「記憶」 〜戦争体験者の言葉〜   作:マッポ

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Episode3 高平提督 「十字架」

 

 「海軍元帥、高平だ。今日はよろしく頼む。」

 

 

 

 食事の後、寝るまで時間があったので本の続きを読もうとして頁をめくってとても驚いた。とんでもないビックネームがでてきたからだ。

 

 高平岳(たかひらがく)、海軍元帥。日本の守りの要である横須賀鎮守府の長にして「修羅」と呼ばれるほどの苛烈な攻めによって深海棲艦を打破し、戦争を人類の勝利に導いた男。

暁の守護者】と呼ばれ、もうひとりの英雄、神島中将とともに最も有名な軍人の一人とされている。

 

 彼に関する記述は戦果以外にほとんど残っておらず、彼の人間性や容姿を知るものは横須賀鎮守府所属の艦娘以外にいないとされた。

 そんな彼が話す内容に僕の知的好奇心はこの日の最大値を示した。一体どんな内容を話すのだろうか。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 「最も心に残った戦い?…………それはあの戦い以外にないだろう。」

 

 「神通を失くしてしまった…あの戦いだ。」

 

 高平元帥は数々の戦いにおいて轟沈艦をたったの1隻しか出さなかったという伝説があるのだが、彼が失った唯一の艦娘がケッコン艦でもあった神通だった。

 

 「あのとき…神通のまだ行けるという声を信じなければ、神通の轟沈は免れたかもしれない。だが、神通の特攻なくしてあの海域での勝利はなかった。」

 

 「今でも神通の『私は私の戦いをするだけです』という言葉が耳に染みついて離れないんだ…」

 

 神通が轟沈した戦いは、世間一般において「第二次レイテ沖海戦」と呼ばれるものだ。

 この戦いでは深海鶴棲姫を主力とする敵の大規模部隊を撃破。一時的に世界中の海で深海棲艦の活動が見られなくなり、人類はつかの間の平和を享受したとされている。

 第二次レイテ沖海戦後のつかの間の平和期間は「源の春」と呼ばれている。

 この期間が過ぎ去った以後約1,2ヶ月は世界各地で同時多発的に深海棲艦の大攻勢が始まり(第二次海洋危機と呼ばれる)、人類は再び深海棲艦との戦いに身をおくこととなるのだった。

 

 「だが、その戦いはさほど重要ではない。私が話さなくてはならないのはもっと別のものだ。」

 

 「今まで明らかにされてなかったことだし、話を聞いている君も驚くだろう。」

 

 

 

 

 

 「()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Episode3 「十字架」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「見た目は人間だが、私の内面は別のナニカに変わってしまったのだよ。」

 

 「大本営は戦史の一部を()()しているから明らかになっていないだけで、都市伝説となっている陸海同時作戦は何度も行われている。」

 

 「深海棲艦のなかには陸上に拠点を構える所謂『基地型』と呼ばれる個体もいる。そういった深海棲艦は艦娘たちで十分対処可能なのだが、侵食された()()はそうはいかない。」

 

 「深海棲艦たちが構築した防御陣地が幾重にも張り巡らされているのもザラだったな。」

 

「陸軍はその防御陣地の破壊が役目だった。ちなみに彼らは生身で陣地に突っ込むから、一回の戦闘での生存率は20%前後、生存しても土地の瘴気にあてられて精神を病んだりするケールが後をたたなかったから陸軍の消耗は激しかった。」

 

 

 

 ふむ、陸海同時作戦とか土地の瘴気とか聞き慣れない言葉が出てきたから整理しよう。

 陸海同時作戦とは陸軍と海軍が深海棲艦の撃破のために共同で作戦をとることであり、かつての陸海軍の不仲さと戦線の情報が民間にほとんど出回らなかったために都市伝説とされているものだ。僕も都市伝説だと思っていたから大きな驚きだったし、知ってはいけないものを知ってしまったという思いも湧き出てきた。

 土地の瘴気、これはわからない。深海棲艦が占領した土地は毒ガスのようなものでも漂っているのだろうか。

 

 

 

 「土地の瘴気というのは私はおそらく深海棲艦の()ではないかと思っている。」

 

 「基地型深海棲艦撃破作戦から帰還した陸軍兵士に聞き取りを何度も行っていてな、大方おなじような回答を得られてるよ。」

 

 「曰く、深海棲艦の占領区域に一歩踏み入れた途端に身体がズシリと重くなる感覚がおこり、外部から自分を圧し潰すような圧力が加わるような感覚を覚えたものもいるようだ。」

 

 「他には圧迫感、恐怖心などのさまざまな負の感情が流れ込んできて発狂するものもいるそうだ。まぁ深海棲艦の影響下にある海域が紅く染まるように,深海棲艦の影響下にある土地が何らかの影響を受けても何もおかしくはない。」

 

 「学者のなかには深海棲艦の占領区域内は謂わば異世界で、完全に深海棲艦の持つ死生観─まぁ、感情だな、によって支配されているとする主張をするものもいたが、私も似た考えだ。」

 

 「…少し話が逸れてしまったな。戦闘では少なからず犠牲がでる。海では艦娘が戦うし、よっぽどひどい()()や、奇襲をうけて何も対応できずにいるくらいでしか、轟沈はありえないからこちらは考えるのが楽………いや、()()するんだな。」

 

 「中破・大破した艦娘は高速修復剤(バケツ)を使えばあっという間に戦線に復帰できるし、弾薬や鉄を始めとする資源も輸送組をフル活用すれば貯蔵量の上限まで貯まる。」

 

 「………なんというか、私はこの深海棲艦との戦いがゲームのようでならなかったんだ。深海棲艦はある一定の期間で大規模侵攻を仕掛けてくるからそれまでの間に資源は貯めておけばいいし、艦娘の練度上げもできる。そして深海棲艦はあれほど圧倒的な能力を持ちながらも出現した場所からそれ以上の侵攻をしない。」

 

 「何よりも……特効艦の存在もあった。海の意志といえばそれまでだが、海から産まれた深海棲艦を倒すために海が力を我々に貸すのか?人類はここ数百年の間に海を汚し続けたのにだぞ?」

 

 「…だから私は、この深海棲艦との戦いがゲームのようでならなかったんだ。」

 

 「私は艦娘の運用について触れたが、あくまでこれは艦娘の話だ。艦娘は人にあらず。バケツ(高速修復剤)をかければあれほど痛々しい傷が治ってしまうように、艦娘は人智を超えたナニカだ。」

 

 「つまるところ、彼女たちに常識は通用しない。そしてそれは時に大きなズレとなって私の前に立ちはだかるのだ。」

 

 「轟沈─人的資源の損失を考える必要がなく、資源と休養があれば半永久的な活動を続けられる彼女たちと、1つの戦いのたびに多くの命が散っていくヒトは全くの別物だ。長く指揮を執るうちに、私はこの2つを同じものとしてでしか見れなくなってしまった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 「今日の海戦では〇〇がどのくらいの損失を受けた、〇〇は資源を食わないからドッグ、〇〇はバケツ使ってもう一度出撃…といった具合で淡々と()()を続けているうちに、いつしかそれが日常となった。」

 

 「人がどれだけ死のうと、資源がどれだけ失われようと、艦娘がいくら沈もうと、深海棲艦を倒せばいい。そういった考えになってしまったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そしてその最たるものが、()()だ。」

 

 

 

 

 

 「は………?えっ…?」

 

 思わず変な声が出てしまった。特攻、特攻だ。何度読み返しても特攻の二文字しか目に入ってこない。

 高平元帥のあの伝説は嘘だというのか?

 

 

 

 「まぁ、正確にはデコイというべきかな。練度の低い駆逐艦の艦娘を戦線の最前線に送り込み、主力艦の盾として使うんだ。当然のことながら練度の低い艦娘が幾重から迫りくる砲弾を避けきれるわけがないし、中破・大破は当たり前だ。」

 

 「たが例え大破になろうと進撃するところが特攻と呼ばれる所以だろうな。万全の状態であっても轟沈する可能性のある艦娘が大破した状態で進撃すれば9割方沈むさ。それを平然と私は行っていた。」

 

 「深海棲艦の戦争初期から戦線を維持してきた私だから、轟沈が1隻というのは真っ赤な嘘だ。特に戦争初期にはどのくらいのダメージを受けたら艦娘は沈むのかや、資源無補給での継戦能力の検証など、実験という名の拷問じみた行為を繰り返した。」

 

 「今でも沈んでいった艦娘達の顔と名前と沈んだ場所は全て覚えている。とんでもなく傲慢な態度だとわかっているが、私が彼女たちがたしかにここ(現世)に在ったのだと覚えていることが供養になると思っている。」

 

「謂わばな、私は虚像(生贄の子羊)なのだ。私のあげた戦果とその裏にある優れた艦隊運用という作られた情報によって国民は麻痺し、私を英雄として崇める。」

 

 「いつしか高平岳という人間の()()()()()()()が完成するわけだ。…民衆の声は無視できない。そのことは歴史が証明しているからな、大本営もさぞ焦っただろうよ。」

 

 「大体、全ての艦隊運用を完璧にこなせる者なぞいないのだ。たしかに私は水雷戦隊の運用は得意だった。だがそれも高い練度を持つ艦娘だからこそできたことだし、空母の運用は加賀やサラトガに任せていた。戦艦なんて以ての外だ、武蔵に丸投げだったよ。」

 

 「そんな私でも、国を守っていると思う瞬間はあったんだ。官報で國の盾とはやしたてられてもあまり実感は湧かなかったのだが、戦後すぐに子供から言われた『ありがとう!』の声で国を守ることの意味を知ったんだ。」

 

 「それは一人一人の小さな幸せを守ることだ。それらが積み重なって、大きな影となる。あまりにも大きすぎるが故にどのようなものか掴みきれてなかったのだ。」

 

 

 

 「最近やけに疲れが溜まる。身体の衰えを実感しているよ。もう海軍の表舞台からは退場したし、この世界からも退場する(とき)が近づいているのかもしれない。」

 

 「何れにせよ、過去の人間は去っていくのみだ。」

 

 「あぁ、そうだ。最後に一つ伝えたいことがあったんだ。」

 

 「私が伝えたいことはただ一つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十字架を背負うのは()だけでいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 身体中から冷や汗が止まらない。高平岳という男の全てが崩れ去ってく音がする。

 教科書や戦史館でのあの輝かしい偉業の説明は嘘だったのか?

 

 

 

 いや,待て。1つだけ不自然なことがある。高平元帥は自らの残した戦績は()()されていると話した。

 もし世の中の人々が触れている情報が嘘に塗り固められたものだったとしたら?もしそうだとしたら大本営が未だに情報をひた隠しにする理由は何なのか?僕の頭の中はこんな考えが渦巻いていたが,ただ一つわかっていたことはあった。

 

 

 それはいつだって民衆の声は無視できないということだ。もはや自明であるこのことは,歴史を見たときにまるで悪魔のように人間を死に追いやる。それは近代史を見れば尚顕著だ。

 

 

 戦後50年という月日の中で人々は艦娘と,深海棲艦,はては戦争があったことすらを忘れている者もいる。

 

 情報開示をしようとしない大本営の目的は何なのだろうか?だとしたらこの本を僕に渡した雪乃おばあちゃんと軍関係者を名乗る女性たちはどんな目的・理由があったのか。

 

 僕の頭の中はすっかりショートしてしまい,高平元帥の話のとても大事な部分をすっかり見落としてしまったのだった。

 

 

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