緑谷少年、いつだか君は言っていたね。
自分は生きてる間にどれくらいの涙を止めれるのだろうかと、どれだけ悲劇を防げるのだろうかと。
ワンフォーオールに残された歴代達の記憶、その重みに耐えきれなくなった君の、数少ない弱音だったんだろうね。
だからね、私は言うんだ。
今この瞬間も、誰かのために戦う君は、自分が望んだ数だけ救えるだろうねって。
これから訪れるであろう私の未来を変えようとする心優しい少年よ。お願いだから今だけは見ていてほしい。
私が未来を変える瞬間を。
君との出会いが生み出した未来を。
私の歩みの集大成を。
雄英高校林間合宿のヴィラン連合による襲撃事件。
攫われた緑谷少年の救出及びヴィラン連合壊滅を目的とした作戦。
八百万少女の機転により判明した脳無保管拠点、警察の調査により判明したヴィラン連合の活動拠点。
両方を同時に突入し、連中をまとめて一掃する。
今まで好きにされていた我々の反撃の一手。
ここで全てを終わらせる。
集ったヒーローはまさに精鋭中の精鋭。
私オールマイトから、
ナンバー2ヒーロー エンデヴァー。
ナンバー3ヒーロー ホークス。
ナンバー4ヒーロー ベストジーニスト。
ナンバー5ヒーロー エッジショット。
という国内最強のヒーロー達に加え、
無個性ヒーローナンバー② 豚神。
無個性ヒーローナンバー③ タンクトップマスターまで参戦している。
「超合金クロビカリ先生はどうされた?」
エンデヴァーがそう問えば、塚内君は悔しそうに答える。彼もまた緑谷少年との付き合いから参加を希望したが、ヒーロー公安委員会のお偉方及びスポンサー達の護衛任務のため無理になったらしい。
敵にオールフォーワンが居る以上最強戦力であるクロビカリは手元に確保して置きたかったのだろう。
参戦する戦力の規模、そして実際にワープ個性で脳無を送り込まれる可能性を考えれば彼だけでも本部に控えておくことは判断として間違ってはいない。
不満に思うこと多々あれど、彼ら無くしてヒーロー社会は維持できないのは事実なのだ。
だが、現ヒーロー公安委員会会長もただ頷いたわけではない。彼女の尽力あればこそ最速の男ホークスと、豚神の参戦はなったのだ。そして脳無を一つの生命ではなく死体人形の兵器であると断定、人目を避ける必要こそあるが豚神による捕食の許可もだされた。
そう、誰もが本気なのだ。
ヒーロー社会崩壊の切っ掛けにもなり得るこの事件、総力をもって解決にあたる。
「タンクトップマスター、君は大丈夫か?」
その表情は感情が抜け落ちたかのように無表情。
だが私には分かる、同じ怒りを抱く私には彼の煮詰まりきったマグマのような怒りが。
「怒りに呑まれはしない、だが、だが!!
出久を取り返し、世話になった舎弟たちの礼をしてやろう」
タンクトップに誓って。
そうタンクトップマスターは宣言した。
他にもギャグオルカにマウントレディ、シンリンカムイやタンクトップ事務所のメンバーも集結している。
「人数が多くないか?」
誰かが呟くが、林間合宿でやられた増殖脳無に対しても人手がいる。
個人で脳無と相対できるヒーローが数多く在籍するタンクトップ事務所は戦力としてうってつけだったのだ。さらに今回の件、仲間をやられ攫われた彼らの怒りも凄まじいものだからだ。
「俊典俺なんぞまで駆り出すのはやはり、」
「なんぞではありませんよグラントリノ。
ここまで大きく展開する事態、奴も必ず動きます」
「オール・フォー・ワン」
「ええ、今日こそ決着の時です」
彼、とも連絡をとった。
全てを終わらせるのだ。
いよいよ作戦開始間近、雄英高校謝罪会見はヴィラン連合に対するブラフと作戦開始の合図だ。
私はもってきたアタッシュケースから友から託された個性増幅装置を取り出して装着する。
そしてメリッサから渡された改良版フルガントレットを腕に纏わせる。
デイブ、メリッサ、君達との約束は必ず果たす。
緑谷少年を助け出し、共に君達の元へと帰る。
だから待っていてほしい。
エッジショットのノックとピザの宅配を装うのと同時に壁を打ち砕くはずが、その直前の怖気の走る凶悪な気配と衝撃音に一時中断してしまう。
中で何が?
窺おうとすると、「タンクトップスカイアッパー!」
と言う叫び声が、天井をぶち抜いて吹き飛ぶ人影と共に聞こえてきた。
「アレは?緑谷少年!?」
お師匠の個性で人影を追いかけながら空中で黒鞭を振り回し追撃を加えている。
だが人影は複数の個性を用いてそれを捌く。
あんな芸当ができる存在は。
この世で唯一人。
闇の帝王、オールフォーワン。
緑谷少年、君はそんな奴と戦うのか。
その歳で、その巨悪に。
私の代わりに戦おうというのか!!
「はは、いやぁ私の手駒以外で複数の個性を使う存在なんてね。しかも君は使いこなしている」
「歴代達と師匠、そしてタンクトップのおかげだ。
奪うばかりの貴様と同じにするな」
「その力の大元が誰なのか知らないと言わせないよ、あとタンクトップって何だい?」
「阿呆が、これは貴様の力なんかじゃない。
貴様という悪に抗い、立ち向かって紡いできたヒーロー達の力だ!! そしてタンクトップの持つ無限の可能性だ!!」
「つまり僕の与えたモノじゃないか!!
というかただの衣類にそんな力があるかっ!!」
「だからお前はAFOなのだ!!」
神野区上空にて、拳打に個性と叫びが轟く。
ヴィラン連合アジト内には既に誰もいない。
オールフォーワンが個性で逃したのだろう。
手の空いたヒーロー達と警察は神野区の住人の避難を開始していた。
ベストジーニスト達の向かって行った、脳無保管拠点は無事制圧を完了したと連絡がきた。
「俊典、アイツは強えな。
俺らのだらしなさが強くしちまったんだな」
「グラントリノ」
「最強の後継者なんだろうよ、でもな若えのが生き急ぎ過ぎなんだよ」
「これからです、まだこれからなんです。
私達が彼に緑谷少年に教えてあげるのですよ。
グラントリノ」
「そうだな」
「『空気を押し出す』+『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3 この組み合わせは楽しいな、増強系をもう少し足すか。いくら拳法と黒鞭で捌こうと広範囲の衝撃は流せないみたいだね。緑谷出久」
その衝撃により、上空にいた緑谷少年は地面に叩きつけられ既に避難済みの町に大きなクレーターを生む。
「緑谷少年!!」
急いで彼の元へ、間に合え!
「君は強かったよ、緑谷出久。
林間合宿襲撃時の疲労、その後に吸わされた筋弛緩剤を多く含んだガス、とても戦える状態じゃないのに良くやった。そのまま育てば間違いなくオールマイトを超える僕達の障害になるだろう。
だからこそ、此処でワンフォーオールを回収し君を殺そう」
複数の個性を同時に発動し、巨大になった右腕を振り上げる。
「オールマイトの時のような失敗を繰り返すつもりはないんでね」
「緑谷少年!!」
「ああ居たのかオールマイト、ならば見ていたまえ。
師匠に続いて今度は君の後継者だ」
手を伸ばしても届かない、緑谷少年も睨みつけているが体は動かないようだ。
このままだと彼が、
グラントリノに間に合わない距離で最悪の瞬間が訪れようとしたその時。
オールフォーワンの巨腕は逞しい腕に止めらた。
「貴様今何をしようとした?」
その声は怒りに震えている。
「俺の大事な舎弟に何をしようとしてやがるっ!!」
タンクトップパンチ。
タンクトップの動きやすさから放たれる、彼らタンクトッパーの代名詞のような技。
だが今その技を放つは最強のタンクトッパー。
怒りの彼が放つそれはまさしく次元が違った。
ただの一撃。それがオールフォーワンの巨腕を半ばほどまで消し飛ばした。
「これは、誰よりも仲間思いなタンクトップラビットの分」
タンクトップアッパー、その一撃で既に罅の入っていたマスクが消し飛び。
「これは、兄貴分のためなら死地にも飛び込む勇敢なタンクトップジャングルの分」
タンクトップキック、その一振りは防ごうとした巨腕の残骸をちぎり飛ばす。
「これは、己の無力さに嘆き苦しみながらも役目を全うした心優しいタンクトップハッターの分!」
タンクトップクロー、広げられた掌はオールフォーワンの苦し紛れの反撃ごと残った左腕を刈り取る。
「これは、誰かに手を差し伸べるために己を磨き上げ鍛えてきた俺の最初の舎弟である出久の分!!」
タンクトップラッシュ、弾幕どころではない拳の連打が津波のごとくオールフォーワンを砕き飲み込み押し流す。
「そしてこれがぁ!大事な、大事な! 大事な!!舎弟達を傷つけられた、俺の分だぁっ!!」
タンクトップタックル、彼の代名詞とも言える必殺技は、ボロ雑巾のようやオールフォーワンに最後の一撃となった。
かに思えた。
崩れ落ちたオールフォーワンの肉体は逆再生するように元の姿に戻っていった。
「『復活』。一度しか使えない一度死なねば発動しない不便な個性だが、役にはたったね。まあ復活でも今日の分までしか治らないみたいで完全復活ではないけどね」
「そうか、なら何度でも叩き潰してやろう」
「どんな戯言だと思っていたが、厄介な存在だね無個性ヒーロー」
「俺如きで知った気になるな、無個性ヒーローとして同じ扱いをされることに抵抗があるほどに、他の三者は怪物だぞ」
言うや否やオールフォーワンに飛びかかろうとするタンクトップマスターに私は声をかけた。
「ここからは任せてもらえないかな?」
「オールマイト」
「タンクトップマスター、君は緑谷少年を頼んだ」
私の決意を感じ取ったのか彼は頷いてくれた。
「ケリをつけてこい」
私の肩に手をおいて彼はそう言ってくれた。
「ああ、そのために、決着をつけるために私は来た」
「全く想定外のことばかりだ。
珍しい個性かと思ったらワンフォーオールだし、
9代目継承者はあまりにも強すぎるし、
取るに足らないと思っていた無個性ヒーローは化け物だった。
けどまあ、君が戦う気なら受けて立つよ」
復活したオールフォーワンと私の拳がぶつかり合う。
「何せ僕はお前が憎い。
かつてその拳で僕の仲間を次々と潰して回り、
お前は平和の象徴と謳われた。
僕らの犠牲の上に立つその景色、
さぞや良い眺めだろう?」
一度緑谷少年を地に落とした衝撃を、デトロイトスマッシュで強引に打ち消す。
「心置きなく戦わせないよ、ヒーローは多いよな。
守るものが」
「黙れ、貴様はそうやって人を弄ぶ!
壊し!奪い!つけ入り支配する!
日々暮らす方々を!理不尽が嘲り嗤う!
私はそれが!許せない!」
ヤツの腕を握り潰し、顔面をぶち抜く。
「想定外だ、そろそろ綻ぶかと思ったら。
随分と余裕があるねオールマイト」
そうしてもまだ、巨悪は揺るがない。
余裕があるかのように嗤った。