スリザリンの野望   作:風梨

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約3000字



禁じられた森

 

 

 

 病室でのリリアンナとハーマイオニーの会話を経て。

 150点の減点を食らった後は当然のことながら、ハリーとハーマイオニー、そしてネビルが受ける周囲からの視線は非常に厳しいものだった。

 

 特にハリーは今までクィディッチで2回もヒーローになって、みんなに好かれていたが、その反動のように毛嫌いされるようになった。

 それはグリフィンドールに限らず、スリザリンから寮杯を奪えると思って期待していた、レイブンクローとハッフルパフの生徒も同様で、みんなが一様にハリーに対して厳しく当たった。

 隠すこともせず堂々とハリーにも聞こえるように陰口を言うほどであるから、相当な嫌われようだった。

 

 そんな中でも、ロンとリリアンナの反応はそれまでと一切変わらなかったから、それだけがハリーとハーマイオニーの唯一の救いだった。

 

「ハリー、気にすることないさ。ぼくの双子の兄たちなんて、年がら年中減点を食らってるけど、未だに人気者だよ」

 

「その二人は今までに150点もの減点を食らった事があるかい?」

 

「……そりゃあないけどさ」

 

 ロンのそんな気遣いも、そう言われてしまえば形なしだった。

 さすがにあの二人でも150点なんて記録は持ってない。

 もしかしたら50点よりも少ないかもしれない。

 そう思って口を閉ざしたロンの代わりに、リリアンナが口を開いた。

 

「反省は大いにするべきだな。ただ後悔はすべきではない。ドラゴンをあの場でリスクを背負ってでも輸送していなければ、良くて殺処分だったろう。野生に還すのは難しいからな。ヘタを打てば魔法省に持っていかれて実験動物にされたかもしれんな、あそこは色々とキナ臭い。……何にせよ、お前のやった事は無駄ではない」

 

 そんなリリアンナの珍しい気遣いの言葉も貰いながら、けれどハリーが多少気を持ち直しても周囲は変わらない。

 試験が差し迫っている事もあって、4人はまとまってひたすらに勉強に励んだ。

 ハリーとしても、集中して勉強に励めば嫌な事を忘れられたから勉強に身が入った。

 

 そんなこんなで少しの時間が過ぎて。

 

 そして周囲の反応であったり、勉強に集中していたため忘れていたが、ハリーたちが受けた罰則は減点だけではない。

 つまり、『禁じられた森』での罰則の時間が訪れた。

 

 リリアンナはその間に、星を見ていた。

 占星術にも精通する知識を持つ彼女は穏やかな表情で星を読んでいた。

 

「ふむふむ、安定せぬ。加えて凶兆が激しく輝いているな。これは私の影響か? ……1000年前の死者が蘇るなど、星すらも懸念を示し、なおかつ予想外ということか。くっくっく」

 

 面白そうに嗤い始めたサラザールと同時期。

 ハリーはフィレンツェというケンタウルスの背中で、似たような話を。

 聡明な顔立ちのケンタウルスが先の見通せない星に不安を覚えているように溢す言葉を聞いていた。

 

「星の予言が、こんなにも安定しないのは初めてのことです。ケンタウルスの間でも騒然とした議論が行われています。まるで在ってはならない存在が産まれ落ちたような、この世の常理を覆しかねない、そんな不安定さを抱えています。……気をつけなさい、ハリー・ポッター。あなたの運命すら変革の兆候が出ています。もはやケンタウルスですら読みきれないほどに。空は在ってはならない『ナニカ』を恐れるように、禍々しい星が輝いています」

 

 それを聞いて、ハリーの脳裏にあるのはヴォルデモート卿のことだけだった。

 今の話を聞く前に、ユニコーンの血を啜る存在の話を聞いていたから。

 

「世界は変革の時を迎えるでしょう。それが良い悪いはその者によりますが、世界は変化する。ハリー・ポッター、あなたも備えるべきだ。その時はもう、それほど遠い未来の話ではない」

 

 確定された未来を語るように、それだけはフィレンツェが断言した。

 

「幸運を祈りますよ、ハリー・ポッター。ケンタウルスでさえも惑星の読みを間違えたことがある。今回もそうなりますように」

 

 ハリーは震える身体をハグリッドに心配されながらも、そんな言葉を残して森の奥へと消えていくフィレンツェを見つめながら見送った。

 緩やかに駆けていくその姿が、森の奥底へと消えていった。

 

 リリアンナとロンは、ハリーとハーマイオニーの帰りを談話室で待っていた。

 ロンは早々に寝てしまったので、リリアンナは空を眺めていたのであるが、ハリーたちが帰ってくる頃にはまた本を取り出して読み耽っていた。

 真っ暗な談話室の一角で、ルーモスの光を浮かべたリリアンナが両手で本を持って『チョコチョコ』とページを捲っているとハリーとハーマイオニーが戻ってきて、重要な話題と話すこととなった。

 

「フィレンツェは僕を助けてくれた。だけど、本当は助けちゃダメだったんだ。……惑星が起こるべき事を予言しているのに、それに干渉しちゃいけないって。でも、フィレンツェは僕を助けてくれた。あの、ヴォルデモートから。……惑星はヴォルデモートが戻ってくると予言しているんだ。……ヴォルデモートが僕を殺すなら、それをフィレンツェが止めるのはいけないって。僕が殺される事も星が予言していたんだ」

 

「頼むからその名前を言わないで!」

 

 ハリーとハーマイオニーの話を聞いて、すっかり目を覚ましたロンが悲鳴のようにそう言った。

 

「それじゃ、僕はスネイプが石を盗むのをただ待ってればいい。そしたらヴォルデモートがやってきて、僕の息の根を止める……。そうすれば予言の通りになるんだ」

 

 熱に浮かされるようにそう呟くハリーの様子にハーマイオニーは怖がっていたが、彼女は優しかった。

 慰めの言葉として、ハーマイオニーが何よりも安心している事実をハリーに教えるようにゆっくりと続けた。

 

「ハリー、ダンブルドアは『あの人』が唯一恐れている人だって、みんなが言ってるじゃない。ダンブルドアがそばにいるかぎり『あの人』はあなたに指一本触れることはできないわ。それに、私、占い学って信じてないの。マクゴナガル先生も仰っていたわ、占いは魔法の中でも不正確な分野だって」

 

「占星術は存在する」

 

 いつの間にか、本から顔を上げていたリリアンナが微笑んでいた。

 その笑みは優しげでもあり、冷徹でもあり、無感情でもあり、強い感情すら感じさせた。

 薄らとした軽薄な微笑を浮かべながら、灰色の瞳の奥が滾るように燃え盛っていた。

 

ハリー(・・・)、その恐れは正しい。恐怖という感情は勇気と相反しない。恐怖があるからこそ勇気が存在し得るのだ」

 

 今までの比ではないほどの覇気を滲ませながら、リリアンナはそう告げて。

 そしてそんな空気を霧散させて肩を竦めた。

 

「ただまぁ占星術が不正確な学問であることは否定しない。グレンジャーの言う通りだ。……付け加えるなら、ケンタウルスは悲観的過ぎるきらいがある。奴らは星の瞬き一つで一喜一憂するような種族だからな。私たち人間がまともに取り合えば狂ってしまう。そう言う人間も昔は多かったものだ。何せ価値観が違う。見る者が変われば、結果もまた変わるのだから。……故にこそ彼らは下界から隔絶した環境を好み、中立的な立場で星に従う事を選んだ。より正確な星の導きに従うために」

 

「アー、えっと、リリー。結局ケンタウルスの予言は正しいの?」

 

 困惑を深めながら聞いたロンに、可笑しげに『くすくす』とリリアンナは笑った。

 

「さぁな。私も少しばかり占星術を齧っているが、結局のところわからん。『運命』などと言うものが存在するのならば、それは複雑に絡みついている。星の瞬き一つで、全てが分かり切るはずもない。……だが、ケンタウルスは『占星術のために生きる種族』だ。ある程度ではあるが、その予言は信頼出来る。……私が言えるのはそれだけだな」

 

 心底楽しげにそう言って、珍しい事に本ではなく夜空を見上げるリリアンナを尻目に、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は夜が更けるまで話し合った。

 話し過ぎて喉がヒリヒリするくらいだった。

 ハリーはまだ話し足りないと思いながらもベッドに戻って、最後にもう一つ驚くことになった。

 シーツを捲ると、そこには丁寧に折り畳まれた『透明マント』が置いてあった。

 小さなメモがピン留めされていて、そこには綺麗な文字でこう書いてあった。

 

『必要なときのために』

 

 全てを見透かす人物からの、たった一言の手紙だったが。

 ハリーはその人物に心当たりはなかった。

 

 

 

 




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