「個性を伸ばす」
合宿二日目、B組のブラド先生が自らの受け持っている生徒達に説明している。
「前期はA組が色々目立っていたが後期は我々の番だ、いいか?A組ではなく我々だ!」
目立ったのが実力より(一部除く)事件との遭遇率のせいだから複雑な気分だけど、ブラド先生は対抗心バリバリだね。
不甲斐ない教え子でごめんて感じの生徒もいるようだけど、それほど生徒同士実力差はないんだけど。
個性を伸ばすと言ってもまるで別物の個性をどう伸ばすのかわからないと取陰さんが聞いて、鎌切君が頷くけど、それが個性社会の問題の一つ。
あまりにも多様過ぎて型にはめれない個性は、それぞれがオンリーワン。的外れな鍛錬で時間を無駄にすることも個性そのものを誤解することもザラにある。
ヒーロー科に入学するまでロクに鍛えられないのはこれが主な理由だ(あとは環境)
問題視される個性婚だけど、似た個性の悩みを持つ者同士が自然と夫婦になって個性婚みたく強化される事例も多いんだよね。ぶっちゃけ住居一つとっても似た個性同士じゃないと余計に手間とお金かかるし。
「筋繊維は酷使することにより壊れ、強く太くなる。
個性も同じだ使い続ければ強くなりでなければ衰える!すなわちやるべきことは一つ!」
『限界突破!!』
地獄絵図だよね、悲鳴と表情が。一部では血も流れているし。
「許容上限のある発動型は上限の底上げ。
異形型・その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬」
いやみんなの悲鳴がね、痛いのばかりだし叫ぶと痛み和らぐけど。
しかし方針は分かっても管理はできるのか、疑問を持つ生徒達に現れるヒーロー達。
『そうあちきら四位一体!』
『煌めく眼でロックオン!!』
『猫の手手助けやってくる!!』
『ウサ耳映えるタンクトップ!!』
『どこからともなくやって来る』
『鍛えた身体に生い茂るジャングル!!』
『キュートにキャットにスティンガー!!』
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』
「いや今、変なの居なかった?」
「虎、以外にもなんか」
「物間みたいなウサ耳つけたケツアゴタンクトップおじさんと、髭面のモジャモジャした感じのタンクトップおじさん」
「新メンバー?」
というか二回目。ジャングルも参加してるし。
再び気づいたプッシーキャッツの皆さんが、それっぽくポーズをキメたドヤ顔のタンクトッパー二人に拳を握りしめ、
「「「「混ざるなーっ!!」」」」
「「ぎゃあああ!!」」
と見事なフルメンバーキャットアッパーをタンクトッパー二人に打ち込んだ。
「緑谷、あいつらはあんな感じなのか?」
呆れた様子のブラドキング先生の問いに僕は正直に答えた。
「ラビットはジェントルと同じくらい自己主張強いですね、ジャングルはラビットとタンクトッパーになる前からの知り合いで弟分だから付き合ったのかと」
ちなみにラビットとジャングルは元ヴィランの更生組で、ハッターとスイマーとロカビリーはヒーロー科中退組、経緯はそれぞれ違うけど今ではマスターを慕うタンクトッパーだ。
「ラビットさーん、ジャングルさーん、山の巡回の時間スよ、ってなんで地面転がってんスか?」
「趣味だ」
「ヨガだ」
「仕事中スよ」
三人の中では年も実力も一番下なハッターが呼びにきたけどダメージのせいで転がったままな二人。
「あ、イズクさんどもっス」
「ハッターもお疲れ様、なんか知覚した?」
「いや気配したような感じなんスけど、よく分かんなくて、確認しにいこうにも肝心の二人が」
ハッターは弱いからね、タイガーとブラックホールよりマシだけど。まあこの二人タンクトップ力は高いから
あと少しで全快するでしょ。
「ところでイズクさん訓練は良いんスか?カツキさんもなんかやってますけど?」
勝己はお湯に手を浸して汗腺を広げてから爆破の威力を上げる試みをしている。武術によって実力は底上げされてるし、もともと高い水準の個性だけど伸ばす余地はあるしね。
「ブラドキング先生に呼ばれてね、僕としてはせっかくだから新技のエターナルタンクトップフィーバーを試したいけど」
タンクトップ力を濃縮してエネルギー波として放出する必殺技だけど、威力と消耗が高過ぎるのが難点なんだよね。
プッシーキャッツの説明が終わったのでそれぞれバラけるのかと思いきや、ブラドキング先生によって全員集められた。
「個性強化も大事だが、その前にトップとの実力差を知っておくべきだ」
するとブラドキング先生の横に立たされていた僕の背が押される。
「さあ緑谷、B組皆と組み手だ。まさか怖じ気づいて断らないよな?」
本当にA組に対抗心バリバリだよ、この人。放任的な合理主義な相澤先生とは対照的だよね。
けどさ、ちょっと、
「さあ誰からやる?」
舐めすぎだよタンクトップを。
「面倒だから全員まとめてやりましょう、安心してください、手加減はしますから」
ピキりと反応するB組諸君だけどさ、物間を代表に喧嘩売られ続けられてこっちも頭きてんだよ、A組のみんなは敵だなんて思ってないのに一方的に絡まれてさ。
対抗意識だかなんだか知らないけど、吠えずに拳に実力を示しなよ。
流水岩砕拳の構えを取り、僕はB組を迎え撃った。
結果は言うまでもなく僕の勝ち。
確かに優れた個性と実力の人もいたけど、地力の差が出た感じだ。個性は所詮身体能力、発動タイプはタイミング外して倒せば良いし、直接戦闘タイプは武術の心得の差が大きすぎる。また場所も悪い、入り組んだ路地ならともかく、開けっぴろげなこの場所は連携は取りやすくも不意打ちはまずできない。
一番強かったのが、ラビットジャングルハッターの個性を合わせがけした物間だった。まあパワーあっても動きがぎこちない相手に遅れは取らないけど。
戦いの結果に呆気に取られたブラドキング先生だけど生徒に立ち回りの反省点と個性の使い方を一人ひとりに説明していた、それをそのまま合宿の方針にするみたいだね。
あとは広域カバーが可能なプッシーキャッツがサポートして個別訓練かな?タンクトッパー随一の防御力を誇るジャングルは切島君や鉄哲君の指導に向いているようだし。タンクトッパーもやれることはある。
僕も自分の訓練に入り、エターナルタンクトップフィーバーを試してみたけど、ピクシーボブが用意した巨大な土の山を幾つも跡形もなく消し飛ばしてしまったから使用禁止になった。
夜、みんなでカレーを作った。
バテてるみんなはしんどそうだけど、飯田君の乗せられやすい性格が勢いつけた感じ。カレーとかは役割分担もしやすいし、固形カレールウのおかげで失敗もし難いから大抵美味しくできる。タンクトップマンションの生活で慣れてる僕と違ってみんなは火を点けての飯盒炊爨も盛りあがるしね。
美味しくできたカレーにがっつきながら笑いあい楽しく過ごせた、疲れ果てても楽しいことをしていると元気になるよね。
その夜、僕は皆が寝静まったのを確認した後一人の人物を待っていた。
「遅れてすまないピョン、ってふざけてる空気じゃねえな。どうした出久よ」
その人物の名はタンクトップラビット、付耳兎吉。
僕は彼に頼まないといけない、理不尽で最低で非道な願いを。
「明日、おそらくヴィランからの襲撃があります」
「となると肝試しのタイミングかね?夜でバラけてイベント中、狙うにはうってつけだ」
「はい、僕の個性の危機感知が一番反応している時間帯です」
多分歴代の個性で一番使うこの個性は、おぼろげだが時間帯の想定でも危機の判断ができる。合宿の段階で警鐘を鳴らしていた個性は、明日が一番危険だと訴えていた。
「だが分かってんのか?そのタイミングを狙えるってことは内通者がいることを証明しているぞ?」
僕はカレの姿を思い浮かべ、辛くなる。
裏切るカレがいかに苦しんでいるのかを。
「はい、そして本題ですが。
ラビットとジャングルに、あなた達二人に命の危険があると感じました」
タンクトップの恩恵か、タンクトッパーなら危機感知の適応ができた。その結果二人が一番危険な目、いや命を落とす可能性が高いのだ、けれど。
「抱え過ぎだ小僧」
僕のこれから言うことを察したラビットは、涙を流しうつむく僕の頭を優しく撫でてくれた。
「僕はお二人に、おね、お願いが、」
「分かってる、引かないと死ぬ状況で引かないでくれと頼みたいんだろ?」
そう僕はラビットとその弟分のジャングルに死んでくれと頼んでいる。そうじゃないと、
「被害が増すだろうしな」
納得した表情でラビットは頷いてくれた。
「抱え過ぎだ小僧、そんな状況なら元より引かねえよ俺達は。だからお前のせいじゃない、気にすんな」
そうは言っても、そうは言っても!
「んでお前自身はどれくらい危険なんだと、って聞くまでもないか?あんだけ説教されてもお前も引くつもりないんだな?」
ラビットは普段はおちゃらけていてもその実鋭い。
こちらの目的も察してくる。
だから正直に全て話す。
「先日サーナイトアイというヒーローが訪ねてきて告げられました、此処が分岐点だと。オールマイトを救えるタイミングだと、だから」
「マスターから、命令されてる」
最後まで言わせずラビットは語る。マスターの思いを。
「お前の好きにさせろってな。
好きにやりなイズク、あとは任せろ」
こうして深夜の密会は終えた、あと注意する点としてラグドールが一番狙われやすいだろうと。
オールフォーワンが一番欲しがりそうな個性は彼女のサーチだと歴代達も言っていた。
今日一日は楽しかった、昨日だって楽しかった。
みんながそんな日々を過ごせるために、みんなが笑って学生生活を謳歌するために。
全ては明日決まる。