タンクトッパーイズク   作:規律式足

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第59話

  

 沈んでいく、沈んでいく、深い深い水底のような場所に墜ちてゆく。

 ズブリと黒いモヤに呑まれ、恐らくガスのようなモノを吸った僕は、意識を闇へと落としていった。

 さながらバング師匠のうっかりで崖から突き落とされた時のように、深く深く墜ちてゆく。

 しかし、何も見えない闇の中、輝く一つの光。

 あれはまさか、

 光に手を伸ばし掴みとる。

 そうこれは、これこそ、

 

『「タンクトップッ!」』

 

 

「うん、寝言までソレなのね君」

 

 マスク越しからも分かるドン引き感。所詮ヴィランにタンクトップの素晴らしさは理解できないようだ。

 

「いやなんか哀れまれてない俺?

 つうかこの子、状況分かってんの?

 凄くくだらないことで哀れまれたよね俺」

 

「気にするなコンプレス、タンクトッパーだぞ」

 

「それで済むからタンクトッパーは嫌なんだよ!

 なあ弔?今からでも遅くないから返してこないか?

 慰謝料としてタンクトップ十着も持たせれば許してくれるって」

 

「ふざけるな、二十着だ」

 

「「「許すのかよっ!!」」」

 

「僕個人の誘拐は訴え取り下げますけど?

 まあ雄英高校合宿襲撃については別ですが」

 

 落とし前つけないと許せないよね、皆の林間合宿の思い出を台無しにして、仲間を傷つけたわけだし。

 というかどんな状況?

 椅子に括り付けられてるけど、手枷足枷だけでタンクトップも脱がされてない。

 てっきり、

 

「てっきり怪しげな手術台に固定されて、

 やめろ○ョッカー!ぶっ飛ばすぞー!

 みたいな感じになるかと思っていたのに」

 

「脳みそ改造される前に助けてくれるヤツはいないぞ?」

 

「知っているんですね、というか網タイツな女構成員とか居ます?」

 

「ヴィランは働かないからヒマなんだよ。あとそんな規模じゃねーよ」

 

「それは残念、というか働きましょうよ」

 

「世の中働きたいヤツだけ働けばいいんだよ」

 

 スラスラと会話が続く。

 ヴィラン連合のリーダー死柄木弔、USJとショッピングモールと3回目の遭遇だが、存外話が合う。

 

「それで、林間合宿襲撃を成功した時点で目的達成したアナタ達が、一介の雄英高校一年生になんのようですか?」

 

 ラグドールはオールフォーワンの欲しいモノ。

 ヴィラン連合は雄英高校の信頼失墜による社交の混乱が目的。

 そしてドクターなる人物、脳無開発者がタンクトッパーを研究素材として欲しがった。

 ならば僕が、死柄木弔の前に拘束されているのはおかしいのだが。

 

「ずいぶん強気だけど、その実力あるしな。

 まあ、そうだな。単刀直入にいこう」

 

 死柄木弔は一度間をおいて、

 

「俺の仲間にならないか?」

 

 と、衝撃の言葉を発した。

 

「え?」

 

「えええーー!」

 

 コンプレスうるさい。というかさっきから一番反応しているけど、タンクトッパーとやりあったことでもあるのかな?

 

「はっきり言うけど、なんで?」

 

 正直誘うなら物間君(失礼)では?

 

「俺はUSJであのクロビカリとかいう化け物にやられてから無個性ヒーローについて調べた。先生は興味ないようだが、クロビカリ以外の無個性ヒーローについても知ったよ。それで思ったんだ、アイツらヒーローじゃないだろ?ってな」

 

 否定はしづらいな。

 マスターなんかも称号に関心ないし。

 他3名もそうだ。

 

「クロビカリはスポンサーの金持ち共のゴリ押し。

 豚神は危険生物扱い、

 タンクトップマスターは、ヒーローを撃退した実績から、

 番犬マンは、大衆からの圧力。

 まともな経緯じゃないよな?」

    

 そう、無個性ヒーローはマトモな扱いではない。

 ヒーローという名称はつけられてもヒーロービルボードチャートには乗らないし、公安から動向を監視されてもいる。

 現在の社会を壊しうる存在。

 それはまるで、

 

「ヴィランみたいな扱いだろ?

 本人達は周囲に無関心で、わざわざルールを破る気質じゃないから気にしてないがな」

 

 そう、所在の知られているヴィランのような扱いなのだ。無個性ヒーローもタンクトッパーも。

 

「だったらヴィランになろうぜ。

 ショッピングモールで噛み合わないと感じたのは敵としてだ。だってお前、ヒーローに興味ないだろ?」

 

 そんなことは、

 

「人を助けたい、手を差し伸べたいだけ、がお前だ。

 それをするには立場と環境が枷になっていると感じているだろ?こんな状況でなければもっと助けられるのではと考えているだろう?」

 

「ヴィランが人助けを許容するのか?」

 

「オイオイ勘違いするなよ」

 

 バッと死柄木弔は手を広げる。

 

「俺達は犯罪したいから集まってんじゃない。

 好きなことやってたら犯罪認定されただけ、

 やりたいことやれない今の社会に不満があるからぶっ壊そうとしているだけだ。

 だからさ、仲間が人助けをやりたいと言って否定するわけないだろ?

 好きなことをやろうぜ」

 

 ヤバいね。

 死柄木弔、コイツは。

 USJで絶対に仕留めておかなければいけない存在だった。成長してやがる、今この瞬間にも。

 コイツは間違いなく、オールフォーワンの後継にまで至ってしまう。

 仕留めるべきか、今ここで。

 

「まあ良く考えてくれ。

 ドクターとかいうヤツはうるせえが、俺にはお前を脳無になんかする気はない。  

 結構気が合うし、勧誘を諦める気がない。

 そうだな、午後から面白い番組が流れるみたいだからその時また話そう」

 

 するとマグネが椅子ごと僕を持ち上げて、別の部屋に運ぶようだ。

 

「世話に食事とかはマグネがあ~んしてくれるから楽しんでくれ」

 

「いやタンクトップ着てれば一週間は平気だけど」

 

 別にわざわざ用意されなくても、

 

「だから何なんだよタンクトッパー」

 

 またコンプレスが頭抱えてる。

 

「あのさ、死柄木弔」

 

 それでもこれだけは言っておこう。

 

「なんだ?」

 

「僕に手を差し伸べてくれたのは、タンクトップマスターというヒーローだった。

 だからいくら話があっても仲間にはならないよ」

 

「お前はコッチ側だよ、間違いなくな」

 

 その会話を最後に僕は別室に監禁された。

 世話焼きなのかあれこれやりたそうなマグネには下がってもらった。

 本当に仲間にしたいんだな。

 もっとイカれているかと思ったがそうでもない。

 けれどそれはお互いがオールマイトについて触れてないからだろう。

 ソレが会話の主軸だったらもっと拗れていたと思う。

 死柄木弔、彼の根底にはオールマイトに対する嫌悪がある、それが実体験によるものか、オールフォーワンに植え付けられたものかはわからないけど。

 まあそれでも、直ぐにドクターとやらに引き渡されて解剖されなかったのは幸いか。

 それについては死柄木弔に感謝しておこう。

 面白い番組、多分雄英高校の謝罪会見だろうな。

 マスコミは元から嫌いだから、また話が合うネタになりそうだよ。

 ヒーローに興味がなくて、人助けしたいだけか。

 否定はしないよ死柄木弔。 

 僕には世間や社会は煩わしく思える。

 でもさ、お前たちは僕の大切なみんなを傷つけた。

 そのことを大したことだと認識していない事実が。

 許せないんだ、どうしても。

 僕はお前たちを許さない。  

 お前たちが意外と話が合う、気の良い相手であったとしても。

 自由と渇望に目的も大事だ。

 けどね、情もまた同じくらい大切なのさ。

 ヴィラン連合、お前たちはそれを見落としている。

 だから共には歩まない。

 

 そうだ機会を窺おう。

 脱出ともう一つの機会を。

 そしてオールフォーワンを釣ることが出来たなら。

 己の全霊をもって打ち倒す。

 クラスメートの皆が、夢を憂い無く追いかけて生きていけるために。

 みんなが笑って過ごせるために。

 

 

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