そんなこんなで早1週間。
プレゼント・マイクこと山田ひざしと猩々バブルスのお見合い当日。
「やっぱり厳重な警備だね」
小型のスコープを覗きながら出久は言う。
場所はお見合い会場である富豪御用達の高級料亭を一望できる廃ビルの一室。
ガラスの割れた窓から外から気づかれないように身を潜め、サーモグラフィー対策として断熱シートを被っている。
「ゴリラSP、武装ゴリラ、拳銃持ちゴリラに警棒持ちゴリラ、あとは鎖に繋がれた小型トロルコングに観音ゴリラまでいるよ」
「個性ゴリラの人達なんだよな?変なの混じってなかったか今?」
世界有数の動物系個性集団らしいが、偏りというか個性では無理ある存在みたいなんだが。
「そうらしいけど、調教されたゴリラとかでも違和感ないよね?ゴリラばかりだし」
俺も自分の目で確認するが、とられている陣形は隙がなく警備員達も実力者ぞろい、強引に突破したり助け出すという案はとれないな、いや最初からやる気ないけどなその案は特に。これがクラスメートの誰かや知り合いなら別だけど正直プレゼントマイク先生はそこまで親しくない存在だ。ヒーローなんだし自分でなんとかしろよという気持ちもあるくらいだ。
「そんで何か策はあるのか?」
素直に頭を下げて断るのが正解だと思うが。向こうも嫌々な態度の結婚生活は嫌だろうしな。
自分では思いつかないし、この状況下でできることもない。出久が楽器のようなケースを持ち込んでいるから何かしらの策はあるのだろう。
「とりあえず相手であるバブルスさんに嫌われることだね、会話中にアドバイスして嫌われるように仕向ける。そのためマイク先生には小型通信機を渡してある」
なるほどどうしてお見合いになったか不明だが、人間関係なんて一言で破綻することもあるからな。
「まあ百さんの話だと、マイク先生の髪型がバナナみたいで美味しそうだから一目惚れしたから難しいけど」
「そんな理由かよ! 頭を爆破して頭髪死滅させたら解決だったろ!」
きっかけがそれって本当に個性ゴリラなんだよな?
「そして最終手段がコレ。勝己持ってて」
出久から投げ渡された小型スイッチのようなモノを受け止める、なんだコレは?
「発目さんに頼んだ発明品。それを押せば予め仕込みがされた礼服が通信機から発せられる音波で爆散する。
突然全裸になればお見合いは台無しだ」
「人生も台無しだからな。そしてそんなモン投げ渡すなや」
俺がキャッチしそこねてスイッチを押されたらどうするつもりだ。移動中にマイク先生が突然全裸になるトコだったじゃねえか。
「そして本命の案は、出来ればやりたくないかな?」
「会話で嫌われるのと、突然全裸しかねーのかよ」
案を出さないヤツが言って良いセリフじゃねーが、他にないのか。いやマイク先生が既婚者か恋人いたら解決したけど頼まれたミッドナイト先生はむしろバブルスさんの味方だったし。
「さあお見合いの開始だね」
「しかし高級料亭の間取りなんてよく調べられたな?」
ふと気になったことを尋ねれば、
「百さんに頼んで一緒に食事に行ったからね。間取りは正確に把握したよ」
それはそれで後で拗れそうな問題だな。どうりで少し前の八百万の顔が真っ赤だったわけだよ。
そして始まるお見合い。
お互いに家族(ゴリラ)と責任者(ネズミ)を引き連れてテーブルに向かい合うように座る。マイク先生のご家族は適当言って断って貰ったそうだ。ぶっ壊す予定のお見合いだしな。
向かい合って座ると根津校長が二人(?)を紹介して話が始まる。
『ウホ』
『えっと、ウホ?』
通信機が音声拾ったから会話(?)内容を拾ったのだが、バブルスさんはウホ言い、マイク先生もそれに合わせて適当にウホと返した。いやあの人個性ゴリラの現代人なんだよな?なんで会話が標準語じゃないんだよ。
「勝己、もう帰ろう。マイク先生も嫌がってたけどノリ気だったみたいだし」
「通訳できんのかお前。そしてなんて言っちまったマイク先生」
「猩々語は猩々家のローカル言語だしね分からなくても仕方ないよ。
マイク先生は、「良いメスだな、子供は何人欲しいかい?ベイビー」って言ってたよ」
「いや適当に言っただけだと思うぞ。そして出合い頭の一言がソレで破談にならないのか?」
「横で聞いてた根津校長もマジかコイツって顔してるしね。通じるんだから標準語で話せば良いのに。
ちなみにバブルスさんはめっちゃ照れてるし、ご両親は良いオスだと喜んでいるよ」
「あの人達って個性ゴリラじゃなくて、別の惑星からきた別の文化の宇宙人じゃね?
そして理解できてるのか根津校長、無駄にハイスペックだよ」
しばしそんな様子で会話する二人だが、話せば話すほど猩々家ご両親は狂喜乱舞でバブルスさんは顔を真っ赤にして照れて根津校長は頭を抱えている。マイク先生はウホと適当に言うたびに墓穴を掘りまくっているみたいだ、いや通信機で止めてやれよ。
それが続いた後、状況の悪化に気づいたマイク先生がトイレ休憩を申し出て作戦タイムとなる。ちなみにこの時点で会話から嫌われるのは諦めた。通訳の出久から聞いた内容(かなりセクハラ)でも嫌われないなら無理だろう。
『どうしたら良い?いや無理は承知だけどめっちゃ盛り上がってるんだよ!』
『もう猩々家の婿にならないとヤバい発言してますよマイク先生』
『俺なんて言ったの?!適当に合わせてウホウホ言っただけだよ!!』
すると出久は考えこむ、なお今服を爆散しても責任を取る的な態度に取られるから無意味らしい。案があっさり潰れているじゃねえか。
『分かりました、案を実行します。これが駄目なら諦めてください』
『この際仕方ない、やってくれ』
『では、僕が合図をしたら窓際に立って窓を開けてください』
『それだけか?』
『ハイ』
『分かった、そうしよう』
そこで通信は終わり、出久は楽器ケースからロングバレルのスナイパーライフルを取り出し手順どおりに組み立てだした。
「何してんのお前?」
「ねえ勝己?お見合い中に自分が狙撃されたらさ。
お見合いなんて終わるよね」
その前に人生が終わるわ。
だから窓際なのかなるほど。
いや落ち着いてる場合じゃねえ、流石にそれはマズイだろ。
「大丈夫、コレは玩具のガスガンで玉はゴム弾だよ」
ちゃきりと窓枠に銃身を預け構える出久。
「あのなゴム弾は非殺傷設定のデバイスじゃないからな?」
この距離で当たる威力のゴム弾なんて頑丈のヒーローでも頭が吹っ飛ぶわ。
「これしかないんだ、これしか、これしか」
ブツブツと呟き出久は今更気づいたが正気じゃない、目元にはでかいクマが出来てるし表情は虚ろで青白い。そしてなによりコイツ今タンクトップを着ていない。
猩々家相手にトラブル起こす現実にヤバいくらいのストレスを抱えていたみたいだな。
「出久、やっぱり辞めようぜ。こんなことしてもよくねえよ」
話の規模がデカすぎて現実味を持てなかった俺と違って、コイツは現実を直視した上でなんとかしようとしている。けどこれはマイク先生がなんとかしないといけない問題なんだ。
幼馴染のあんまりな姿に止めようと声をかけたら、
「あっ」
バスっと乾いた音が響いた。
「あっ」
顔を上げた出久がそのまま引き金を引いていて、合図どおりにしたマイク先生を吹っ飛ばしていた。
「帰るか?」
「うん」
後で謝ろう本気で。
まあナントカするとは言ったが、解決するとは確約しなかったし。
介抱されるマイク先生だがおでこにでかいタンコブが出来ていて呼吸は正常。
発目製のガススナイパーガンとゴム弾は意識のみをきちんと刈り取ってくれたようだ。
これ護身用に良いかもなと現実逃避しながら帰路についた。
今回のオチ。
マイク先生は四年後、バブルスさんが高校を卒業したら結婚するそうだ。
なんでも献身的な介抱にときめいたとか。
あと俺等は不問になった。
猩々家では、お見合いの席で死んだ振りをして相手の本気を確かめるという作法があるらしい。いや本当宇宙人じゃないかってくらい文化違くない?助かったけど。
ストレスで疲れ切った出久は女性陣とタンクトップのおかげでなんとか治った。相談されてから1週間一切眠れなかったらしい。
とりあえず全て丸く収まって無事解決した。
それで良しとしよう。