俺は夢の中を生きている。
俺に手を差し伸べてくれた恩人。
その人が叶えた夢に。
どこにでもある繁華街から外れた小さな商店街。
住民全てが顔見知りみたいな下町。
祀られたモノも誰もに知らないだろう細やかな社。
そこで開かれるタカマチ。
規模は小さいが子供達のはしゃいだ声と地域の皆さんの笑顔が溢れる祭り。
そこを俺は歩く。
かつて俺がそうされたように。
あの人がしてくれたように、俺はエリの手を引いて祭りを眺めながら、組員達の働きぶりを見ながら、時折エリがせがむものを買ってやって、俺は歩く。
親父もこうしてくれたんだ。
エリとは違い興味を示さない俺にアレコレ説明してくれながら。あの射的のやり方、あの金魚すくいのコツ、旨いたこ焼きに焼きそば、自分の宝物を自慢するかのように親父は教えてくれたんだ。
エリが繋いだ手を引っ張る、また何か食べたいのだろうか?アレコレ食べたがる小さな子供向けに、小さなサイズを用意させたが成功はしているな。まあ食べきれてないのに親御さんに新しいものを強請る子供達もソレを叱る親御さんの姿も祭りらしいが。
見ればそこはお面屋、ズラリと並んだお面はオールマイトと話題のトップヒーロー達が中心だ。アニメのキャラクターも僅かに取り扱っているがもう少数だ。まあ売れるからとオールマイトばかりなのは視覚的によろしくないと思うが、売れるしなあ。稼業の方針に悩んでいるがエリは何が欲しいのだろうか?オールマイトかエンデヴァーかそれともミルコか?女の子だし。
しかしエリはフルフルと首を振り、お兄ちゃん達が付けているのは無いの?と聞いてきた。
ああ今はプライベートだから付けていないが、普段俺や八斎衆が付けているペストマスクとかか。
しかしアレらは骨董屋から見本を買って個性で自作したやつだからな(清潔度が気になるから)、まさかエリが欲しがるとは。
すまない売ってないんだと謝って今度用意しておくと約束する(お面担当の顔が引き攣っていたが)、するとエリはワガママを言ったと思ったのか顔を伏せるが、俺はその頭をくしゃくしゃと撫でてやり、それが新しいシノギに繋がるから気にするなと告げる(お面担当がマジで売るんスかと驚愕していたが)
結局エリはブサイク大総統のお面を選んで(魔除け効果とホラーマスクみたいだから何気に人気)帽子のようにずらして被りながら、俺の手を引っ張った。
浴衣に下駄、右手にりんご飴と頭にブサイク大総統のお面。
とりあえず今の姿をカメラにおさめて広告に使うか幹部会で検討しよう。
そろそろ神輿ですよと何故か疲れ切ったお面担当が言う、もうそんな時間か。次はそこにしよう。
引っ張るエリに神輿を見に行こうと伝えて賑わう人の中に戻った。
八斎衆の腕力担当がマスク付けたまま祭り法被と捻じり鉢巻つけて一人で神輿を担いでいるんだが。
確認のため他の連中を睨みつけたらあの馬鹿の暴走らしい。だがお客様は盛り上がってエリも凄い凄いと喜んでいるから注意で済ますべきか。神輿は子供含めた皆で担ぐから意味があるんだがな、途中までにさせて皆で担がせないと。
神輿でいっそう盛り上がったあとは見晴らし良い所に移動だ。親父が教えてくれた絶好のスポットへ。
薄暗い中辿りついた見晴らしの良い場所で、エリに空を見るよう促す。
そうしたら夜空に花が咲いた。
ボンッとした音と共に咲き誇る一瞬だけの火の花が。
初めての花火に声も上げれず呆然と見惚れるエリ。
祭りの華たる花火。
これが無ければ締まらない。
綺麗、とポツリと溢れた言葉。
それを聞けただけで祭りに連れてきた甲斐はあったかな。
指定敵団体であった死穢八斎會は既にない。
ヤクザとしての看板は親父の決断で下ろした。
現在はテキヤを主体としたイベント興行会社へと転身し活動している。
別に偽装や隠れ蓑というわけじゃない。
死穢八斎會はヤクザ稼業から足を洗った。
疑り深いヒーローや手柄の欲しいヒーローからは未だに睨まれているが、そこは地域の皆さんが庇ってくれている。
とある事情や自衛のためプロヒーローに勝る戦力は保持しているが、戦闘能力の高い組員は別の懇意のある団体に移籍している。
今じゃ戦力になるのは俺と親父に八斎衆くらいだ。
けれど後悔はない。
俺は親父の望んだ生き方をしているから。
こうなった経緯はまたいずれ思い返すのだろうな。