「ごめんね、ヒロ………、きちんとした部屋が用意できなくて………」
俺が食事をしている間、部屋を準備してくれていた様子のジュレ。
フロスとの会話を終え、食堂を出た所でバッタリと出会い、そのまま男子寮へと案内される。
白兎と共に男子寮への2階に昇り、
今日の寝床と示されたのが、
廊下の隅の物置部屋らしき空間。
幅1.5m、奥行き3m。
3畳より少し狭い感じ?
物置とすればこんなもの。
個室と言われたら狭すぎるけれど……
だが、今の俺は未だ何の成果もあげていないタダ飯喰らい。
贅沢を言っていられる身分でもないのは自覚している。
「本当にごめん! 明日にはきちんとした部屋を用意するから……」
「ハハハハ……、まあ、大丈夫。ちょっと秘密基地みたいで面白そう」
中へと入って周囲をキョロキョロ。
白兎も俺に倣って耳と首をフリフリ。
カプセルホテルと比べたら広いスペース。
元々、荷物もほとんど無いから横になって寝るだけなら十分。
一応、布団らしき寝具を敷いてくれている。
厚みは薄いが汚れも無く清潔そうに見える。
ジュレが状態の良さそうなモノを選んでくれたのであろう。
寝室と考えればこんなもの。
俺と白兎だけの個室にしてくれるなら不満は無い。
色々、隠し事がある身の上だ。
下手に広い部屋で誰かとルームシェアするよりずっとマシ。
「とりあえず、今日はここで寝ることにするよ。ジュレ、色々と便宜を図ってくれてありがとう」
俺がジュレにお礼を言って、この話はお終い。
最後まで申し訳なさそうな顔のジュレと別れた後、
俺は手に入れた今宵の宿を堪能する為、
敷かれた布団の上のゴロンと寝っ転がる。
心労もあってか、横になっただけで急な眠気が襲ってくる。
「おっと………、イカン。このまま寝てしまうわけにも……」
フルフル
『さっきジュレさんに教わったシャワー室にでも行く?』
俺の枕元で白兎が耳をフルフル。
チョコンと腰を床に下ろした鎮座のポーズで問うてくる。
「そりゃあ、まあ、寝る前に一汗流したいけれど………」
青雲剣の自爆で粉塵塗れ。
目に見える部分は払ったつもりだけど、
髪や服の中に入った細かい塵は水で洗い流すしかない。
「それよりも、この先のことを相談したいんだよなあ」
パタパタ
『この先?』
「ほら? フロスとの話でも出ていただろ? このスラムには他のチームがあるみたいだし……、この『青銅の盾』にずっといるべきか、それとも、もっと待遇が良さそうな他のチームに移籍するか……、雪姫っていう銀髪碧眼の超美少女がいるチームも気になるし………」
ピコピコ
『じゃあ、サラヤって可愛い子がいるチームトルネラはどう?』
「何言っているんだ? フロスの話を聞いていなかったのか? そのチームは女子が不当に男子を搾取しているんだろ? そんなチームに行くわけないぞ」
フル……
『そっか……』
なぜかショボンとした様子の白兎。
俺にチームトルネラへと移籍してほしかったのだろうか?
けれど、そんな宗教団体みたいなチームはお断り。
女子に自慰の回数まで把握されているようなチームに所属するのは御免だ。
「どうしても『青銅の盾』を出ていきたいわけじゃない。でも、この『スラムチームの所属』って、初回の重要な選択肢のような気がするんだよなあ……」
寝転びながら白兎の頭を撫でつつ、
ずっと気になっていた懸念事項を口にする、
選んだチームによってルートが変わるとか?
自身の行く末や目標、ラスボスやヒロインまで、
属したチームよって進み方が変化。
ゲームなら良くあるパターン。
実は選んだルートが難易度激高とか、
バッドエンド一直線とか笑えない。
「俺……、このままでいいのか? このチームにいて大丈夫なのか? ジュレは可愛いけど、俺のヒロインになってくれるのか? 利用するだけ利用されて……とか?」
本人を目の前にすると、そんな疑いなど微塵にも頭に浮かばない。
しかし、こうしたじっくり考えることができる時間を得ると、俺に向けられた好意や笑顔が嘘くさかったように思えてしまう。
パタパタ
『そりゃあ、マスターへのあからさまな好意は打算在りきでしょ。世の中、タダで美少女の好意は買えないと思うよ』
「そうだよなあ~……、やっぱり、そうなんだよなあ~……」
白兎にズバッと真実を突きつけられ、
仰向けになって天井を仰ぐ俺。
「突然、現れた美少女。向こうから声をかけてきてくれて、初めから好感度高め。色々世話を焼いてくれて、こうして寝床の手配までしてくれる………、ネット小説ではありふれているけど、あまりにも都合良すぎるよなあ……」
ジュレに打算があるとすれば、俺がこの世界では貴重な『機械種使い』であり、手頃な戦力として便利だから。
あの、バルークという奴も言っていたように、俺をチーム内に権力争いの『手駒』として使うつもりであろう。
でなければ、特に目立つところも無い俺に、ここまで親切にするのは不自然。
俺が白兎を連れていなければ、見向きもされなかったに違いない。
「ジュレは俺のヒロインじゃなかったか………、はあ~……」
俺の心に満ちるのは落胆。
可愛くて優しくて、無条件に俺を慕ってくれるヒロインなんて現実にはいないのだ。
勝手に期待して、勝手に失望する俺。
自分勝手だと自覚しながら、天井を見上げて大きく溜息。
すると、白兎がそんな俺を諭すように、
耳をフルフル振るって言葉を投げかけてきた。
フルフル
『出会いは誰しもそんなモノ、だよ。偶然と損得が混ざり合った結果。でも、お互い誠意を以って付き合いを続けていけば、そのうち信頼や愛情が積み上がっていく。ソレが人間関係じゃない?』
「う………」
パタパタ
『ジュレさんとは今日出会ったばかりでしょ。その内心はどうであれ、お世話になっているのは事実。今の段階で判断するのは早くない? しかも、いきなり『俺のヒロイン』だとか『ヒロインじゃない』とか……、勝手に決めつけるのは違うと思う。そんな記号で表すんじゃなくて、きちんと彼女自身を見てあげて欲しい』
「はい………」
素直に頷くことしかできない、実に耳に痛い言葉。
俺を思っての言葉だろうが、切れ味鋭く俺の思い上がりを抉ってくる。
この兎、容赦ないな。
言っていることは正論だけど。
「…………まあ、当分はこの『青銅の盾』を頼るしかないのは変わらない。何せ、今の俺は一文無し………って、そう言えば、この世界のお金ってなんだ? 円じゃないよな?」
ふと、浮かび上がった疑問を口にすると、
白兎が耳をピコピコ、俺の疑問に回答。
ピコピコ
『この世界のお金は【マテリアル】だよ。1cmくらいの小さな黒いキューブ状の物体。1個が1マテリアル(1M)って表現されて、1Mがだいたい100円くらいの価値だね』
「『マテリアル』? 確か『物質』とか『材料』って意味だよな?」
フリフリ
『そうだね。ちなみに、この世界のほとんどの機械は【マテリアル】をエネルギーとして動いているからね。当然、機械種も………』
「通貨と燃料を兼ねているのか……、そりゃあ重要物資だな。しかも機械種の燃料でもある、と………、んん? 機械種の燃料ということは、白兎も【マテリアル】で動いているんじゃないのか? 補給は大丈夫か?」
フルフル
『僕はマスターの霊獣と宝貝も兼ねているからね。今の所は大丈夫だよ。でも、余裕ができたら補給してほしいな。マスターから補給されるマテリアルは僕にとってのご馳走だから』
「霊獣と宝貝?」
ピコピコ
『【白仙兎】が宝貝としての名前で、【宝天月迦獣】が霊獣としての名前。マスターから流れ込む仙気や天地に溢れる気をエネルギーにしているの』
「お、おう……、そうか………」
白兎の告白に、俺は言葉に詰まりながらの返事。
色々とツッコミたい所が山盛だが、白兎が謎の存在なのは割と最初から。
本当のことなのか、それとも適当に言っているだけなのかも不明。
勝手に俺の『仙気』とやらを流用しているのは気になるが、
白兎がその忠誠心を俺に向けてくれている間は気にする必要はあるまい。
「何にしても資金………マテリアルの入手が急務だな。仲間の機械種を増やせば、その分の燃料は絶対に必要になるし………」
マテリアルって、どうやって稼ぐのだろうね?
前に白兎が言っていたように、街の外で徘徊する敵対的な機械種……レッドオーダーを狩って、その晶石を換金するのが一番の近道であろうか?
しかし、狩りをするにしても、武器が『青雲剣』一本だけというのは少々心許ない状況。
剣の一振りで衝撃波を発する攻撃系の宝貝だが、その使い手である俺が全くの素人。
超強い白兎が仲間にいるのだけれど、多数の敵に囲まれたらどうなるか分からない。
せめて俺自身の身ぐらいは守れるような銃や防具が欲しい所。
その為にはやはり金……マテリアルがいる。
マテリアルを稼ぐためにもマテリアルがいるのだ。
しかし、我が身は天下無敵の無一文。
果たして袋小路なこの状況、如何にして切り抜けるか、だ。
俺の手元に処分できるようなモノもない。
どこかに金目の物が転がっていないだろうか?
うーん……と悩んだ末、
ふと、チョコンと座ったままの白兎が目に入り、
「なあ、白兎。金……マテリアルになりそうなモノに心当たり無いか?」
何気なく尋ねてみると、
パタパタ
『マテリアルならあるよ』
白兎から意外な返事が返ってきた。