「記憶」 〜戦争体験者の言葉〜 作:マッポ
AL/MI諸島攻略後も主戦力として戦い続けた私と赤城さんはいつしか他の艦娘に畏怖される存在となっていた。当時の私はそのことが疑問でしかなかったのだが今になって考えると非常に次元の違う世界にいたことが分かる。
大破はおろか中破もしなかったし、当時の技術では不可能だった夜間攻撃だってできたのだ。そのうえ赤城さんに関しては火力もおかしかったから他の艦娘たちが私たちをどこか違った存在として見ていたのも頷ける。
そして私たちの中には「真の一航戦」としての矜持があった。他の鎮守府にいる赤城、加賀など比にならない、別格の存在であるというね。私と赤城さんならば終わりの見えない戦いに終止符を打てるかもしれないと本気で私は考えていた。
そんな私たちの転換点は唐突にやってきた。
「フィリピン壊滅の4日間」
突如出現した深海棲艦の大軍によってわずか一日でフィリピン周辺の鎮守府が機能停止に追い込まれ、それからは絶え間ない攻撃にフィリピン全土がさらされた悪夢の出来事。そして対深海棲艦戦争の転換点となる第二次レイテ沖海戦の幕開け。最初の出来事はそれだった。
当時は横須賀鎮守府に所属していた私と赤城さんは鎮守府内でフィリピン壊滅の旨を聞いた。
フィリピンやインドネシア周辺はゴムやボーキ、石油の産出地であり、日本は勿論のこと周囲の東南アジア諸国にとっても超重要な拠点の一つであった。
当然その守りは盤石でフィリピンには大小40もの鎮守府が設置されていたのである。その鎮守府群の全艦隊がたった1日で壊滅する深海棲艦の軍勢とはいったいどんな規模のものなのか、多くの艦娘は戦々恐々していた。
当時私が記した日記を見つけたから下に記しておくわ。
(フィリピン壊滅の一報から14時間経過)
先んじて出撃した宿毛湾鎮守府の艦隊からの情報によれば深海棲艦は総数をゆうに10000は超えるという過去最大の大艦隊であることがわかった。
また、フィリピン周辺の海域は潜水艦と戦艦を中心に海域封鎖がされており封鎖を解くのは難しいこと、姫級を中心とした艦隊がいくつも確認でき敵首魁は過去類を見ないほどの強さであろうこともわかった。
そして案の定というか当然のことではあったがやはり「術界」が張られているらしい、解放には時間がかかりそうだ。(当時の日記より引用)
術界とは、深海棲艦による海域操作を指す。術界の存在が明らかになったのは第一次ハワイ征討の際に敵主力艦隊となかなか接敵できない、接敵して戦闘が始まるとそこらにいる姫級と同じ個体のはずなのに明らかに強すぎる個体がいるという現象が確認できたからだった。
そこから大本営は懲罰部隊*1などを用いて調査を開始。約2年に及ぶ調査の末に、深海棲艦が海域の空間を何らかの方法を使って捻じ曲げて艦隊の場所にたどり着けないようにしていることや、海の力によって自らの力を増幅させていることが明らかになった。
また、術界を貼る方法は各海域の特定地点に深海棲艦を置くというものということも調査で判明した。
チョークで書かれた円を想像してほしい。円のどこか一か所を足でこすって消したりすると円に綻びが生じて中途半端な図形になるように、術界も特定の位置にいる深海棲艦を倒すことで綻びが生じ、敵首魁までの道が開くようになる。
しかし一度深海棲艦を倒せばよいというわけではなく、何度も深海棲艦を倒して初めて術界に綻びが生じるという感じだった。
現代語っぽく言うと「ギミック」とでもいうのだろうか、とにかく術界の存在は海域攻略の大きな足かせであり大規模作戦において重視されるのは術界を突破する速度であった。
そしてこの話では羅針盤の存在も重要になるのだがここでは割愛させていただくわ。
術界の突破は深海棲艦を
◆◇◆◇◆◇
フィリピン解放戦の作戦要項は
➀水雷戦隊によるフィリピン近海の海域封鎖を行っている敵潜水艦部隊及び水雷戦隊の撃破
②機動部隊による広範囲索敵と同時にアウトレンジ戦法をもって敵機動部隊を叩く
③制空・制海権を奪還したのち大規模艦隊(横須賀・舞鶴鎮守府を主戦力とする)で艦隊決戦を行う…というものだった。
この戦いでは潜水艦を相手にした水雷戦隊を中心に被害が多く出たわ。駆逐艦を中心に轟沈数は150ほど。そこにどれくらい肉壁として使われた娘が含まれているかはわからないけれど大変な激闘であったことは確かだ。私も中破した。
何年ぶりになろうかという中破は私の気持ちを奮い立たせたわ。深海棲艦の数も、敵戦闘機のパイロットの技量もこれまでの比ではない。油断すれば
そして艦隊中が動揺する事態も起きていた。
赤城さんが
フィリピン解放戦はこれ以外に特筆すべきことはないので省略させていただくわ。
◆◇◆◇◆◇
フィリピン解放戦後は当初の想定よりもずっと早く他海域に出現した深海棲艦の掃討は終わったわ。しかしそれでもなおレイテ湾に集結しているとみられる敵首魁の姿と艦隊の規模を掴めることはできていなかったわ。
そしてこのとき威力偵察部隊が編制され艦隊員全滅と引き換えに敵首魁―深海鶴棲姫とそれに付随する部隊の正確な数が判明した。確か姫級が500、flagship級は2000、elite以下は2万くらいの超大規模艦隊だったはずよ。
あれほどの大艦隊を率いていた深海鶴棲姫は敵ながら称賛に値するわ...
さて、敵首魁を討つにあたって一つの問題が起きたわ。深海鶴棲姫のところまで艦隊が辿り着けなかったの。既に命と引き換えの威力偵察で敵本拠地の場所は割れているわ。けれでも艦隊の行き先を示す羅針盤は決して敵本陣を指さなかったの。
羅針盤は妖精さんが動かすもので、その海域にいる艦隊が
羅針盤の指示に逆らうと本来その海域にいないはずの深海棲艦と接敵し艦隊に大きな被害が出たり、渦潮に巻き込まれて艦隊が散り散りになったりするからその指示には必ず従わなければならない…というのは建前で実際はもっと恐ろしい理由が存在するわ。
―
作戦海域は基本的に深海棲艦の勢力下にあるわ。そしてそこでは術界をはじめとして様々な(私たちにとっての)理が通用しない。わかりやすく言えば深海棲艦の勢力下にある場所は
死後の世界から帰ってこれない…それは死を意味するわ。羅針盤―羅針盤妖精たちはそんな不安定な空間の中で比較的安定している方向を示しているの。故にその指示に逆らうことはまさしく自殺行為よ。
個人的に調査を行ってその結論にたどり着いた私含め、大規模作戦に参加できるような提督たちはそのことを知っているからなかなか攻略に踏み出せなかったわけよ。
数日後に事実上の敵首魁と言ってもいい戦艦水鬼の改装済み個体のいる方向を羅針盤が指し示していたことが判明するのは精強と謳われた佐世保鎮守府の主力部隊壊滅の一報が入ってからだったわ...
≪用語・人物解説≫
・懲罰部隊…軍法上で大きな過失を犯した艦娘が強制的に収容された部隊(鎮守府)。主に遂行不可能と思われる海域に捨て駒的に投入されたり大規模作戦時に生還の望みのない偵察任務に従事する。所属する艦娘の中には元居た鎮守府の提督の怒りを買ってでっち上げの罪で送還されたものもおり、その実態は悲惨である。
・フィリピン解放戦…祥鳳の話に詳細がある、第二次レイテ沖海戦の前哨戦ともいえる戦い。本文中の明記はないがフィリピンへの侵攻を命じた戦艦水鬼と、この話の最後に出てくる戦艦水鬼は同個体であり、フィリピン解放戦の際にはうまく逃げおおせていたようだ。