「そういう事だったのかよ」
林間合宿襲撃事件、目の前で幼馴染を連れていかれた俺はただひたすらに叫び続けた。
そんなことをしているべきではないと頭では理解している筈なのに、怒りと絶望を体から吐き出そうと必死に俺は叫び続けたんだ。
駆けつけてきたイレイザーヘッドに保護された俺達はマタタビ荘へ戻り何があったのかを説明した。その時の麗日達の顔は見ようと思えないくらい酷いものだった。
人質にされた葉隠を助けるため、ヴィラン襲撃を終わらせるため、自らを差し出した出久の行動。
複製の個性で無尽蔵に用意される脳無という、敵の最悪の一手を悟ってしまった出久は犠牲が出る前に終わらせるべきだと判断したのだ。
それが自らの命と交換だとしても。
その場にいたヒーロー達の顔が歪む、自らの力不足、事前に防止できなかった事実に。
怪我人はこのまま病院へ、それ以外の者は迎えが来るまで部屋で待機。クラスメートの誰もが沈黙する中で荷物を纏めている中で、出久からの手紙を発見したのだ。
決して人前では読んではいけないと注意の書かれた手紙を。
気にはなるが、現状では読めないので後にした。
話を聞きたそうにしている補習組と、沈痛な表情のクラスメートが気まずい沈黙を作る中、息を潜めるようにただ時が過ぎるのを待った。
翌日、一部生徒は合宿場所近くに入院することになったので、場所と病室を記憶しながら厳重に警備された状態で家に帰った。
出迎えてくれた両親に、幼馴染を助けられなかったことを責められると顔を俯かせていると、二人は何も言わずただ抱きしめてくれた。
ただひたすらに俺の無事を喜んで。
何かを言いたくても言えなかった。
こんなことしてるヒマはないと動き出したかった。
出久はそれどころじゃないのに甘えたくなかった。
もっと責めて欲しかったのに。
何をしていたと怒鳴って欲しかった。
家族の温もりに安心したくなかった。
「俺は、俺は」
「いいんだよ、勝己。今だけは」
「アンタは何も悪くないんだから」
二人の言葉に息をつまらせ、そのまま押し黙る。
押し黙り甘えた。
また動き出すために。
自室に戻り、一番最初にしたのは気になっていた出久の手紙を読むことだった。
先日の遺書の件が頭をよぎるが、流石にそれはないだろう。そして書かれた内容を知り、確かにこれは誰にも伝えられないと納得した。
中学三年からのオールマイトの付き合いとその詳細。伏せられていた個性について、魔王オールフォーワンとオールマイトの因縁、そして敵のやり口について。
ワンフォーオールという個性のヤバさ、最近のアイツの異様な勘の良さにも腑に落ちた。個性で危険を予め知り、ソレを経験豊富な複数のヒーローと相談しながら決めているならあんな対応にもなる。
全部タンクトップのせいだと納得していたが、まさかこんな事情があったとは。
隠し事に憤慨していたが、これなら話せなくても仕方ない。林間合宿でも襲撃そのものが自分が元凶だと思っていたらあんな行動を取るだろう。もっとも狙われる理由を勘違いしていたが。
向こうは恐らく、ワンフォーオールの存在に気づいてはいない、Iアイランドの研究者のように身柄を狙ったのだろう。
さてどうするか、手紙と一緒に入っていたアクセサリーのようなものは出久が死にそうになったら反応するらしい。そうなったら無個性のタンクトップマスターに血液を飲んでもらいワンフォーオールを譲渡する気なのだろう。まだ生きている。それだけでなんとかなる気がしてきた。
スマホに連絡?
見れば八百万達の見舞いに行かないかという誘いだった。元より行くつもりだったが、切島の提案にそれだけではない気がしてきて嫌な予感がしてきた。
八百万の病室。
出久以外の全員で見舞いに行った。
峰田が暗い空気をなんとかしようと、ヤオモモと同じデカメロン、とメロンを持ち上げてセクハラぶっこいたので女性陣(特に耳郎)に処され危うく入院患者が増えそうになったのはおいておくとして、やはり皆の空気は重い。
昨日には意識を取り戻していた八百万の顔には涙の後が濃く残っていた。出久のことを聞いたのだろう。いやそれは八百万だけではない、麗日も葉隠も目が真っ赤なのだ、蛙吹とて昨日何もできなかったと電話で話したくらいなのだ。
「結局いつもあの人が背負ってばかりですわ」
初めて会った時からそうだったと八百万を言う。
クロビカリの付き人みたいなマネをさせられていた出久とパーティーで出会い、歳が同じだからと話してる内に親しくなり何度も助けてくれたと。いつも自分の体を張って。
八百万とて何もしていないわけではない、肝試し中にいち早く異常に気づきガスマスクを創り出し配ったからこその被害の少なさだ。
今回の件で無力を嘆こうにも余りにも敵が周到過ぎたのだ。
そしてさらにB組の生徒の協力の元、発信機を脳無に付けたと言った、それをオールマイトにも告げたとも。ヒーロー達も手がかりがない状態ではない。その事実に俺は少し安堵した。
だが、その情報を別の形で捉えた者もいた。
「なら俺らで助けよう」
そう切島が話を切り出した。
昨日も来ていた切島と轟は八百万とオールマイトのやり取りを聞いていて、その受信デバイスで自分達で助けにいこうと提案してきたのだ。
その言葉に激昂する飯田、兄の件で同じことをしでかしそうになったからこそ切島の身を案じ怒鳴りつける。
「んなもんわかってるよ!!
でもさァ!何っも出来なかったんだ!!
ダチが狙われてるって聞いてさァ!!
何っも出来なかった!! しなかった!!
ここで動けなきゃ俺ァ、ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ」
ブチリと何かがキレた音がした、それは俺の頭の血管かもしれない。反射的に殴ろうとしたが、
ドガっ
既に尾白が殴っていた。
「何だよソレ、何だよソレ!
何もできなかったって、それで男じゃなくなるって、そんなくだらない感情のために自分から危険に飛び込むのかよ!」
「くだらないだと!!」
「くだらないよ!!」
いつもは落ち着いている尾白がキレていた。
あの襲撃事件で尾白は見ていたのだ、切島以上に無力感に打ちのめされても役割を全うしたヒーローを。
「あの人が、タンクトップハッターさんがどんだけ苦しんだと思ったんだ!!
仲間を助けにいきたいのに涙を流しながらマタタビ荘を守っていたのを見てないのかよ!!
助けられたくせに、だから無事だったくせにそれを台無しにする気かよ!!
緑谷との付き合いだってずっとあの人達の方が長いんだぞ!!」
タンクトップハッター、彼の活躍が無ければ生徒達は安全に辿り着けたかも分からない。安全に辿り着くためにどれだけの葛藤があったのかは彼しかしらない。
でも尾白達は見ていたのだ、そんな彼の姿を。
自らの感情よりも守るべき存在、果たすべき役割を優先したヒーローの姿を。
それを知る者は同意する。
やるべきことを全うすることも大切で、今回自分達は動くべきではないと。
「でも緑谷はタンクトッパーだろ!
間に合わねえかもしれないじゃねえか!」
切島が出久の命に言及しようとして、
「やめてくれ切島、ヒーロー失格なのは承知だがソレを考えてしまえば俺はもう立てなくなる。友人のそうなる可能性なんてまだ耐えられる程強くないんだ」
障子と口田、そして女性陣は耐えられないとばかりに俯く。特に自分が捕まったからだと悔やむ耳郎と葉隠の心は耐えられない。出久がいつ殺されてもおかしくないなど。
生存は知っているが伝えられない。
ここで言ってしまえばどうなるか想像できてしまうからだ。
「まだ手は届くんだ」
切島が八百万にそう言って、その場は解散となった。
「八百万考えさせてくれっつってくれたけど、どうだろうな?」
「まあいくら逸っても結局あいつ次第」
「来た」
来ちまったか。
木陰で様子を見ていたがやはり来ちまったか、八百万に飯田。
耐えられなかったんだな、出久の死ぬ可能性に。
だから、
「行かせねえよ」
俺が止める。
「爆豪、お前」
賛同したのかと勘違いした切島は嬉しそうだが、轟は睨みつけてくる。
ああそうだ、お前らを行かせる気なんてねえ。
「なんでだ爆豪、お前は緑谷の一番の親友だろうが」
怒りを滲ませる轟の声に俺は返す。
「その親友の願いだ、お前らを頼むってな。
だから行かせねえよ、たとえ生涯恨まれようとな」
幼馴染の最後になるかもしれない頼み、応えないなら幼馴染なんかじゃない。
「爆豪、俺は!!」
「屈辱を飲み干せないで何が漢だ。
お前らを行かせない、ぶっ殺しても止めてやる」
納得いかなくても力尽くでも止める。
その覚悟はあるから、一生恨まれようとこいつらが死んでしまうよりずっとよいから。
「俺達もそうだよ」
帰った筈のクラスメート達は誰一人欠けることなく集まっていた。
切島達を止めるために。
「「「俺達はお前達を行かせない」」」
ルールではなく、恐れたからでもなく、ただクラスメートを死なせなくないから俺達は、示し合わせずにも集結していた。
それを前に切島は今度こそ項垂れて、彼らの行動を阻止できた。
(出久、約束は果たした。だからテメエも必ず戻って来やがれ)
捕まっている友の無事を祈り、切島達に声を掛けて泣きながら語り合う友人達を見ながら、俺は夜空を見上げた。