スリザリンの野望   作:風梨

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ドラゴン

 

 

 しばらくして、まさかいくらなんでもドラゴンを飼うなんて。と思いながら4人がハグリッドの小屋を訪ねると、驚いた事にカーテンが全部閉まっていた。

 ドラゴンの疑惑がさらに深まったが、ひとまずロンが代表して小屋の入り口を叩き、ハグリッドが扉から顔だけを見せて中に招き入れられた四人であったが、気になるドラゴンのことはさておいて。

 

 さっそく今回お邪魔した理由である、『賢者の石』を守っている人物に関して確認した。

 そして中でも、特にハーマイオニーの貢献でハグリットから『賢者の石』を守っている先生の名前を聞き出せて(ちょっとした貢献で聞き出せてしまうのは防犯上どうかと思うが)3人はスネイプも『賢者の石』を守っている先生のうちの一人だと知った。

 3人の結論は、もうスネイプは守る側の立場を利用して、クィレルの守り以外は全てわかってしまっているというもので、その推測は合っているように感じられた。

 もうハーマイオニーですらそう思うようになっていた。

 

 ただ、ハグリットからフラッフィーを宥められる方法は自分とダンブルドアしか知らないと聞かされて、ひとまず3人は安心して、目の前のやかんの下にある『黒い大きな卵』についての話題へと移って行った。

 

 ロンが予期したように、それはドラゴンの卵だった。

 ノルウェー・リッジバック種の名前を聞いたリリアンナが珍しく顔を上げて、そういえばそうだったと、まじまじと卵を物欲しそうに見つめていたが、育てるリスクと収穫までに要する時間を計算して、すぐにその考えを破棄した。

 何故なら手間を考えても育ったドラゴンから素材を回収する方が圧倒的に楽であるから、その判断は正しい。

 視線をすぐに本へと戻したが、別の理由で気になるために『チラチラ』と卵を見ていた。

 

 ハグリッドはドラゴンの卵を手放すつもりは全くないようで、危険を3人が訴えても大丈夫だ、と笑うだけで全く取り合わなかった。

 

 ハリーは思う。

 そこからがもう、本当にすごく大変だったと。

 ハグリッドの説得を諦めて、渋々ホグワーツに帰ってから。

 1週間もする頃にはドラゴンが孵化するという手紙がハグリットから届いて、ハーマイオニーとロンが──もちろんハーマイオニーが否定派だが──ドラゴンの卵から孵る瞬間を見に行く行かないで大喧嘩した。

 授業をサボると言うのは、ハーマイオニーの中でドラゴンを飼う事よりも許せない大罪らしかった。

 

 ともかく、二人の言い争いにうんざりとしたハリーを置いて話は決着したらしく、授業が終わってすぐの休憩時間に全力で駆けて行く事になった。

 なんだかんだ言って、ハーマイオニーも興味があったらしい。

 ただハリーとしては、二人の言い争いの途中にふとドラコの姿が見えたことが気がかりだった。

 

 ドラゴンが生まれてからはうんと大変だった。

 

 リリアンナも、本当に信じられないことだが、ハグリットのように『うっとり』とした目でリッジバックに触ろうとして、ハーマイオニーに物凄い速さでそれを止められたりしていた。

 滅多に見られないリリアンナの様子に、ハリーとロンはちょっぴり動揺した。

 

「生後1ヶ月は大丈夫だ。リッジバックは早くてもそのくらいにならねば火を吹かない」と抗議するリリアンナにも「あなたのその小さな指が噛まれたらどうするの。食べられたら取り返せないわ!」というハーマイオニーの言葉に、まじまじと自分の指先を眺めて一理あると思ったのだろう。『しょんぼり』としながらも渋々と『その時』は触るのを諦めた様子だった。

 

 リリアンナのことは置いておいて、そこからがとにかく大変だった。

 日に日に大きくなるリッジバック──後にノーバートという名前に決まった。

 そのお世話にハリーたち4人も駆り出されたのだ。

 

 今回に限っては、ハーマイオニーもリリアンナを庇うことは出来なかった。

 何せ初回で、意気揚々と出かけたロンの手が噛み付かれて血だらけになってしまったものだから、さすがにリリアンナも本を読んでいるというだけの理由で順番を保護される事はなかった。

 けれど、リリアンナは特に嫌がる姿も見せず、心なしかお世話の順番を心待ちにしているようにも見えた。

 

 箱いっぱいのネズミをノーバートが食べるようになった頃なんて、しょっちゅうみんなの手を齧ろうとした。

(じゃ)れあいのつもりだろう」とはリリアンナの意見だが、彼女が当番の手に施してくれるちょっとしたおまじない──ハーマイオニーが大興奮するくらい高度な保護魔法らしいが、それがないとハリーたちの手は今頃血だらけで包帯で『ぐるぐる』巻きだっただろう。

 

 そんな魔法が必要になるくらい、お世話はすっごく大変だった。

 

 ハリーがチャーリーにドラゴンを引き渡す案を思いついて、ロンがそれに大賛成して、ハグリッドも渋々それを認めていなければ、終わりの見えないこの育児? に耐えられそうもないくらい、それぐらい大変だった。

 唯一いつも通りだったのがドラゴンを可愛がっているリリアンナくらいで、ハリーもロンも、あの責任感の強いハーマイオニーですら『ぐったり』としている始末だった。

 

 何せ育児自体も、ものすごく大変でもあるのに、あのマルフォイにノーバートが産まれる瞬間を見られたのだ。

 今か今かとマルフォイが『ニヤニヤ』しながら4人を見てくるので、この数週間、チャーリーからの返事が返ってくるまでの間はもう3人は生きた心地がしなかった。

 

 ようやくチャーリーから返事が届いた。

 ハリーがヘドウィグからその手紙を受け取って、中身を見れば、「一番高い塔にノーバートを連れてこれるか」と書いていた。

 

 ドラゴンの飼育、輸送は犯罪だ。

 一番高い塔にあのすごく大きくなったノーバートを連れていくのは大変だとは言え、チャーリーがそれでも受け入れてくれたことを思えば感謝するしかない。

 幸いこっちには『透明マント』がある。

 勝算を感じた3人はさっそく「問題なし」とチャーリーに返事を送った。

 リリアンナはそんな時でも本を読んでいたが、少し寂しそうな表情をしていたのが印象的だった。

 

 その手紙のやり取りの少し後。

 風の噂で、マルフォイが罰則と減点を食らったことを知った。

 どうやら4人がその日にドラゴンを運ぼうとしている、という情報に騙されて、マクゴナガル先生に真夜中に見つかって大目玉を食らったらしい。

 そして3人は同時にリリアンナのことを見た。

 

 視線に気がついて、リリアンナは少し悪戯っぽく人差し指を唇に当てて小さな声で「シーッ」とだけ言った。

 

 リリアンナは常々「ドラゴンを運ぶときが問題だ」と言っていた。

 誰か執拗な人間に追われてしまえば、そんな大きな荷物を運んでいる自分たちが、例え『透明マント』に隠れているとはいえ、見つかってしまう可能性が高いと考えていたようだった。

 

 そこで3人には思いもよらない方法で、具体的にはロンが教室に忘れた教科書に、ちょっとしたメモを挟んでおいて騙してしまったらしい。

「メモに内容を信じやすくする魔法を掛けておいたんだ。内緒だぞ?」とリリアンナがそのあとで教えてくれていたが、まさか本当に騙せるとは3人とも思っても見なかったので、心配事が減って大喜びだった。

 30点もの減点をマルフォイは食らっていたから、これでいくらマルフォイでも自由に行動するのは躊躇するはずだ。

 

 ハーマイオニーに至っては、ここまで相当なストレスを溜め込んだのだろう。

「マルフォイが罰則を受けたわ! 歌でも歌いたい気分よ!」と大いにはしゃいだ。

 そして実際にトンチンカンな歌を歌い始めたので、慌ててハリーとロンが適当な言い訳をつけて止めねばならないほどだった。

 

 そしてドラゴンを運ぶ当日。

 リリアンナが、風邪を引いて医務室で寝込むという事件があって。

 そしてリリアンナが寝込んだものだから、元々予定していた運ぶときの魔法が使えなくなった。

 加えて数日前から、ロンが初日に噛まれた手がパンパンに腫れ上がって緑色に変色してしまったので、ロンは嫌がったがマダム・ポンフリーの元に行って治療を受けてから包帯『ぐるぐる』巻きになって寝込む羽目になっていた。

 

 ハーマイオニーが心配そうに看病したがったが──もちろんリリアンナの事をだが──さすがにハリーだけだとどうしようもないので、ハリーとハーマイオニーの二人でノーバートを運ぶことになった。

 リリアンナの魔法で運ぶ予定だったので大慌てで準備した二人は両手両足がパンパンになるくらい、大変な作業でノーバートを一番高い塔から送り出した。

 

 陽気なチャーリーの仲間たちに託して、安心し切ってしまったからだろう。

 2人はなんと『透明マント』を一番高い塔に忘れてきてしまった。

 

「おや、おや、おや」

 

 嫌らしいフィルチの声を聞いて、その時ようやく2人は『透明マント』を忘れてきてしまったことに気がついた。

 顔を見合わせたハリーとハーマイオニーは、特にハーマイオニーは血の気の引いた真っ青な顔をして、二人一緒にこの世の終わりだとでも言いそうな表情を浮かべていた。

 

 その日の夜に。

 グリフィンドールから150点もの減点が行われた。

 

 

 ノーバートを送り出した翌日。

 減点された当日。

 

 リリアンナは病室の中で面白い話に関して精査していた。

 どうやらネビル・ロングボトムも、ハリーとハーマイオニーと同じく減点と罰則を食らったらしい。

 マルフォイは先んじて罰則を食らったにも関わらず、ロンのお見舞いという名の嫌味と本を借りに来て、メモの挟まった本を渡してしまったようだった。

 そしてネビルはマルフォイのその行動に気がつき、勇気を振り絞って2人に警告しようとしたらしい。

 全くもって、どこかで聞いたような展開だ。

 心底面白いと思いながら考察をしたい内容ではあるが。

 

 リリアンナはもう見るのも可哀想なほどに憔悴して涙を浮かべる、お見舞いという名目で会いにきたハーマイオニーを前にそのことについて重点的に考えられるほど感性が鈍ってはいない。

 さすがにそれは『人間』として、あまり褒められた行為ではないと理解している。

 故に今すべき事は目の前の少女に関してだろう、と思考を切り替えたリリアンナは何とか言葉を捻り出すが、それはあまりにもあまりな言葉で。

 こんな時でも気が利かないリリアンナの常だった。

 

「グレンジャー、気にする必要は、あー、うむ。まぁあるかもしれないが」

 

 嘘はつけない。

 そんなリリアンナの視線を逸らしながらの言葉に、『わっ』とハーマイオニーが感情を溢れさせた。

 

「や、やっぱり、そうでしょう? 一晩で、たった一晩で150点も! 私がちゃんとハリーに『透明マント』を被るように言っておけば、それだけで100点は防げたはずなのに! いいえ、それどころか同時に3人でなければ、マクゴナガル先生だってもっとネビルにも加減してくださったはずだわ! だから、ネビルが50点もの減点をもらったのも、私のせいなの。ごめんなさい、リリー。あなたもいっぱい点を稼いでくれたのに、私が全部なくしちゃった」

 

 もうハーマイオニーは今にも泣き出しそうという冒頭から、話しながらどんどんと『ずびずび』と増していく鼻水やら涙やらで顔中大洪水になっていった。

 そんな姿を見ながら、リリアンナも少しばかり動揺していた。

 このマグル生まれの少女のことは嫌いではなかったし、何より自分がひたすらに本に齧り付いても文句の一つも言わずに手助けしてくれたことは非常に有り難い事だった。

 

 そして女の子のケアなども全く知らなかったので、それを訝しむこともなく進んで教えてくれたハーマイオニーには少なからず恩もある。

 元が良くとも手入れを怠れば、どんどんと劣化していくモノの最たるものが美貌であるから、この自らの美貌が霞み利用価値が薄れることはリリアンナとしても、可能なら避けたい。

 それ故に諸々のケア方法を知れたのは良い事だった。

 ハーマイオニーが教えている事をキッカケに、寮内の魔法族出身の者たちやマグル生まれの者たちとも、美容に関する談義ができたのは有益な時間だった。

 

 そう。

 サラザールの唱える『純血主義』とは魔力を持って生まれたマグルを殺す事を目的としていない。

 過去ですら教えるものを選別し、『追放』することを求めていたが殺害までは求めていなかった。

『殺害』にまで発展させたのはヴォルデモート卿の最悪の成果である。

 本来の『純血主義』とは。

 そのような低俗なモノではない。もっと崇高な主義、思想だった。

 

 具体的に言えば、魔法族を守るための主義であった。

 1000年もの前から、サラザールはマグルに魔法を教えてしまい、争いが起きる事を懸念していた。

 もしマグルと魔法族の間で戦争が起きれば、マグル生まれの魔法使いがマグルに加担することも十分にあり得る。

 その戦争が長く続けば、マグル生まれの魔法族と純粋な魔法族の間に、埋めがたい深き溝が出来る事も十分にあり得た。

 

 故にこそ『純血』を維持し、魔法力を維持し、圧倒的な技術と魔法力でマグル生まれの魔法族を淘汰する。

 例えホグワーツ以外で学んだマグル生まれが居ようとも、そんなものが誤差にしかならないほどの強さを手に入れる。

 サラザールがかつて主張した『純血主義』とは、そういった懸念の延長線上にある主義だった。

 

 しかし。

 時代は変わった。

 

 サラザールが恐れた『マグル生まれの魔法族vs純粋な魔法族』という未来は実現せず、マグルの科学力が魔法族に比肩する可能性すらも出てきた。

 オブスキュラスという1000年前は原因不明であった災厄の理由も知った。

 1000年前と比べて、純血の魔法族は極端に減った。

 

 サラザールは研究者でもある故に、事実を事実と認める事ができる人物だった。

 

 故に、この少女に対しての蔑視はリリアンナの中にも皆無だった。

 そも『穢れた血』とは、サラザール・スリザリンの唱えた言葉ではないのだから。

 新たな価値観を付与して構築し直した『純血主義』を抱きながら、リリアンナはこれからの言葉に『主義』との矛盾がないことを確認した上で口を開いた。

 

「グレンジャー、落ち着け。深呼吸をしろ。……そうだ、いいか? よし。他の人間がどうかは知らんが、私はお前との関係性を今更変えようなどとは思わない。たかが150点だろう? グレンジャー、私の中でお前の価値はそれ以上の点数だよ。いや、とても点数など付けられないほどの必要な人間だ。……まだ泣くのか、それでも不服か?」

 

「うぅん、うれしい。うれしいの……」

 

 サラザールの人間関係の構築能力は、言ってしまえば巧くはない。

 

 持ち前のカリスマ性と圧倒的な魔法力と知能で引っ張ってきた経緯はあるが、気を使ったり陽気に話したりだとかとは、まるで無縁だ。

 加えて、グリフィンドールのような勇猛さとは無縁だし、レイブンクローのように純粋に知識と叡智のみを追い求めないし、ハッフルパフのように慈愛に溢れてもいない。

 

 狡猾ではあるが形も重視するし、偏屈と言われたことも、悪質と言われたこともあるし、道徳に反するようなことも許容してきた。

 けれど、生粋の研究者で、弟子や仲間思いで、夢想家でもあった。

 言ってしまえば、非常に人間臭い人物だった。

 

 だからこれは、サラザールの持っていた一面でもある。

 気まぐれとも呼べるだろう。

 人の心とは一面だけではないのだから。

 

『ひくひく』と泣きながら肩を震わせるハーマイオニーの頭に、リリアンナの小さな手が置かれた。

 視線を逸らしながらも小さく動かすその手の意図は、バジリスクが見れば目玉をひん剥いて顎を外れんばかりに大きく開けること間違いなしの動作と理由ではあったが、それは確かに気遣いだった。

 

 撫でながら、リリアンナの、サラザールの思考の隅にはネビル・ロングボトムの一件がへばり付いていた。

 ドラコ・マルフォイをあえて排除したというのに、変わらなかった運命に対しての思考を、片隅で巡らせていた。

 

 ただし。

 主な脳の領域は、やはり気恥ずかしさで占められていたから、やっぱりそれは一種の逃避だったのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 




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