タンクトッパーイズク   作:規律式足

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閑話 タンクトップラビット視点

 

「此処に来るのも久しぶりだな」

 

 旧死穢八斎會本部。

 趣きある武家屋敷のような豪邸を前に俺は気を引き締める。なにせ呼び出してきた相手は極道に片脚突っ込んだなら知らぬ者はいない人物、伝説の大侠客である死穢八斎會の最後の組長、個人的にも盃こそ交わしてはいないが世話になったことのある恩人だ。死穢八斎會の看板を降ろした時以来だからもう数年になるか。

 

「用事があるらしいが、やっぱりオールフォーワンの件だよな」

 

 闇の帝王オールフォーワン、その再びの敗北と捕縛は世界を震撼させた、それは裏稼業も同じことであり足を洗った死穢八斎會とて無視は出来ないことだろう。

 まさかあの闇の帝王の一件に自分のような元喧嘩屋がガッツリ絡むことになるとは思いもしなかったが、死穢八斎會としても直接話を聞きたいのだろう。前回のタカマチの時に聞いてくれればよかったのだが。

 まあつい考え込んでしまったが、あまり門の前に居ても仕方ない、未だに死穢八斎會を警戒してるヒーロー連中もいるらしいしさっさと入ってしまおう。

 呼び鈴を鳴らすとすぐに応対されて中に入る、門をくぐればソースやら醤油やらの焼けた香ばしい匂いが漂っていた。匂いの元を見ればそこには開けた庭に屋台を並べ練習している組員(今は社員だが)に小学生や中学生ぐらいのガキ共、極道から足を洗ったとはいえ行き場のないガキ共に居場所を与えるのは辞めてないらしい。かつて自分もこんな感じに世話になったな、と懐かしく思う。喧嘩屋ですら無かったチンピラの自分に、屋台を手伝わせるだけで寝場所もメシもくれたものだ。

 

「わー、ウサギさんだあ」

 

 組員(社員)に案内されていると、すれ違った幼女がそんなことを言ってきた。ふっ、滲み出る愛らしさは純真な子供には伝わるものだな。

 

「ウサちゃんだピョーン」

 

 ならばサービスするしかあるまい。

 いやなんで吐きそうになっているのかね案内君、カワイイウサちゃんだピョン。

 

「わぁー!」

 

 ホレ幼女は目をキラキラ輝かせて喜んでいるじゃないか。

 

「お嬢、アレはウサちゃんじゃありませんから。

 一緒にしたら訴訟レベルの悍ましいナニカですから、こっちの部屋できちんとした動物図鑑を見ましょう?

 なんでグロ耐性高いんだろこの娘?血筋?」

 

 幼女とウサちゃんという心温まるワンシーンを面倒を見ている組員(社員)は引き剥がし別室へと連れていった。無論手を振って見送ったがな。

 

「行きましょう、先代がお待ちです」

 

 というか案内君はウサギアレルギーなのか?

 可愛らしいウサちゃんで吐きそうになるなんて。

 

 

 長い廊下を抜けた奥の和室に通される。

 そこには年経てなお眼光鋭い一人の侠客がいた。

 

「久しぶりだな兎吉、いやタンクトップラビットと呼んだ方が良いか?今回はよく来てくれた」

 

 向き合うように座るがこの人の前だと自然と身を引き締めてしまうな。

 侠としての格が自然とそうさせるのだろう。

 

「剣鬼の旦那に呼び出されて断る俠はいやしませんよ。あと兎吉で構いませんぜ」

 

「ふん、剣鬼とはまた懐かしい呼び名だ。

 俺如きにゃ過ぎた名だよ。オールフォーワンと殺り合ってたあの時代、親父も兄貴も兄弟も皆俺よか強く立派な侠だった、俺はただ生き残っただけだよ」

 

 もはや知る者も少ない伝説となってしまった裏社会での血戦。オールフォーワンの支配に抗い戦い続け散ってしまった侠達。死穢八斎會の元組長、剣鬼と謳われた眼の前の御人はその生き証人なのだ。

 そもそもあの魔王ムーブをしたいから闇の帝王をしていたオールフォーワンと裏社会の極道などの組織は敵対していた。なにせあの魔王様は、自身の個性アピールのために極道をまず標的にしたのだ。個性を扱えることで暴力を振るえるようになった連中には、暴力集団である極道を打ち倒すのはさぞ楽しかっただろう。

 さらに治安が乱れることも極道達は歓迎していなかった。暴力集団である極道が特別であるには表社会が平穏であることが絶対条件。どこぞのテロリスト集団のように個性に序列つけることによる支配なんて、極道達は願い下げだったのだ。

 表社会では生きていけない者達の生きる場所、社会におけるセーフティを担う立場、それが極道の側面でもあったのだ。

 何より、タカマチに裏カジノなどのシノギは金銭取引が成り立ち社会でなければ意味がないのだ。

 そこに強個性を求めたオールフォーワンによる身内や仲間の拉致が行われれば、敵対するのは当たり前のことだった。

 だがしかしあの闇の帝王の前には奮戦虚しく犠牲者が出るばかりで、結果としてオールマイトが相打ちに等しい形で勝利するまでの時間稼ぎしかできなかったのだ。

 

「しかしオールマイトが野郎を打ち倒すことができたのは、野郎の信者共を極道が打ち払ったからでしょう。いくらオールマイトが飛び抜けたヒーローだからと言って信者全ての撃退は無理でしたし」

 

「まあな」

 

 所詮は捨て駒、だが数の暴力は馬鹿にできるものではない。その捨て駒共を極道達は少なくない数減らしていたのだ。

 ヒーローと手を結んでいたわけではない、けれど同じ敵と戦う存在として知らない内に協力していたのだ。

 

「ところで先程幼い娘さんにお会いしましたが、お孫さんで?」

 

「ああそうだ、名前は笑理という。

 案の定訳ありな孫娘だよ」

 

 先代の言葉を考えるに個性暴走か何かが過去にあったのだろう。国でもそういった子供の保護はしているが、強力や有益な個性持ちは良いように利用されることもあるため、あまり良い環境ではないからな。

 若頭であった治崎も本人が周囲を嫌悪してなければそうなっていただろうし。

 

「旧交を暖めたいトコだが本題に入るとしよう」

  

 パサリと広げられたのは幾つかの書類。

 

「コイツをお前の伝手で公安に渡してくれ」

 

 ざっと眺めると行方不明者のリストに、とある地域の人の出入りをまとめたもの。

 

「こいつは?」

 

「脳無の素体の可能性がある裏社会の住人に、異能解放軍と関連してる連中の行き先だ」

 

 足を洗ったのによく調べられたものだ。

 いや足を洗ったからこそ、自衛のため情報収集は欠かせないのか。

 

「気を抜くなよヒーロー。いくらオールフォーワンが捕らえられてもその手足に、騒動起こしかねない連中はまだいるぞ」

    

 先代は威圧しながらそう告げた。

 

 

 

 

「なんで看板降ろしたんですか先代?」

 

 要件が終わってから俺と先代は縁側にて月を肴に盃を傾けていた。

 満月を見ていると餅をつきたくなるのはウサギでいる我が身故か。

 酒の満ちる盃に満月を映しながら先代は思い返すように語りだす。

 

「まずは息子が治崎が極道の復権のため焦っていたからだな、笑理を使ったエゲツない企みもあったようだが無個性ヒーローの存在で理念が揺らいで素直に相談してきたんだ」

 

 一息で盃を飲み干す先代。

 そこには苦悶の表情が見て取れた。

 

「恩返しなんざ、テメエが居てくれるだけで充分なんだよ馬鹿息子が」 

 

 一時期の治崎の暴走も先代を思えばこそか。

 盃に酒を注ぎながら、言葉を待つ。

 

「あとは世間から極道がいらないって扱いだったのもあるな、世知辛い話だか所詮日陰者だしな」

 

 オールフォーワンとの戦い、少なからず活躍してなお国は極道の排除を決めたからな。まあ地域住人は助けられたと知っているから好意的なんだろうが。

 

「治崎に笑理、他のガキ共のことを考えたら足を洗うべきだとは考えていたんだよ。オールフォーワンとの戦いを考えて戦力は保持したかったが、お前の伝手で八百万グループの警備会社に移せたしな」

 

 結局死穢八斎會という形に拘っていた理由はオールフォーワンを警戒してのことだったのだ。  

 オールマイトと相打ちしようとも、そんなことで警戒を解ける存在ではないのだから。

 現在タンクトップ事務所の伝手で八百万グループの警備会社に努めている彼らとて先代の呼びかけには必ず集まるだろうし。 

 

「しかしそれで何代も続いた看板をそう簡単に下ろすなんて」

 

「簡単じゃねえよ。

 でもな、ガキ共の未来と受け継いできた看板じゃどちらが大切か明白だったんだよ。息子の治崎には商才もあったから生活にも困らなかったしな。

 何よりもな、自分にとって一番大切なモンを見誤ることほど無残なモンはねえのさ、それにな」

 

 寂しくないとは思ってないだろう。

 それでも貫きたい信念が先代にはあったのだ。

 

「俺達極道は社会に必要だから生まれたんだ。

 必要なくなったら、看板下ろすのが当然だ」

 

 必要になったらまた生まれるだろう、と続ける。

 行き場のない者達の行き着く場所。

 真っ当とは言い難くとも、それは必要な場所なのだから。

 そんな場所に救われた自分は、先代の言葉に同意しながら盃を傾けた。

 平穏な社会で再びタカマチを開くという夢を叶えた侠と共に。

 

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