから資格取得厳しくなってるみたいだけど。だが、
「あのオールマイトをも超えてトップヒーローとなり必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!」
口に出して表にださないと夢は叶わねえ。
それはそこにいるタンクトッパーを見れば理解できることだ。
「そういや緑谷も雄英志望だったな」
進路にヒーローの話で盛り上がっていた空気が担任の余計な一言で死んだ。俺のもそうだけど人の進学希望話すなや。平凡な市立中学の折寺中初の雄英進学者(そのため推薦枠もない)になれそうだからってよ。
しかも緑谷の話題とか、いやアイツも模試でA判定だし、スゲーのは分かるけど。
緑谷出久はこの学校の有名人、常にタンクトップタンクトップ言って体を鍛えてる変人で、今時絶滅危惧種に等しい無個性。だが学力体力おいて常にトップ、体力試験なんて異形タイプ個性が絶対有利なのにかかわらず負けなし、その上誰もが嫌がることも率先して行い、ボランティア活動にも積極的、面倒見もよくトラブル解決にも貢献して多くの生徒に慕われている。タンクトップを除けば完璧超人とよく言われるが、それとったら小心なヒーローオタクなクソナードになるのでは?と俺はなぜか思う。
「個性あったら良かったのに」
ポツリと呟いたのは誰だったか、幾人かの無個性ヒーローが登場し活躍しても依然として無個性がヒーローになるには敷居が高い。慕う緑谷が無個性だからヒーローになれないのではないかと心配するヤツがこのクラスには何人もいるのだ。本人はのんきに担任と漫才してるが周りの心配に気づけアホが。ただでさえ悩んでるのは皆知っているのによ。
「タンクトップ着ようか爆豪君!」
それやめろマジで。
「しかし緑谷のヤツせっかくカラオケ誘ったのにこねーな」
「アイツ来たら女子も来るのにさ」
下心アリアリで誘ったのかコイツラ、俺は延々とタンクトップの歌を熱唱されるのは嫌なんだが。無駄にモテるから女子は釣れるのは分かるけど。
「けど昔から緑谷あんなんだったのか?」
「幼馴染なんだろ爆豪」
ヒーロー気質の方なのか、タンクトップの方なのか。
昔からあんなヤツだったのは事実だな。
ただまあ川に落ちた俺に手を差し伸べたのはアイツだったよな。
ボトリ、
水気を帯びた鈍い音がした方を向けば、粘体に目玉と大口をつけた存在がクラスメートに襲いかかろうとしていた。
「逃げろテメェら!」
両手を爆破して加速、間に割り込み吹き飛ばそうと腕を振るった。
クソッタレなヘドロ野郎に纏わりつかれ体の自由が奪われる、自身の抵抗による個性暴発と乗っ取られた体が助けようとするヒーローを弾き飛ばす。なんとか意識だけは保っているがそれも時間の問題、このまま自分が自分じゃなくなりそうな感覚に恐怖を抱く、助けてほしいと思ってしまい普段は意地でもはかない弱音が溢れそうになる。口元が覆われいよいよまぶたくらいしか自由が効かなくなった時、アイツは来た。
「緑谷、なんで」
ヒーロー志望ではある、だが知り合いにプロヒーローがいるアイツはルールを熟知し己をわきまえている、だからこんな無鉄砲なことはしないヤツなのに、
「理由なんて知るか」
吠えた言葉はアイツの本音、理屈を飛ばした思い。
「そんな顔したヤツに手を伸ばすために僕はタンクトップを着てるんだ!!」
こんな時もタンクトップかよ、呆れるというかドン引くというか、それでもらしいなと思う。
ガキの頃、川に落ちた俺に手を伸ばした姿が重なるように見えた。
パンチ一発でヘドロを飛ばし引き寄せる、だが追いすがるヘドロに対し何やら覚悟決めた表情になり、俺の両手を掴みだして「タンクトップトルネー」いや待てお前回るのか回すのか俺を掴んだ状態で回転する気かこいつ
、やめやがれテメェの馬鹿力でそんなことやりやがったらこっちがどうなると思ってやが
「デトロイトスマッシュ!!」
ありがとうオールマイト、アンタがナンバーワンだ。
どうなるかと思った騒動も終わったら後片付け、説教されるアイツに褒められる俺。
クラスメートを助けられて、ヒーローに評価された、そう悪い結果ではない。
緑谷も吹っ切れたみたいだし、これで良かったのだろう。
「ところでよ」
物陰から感じた視線の主に声をかける。
「いつまで見てんだオッサン共」
スッと出てきたのはタンクトップを身に着けた巨漢とジーンズを合わせたコスチュームを着た男。
プロヒーロータンクトップマスター。
ナンバー4ヒーローベストジーニスト。
「何してんだあんたら?」
多忙なトップヒーロー共が何してやがる。
「いや俺はタンクトップ巡回でな」
「事務所から何十キロだここ」
「ジーンズの買い出しだ」
「誤魔化し下手か!」
大方緑谷が心配だからだろうに。
「タンクトップは力の象徴、ゆえに俺は出久のヒーローの象徴になれない」
「有望な少年が勧めた進路で悩んでると気になってな」
分かりやすく悩んでたしな。まあそれも解決したようだが。
「お前が気にしてくれたおかげだ、ありがとう」
そう言って過保護オッサンストーカーズは去ろうとしたが、それを俺は呼び止める。
「どうした少年?」
「俺は強くなりてえ、いつまでもアイツの下なんて我慢できるか」
「ほう」
「礼を言うなら俺を強くしてくれ」
緑谷がスゲえのは納得してる、だがこのままじゃいられない。雄英高校入試までに強くなりたい。
「ふ、そうか」
理解を示したタンクトップマスターは、
堂々胸をはり、
「タンクトップを着ようか」
そう言った。
「タンクトップ以外で」
だからそんなんで強くなんのテメェらだけだ。