タンクトッパーイズク   作:規律式足

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第57話

 

 オールマイト、貴方にあんな未来があるなんて僕は認めない。

 だから僕がオールフォーワンを倒します。

 だから僕が終わらせます。

 貴方をワンフォーオールの席に座らせない。

 貴方は、幸せにならなければいけないんだ。

 

 

 

 その不意打ちに対応できたのは、タンクトップハッターのおかげだといえる。

 彼が感じた反応、それが必ずあると確信していたヴィラン連合の襲撃の始まりだと予測できたからだ。場所を聞いてより納得できた、便利な個性を欲しがるオールフォーワンにとってラグドールの個性は相澤先生の抹消並みに狙っているものだろう。だが相澤先生は単独で強すぎる、個性に寄らない肉体スペックで上回らない限りどんなヴィランでも一対一なら必ず勝てる。また歴代達の推測からオールフォーワンは感覚を個性で補っている可能性が高い、抹消個性を持ち戦闘に長ける相澤先生との対面なんて一番避けたい状況の一つだろう。あるいは脳無はオールマイト対策ではなく、イレイザーヘッド対策なのではと思ってしまうくらいだ。なのでラグドールが狙われる可能性は高く、ラグドールを必ず捕獲できる戦力が送られると推測できた。そして、その戦力がタンクトッパーでも戦闘力の高いタンクトップラビットとタンクトップジャングルの命を危機に陥れる存在であると、僕は危機感知の個性で分かっていた。

 そして、そちらに脳無が送られるなら次のヴィランのやることも推測できた。

 すなわち、プッシーキャッツ最強戦力にして今回の林間合宿での防衛の要である、ピクシーボブの不意打ちにおいての無力化であると。

 そう彼女ならば単独で複数の脳無の無力化だって可能なのだから。

 ピクシーボブの頭部を狙った一撃を反らし、下手人の腹部に一撃を叩き込む。

 吹き飛ばされたヴィランは腹を抑え、地面を向くが直ぐに持ち直した。強いなコイツ、チンピラではない。

 

「やっぱり貴方が厄介だったわね、緑谷キュン♡」

 

 そう言って布に包まれた長物を構えるサングラスの大男。コイツは確かヴィラン手配書集に載っていた、

 

「マグネよ、ヨロシク」

 

 ヴィラン連合は今度は手練を集めてきたか、クラスメートじゃキツイレベルだ。

 

「万全を期したハズなのになんで敵連合が!」

 

 叫ぶ尾白君に僕は答える。

 

「だからこそ、狙ったんだ。

 ヒーローの信頼を打ち壊すために」

 

 この時点でもう、僕らの負けだ。

 

 

 

 

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!

 我ら敵連合開闢行動隊!!」

 

 ヴィラン手配書集で見たことのないヴィランだ。

 今まで表にでなかった実力者か、それとも。

 

「自己紹介しよう俺はスピナー、ステインの夢を紡ぐ者だ」

 

 ステインにあてられた、鑑定人気取りのヴィランか。

 

「だったら敵連合こそ打ち倒す相手だろうに」

 

 やるか、このスピナーは大したことないけどマグネは強い。そして後ろの脳無共もね。

 見れば、ヴィラン二人の後ろには3体の脳無。

 タンクトップラビット達の方へ用意された個体も考えると何体居る?

 大盤振る舞いにも程がある。

 

「連絡? こんな時に、どうしたのタンクトップハッター?!」

 

 やはり、

 

「あら、あちらに行ったのね。猫ちゃん確保は失敗かしら?」

 

「ヴィラン襲撃、ラグドールが重体、脳無複数、タンクトップラビット、ジャングル両名が脳無の足止め」

 

「「なっ?!」」

 

 その情報にプッシーキャッツのメンバーが驚愕する。

 だがマンダレイが続けて指示をだす。

 

「ピクシーボブは土魔獣と土流で脳無を押さえて!!

 虎と私でこいつらを押さえる!!」

 

「マンダレイ!! 麗日さん達も襲われています」

 

 スマホに入った複数の緊急コール。

 こんな時のために皆に広めた用意だ。

 

「僕が向かいます!!」

 

「わかった、緑谷君は他の生徒の助けに行って!!

 他のみんなは委員長引率でマタタビ荘へ!!」

 

 プッシーキャッツとはタンクトップ事務所での付き合いがあった、だからこそ認められたようだ。

 飯田君にそのことを伝えて、僕は夜の山へと駆け出した。

 

 

 

 

 いた。

 肝試しの順路で襲撃すると思ったけどそのとおりだったね。

 麗日さんと梅雨ちゃんに襲いかかる刃物使いのヴィラン、覆面をしているがアレは、トガヒミコ?

 刃物を振りかざすトガヒミコに上手く避ける二人。

 

「大丈夫二人共?」

 

 何にせよ、間に合ってよかった。

 

「イズク君! そっかスマホの」

 

「緑谷ちゃんがクラスメートに広めて正解だったわね」

 

 ステインのことがあったらそりゃね。

 

「梅雨ちゃんとしては勝己の方が良かったかな?」

 

 あえてふざけた物言いをしないと、襲われた恐怖は体を硬直させてしまう。

 というか、未だに勝己が合流していない?

 位置的にはあっちが近いのに。ってことは、向こうにも脳無か別のヴィランが居る。

 

「そのとおりだけど、麗日ちゃんは緑谷ちゃんの方が来て喜んでいるわ」

 

「梅雨ちゃん?!」

 

 この娘にこの手の話題は避けるべきだね、返り討ちにあいそう。

 

「緑谷君ですか、貴方は厄介です。

 私達は貴方を一番警戒しています、貴方と爆豪君は強すぎるんです」

 

「それはどうも、だったらおとなしく捕まってくれるとありがたいけどね」

 

 ぶらりと両手を下げて、トガヒミコは語る。

 

「梅雨ちゃんもお茶子ちゃんも好きな人がいます。

 そしてその人みたくなりたいと思ってます。

 わかるんです、乙女だもん。

 好きな人と同じになりたいよね当然だよね。

 その人そのものになりたくなっちゃうよね」

 

 これが、この年で殺人鬼となる少女か。

 歴代達の記憶にも何人もいたシリアルキラー。

 

「貴方はどうなんですか?イズク君?」

 

「僕には誰かを好きになる資格なんざ無い。

 果たすべき目的と、その道に大切な人を巻き込みたくないからだ」

 

 ワンフォーオール継承者、それが家族を持つリスク。

 あの悪辣な魔王はつけいるスキを見逃したりは絶対にしない。

 事実調べてもらった、7代目の家族はもう。

 

「ダメですよ、ソレ。

 恋をしないと勿体無いし、麗日ちゃんが可哀想です」

 

 恋が行動の主体にある少女。

 こうなったのは環境か出来事か。

 あるいは個性の衝動が感情として発露しているのか?

 けれど、

 

「ゴメンねトガヒミコさん。

 ヒーローなら貴女に理解を示し、手を差し伸べるべきなんだろうけど。

 麗日さんを傷つけた君に腸煮えくり返ってるんだ」

 

 ちょっと許せないよね。

 

「なぁんだ、イズク君もカァイイ恋してるじゃないですか」

 

 楽しそうに、愉しそうに、嬉しそうに彼女は笑う、笑って、嗤う。

 

「けどまだ捕まりたくないのでバイバイ。

 イズク君、お相手はこの子がしてくれます」

 

 ガサリと茂みから出てくるのはやはり脳無。

 本当に何体居るんだよ。

 

「ああ、イズクはまたね。です」

 

「麗日さん達は離れてて!!

 直ぐに仕留める!!」

 

 初撃をいなし、流水岩砕拳の連打。

 回復能力はない。

 なら直ぐに、

 

「発勁」

 

 苦戦はない。

 脳無は厄介ではある、けれどハイパワーが主体で考える頭の無い存在は、流水岩砕拳を修めた僕には相性が良すぎるんだ。さらに三代目の個性である発勁のおかげで一撃で脳無の耐久力をぶち抜ける。

 

「二人とも、直ぐに避難を。皆は僕が助ける」

 

 脳無にも性能にバラツキがあることが幸いだ。

 与える個性に差があるのか。 

 特に今回のコイツは弱いタイプだし。

 いや、

 どろりと泥みたいに崩れた脳無を見て認識を変える。

 もっとヤバいヴィランが向こうにはいる。

 

「今のって」

 

「死んだ、とかじゃないわよね」

 

「複製とか分裂、ドッペルゲンガーでも生み出す個性が連中にはある。そんなのいたらピクシーボブが無事でも物量で押し切られるぞ」

 

 最悪の事態だ。

 ダメージで消えるタイプの複製でも、パワーは一撃食らったらヤバい存在。ピクシーボブの土魔獣よりは間違いなく強い。

 そんなのマタタビ荘で籠城しても厳しい。 

 相澤先生の抹消は効くのか?

   

「まあ詰みって感じだよな」

 

 現れたヴィランはやや汚れている、シルクハットをつけた仮面のヴィラン。

 

「コンプレス、だっけ? どんだけ勧誘に成功してんのさヴィラン連合」

 

 またもネームドヴィラン、しかもコイツは触れたらアウトな個性だったはず。

 

「本当に勤勉だなタンクトッパーは。さっきのタンクトップハッターも知ってたしな」

 

「警備する側が犯罪者の顔を知りませんじゃいけないでしょう?」

 

「お仲間のラビットにジャングルなんか複製体込みの二十体相手に奮闘してるぜ、本物だって混じっているのによく耐えるよな」

 

「タンクトップは伊達じゃないんでね」

 

 長話、時間稼ぎが目的か?

 

「だからだよ、緑谷出久。お前はだから狙われた」

 

 まさか、今回の目的は?!

 

「タンクトップ着たら個性を発現した存在なんて、脳無なんか創るヤツが放っておくわけないだろ?」

 

 オールマイト、貴方の嘘が影響でてますよ。

 ワンフォーオールがバレたかと思ってたら、ソッチですか!!

 

「? どした頭抱えて」

 

 ヴィランにも心配されるよね。

 

「それで僕の前に来たってことは交渉ですか?」

 

 僕の言葉に息を呑む麗日さんと梅雨ちゃん。

 この間合いに来たってことはそういうことだろう。

 

「お前もエンターテイナー殺しだな。

 ああそうだよ、ありがちでヴィランらしく、

 仲間の命が惜しければ着いてこい。お前の命は保証できないけどな」

 

「だったら人質を解放してからでしょ?

 どっちにしろ、脳無が複製されてるなら勝ち目がないし着いていくよ」

 

「えっ?」

 

「緑谷ちゃん?」

 

「こっちの個性知られてるなら仕方ないか。

 はいこっち、二つあったけど取り返されてな。

 ご存知、透明ガールだ」

 

 ピースする指に挟まれた球体、あれに葉隠さんが。

 ガチャリと僕の足元に手枷と足枷を投げられる。

 

「それを嵌めたらこの娘は返す、それでいいだろ?」

 

「随分と念入りだね?」

 

「武術極めたハイパワーな個性のタンクトッパーなんていくら警戒してもしたりねえよ。

 連中の凄さは体感したばかりだしな」

 

「他の連中は?」

 

「時間来たら帰るし、複製脳無は消すよ」

 

「なら了解」

 

 手枷の片方を嵌めたら、麗日さん達よりコンプレスが驚いていた。

 

「正気かお前、捕まったらバラバラに解剖されて調べられるんだぞ」

 

「「!?」」

 

「それが?」

 

 現状逆転の術はない。

 応援が間に合っても、それが無個性ヒーロー達であっても彼らには機動力という致命的な弱点がある。

 広い夜の山ではその実力は活かし切れない。そしてなんとなできるかもしれないオールマイトはこれない、ホークスは個人戦闘では複製脳無も厳しい。

 機動力と感知力は今後のヒーロー社会の課題だね。

 だから僕が捕まるのが正解だ。

 足枷も嵌めようとした所で、コンプレスは麗日さんに葉隠さんの入った玉を飛ばす。約束は守るんだね。

 ガチりと枷が固定されたら、葉隠さんが玉から解放された。

 急いで駆け寄ろうとする麗日さん、舌を伸ばす梅雨ちゃん、呆然とした葉隠さん。

 でも遅い。

 現れた黒いモヤが僕たちを遮る。

 そして、

 爆音とともに一番の親友も現れた。

 

「出久?」

 

「勝己」

 

 ありがとう。間に合ってくれて。

 

「君って本当に」

 

 任せたい相手、託せる相手が来てくれた。

 

「見せ場を外さないよね」

 

 ありがとう親友。

 状況が飲み込めず呆気に取られた表情に自然と浮かんだ笑みを向ける。

 

「みんなをお願い、大切な仲間達を頼んだよ」

 

 そうして僕は、黒いモヤに呑まれた。

 友に託して。

 

 

 

 完全敗北。

 通報により駆けつけた救急と消防、

 生徒40名の内、敵のガスによって意識不明の重体5名、重軽傷者多数 無傷ですんだ生徒も多くいた。

 そして、行方不明者 緑谷出久。

 プロヒーローは9名の内1名、ラグドールが頭を強く打たれ重体。

 タンクトップラビット、タンクトップジャングルの2名が、脳無集団との戦闘により意識不明の重体、その全身は傷がない箇所がない程にボロボロだった。

 一方、敵側は2名の現行犯逮捕、ラビット達と戦ったと思われる脳無三体を回収に成功。

 彼らを残し他の敵は跡形もなく姿を消した。

 

 彼らの林間合宿は最悪の結果で幕を閉じた。

 

 

「クソがあああああ!!」

 

 目の前で親友を連れて行かれた少年の叫びと、想い人

を攫われた少女達の涙、無力感に打ちのめされる雄英高校生達の思いとともに。

 

 

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