風梨と申します。
よろしくお願いします。
そして。
冒涜的な情報量に圧し潰されて、彼女の魂は即死した。
──全ては『スリザリンの野望』のために。
魔法族。
その言葉を聞いて、真っ先に連想することは何だろうか。
私はこう思う。
それは、きっと、ハリー・ポッターの物語だって。
「──リリー! ほら、早く支度なさい! ホグワーツ入学まで、もう時間がないのよ!? 早くキングスクロス駅まで行かなきゃ! 荷物はもうまとめたの!?」
『ドタバタ』とお化粧して荷物を抱えたママが走り寄ってきて、私は苦笑いしながら自分の部屋からここまで引きずってきたカバンを指差した。
荷物の準備なんて、昨日の時点でもう出来てる。
「ママ、大丈夫。昨日のうちに纏めたって。心配性だなー、私はもう行けるよ。ママこそ準備は出来てるの?」
少し間を空けて、私の言葉を理解したママが口に手を当てながら『ほほほ』と笑った。
まぁ私の普段の行いを考えたらしょうがないんだけどさ。
ちょっとだけイラっとしてママを見つめる私に気がついたのか、少し眉を下げて語気を緩めながらママは続けた。
「あら、ごめんなさいね。あなたのことだから、また研究だーとか言って忘れてるかと思って。それならいいわ、早速いきましょう! ──あなたの通う学校。ホグワーツへ」
そう。
私は魔法族。
今年で11歳で、通う学校はホグワーツだ。
ちなみに同学年にハリー・ポッターが居る事は、年齢を計算して分かっている。
前世で普通のOLをやっていた私は、気がつけばこの世界に生まれ落ちていた。
魔法族に生まれたと知ってから、そして何故か『パーセルタング』が生来的に使えると判明してから、私の目標はたった一つだ。
『秘密の部屋』のバジリスクと友達になる事!
物語の流れを考えれば、バジリスクが死ぬ必要なんて何処にもない。
グリフィンドールの剣のあれこれはあるけど、そんなことのためにバジリスクを見殺しにしたくはない。
だから、その辺りもなんとかしようとも思ってる。
それならいいよね?
だって、せっかくこんな世界に生まれたんだし、好きなキャラクターには会いたいし、生き残らせてあげたい。
だ・け・ど!
ハリーとも仲良くしたいし、ちょっと悩みどころだよね〜。
『秘密の部屋』を開ける事でダンブルドアに目をつけられたら面倒臭そうだし。
だって、ここがハリー・ポッターの世界っていうなら、色んなイケメンが居るわけだし。
もしかしたらハリーと付き合っちゃったり、とか。
そんな妄想もしたりしちゃってる。
女子高生の頃に戻ったみたいに『きゃあきゃあ』言ったりしたけど、自由にしたっていいじゃない。
想像は自由でしょ?
なんたって、私の今世の美貌はちょっと信じられないくらい整ってる。
我ながら天使じゃないかって思うくらいだもの。
イケメンの一人や二人くらい、楽勝だと思う。
ママと連れ立って歩きながら、私はそんな過去の妄想を思い出してニマニマが抑えられなかった。
私の物語は、ここから始まるんだ!
ハリー、ロン、ハーマイオニー。まだ見ぬ原作キャラたち!
待っててね、私が今行くよ!
──リリアンナ・ゴールドウィン。
愛称をリリーと呼ばれるその少女は知らない。
その脆弱な精神では、到底勝ち得ない強大な人物が彼女を待ち受けている事など、知る由もなかった。
微かな、しかし確かなスリザリンの血は、奈落へと彼女を引き込んでゆく。
誰にも知られぬ、地下の『秘密の部屋』へと誘ってゆく。
回避は出来た。
少し頭を使えば理解できたはずだった。
だがしかし、結末は決まっている。
他でもない、彼女の唾棄すべき脆弱な意思と思考によって、その結末は決まっている。
リリアンナは予定通りにハリー、ロンが座るコンパートメントに滑り込んでいた。
ハリーは思った通り女性に対する免疫など皆無で、ロンもまた同様だった。
美しい黒髪に灰色の瞳。
自他共に認めるほど(一部は彼女を毛嫌いしながらも認めるしかないほど)優れた容姿を持っているリリアンナの言葉や仕草の一つ一つに、ハリーもロンも照れたり、喜んだり、少年らしい青春を謳歌していた。
リリアンナもそれを当然のように受け入れており、自分の意思一つで、夢にまで見た人物たちを一喜一憂させる事に喜びを見出していた。
ハーマイオニーとの会話は思った通りには行かなかった。
彼女は非常に一方的な言葉しか話さないし、何より整った顔立ちのリリアンナに対しての当たりは必要以上に厳しかった。
それは嫉妬というよりも、彼女の今までの経験上から、同年代の顔立ちの整った女の子から受けた仕打ちを思えば当然の防衛反応で、リリアンナはそこまで思考が思い至らなかった。
そんなリリアンナがめげずにハーマイオニーに話しかけてもうまくいくはずもなく。
当然のように仲良くはなれなかった。
ともあれ、リリアンナはハーマイオニーがこのメンバーに参加する契機を思い出し、そういうものかと納得していたので、彼女の強引な手法が変わる事はなさそうである。
ネビルのカエルを見つけて目立つことも考えたリリアンナであったが(呼び寄せ呪文なら習熟していた)この後のハグリットが見つけて返してくれる展開を思い出し自粛した。
思った通りにハグリットがネビルにカエルを返してあげて、そこで初めてリリアンナはハグリットに挨拶した。
ハリーと一緒に挨拶した経緯もあって、非常に好意的に受け止められた。
その結果を持って良しとしたリリアンナは組分け帽子の儀式にまで進んだ。
組分け。
それはリリアンナにとって避けたい事の一つでもあった。
独学で閉心術を身につける事は困難である。
リリアンナも例外に漏れず、資質的には彼女も優秀な、いや、規格外な魔女ではあったが、閉心術を身につけるまでには至らなかった。
しかし、彼女の懸念はさして問題とはならなかった。
組分け帽子が見るのはその人物の資質とこれまでの経緯であり、見るのは魂の履歴とも呼べるものである。
だから、『前世』まで見れるようには作られていなかった。
そのため不思議な考えと知識を元に行動する預言者に近い存在として、帽子は彼女を認識した。
本人の望みもあって、リリアンナの組分けはグリフィンドール。
望んだ通りの展開にリリアンナは喜び、愚かな彼女は帽子が覚えた懸念に対する思考を巡らせることもなかった。
それから約2ヶ月ほどは何事もなく過ぎていった。
ハリーがシーカーになる事件。
ドラコ・マルフォイとの嘲る掛け合い。
フラッフィーと呼ばれる三頭犬に出会う冒険。
ちょこちょこと問題児の3人に絡んで小言をくどくどと続けるハーマイオニー。
ハリー、ロンとべったりなリリアンナを除けばであるが。
ハロウィンの日。
原作通りにロンとハーマイオニーが喧嘩をして、トロールを4人で撃退するという事件が起きた。
その契機を経て、4人は行動を共にするようになる。
共通の経験を積むことで、急激に関係が改善し、互いを好きになる。
四メートルもある、巨人と言っていいトロールをノックアウトしてしまう経験なんて、言うまでもないくらいにまさしくそれだった。
そして。
──その日が訪れた。
寝静まった深夜。
『目くらましの呪文』を掛けて、市販の『透明マント』を被ったリリアンナは深夜の校内をたった一人で歩いていた。
彼女は優秀な魔女だった。
前世の記憶があったにせよ、努力は欠かさなかった事もあって、並の魔女程度の実力はこの時点で既に手にしていた。
驚異的な才覚である。
高度な魔法は使いこなせないものの、大人なら使える程度の呪文は習熟していた。
それは期限を迎えれば効力を失ってしまう『透明マント』を多少であれ寿命を伸ばせる程であり、その点に関しては普通を逸脱していた。
もし仮にその精神が成熟しており、なおかつ強い意思を持って野望を秘めていたのならば。
そう思わずには居られないほどの才能だった。
彼女は進む。
ホグワーツ魔法魔術学校の3階の女子トイレに向かって。
トイレで『しくしく』と泣いている少女の声は聞こえなかった。
たまたま、どこかの配管にでも詰まっているのかもしれない。
そう思いながら、むしろ好都合だと微笑み。
リリアンナは生まれ持った技能を使うために口を開いた。
ドキドキと心臓を高鳴らせ、蛇の装飾の付いた蛇口に触れながら。
『開け』
口にした空気が漏れるような音は、言葉となって『入り口』の魔法を解いた。
隠された道が開かれ、リリアンナが慌てて洗面台から飛び退くと、落とし穴のように『ぽっかり』と開いた出口が顕となった。
リリアンナは踊るように、スキップのような軽やかな足取りでその穴に向かって進み、跳び降りていった。
滑り台のように『するする』と滑って降りた先は記憶にある通りの骨と死骸だらけの光景。
眉をしかめて、せめて汚れないようにとローブをたくし上げながら、目的の顔を象った蓋に近づいていく。
外周を蛇で装飾されたその蓋に向けて、再度リリアンナは口を開いた。
『開け』
『ガシャン』と音を立てて仕掛けが動き出す。
10世紀以上もの時間が経ったにも関わらず、その動きに支障はない。
動き出した蛇の仕掛けが外周を回って、淵に飲み込まれた後。
顔を象った蓋が開かれた。
リリアンナは『ごくり』と唾を飲み込んでから進んだ。
『カツカツ』と足音が立てる振動音だけが、彼女の耳朶を微かに揺らした。
辿り着いたのは、趣味の悪い蛇の石像が立ち並ぶ広間だった。
奥には一際大きな人の顔の石像が安置されており、水が流れている。
最奥の石像に近づいた後に、リリアンナは意を決して再び口を開いた。
『スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ』
その呼び声に合わせて、スリザリンの巨大な石の顔が、その口が動き始めた。
だんだんと口が広がってゆき、黒い穴と化したその空洞から、魔法世紀において最強の生物の内の一つが、新たな主人の声に応えて瞳を閉じながら姿を現した。
バジリスク。
圧倒的な存在感を持って、水音と空洞を擦る音を響かせながら、その巨体をリリアンナの前に横たえた。
その巨大な口からは『シューシュー』と擦れる音が響いた。
『新たなる主人よ。歓迎します。私は始祖サラザール・スリザリンにより遺された過去の遺物であり、知識と『秘密の部屋』の守護者であり、最強の牙であり先兵です。ご自由にお使いください』
静かなる蛇の王の忠誠を受けながら、リリアンナの心底に湧いたのは歓喜と慢心であった。
その身に秘めた血がそうさせるのか、恐怖や嫌悪感は一切沸かない。
偉大なる蛇の王を従える血に、その運命付けられた生まれと祖先の残した軌跡に、無限にも思える自尊心が湧き上がる。
自尊心は力強く精神と心を支えるが、過ぎたる薬が毒となるように、それもまた同様である。
負けるはずがないという慢心を抱くのも、また無理からぬ事であった。
通常であれば魔法使いの使役するこのバジリスクを殺す事など、ほぼ不可能である。
ハリー・ポッターと不死鳥が異常なのだ。
ありとあらゆる魔法を弾き、一睨みで生物を殺す。
その巨体は質量であり、ぶつかるだけで大抵は死に絶える。
弄される策は使役する魔法使いが破ればいい。
千年にも渡り生き延びた蛇の王の威容は、心の弱い者を魅了するだけの価値があった。
何より壮大で美しいその姿に、リリアンナは魅了されていた。
『蛇の王よ。聞いてくれますか』
『はい。何でしょうか、新たなる主人よ』
『私はあなたがこんな地下に幽閉されているのが信じられない。あなたを解放したいの。ねぇこんな場所から離れたいとあなたも思っているでしょう? ここに来るまでに見たわ、あの必死に生き残るために食べてきた獣の死骸。あなたはあんな貧相なものを食べながら暮らすべき存在じゃないわ』
千年間。
ひたすらに創始者の言葉に従い、この『秘密の部屋』を守り続けた守護者に対して投げかけるには、あまりにも思慮と配慮の欠けた言葉だった。
だが、蛇の王はそれすらも受け入れざるを得ない。
何故なら今この瞬間のために『そう在れ』と造られたのだから。
『……ご随意に。新たなる主人よ。しかし、伝えねばならない事が多くあります。我が身の処遇はご自由になさっていただいて構いません。お伝えいたしますが、よろしいでしょうか?』
『ええ、ええ。もちろんよ』
『ヒタヒタ』とバジリスクの肌に触れて、爛々と目を輝かせたリリアンナが頬ずりでもしそうなほど熱心にバジリスクを撫で回しつつそう言った。
『……ありがとうございます。では、お伝えします。始祖サラザール・スリザリンが残した遺物は大きく分けて3つです』
スリザリンの継承者には、三つの特権が与えられる。
バジリスクはそう語る。
一つは知識。
部屋に残された書物の所有権などの、知識の引き継ぎ。
一つは戦力。
バジリスクを含む魔法生物。
一つは居住。
秘密の部屋に住う権利。
加えて語った。
知識の引き継ぎは、二つの方法があると。
一つは書物を読み漁り、知識を蓄える事。
もう一つは、スリザリンの記憶を転写して我が物とする事。
語り終えたバジリスクは静かに新たなる主人を感覚で見据えた。
この『罠』に気が付けるか否か。
あるいは『罠』に掛かったとしても抗えるか否か。
それがスリザリンの継承者となるための、最後の選別であるから。
狡猾であれ。
そう高らかに謳うサラザール・スリザリンの残した遺物に対して警戒を抱かぬ愚か者。
そんな者は継承者足り得ない。
そして。
リリアンナ・ゴールドウィンは満面の笑みで答えた。
記憶の転写をしてほしい、と。
部屋を移動して、ひっそりと片隅に置かれた見窄らしい箱を、彼女は開いてしまった。
バジリスクが指し示した、その災厄の箱を。
開けた瞬間から溢れ出る夥しい量の銀色の糸を帯びた煙を浴びる。
その箱から溢れた白いモヤと白銀に包まれながら、リリアンナは喉が割れる程の壮絶な悲鳴を響かせて。
そして。
冒涜的なまでの情報量と知識と『スリザリンの遺志』に圧し潰されて、彼女の魂は『ある意味』で即死した。
数分の時を経て、リリアンナが動き出した。
その中身と魂を明確に書き換えて。
『……スリザリンの継承者たる
リリアンナの時とは明確に異なる、流暢な『パーセルタング』が紡ぎ出す音にバジリスクは
『純血主義を達成できる人物であることだ。自らによる知識の蓄積を良しとせず、『記憶転写』の危険性にも気がつけず、警戒心も学ぼうとする知識欲も、自らが歩むという決意もなく。
ゆらりと立ち上がったその姿と面影は、少女の美しい相貌に『狡猾さ』を滲ませていた。
『知識を蓄え自らの足で歩む強い意思があるのならば、どのような人物であれ、我が野望と悲願と知識を託そう。だが、記憶に過ぎず、亡霊である我の遺志すら跳ね除けられぬ、脆弱な精神しか持ち合わせぬのなら、成り変わる他あるまい。……久しいな、バジリスクよ』
Salazar Slytherin
面を上げた少女は、狂相を浮かべて嗤った。
頬を吊り上げて、嘲笑するようにバジリスクへと嗤い掛けるその姿。
彼がかつて、期待していた者が愚者であった時などの、期待が外れた時にのみ顕にする表情であった。
バジリスクはそれをよく知っている。
既に低頭していたが、さらに深々と頭を下げた。
その狂気にも近しい感情が自らに向けられる事。
バジリスクが畏れて敬っているのはそんな些事ではない。
かつての伝説。
最強の主人。
厳格であり、狡猾であり、機知、臨機の才、決断力に優れ、倫理すら時には度外視し、ありとあらゆる魔法と理に精通した偉人。
眼前に立つのが、サラザール・スリザリンその人であるからこそである。
『お久しぶりです、我が主人』
僅かな沈黙。
顎に手を当てて。
もう片手でその
『……ふむ。この小娘の記憶を探るに、10世紀を経たか。……我が半身よ。よくぞこの長きに渡り生き延び、『秘密の部屋』を守護したものだ。褒めて遣わす』
『有り難きお言葉でございます』
バジリスクの嬉しげな反応を見ながら、サラザールは少女の美しい声と身体を使い、老人のような口調で続けた。
悔やまれるような、そんな気配を滲ませながら。
『……しかし、骨董品のような我が今更ながら蘇るなど、良しとは言えぬ。何故なら、1000年という時は最善が変わるに十分すぎる時間であるが故に。……可能ならば、我が子孫に悲願を達して欲しかった。──肉体は朽ちるが、思想と意思は引き継げる。脈々と引き継ぐ意思こそ、悲願成就の要であると結論付けたであろう、我の慧眼は曇っていたようだ。……くくく、親友と対立し、友とも袂を分かち。ホグワーツを去って、経験から『狡猾さ』すら捨てたであろう『未来の』我が選んだその選択が、失敗に終わっているか。やはり『狡猾さ』こそスリザリン足り得る要素である。我が『狡猾さ』を遺した、この罠とも呼べぬ賢しい最後の一片が、我が野望と悲願を成就させるかもしれぬ可能性の種となるとは、我が事ながら愚かしい。……さて。お前に謝らねばならんな。主人の愚かしい選択を許せ、我が半身よ』
尊大な口調ではある。
しかし、それでもバジリスクは主人が謝罪の言葉を口にするのを聞いたことがなかった。
思わず見開きかけた目蓋を無理やり抑えながら、短く答える。
否定も意味がない。
肯定も意味がない。
選択肢は受け入れるのみだった。
『……はっ』
伏して答えるバジリスクを尻目に。
饒舌に、サラザールは言葉を紡いだ。
まるで1000年の長きにも渡る沈黙を埋めるように朗々と語る。
『故に、かつての偉業も朽ちて市井からも忘れ去られた惨めな亡霊ではあるが、我が現世に蘇ろう。……いや、この身体に即した言い方であるならば、私か? ──くくく、性すら変わり果てたが、即しているのであれば、変わらねばなるまい。変化を恐れていては、野望の成就など夢のまた夢よ。──なぁ我が半身よ』
『仰る通りかと。……ダンブルドアという人物に警戒が必要です。かつてのグリフィンドールよりも厄介かもしれません』
懸念を示すバジリスクの言葉にも、サラザールは上機嫌だった。
懐かしむように目を細めて、カビの生えぬ無垢な天井を眺める。
見据えるのは、記憶の中の親友の姿。
袂を分けたゴドリック・グリフィンドールの姿が浮かんでいた。
『あの剛気な頑固者よりもか。それは上々。障害のない道など望んではおらん。さて、まだ見ぬ強敵ダンブルドアよ。サラザールが蘇ったぞ? 私に対してどうする? 排除するか? 利用するか? 便乗するか? 見て見ぬ振りをするか? ……それとも、警戒するに留めるか? 私に関して言えば、判断の遅さは致命となるぞ?』
これから訪れる未来の想像を膨らませ、『くつくつ』とサラザールは嗤った。
その身体に刻まれた、『前世の記憶』すらも確認しながら。
史上の最悪の闇の魔法使いの記録を読みながら。
『……面白い、面白い。やはり生きてこその現世よ。だが、本来の魂が欠如した記憶のみの不完全な私を、まずは完全に近づけねばならん。協力せよ、我が半身よ』
『御意』
『我が身と魔法力を高めねばならん。蓄えた素材は朽ちておろう。……また集めねばな』
『私の毒と血、眼球をお使いください。我が主人よ』
『死を与える魔眼。抽出できる魔力は非常に危険ではあるが、とても良いものだ。使わせてもらうぞ』
『御意』
『
サラザールは微笑みを湛えて、狡猾さの滲んだ瞳を閉じて材料を誦じた。
『不死鳥の涙を8滴』
『生きたセストラルの脊髄に少しばかり変質の魔法を掛けた物から流れ出る血液』
『レシフォールドの皮膜』
『海蛇に化けたケルピーの牙』
『音を一つも聞かず3年生きたジョバーノールの羽根を幾つかとその生き血を8羽分』
『ホーンド・サーペントの宝石の屑を人差し指と親指で8摘み』
『ホダッグの角の粉末を有るだけたくさん』
『ヒッポグリフの卵を8個』
『ヒッポカンポスの双子の卵生を8個』
『8本指のグリンデローの手を一つ』
『グラップホーンから剥がした血の滴る皮を4枚』
『エルンペントの破裂液を小瓶で8瓶』
『バジリスクの毒と血をそれぞれ小瓶で8瓶、そして眼球を一つ』
『純血種ドラゴン:ルーマニア・ロングホーン種の角の粉末を成竜一本分』
『純血種ドラゴン:ペルー・バイパーツース種の毒腺を含んだ一番大きな牙を4対計8本』
『純血種ドラゴン:ハンガリーホーンテイル種の成竜の脈打つ心臓と生き血の滴る肝臓を4つずつ』
『竜の腐った血で育てたチズパーフルの粉末を888匹分』
『ビリーウィグの針に特別な魔法を掛けたものを8本』
『アッシュワインダーの凍結した卵を16個』
『ラモラの鱗を八尾分』
『リーエムの生き血を8ℓ』
『サラマンダーの新鮮な血液8ℓ』
『ルーンスプールの卵を8つ』
『ストリーラーの毒液を小瓶で8瓶』
『サンダーバードの羽根を幾つか』
『ユニコーンの血の涙を少々』
全ての素材が非常に重要で、それらを集めることすら大変に困難であり、製薬と手順に至っては気が狂いそうなほどの精密さを求められる魔法薬。
サラザール・スリザリンの半生を懸けて製作したレシピと言っても過言ではなく、サラザールの生涯でも、これを作ったことは自らに投薬するための、ただの一度限りしかない。
その際に改良案を見つけていたが、投薬は生涯に一度限りしか許容できない類の劇薬であったため、再度製薬することはなかった。
今再び、投薬できる機会を得て、伝説の秘薬を蘇らせる。
生命の頂点を厳選し、毒物を薬効へと変換し、それらを合わせて醸造し、何倍にも膨れ上がった命の甘露で、死にさえ蓋をする魔法薬。
自らしか知らぬ、その魔法薬。
真に完成した時の姿すら目に浮かぶ。
かつては金色に輝いていた液体は、再び生み出せば『血の色』に光り輝くであろう。
夢想ではない。
極めて高度な知能から導き出される予知にも似た結末は、真紅の液体を示唆していた。
「さて、さてさて。亡霊の我が身ではあるが、久方ぶりに伝説を始めようではないか」
優れた肉体と魂を得るために、サラザールは始動した。
「──しかし、この私の子孫がグリフィンドールとは。くくく、まこと、滑稽なり」
『くつくつ』と押し殺した笑いは、困惑したバジリスクも置いてけぼりにして、しばらく続けられた。
Your time is limited.
Time kills idea.
So don't waste it.
Please take this opportunity.