「記憶」 〜戦争体験者の言葉〜 作:マッポ
謎の女の子、響や瑞希さんとの会話だったりと濃密だった一日は早くに過ぎ去っていった...否、正確には記憶が残っていない。
昨日は帰宅してからすぐに眠ってしまったらしい、昨日着ていた服がシワになっている。時計を見ると11時35分あたりであった。
幸いにも今日も休みであるからゆっくりできる。親はどちらも仕事に出ているので一人で朝食兼昼食を食べテレビをつける。この時間は大抵どうでもいいワイドナショーがやっている。テレビをつけてしまったことを後悔しながらも大本営幹部の汚職事件を報じる番組を見た。
「どうせ核心を突く前にCMが入るか核心は突けないんだろうな…」案の定CMが入る。なんだか馬鹿馬鹿しくなってテレビを消した。
『退屈』僕の心を支配する感情はまさしくこれであった。かといって勉強はする気にならないし眠気もない。しかし外で何かをしようとする気にもなれない。
「こんな感じで休日を無駄にするんだな~」そんな独り言は壁に吸い込まれて消えた。
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時計を見ると15時27分だった。なんか勉強のやる気も切れた、休憩しようかと思った矢先に例の本が目に入る。前回見たときには英雄と謳われた高平元帥が「
戦線で戦ったとされる艦娘の数は少なくとも150種以上でその総数は700万はくだらないとされる。それほど多くの艦娘たちが戦ったこの戦争には、多くの美談もあれば目を覆いたくなるような悲惨な話もある。しかしこれらの話すべてに関係するのはまさしく「提督」という存在であり、艦娘と提督との絆という存在の重要性を示唆している。
世の中を流れる艦娘についての話は多くが美談で、悲しい話というのはほぼ存在しないと言っていい。
しかし雪乃おばあちゃん家の前で出会った女の人2人が言っていたことは、「現実から目を背けるな」といううものだった。正直これまで読んできた3つの話だけでかなりキツイ...読むのを辞めてしまおうかともおもった。
しかしそれはあの金髪のポイポイウーマン*1に笑われながら、「だから言ったっぽい。現実は想像の遥か斜め上を行くって。まだちょっとしか読んでないのに逃げ出すなんてチョーダサいっぽい!」と言われそうなので意地でも耐える。
案外どうでもいいことを考えると心は楽になる...そう思いながら僕は頁をめくった。
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「軽空母、祥鳳です。今日はよろしくお願いします。」
「今日は...戦いの中で最も印象に残ったことをお話しするんですよね?事前に話は聞いていたんですがどうもまとまらなくて…」
「あ、いいんですか?ありがとうございます。それじゃあ順番に話していこうと思います。」
肩の力を抜けとでも、話がまとまってなくてもいいとインタビュアーが言ったのだろうか、妙な受け答えが描写されている。
「私たち艦娘は...どのようにして生まれたのか、実は自分たちでもわかっていないんです。ただ私の記憶にあるのは、いつのまにかどこか知らないところに立っていて、びっくりしたような顔をする白い軍服を着た男の人と、それに付き添うようにしていた少女─後に吹雪だとわかり私が生まれた(?)のは建造によるものだとわかりました…がいたんです。」
「何一つわからない状態でしたが、自分が『軽空母 祥鳳』であることと目の前の男性に名乗らなければならないことは直感で理解しました。それが私の持つ最も古い記憶です。」
「私の所属した鎮守府の数はざっと15くらいで私が建造された鎮守府は横須賀です。当時の横須賀は大本営も一緒だったので私の最初の所属は大本営なんです。建造されたての私はこのたった漢字三文字の持つ意味を理解していませんでした。」
「大本営という存在がどれだけ艦娘を縛るのか、全くわからなかったんです。」
「最初にそれを感じたのは建造されてから大体4日程経った頃...偶然提督室で吹雪さんと提督の話を聞いてしまった時でした。」
「私が建造されたのは戦争の初期も初期『建造』技術が確立されたばかりの頃で大本営が艦娘の実力を信じていない頃でした…大本営が戦争当初は艦娘の力を信じていなかった話は有名ですが、実際のところは何回か試験的に戦線に実戦投入されています。」
「しかしこの実戦投入が上手くいかなかったことが大本営の艦娘の力に対する不信感につながり艦娘の日本各地への配備が遅れ、結果として日本近海の制海権の喪失という事態を招きました。しかし大本営は艦娘を運用する上での大事な要素を計算に入れていなかったんです。」
「それが『提督』という存在。艦娘を指揮し深海棲艦を撃滅させる存在...その重要性に気付けなかったことで大きな被害を被ったのです。そして私が聞いた話はちょうどそんな内容でした。」
「その内容は...当時進められていた作戦『南1号作戦』への艦娘の投入でした。作戦海域である南西諸島沖の海域(大本営は南西諸島防衛線と呼んだ)を敵勢力から取り返すことでしたが、敵空母が海域に跋扈していたことで苦戦を強いられていたのです。」
「深海棲艦への有効な対抗手段を持っていなかったところにふっと湧いてでた空母。利用しない手はありませんよね?」
「こうして私は十分な演習もできないままにいきなり作戦海域へと放り込まれ深海棲艦と相対することになります。といってもその出撃では今まで散々接敵してきた空母は出てこず、しいて言えば戦艦ル級の砲撃によって同じ艦隊の吹雪が中破しただけでした。空母なんて出てこないじゃないかと思った矢先、ソレは現れました。」
「空母ヲ級。今まで聞いてきた軽母ヌ級とはわけの違う、
「さて戦闘のほうですが、あれは戦術的勝利と言っていいでしょう。私含めた5隻が大破、中破が1隻。艦隊の継戦能力はなくなっていました。もしあの戦いの後に再び深海棲艦が出てきていたら艦隊は壊滅しているはずです。相手艦隊の損害は空母ヲ級、軽母ヌ級、駆逐ロ級1が轟沈。駆逐ロ級1が中破。重巡リ級、軽巡ヘ級は健在でした。私たちからすれば“七分の勝利”でしたが大本営は敵航空戦力を撃滅できたとして大々的に報じました。」
「この戦いによって艦娘の有効性が認められ法整備が進み、横須賀、呉、舞鶴、佐世保に鎮守府がおかれ本格的に艦娘の実戦投入が始まりましたが私は大本営所属のままでした。正直さっさと立ち去りたかったのですが大本営にいなければ得られなかったこともたくさんありました。いくつかご紹介しましょう。」
「まず第一に大本営は艦娘や艦娘の兵装の
「二つ目。これは大本営の人間はクズばかりということですね。これは自明であるから説明も必要ないでしょう。」
「私が大本営に所属していたのは約2年程でしたでしょうか...新設される鎮守府への異動が決まったんです。ここから私の鎮守府巡りの旅の始まりです。」
「最初に異動したのは潮岬鎮守府。本州最南端に当たるこの場所は呉鎮守府と横須賀鎮守府を結ぶ大体中間地点にあたりどうしても守りの手が薄くなってしまう海域でした。両鎮守府の負担軽減の意図もあったのでしょう、建設されることの決まった鎮守府に私は異動しました。ここでの日々が最高でしたかね…」
「そこで出会った提督...名前がもう思い出せないことが悔やまれます...もう亡くなっているかもしれませんがいい方でした。潮岬鎮守府の一員としての私の戦果は欧州開通ですね…あの頃は…輝いていた。」
「潮岬鎮守府の提督はこの戦績が評価されヨーロッパにおかれた大本営の出張機関─実際は欧州鎮守府と名前を変えほぼ独立状態だったようですが、に異動が決まりヨーロッパへと旅立ちました。たしか由良をはじめ雪風や北上、飛竜・蒼龍、伊58などと海外艦はついていったはずです。私も空母が少なければ行けたはずなんですがね…」
「さてこの欧州開通という戦果は私にも変化をもたらしました。海外に建設された泊地への異動です。当時の南方戦線は地獄絵図で、倒しても倒しても深海棲艦が湧き出てくるという有様でした。そんな中で銃後(このころの日本近海の制海権は完全に掌握し日本国内の鎮守府はもっぱら特別作戦時にのみ機能しているような状態だった)に経験豊富な艦娘がいるとなれば前線からすれば喉から手が出るほど欲しい。しかも潮岬鎮守府は提督不在。私は異動が決まりました。」
「異動先の泊地の提督は艦娘兵器派の人物で、日々あげられる戦果に艦娘の轟沈はつきものでした。毎日建造される艦娘のほとんどが主力艦たちの
「彼女が大酒飲みということは知っていますよね?酒は金がかかる。しかもあの隼鷹は酒癖も悪かった。一時期は戦力構想の中にいたようだが今ではすっかりと盾役になっている彼女とはよく飲んだものです。」
「彼女は飲んだくれだったしろくな話は聞けないだろうと思っていましたが、全然そんなことは無かった。むしろあの地獄のような戦場にいることを忘れさせてくれるような素晴らしい内容ばかりでした。」
「でもね…ある日彼女がこうこぼしたんです。『私が酒を飲む理由?そんなの決まってんじゃん。忘れるためだよ、この地獄のような日々をね。どうも私隼鷹はどこに行っても飲んだくれらしいんだが、飲む理由がこんなな
「しかもこの話には後日談があります。隼鷹の話は提督に聞かれていたのです。いや…正確には聞かされたのほうが正しいですね。誰かが提督に密告したようでした。当然提督はこの発言に激怒、隼鷹はより厳しい戦線へと投入され、休みもほとんど与えられずに出撃し、最後は
「奇しくも隼鷹が解体された2週間後に提督は更迭されました。」
「…大分重い話でしたね。そうそう、私はこの時期から酒が好きになりました。祥鳳は酒を嗜むというイメージを持つ方がいらっしゃいますがそれはもしかしたら私のせいかもしれません。ちなみにこの鎮守府は提督の更迭に伴い戦力の再構想がなされ、私はまたしても他の泊地に移ることとなりました。この鎮守府にいたのは約半年…感覚では3か月程でした。」
「私は次の泊地では特筆すべき出来事は特になく普通に作戦に従事し、大本営が新たに設置した『艦娘要望制度』というものによって異動を繰り返すことになりました。」
「この艦娘要望制度は各鎮守府ごとの実力差を均等にする、大型鎮守府で余剰戦力として扱われている優秀な艦娘を戦力として扱えるところに異動させる…という名目のもとにつくられた一見するとよい制度に見えますがここでも大本営の無能っぷりが出ていました。」
「艦娘には実力差があります。これは自明です。しかしそれは練度によってある程度は補える、しかしある程度です。旧型の戦闘機が新型戦闘機に性能面で劣るように、同じ艦種であっても艦ごとに歴然とした能力の差があったのです。余剰戦力というのは使う機会がないのではなく、そうなりえる明確な理由があるのです。大本営はそこに気付けていませんでした。」
「結果として私は異動を繰り返すこととなります。高練度で経験豊富な空母と大本営の艦娘データベースに打ち込めば私は上位にヒットしますから、多くの提督が私を要求し、使ってみたはいいものの最終的には余剰戦力として数えられ異動することとなる...そんな生活が5年は続いたと思います。時がたちかつて中佐や大佐で若々しさに溢れていた実力ある提督たちが今は少将や中将として特別作戦の指揮を執っていたりするのは面白く、なかには私を覚えている人もいたのでとても感慨深かったものです。」
「さて、本題に入りましょうか。」
「話の舞台はこれまた海外の中堅規模の泊地です。私はここで初めて姉妹艦に会いました…そう、瑞鳳です。瑞鳳は私にいつもべったりでわたしもまた瑞鳳にべったりでした。所属する艦隊こそ違かったものの、部屋は同じで生活のほとんどは瑞鳳と共にあったといっていいでしょう。」
「事件が起きたのは、秋も終わりもうそろそろ冬かという頃でした。」
「突如、大量の深海棲艦が出現したのです」
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「最初はたまにある深海棲艦の艦隊の出現がたまたま同時に重なったものだと誰もが考えていました。提督はいつものように艦隊に出撃を指示。しかし念のためいつもより艦隊数を増やしての出撃でした。私は最初の出撃では鎮守府待機の命だったため鎮守府にいました。」
「異変が起きたのは艦隊が出撃してから約40分が経った頃でした。突如鎮守府の緊急放送が鳴り響いたんです。」
『深海棲艦鎮圧のために向かった艦隊より支援要請あり!第3、第4艦隊は出撃せよ!』
「放送はこのようなものでした。出撃していたのは鎮守府内でも特に練度の高い艦娘が所属する第1、第2艦隊です。彼女たちが束になっても勝てない深海棲艦はほぼおらず、私たちの間には衝撃が走りました。そして私の中では二つの仮説が導き出されました。」
「一つはレーダーに表示されている数以上の深海棲艦が出現していること。もう一つは彼女たちでも太刀打ちできないほどの深海棲艦が出現したかです。しかしこの場合はどちらもでした。」
「支援要請を受けて向かった海域で見たのは海を埋め尽くすほどの異形の数々…優に100は超える深海棲艦の大艦隊でした。そしてその中心にいたのは戦艦水鬼…その改装済み個体でした。」
「私が戦ったこの戦いが皆さんが俗に言う第2次レイテ沖海戦の幕開け…その序章でした。」
「これからお話しすることは私が見た
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「…海を埋め尽くす深海棲艦以上にの目に鮮明に映ったのは大破・中破してもなお戦い続ける艦娘と空を埋め尽くす敵方の艦載機でした。」
「おそらく直感でここで食い止めなければ取り返しのつかないことになるとわかっていたのでしょう、あの場にいた全員が一所懸命に戦いました。」
「しかし戦場というものは残酷なもので多数に無勢であっという間に艦隊は壊滅。撤退を繰り返しながら戦うことになります。」
「もう何度潜り抜けたかわからない魚雷の波や砲弾の雨あられの中を進んでいく中で、私とリンク*2が繋がっている機体の数もどんどん少なくなっていき、同時に周りに見えていた艦娘の数も徐々に減っていきました。」
「おそらく40分はたったかと思う頃、ほんの数秒、敵の攻撃が止んで周りを見れた時があったんです。」
「そのときに見えたのは最初は20を超える数がいたはずの艦娘が8と、依然として波のように迫りくる大量の異形の姿でした…」
「そしてそこにいた艦娘に瑞鳳はいました。向こうは私に気付いていないようでしたが、その姿は出血もあって非常に痛々しいものでした。」
「そして再び攻撃が始まり大きな水しぶきが立ちながら誰かの『このまま生き残って鎮守府に帰るぞ!』という声に励まされながら再び撤退を始めたのでした」
「このときの時点で鎮守府までの距離は約4.3海里(約8㎞)。ここからがさらなる地獄が始まりました。」
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「8㎞という距離は普段なら全く問題のない距離です。しかし海面には魚雷が滑ってきていて空からは敵戦闘機から投下された爆弾の雨あられ。鎮守府まであと2海里という頃には艦娘は私と瑞鳳、武蔵、長良、夕立と金剛のみでした。」
「そして、鎮守府の位置する湾内へと進入したとき、悪夢は訪れました。」
「
「結論から話しましょう。瑞鳳は沈みました。私の目の前で。鎮守府の目の前で。武蔵の後ろを航行していたせいで武蔵が回避行動をとった際に生じた波に煽られたのが原因でした。この突然の襲撃によって瑞鳳と長良が轟沈。残った私たちは這う這うの体で鎮守府へ逃げ帰り、フィリピン壊滅の4日間を過ごしたのでした。*3」
「鎮守府に戻った私たちは提督から管轄地域(フィリピン)全体が深海棲艦の猛攻にさらされており休む暇はないこと。深海棲艦の勢力が掴めていないことから戦闘詳報を早めに出してほしい旨を伝えられました。おそらく鎮守府海域が深海棲艦によって封鎖されていなかったら私はここにいなかったでしょう。その後約1週間後に友軍によって鎮守府は解放されました。」
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「ちなみに私はこの第二次レイテ沖海戦で深海鶴棲姫を撃破した戦いにも敵旗艦艦隊前の露払いの戦いに参加しています。そのときに右目を欠損して…
「それと気づいたかもしれませんが私の艦娘識別番号は
「私以外の二ケタで知っているのは...記憶にある限りでは横須賀の加賀でしょうか...今生きているかはともかく一定数死線を超えたと言っていいくらいの艦娘がいます。私はわかりませんが。」
「さて、大分長くなってしまいましたが私の話はここで終わりです。少し最後が味気ないものとなってしまいましたが...」
「最後に一つ、お伝えしましょう。心というのはいわば
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気付けば日は沈んでいた。冬の陽は短いと思いつつ祥鳳の言葉を考えてみる。祥鳳はこころを器と表した。そしてそれは二度と戻らないと。
「戻らない時間...かぁ。」そう呟いた僕の声は外で荒々しく吹く北風にかき消されたのだった。
・この話に出てくる祥鳳は通常じゃ考えられないほどの場数を踏んだために艦載機の妖精さんの練度はおかしなことにっており、姫級3体くらいなら軽くいなすほどです。他にも運だったりが恐ろしく良かったりとあらゆるパラメーターが限界突破しています。この世界で艦娘識別番号二ケタというのはまさに人外です。