「記憶」 〜戦争体験者の言葉〜 作:マッポ
頁をめくると1つ目の話が始まっていた。話し手は長門のようだ。数々の作戦に従事し活躍した彼女は何を語るのだろうか。
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「長門だ、よろしく頼む。何について話せばいいんだ?」
「最も印象に残った戦いか……。少し考えさせてくれ。」
この話、質問の内容は省かれているらしく長門が一人で話しているだけのような進行になっている。慣れるのに時間がかかりそうだ。
「……そうだな、深海海月姫について知っているか?……そうだ。あの、B環礁での戦いだ。」
─B環礁
それは「特効」と呼ばれる現象が初めて確認された作戦の海域であり、深海棲艦との戦争の一種の転換点となった戦いだ。以後の海域では特効が度々確認され、特効を持つ艦娘─特効艦を駆使して人類は深海棲艦を撃破していった。B環礁において長門は活躍の中心にいたはず、そんな彼女は何を話すのだろう。
「正直、こんな話は戦争が終わったからこそ話せることだ。戦時中に言ったら間違いなく懲罰部隊に送られていただろうな」
懲罰部隊という聞き慣れない単語が出てきた。世の中に出回っていない情報というのはこのことだろうか。
「あの海域の首魁…深海海月姫と戦っているとき、私ははっきりと感じたんだ!」
「深海棲艦と艦娘の本質は同じだと!」
一瞬、思考が止まった。深海棲艦と艦娘が同じ?信じられない、いや、信じられるわけがない。教科書の挿絵にあったあの禍々しい雰囲気を持つ深海棲艦と艦娘のどこが同じだというのだ。陰と陽、正義と悪、正反対に位置する両者が同じなわけがない。
「私は、深海海月姫との戦闘中に戦艦棲姫の砲撃が直撃し、ふっとばされた。そしてその時、戦艦棲姫は
「幸いなことに艤装は無事で戦闘は継続可能だったが、身体を水に強く叩きつけたせいか全身に鈍痛が走り、さらには海水も飲み込んでしまっていた。若干むせながら立ち上がったとき
「…私が見た景色は、あの海域にいた深海棲艦が見せたものなのか、はたまた
「それは
「さらに驚きだったのは艦がいることだった。艦を見ている私は動くことができなかったが、遠くの方に見えたまわりの艦に比べ一際大きな艦を見て、
「その艦のなかには酒匂はいなかったが、オイゲンはいた。なぜかはっきりと分かったんだ。酒匂は既に
「しかし、それははるか遠くから轟くプロペラ音によってかき消された。ちらりと上空を見てみると、どこか見慣れたシルエットの機体がこちらに向かっているのが見えた。」
「なんて綺麗な青空なのだろうと思っていると、その飛行機は
「……プロペラ音が過ぎ去った直後、ひどく暴力的な光が瞬くのが見えたところで私の意識は現実に戻ったんだ。驚くことに、不思議な景色を私が見ていた間、私は一歩も動いていなかったのにも関わらず深海棲艦は私に攻撃してこなかったんだ。全く動いていない艦娘など格好の的だというのに。」
「そして、そしてそしてそしてだ。私が深海棲艦と艦娘の本質が同じだと感じた瞬間が訪れた。」
「深海海月姫が妖しく笑いながらこう言ったんだ。」
「ネェ、見タンデショ?見エタンデショウ?ドウシテアナタハ
「………深海海月姫は、涙を流していたよ…。そして、その後に続けた言葉によって私が持っていた、深海棲艦=敵という考えは根底から崩された。」
「ジブンガ守ッタ存在ニ捨テラレタ私ハ、何ヲ守レバイイノ?」
「あのとき、たしかに深海海月姫は自分が守った存在といった。そして、それと同時に1つの艦が脳裏に浮かび上がってきた。直感的に深海海月姫はもとはその艦だったのだと分かった。」
「深海海月姫が話している間深海棲艦は攻撃してこなかった。私達も、深海海月姫の話していることがあまりにも衝撃的すぎて、攻撃することができなかった。AL/MI作戦の際に加賀や赤城の残留思念のような存在の空母棲姫が出現していたが、その時には確証は得られなかった。だがあのときは違った。なにより、その艦隊にいた全員が深海海月姫の言葉を聞いていた。」
「しかし私はこう言ってしまったんだ。『黙れ!深海棲艦は深海棲艦に過ぎない。海に還るまでだ!』とな。気が動転していて出た言葉か、本心で出た言葉かは忘れてしまったが、それくらいに深海海月姫の言葉は衝撃的であり、私は答えになっていない答えを返したことは覚えているよ。」
「………戦闘が終わってドロップしたのはサラトガだった。あの明るい性格からは深海海月姫の面影は想像できなかった。そこで私は1つの仮説を立てた。」
「……深海海月姫はサラトガが深海棲艦化した姿ではないかとな。深海海月姫だけは他の深海棲艦に比べ特に悲哀と絶望に満ちている姿をしている。在りし日の頃、開戦から終戦まで生き残った空母サラトガだったが、その最期は私と同じく実験のモルモットにされたわけだ。しかも彼女の場合は自分が守った国民たちに沈めと言われたんだ、その絶望たるや想像を絶するものがあるに違いない。……祖国を、愛を、海を忘れたと話した深海海月姫がサラトガが深海棲艦となった姿であれば、あの言葉の
「まわりからは当然相手にされなかった。気が狂ったのかとも思われたよ。でも、私は深海棲艦と艦娘の本質は同じであると信じ続けた。結局は
「まぁ、何よりもだ。こうして今居られることが奇跡だよ。私が伝えたいのはな、
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話はここで終わっていた。いつの間にか陽は傾き部屋には西日がさしこんでいた。そして、読み終わった自分の身体がひどく冷たくなっていることに気づいた。この話の内容は信じたくない。しかし、眼鏡をかけた女性の言葉が脳裏をよぎる。「目を背けずに見ることができますか?」この言葉の意味をようやく理解した。いわばこの本に書かれているのは
しかし、僕がこの話を信じたくないのも
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頁をめくると驚くことに長門の話は終わっていなかった。どうやら作者の感想のようなものが書いてあるようだ。
「この話の主人公は長門ではなく、サラトガである。あの明るい性格の彼女は負の部分を全て深海棲艦という存在においてきてしまったのではないかと思う。歴戦の空母であった彼女も最終的には時代に
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1話目から圧倒されている自分がいた。いきなり問いかけられた深海棲艦と艦娘という一見相反する存在の共通点。聞いたことのない話に脳がついていけてない。
過去の亡霊と未来への希望。長門は戦艦棲姫を撃破し、自分の過去に蹴りをつけることはできたのだろうか。
長門が危惧したように、この話は時代の波に葬り去られた。他の話も同じように時代という存在が話の価値を否定したのだろうか。そう考えながら次の頁をめくった。
長門の最期を知ったときの衝撃はすごいものがありました。読み辛いようであれば何なりとおっしゃってください。