「記憶」 〜戦争体験者の言葉〜   作:マッポ

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Episode2 電 非日常を生きる

 

 次の話し手は(いなづま)だ。駆逐艦である彼女はあまり活躍を聞かない。はっきり言って長門の話ほどのインパクトはなさそうだ。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 「質問から始まって申し訳ないのですが、戦場において最も大切なのは何だと思うですか?」

 

 「はい。当然、死なないことが1番大切なのです。ですが、死ぬ死なない以前の問題で最も大事なことがあるのです。」

 

 「それは補給だと電は思うのです。敵を薙ぎ払う高火力も、敵を圧倒する航空戦力も、物資の補給があってこそ成し得るもの。何年にもわたって深海棲艦との戦争が継続できたのも補給を守り抜いたからなのです。」

 

 「そして電はその輸送部隊に従事していたのです。今日お話するのは輸送部隊が見た現実なのです。」

 

 「輸送部隊はその名の通り物資を輸送する部隊なのです。電がいた鎮守府では完全なシフトが組まれていて、シフトに従って輸送任務を行っていたのです。」

 

 「輸送部隊は、人類の勢力下にある海域にある資源採取地へ行き、資源を持ち帰るのです。これだけ聞くと安全で楽な仕事であるというイメージを持つかもしれないのです。でも、実際は違うのです。」

 

 「自分の背中にあるドラム缶が鎮守府─ひいては地域の明日を左右するということを考えたときの精神面での重圧はものすごいものがあるのです。」

 

 「そして最も怖いのは敵潜水艦の存在なのです。音もなく忍びより、必殺の魚雷を打ち込み去ってゆく…。物資を積んだ重い身体で迫りくる何本もの魚雷を避けることは簡単ではないのです。」

 

 「………今までに何人もの仲間が海の底に消えていったかは、考えたくはないのです。」

 

 

 

 教科書に書かれていたのは大規模作戦による華々しい戦果と、その裏にいた()()の存在についてのみ。電のような輸送船団の話はほとんどなかった。戦線の維持には補給には輸送船団の活躍が不可欠であることはわかりきっているから教科書に明記しなかっただけなのだろうか?

 

 

 

 「何人もの仲間が海の底に消えていったかの話は実は()()()大事ではないのです。私が見たのはもっと恐ろしいナニカなのです。」

 

 「さて、あなたは深海棲艦との戦いにおける人類側の海域奪還の過程はわかっていますか?」

 

 「ここに地図を用意したのです。見ればわかると思うのです。大規模作戦が行われた頃の人類が取り返した海域の特徴が。」

 

 

 

 電の話したその一文を読んだ途端、僕ははっとした。()()()だ。人類がどのようにして海を取り返したのかは地図とともに教科書に載っている。当然僕は地図の内容は頭に入っているから分かった。まさに点と線。人類は極一部の海域を突き進む形で深海棲艦を打破していたのだ。

 

 

 

 「わかりますか?人類の取り返した海域の細長さ─補給線の()()()を」

 

 「細長い補給線は断ち切られやすいのです。でも、補給線が断ち切られれば戦線の構築は不可能になるのです。敵を打破するための主力艦隊が前線にいる以上、補給線の維持は私たちが行う他なかったのです。」

 

 「そして、補給線を維持するために慣れない外国にいるなかで、何人もの()が散ってゆくのを見たのです…」

 

 「でも、やはり1番恐ろしかったのは人間なのです。」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 「『解放された!』と言って喜んでいた地元の人も、裏では全く違う人だったのです。」

 

 「深海棲艦によってこれまでの文化が突然壊された状況において、やってくるのは混乱、そして無秩序なのです……」

 

 「そして何よりも、人々は飢えていたのです。そんななかで戦線の構築のために少ない資源を持っていかれる…、このことは人々に死ねと言っているようなものなのです……」

 

 「でも、慣れない外洋を行きながら、辿り着いた陸地で見た人々の顔が明るくなるのは、それはそれはきれいなのです…。電も嬉しくなるのです。でも、でも、その人たちから搾り取らなくてはならないのです!」

 

 

 

 搾り取るという表現を電がした以上、解放された土地では搾取が行われていたと考えるのが妥当である。大本営の人間は幽鬼のように海を取り戻すことだけを考え行動していたのだろうか。

 

 

 

 「しかし、慣れというものは恐ろしいもので、次第にそういった光景に慣れてしまったのです。そういった光景というのは─」

 

 僕はこの一文を読まなければ良かったと後悔した。人間追い詰められれば何でもやるとは思っていたが、これは想像の遥か斜め上をいっている。それほどまでに当時の戦争が非日常であり、極限の生活を強いられたのかがよく分かった。

 何よりも、電が話しているのが印象的である。電と言えば癒やし系の存在。負の面など微塵も感じられないような性格であるはずの彼女があのようなことを語るというのは………、相当に惨い(むごい)光景を何度も見ていたはずだ。

 

 

 「深海棲艦との戦争において轟沈した艦娘は約17万。その多くは戦争の初期に消えていったのですが、輸送作戦に従事した艦娘だけはいつまでも轟沈率は変わらなかったのです。それだけ……大本営は輸送という存在を甘くみていたのです。」

 

 「潜水艦の存在が最も怖いと言いましたが、もう一つ怖いものがあったのを思い出したのです。」

 

 「それは夕食の時間なのです。」

 

 「朝食時に食堂で笑い合っていた仲間が夕方にはいなくなっている。そんなことも多々あったのです。最初の頃こそお通夜のような雰囲気になっていたものなのですが、慣れとはやはり恐ろしいものでいつしか誰もが当たり前に受け止めてました。むしろ、経験の浅い艦娘への学習と見ていた艦娘もいたようなのです。」

 

 「電が食堂の話で最も覚えているのは響ちゃんなのです。」

 

 「ある夏の日、朝の食堂で響ちゃんがこういったのです。『ねぇ、こんなに暑い中を私たちは汗水垂らして頑張ってるのにアイスの1つもないなんておかしくないかい?』と。響ちゃんは冗談で言ったのでしょう、食堂にいた皆が大笑いしたのです。私も笑ったのです。この日は電は休みの日だったのでゆっくりしていたのですが、夕方に食堂に入ると全員分のアイスが用意されていたのです。朝の響ちゃんの言葉を聞いた伊良湖さんと間宮さんが頑張って用意してくれたものだったのです。皆色めき立っていたのです。」

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「響ちゃんの席に置かれたアイスには誰も手を付けようとしなかったのです。でもそれもいつしか当たり前の光景になったのです。」

 

 「そして電はこの日を境に気づいたのです。これは紛れもなく()()なのだと。お互いを殺し合うものなのだと。できれば深海棲艦を助けてあげたいなどいう、()()()()は捨てるべきなのだと。」

 

 

 

 電の残した有名な言葉に、「戦争には勝ちたいけど、命は救いたいって…おかしいですか?」というものがある。

 これは電が戦いのあとに提督に向けてポツリと放った一言だといわれている。この言葉、さらに容姿からもわかる通り、電は常に戦争と平和について考えている艦娘であることがわかる。

 だがこの電は違う。敵である、深海棲艦について考えることを()()だとして切り捨てた。深海棲艦は、紛れもない()だとしたのだ。

 ヒトは敵という存在を自然界では発生しないとても醜悪で、改心できないモノだと仮定するという考えがある。

 艦娘にヒトと同じ説を当てはめるのはいささかおかしいとは思うが、この電の考えはたしかにこの説に沿った考えであると認めざるを得なかった。

 

 

 

 「あぁそうでした。なんでこの話をするのを忘れていたのでしょう。」

 

 「電が最も生きていると実感する瞬間もまた、食堂で友と語り合う時間なのです。温かいご飯を食べ、身体が満腹感で満たされるとき、今日一日を生きたのだと、明日も頑張ろうと、思うのです。」

 

「特にカレーはおいしかったのです。電の鎮守府ではカレーのみは各艦娘が持ち回りでオリジナルカレーをつくっていたのです。金剛さんがドロドロのスープカレーをつくる日もあれば、長門さんが見かけによらないとても甘口のカレーをつくるときもあったのです。」

 

 

 

 「電から言いたいことはただ一つなのです。それは、()()()()()()()()ということなのです。」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 話はここで終わっていた。予想をはるかに超える重苦しい内容だったとともに、戦争がもたらす狂気を垣間見ることができたと感じた。

 

 対深海棲艦との戦争における轟沈した艦娘の数は約17万。そのうちの半数以上は駆逐艦だとされている。電は戦争の初期のころに多くの艦娘は轟沈しているといっていたが、耐久力が少ないことを考慮しても駆逐艦の轟沈数が多すぎないだろうか。輸送作戦以外にも駆逐艦が沈む要素はあったのではないか。

 

 そんなことを考えていると下から親のご飯だと呼ぶ声といい匂いが漂ってきた。今日はカレーだな。金剛や長門がつくったようなカレーに思いを馳せて食べよう、そう思いながら僕は本を閉じて部屋を出ていった。




 かなり忙しかったために1ヶ月以上間があいてしまいました。なるべくはやく次話を投稿できるよう努力します。
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