マクゴナガルとの面談を終えて、リリアンナは普通の学生として、ハリー、ロン、ハーマイオニーとの友情を深めていた。
そして、今年度初めての試合であり、ハリー・ポッターのデビュー戦でもあるクィディッチの試合は面白い発見を残して終わった。
ハリー・ポッターの箒に魔法を掛けていた者が2人。
言わずと知れたあの二人を直接見ることが出来た。
面白い出来事だった。
特に面白かったのは、宿主が目を合わせていれば、寄生している人物が呪いを唱えても効果がある点についてだ。
多頭の魔法生物などに複数の能力を持たせてみるなどの発想が膨らんだ。
あの汚らわしい子孫から強烈な反対呪文でハリーを保護することも考えたが、それよりハリーが必死に箒にしがみ付いている姿を眺めたり、ロン、ハーマイオニーがスネイプを疑っていた方が面白いし、何より『何もしないことで』ダンブルドアと無駄に敵対せずに済むと考えて静観していた。
ハリーが万が一にも落ちそうな時は『時を止めて』しまえばいい。
そういった安心感もあって、リリアンナは静観を選んだ。
そしてその騒動の中で、ターバンの裏にいるであろう存在を知っているリリアンナが、その惨めな姿を見ながら嘲ったように微笑んでいた事は、彼女を警戒するたった一人しか気づかなかった。
クィディッチの試合も過ぎ去って、リリアンナがちょっと古風で尊大な話し方をするようになってから、もうかれこれ1ヶ月以上が経過した。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは少しの間だけ困惑していたが、そういうものだと思えば特に気にならなくなった。
なんだかんだで3人のことをリリアンナがちゃんと見ていて、気にしているのがわかるし、何より自分たちが移動すれば、まるで鳥の雛のように『チョコチョコ』と着いてくるようになった可愛らしいリリアンナの姿は少年少女ながら、彼らの保護欲を擽った。
大抵は本を読みあさっているから、移動中に手を引いてあげる事もあるくらいで(大抵はハーマイオニーが甲斐甲斐しくお世話してる)、それまで3人を引っ張っていたリーダー的な人物がそんな風になってしまったことに違和感を覚えながらも、誰もリリアンナのことを見捨てようとはしなかった。
なんて言っても3人ともリリアンナのことを友人であると思っていたし、それに今のリリアンナからは以前とも違う強烈なカリスマ性を感じていたからでもあった。
もちろん、ハリーやロンから見れば非常に魅力的な少女に映っている事も理由の一つではあるが、何よりも二人にとってはハーマイオニーと同じくらい頭の良いリリアンナに勉強を教えてもらえるから、普段のそういった『協力』をしてもらっている立場もあって、リリアンナを手助けしてあげることに痛痒は感じなかった。
ハーマイオニーはもっと顕著だった。
何故なら彼女にできた初めての女の子の友達だったから、その喜びようは3人の中でも一番と言っていいくらいだった。
以前のリリアンナはひたすらに元気で、一言で言えば『はっちゃけ』ていたので、ハーマイオニーも必死で着いて行っていたが、中々大変だった。
それが今ではまるで姉妹のように、お互い本が好きで、話のレベルが合う。(リリアンナからすれば合わせてやっているのだが、ハーマイオニーはそう感じていた)
そんな頭は良いが、致命的に女の子らしい生活力が欠けているリリアンナのお世話をしてあげる事が、生き甲斐にも感じられるくらい、ハーマイオニーはリリアンナに好感を抱いていた。
「まるで妹が出来たみたい」とは、ハーマイオニーが内心で思っている事である。
クィディッチの一件以降、マルフォイはハリーを以前にも増して明からさまに嘲っていた。
授業中もそうだし、移動中の廊下でも、お昼や夕食時でも、スリザリンらしい嘲りをこれでもかと発していた。
その中でも一番マルフォイが生き生きとするのはスネイプの薬草学の授業中だった。
ただ今の時期はクリスマス前の極寒の時期だったので、廊下は隙間風が通るたびに身が凍るような思いでみんな歩いていたし、音だけで冷たさを感じそうな風が教室の窓をガタガタと鳴らした。
その中でも最悪だったのが、そのスネイプの薬草学の授業だ。
地下牢教室なので、吐く息が白いのも当然だし、みんな身体を必死で温めようとできるだけ熱い釜に近づいて暖を取った。
ただリリアンナは古い魔法でローブの下で感じる体感温度を制御していたので、春と変わらない調子だった。
昔からある温度を変化させる魔法。
その応用だった。
リリアンナの気まぐれでハリー、ロン、ハーマイオニーもその恩恵に預かっていたから、3人のリリアンナに対する印象はうなぎ上りだった。
寒すぎる中で、自分たちだけが暖まってるなんて知られたら大変なことになりそうだから、申し合わせて4人は口をつぐんでいた。
だから、温度という意味では信じられないくらい快適なのだが、そんな中にあって不愉快でハリーがイライラする要因があった。
それがマルフォイだった。
「どうしたポッター。次の試合には大きな口の『木登り蛙』がシーカーになるぞ」
マルフォイはそうやって囃し立てたが、周囲の誰も笑わなかった。
乗り手を振り落とそうとする箒に見事にしがみついていたハリーは誰が見ても立派なシーカーだったから、みんな感心していた。
それにグリフィンドールが勝ったのはハリーの頑張りのおかげだと誰もがわかっていたからだった。
妬ましさやら、腹立たしさやらで、マルフォイはまた古い方法に切り替えた。
「かわいそうに。家に帰ってくるなと言われて、クリスマスなのにホグワーツに居残る子がいるんだね。どこにいるんだろう? なあポッター、もし知っていたら教えてくれないか? そんな恥ずかしい奴がいるんなら、僕から寂しくないように一人で遊べるクリスマスプレゼントでも送ってやろうと思うんだけどね」
そんなクソみたいな理由で送られたクリスマスプレゼントなんて絶対にほしくないと思いながら、ハリーは努めてマルフォイのことを無視した。
マルフォイがハリーの様子を伺っている事が見ずともわかったからだ。
クラップとゴイルが『クスクス』笑っている。
クィディッチの試合以来、マルフォイはますます嫌な奴になっていた。
だから、授業が終わった廊下での移動中に、ハリーが3人に愚痴を漏らすのも自然な流れだった。
ハリーの愚痴を聞いて憤懣やる方ないと怒っているロンの姿に嬉しく思いながら、ハリーがロンと一緒に怒っていると、リリアンナがハーマイオニーに片手を引かれて、空中に浮かせた本に触れずに手を翳すだけでページを捲りながら、本から視線も動かさずに言った。
「嘲りもまたスリザリンの特色だ。よく引き継がれている」
ふとした言葉だったのだろうが、ロンはその言葉を聞いて、今の今まで怒っていたこともあって語気を荒げた。
「リリー! なに感心してるんだよ、あのいけ好かないマルフォイの肩を持つっていうのかい?!」
ロンのその激しい言葉に、リリアンナは本から一瞬だけ視線をあげてロンを見ると、心底不思議そうに「別に肩は持っていないさ」と言った。
言葉の理由がわからず止まったロンに構わず、その後また本に書かれた文字を視線で追いながら歩き続け、何でもないことのようにリリアンナは言葉を続けた。
「スリザリンらしいと思っただけだ。ポッターが怒るのもまた道理。次からは反撃してやれ、それでこそグリフィンドールとスリザリンの関係だろう?」
「……ぼく、たまに君のこと、すっごくお婆ちゃんみたいだって思うんだけど、実は魔法で少女に化けてたりしない?」
また宙に浮いている本のページを、手を翳すだけで『ペラリ』と捲って本を読み続けるリリアンナをまじまじと見ながら。
何年も仕舞い込まれていたチョコレートケーキを食べた時のような顔で、ロンがそう言った。
マルフォイがムカつくのはいつものことだった。
やたらとハリーを目の敵にしてくるのだから、会っていない時までマルフォイのことを考えたくないと3人が思うのもまた必然だった。
そして、会話は自然と今必死になって探している『ニコラス・フラメル』という人物について、の話となった。
クィディッチの試合の後。
スネイプがハリーに魔法を掛けていたと、ハグリッドに対してハーマイオニーが凄い剣幕で詰め寄って、ハグリッドが思わず失言した言葉が『ニコラス・フラメル』だったからだ。
もちろん、ハグリッドも秘密を守ろうとした。
だから、その失言の後は自分に対してすごく腹が立ったような顔で、もう3人にはその話題に関して何も話してくれなくなった。
教えてくれないなら調べるまでだ。
クィディッチという緊張からも解放されて、ハリーは意気揚々とどこかで見た覚えのある『ニコラス・フラメル』という名前を探し始めた。
ロンとハーマイオニーも協力した。
ロンは好奇心から、あの三頭犬が何を守っていたのかすごく気になっていたし、ハーマイオニーも生徒の命を危険に晒してまで、あのアルバス・ダンブルドアが学校で守ろうとしている物が何なのか知りたがった。
しかし、何を守ろうとしているのか、その答えを知っているリリアンナは特に興味を抱く事はなかった。
かといって3人に答えを教えるつもりもなかった。
何せ探しながら知恵を深める経験も、教育には必要であると考えていたからである。
そんなこんなでクィディッチからしばらく時間が経っていた。
ちょっと、と言うには長い期間だった。
具体的にはもうクリスマスが目前に迫った12月中ほどにまで時は進んでいた。
マルフォイの話題から逃れて、ハグリッドにも道中で会って、『ニコラス・フラメル』のことをあれからずうっと探していると言ってから何かヒントを貰えないか聞いてみたりしたが、「俺はなにも言わんぞ」ときっぱりと言うだけで何にもヒントは貰えなかった。
だからだろう。
「それなら自分たちで見つけなくちゃ」とそんなハグリッドに答えたロンが、さすがに堪忍袋の限界を迎えていた。
図書館の中で、3人が手分けして同じテーブルの上で思い思いに『ニコラス・フラメル』を探すために本を捲っている中で、たった一人。
リリアンナだけが、自分の勉強のために本を捲っていた。
こういう移動中じゃない、安定した場所で本を読める時は特段魔法を使って浮かせたりもしないし、手を翳してページを捲る事もしない。
小ちゃな手で本を押さえたりしながらも、ページを1枚1枚捲っていた。
これでリリアンナが遊んでいたのなら、こんなに長く我慢しなかっただろう。
だが、彼女は勉強しているので、ロンからすれば『ニコラス・フラメル』を探す以上の苦行なので、そっとしていただけだったが、そんな勝手気ままな姿にとうとうロンがキレた。
「ねぇリリー。きみだけいっつも、ヘンテコな本を読んでるけど、ハーマイオニーが邪魔しちゃダメって庇うから、ぼくも長い事ずっと我慢し続けてたんだけど、そろそろちょびっと一言だけ言っていいかな?」
本から視線は上げずに、黙々とページの文字を視線で追いながら、けれど無視はしない。
しっかりとした、いつも通りの古風で尊大な口調でリリアンナが答えた。
「なんだウィーズリー。私はこの『古代から現代に至るまでに生まれた、台所で大役立ちの魔法百選とそのお茶目な使い道』について読むことに忙しいんだが」
「ああ、そうだろうね。君からすれば、ぼくたちが必死こいて重い本を開きながら、たった一人の名前を見つけようとしてるのだなんて、まっったく無価値で興味が沸かないことだろうけど、ちょっとぐらい手伝ってくれたっていいだろ?」
ものすごくトゲのあるウィーズリーの言葉に、さすがのリリアンナも顔を上げた。
答えは教えられないが、一緒に探すフリくらいはした方がいいか、とようやくリリアンナは思い至ったようだった。
何せ時間は有限だ。
そして10世紀という時間は、有限ではあるがリリアンナのこれまで読んできた本の数から考えれば、無限に限りなく近いほどの蔵書を生んだ。
視界に入る本の全てを読み尽くしたい欲に駆られるリリアンナが、まず真っ先に考える事は本を読み漁る事だったのだから、片時も本を手放さないのも無理はない事だった。
しかし、リリアンナはようやくその行為がウィーズリーを含めて3人に対しての心労を与えていることに気がついた。
気がつけば対処せねばならない。
リリアンナは、いや。
サラザールは人の機微に(特に青少年に関しては)多少疎いが、空気が読めないほどではないのだから、その協力的な言動も当然だった。
「……なんだ、誰を探しているんだ?」
「ほら、ハリー。言ってやれよ、これまでに何十回と言い続けてきたのに、その度に自分の世界に入ってたりとか、本を呼んでて聞いてない本の虫さんにさ」
「あー、えっとね、リリー。別にぼくは気にしてないんだけど、やっぱりみんなで探したいなって思うんだ。どうかな?」
「……そうだな。私も探すことにしよう。で、誰を探してるんだ?」
「ニコラス・フラメルっていう人だよ」
『賢者の石』を作った15世紀に生まれた人物。
妻の名前は『ペレネレ・フラメル』
リリアンナは記憶を辿ってその答えを出したが、あえて首を横に振った。
知ろうとする意思。
学ぼうとした先で、自らの力で答えを得る事こそが智を得る喜びなのだから、その喜びを奪うなど論外だった。
「……聞いた事がない名前だな。10世紀よりは後に生まれているはずだ」
「そりゃあそうだろうさ。ぼくたちは20世紀に生きてるんだからね」
「ロン! せっかくリリーがやる気になってくれたんだから、そうムキにならないで。リリー、力になってくれて助かるわ。さっそくなんだけど、この本とかどうかしら? 私が次に探してみようと思ってた本なんだけど、今読んでる本がちょっとだけ分厚くって──」
『ワイワイ』と会話が弾み始めた4人が、マダム・ピンスの怒りに触れて図書館から追い出されるのもまた当然の帰結だったが、本を借りて出て行った4人の顔に影はなく、ようやく全員で探せるのが嬉しそうに、楽しげに笑っていた。
釣られて笑顔を浮かべていたリリアンナの表情が、本物なのか、それとも作ったものなのか。
それはリリアンナ本人にも、わからない事だった。
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