翌朝、俺と白兎はジュレに見送られて『青銅の盾』の事務所を出立。
「ヒロ、行ってらっしゃい」
「ああ、ジュレ。行ってくる。今度こそ、成果を持ち帰って見せるよ!」
昨晩はジュレの内心を色々と邪推していたけど、
このやり取りだけで、そんな考えは吹き飛んでしまう。
正統派美少女の『行ってらっしゃい』の声掛けは、それくらいの高威力。
俺のつまらない疑心なんて一撃粉砕。
我ながら現金なものだけど、俺だって男の子だから仕方ないね。
「うん、期待している……、でも、無理はしないでね」
「えっと………、大丈夫。危なくなったらすぐ逃げるから……、それに白兎もいるし……」
ピコピコ!
『マスターは僕が守るよ! だから安心して!』
「うわあ、白兎ちゃん、やる気満々だね」
白兎の張り切りぶりにジュレは驚く。
聞くところによると、普通、機械種ラビットを含む下位機種はそこまで感情表現が豊かではないらしい。
よほど手をかけて改造を重ねないと、白兎のようなバラエティーに富んだ反応を見せることは無いという。
「頑張ってね! ヒロ、白兎ちゃん」
「おう! 任せとけ!」
パタパタ!
『お土産、期待しておいて!』
俺と白兎が向かうは、この街の近辺にあるというダンジョン。
スラムからでも歩いていける距離であり、
地下3階より下の階が土砂で埋もれていることから、
本職の狩人が寄り付かない初心者向けの狩場らしい。
これは昨日の夜に白兎と話し合った結果。
白兎から手っ取り早く目に見える成果と経験が得られる場所だということを聞き、ダンジョン探索を選択。
荒野を探し回るよりも、ずっとレッドオーダーとの遭遇率が高く、また、宝箱が出現する可能性もあるとのことで、今から俺のテンションは上がりまくり。
「宝箱か~………、まさか実際にこの目で見ることになるのか……」
当たり前だが、宝箱なんて存在、今まで見たことも触ったことも無い。
………いや、漫画やアニメ、ゲームではよく出てくるし、
遊園地でのアトラクションで見たことぐらいはあったかもしれないけれど。
だが、実際にお宝が入った本物の宝箱を手に入れるのは現代日本では不可能。
宝探しなんておとぎ話の中だけのこと。
しかし、これから向かうダンジョンで敵を倒していくと、稀に宝箱が出現することがあるらしい。
果たしてどんなお宝が俺を待ってくれているのか?
今から楽しみでしょうがない。
フルフル
『マスター、言っておくけど、この街のダンジョンは初心者向け。宝箱が出ても中には大したモノは入っていないからね』
「分かっているよ……、でも、ちょっとばかり夢を見てもいいじゃないか」
ピコピコ
『多分、出てきたお宝にガックリするよ。期待が大きい程余計に』
「フン、そうとは限らないだろ。何せ、俺にとっては初宝箱だ。世の中にはビギナーズラックというモノがあってだな……」
隣を歩く白兎と雑談を躱していると、
「んん? あれは………」
通りかかった『青銅の盾』の事務所に隣接する建物。
俺と白兎が昨日泊まった男子寮とは反対側。
おそらくジュレが言っていた女子寮。
その証拠に犬頭の小人型機械種が1機、門の前で番をしている。
あれが『門番』のスキルを投入された機械種コボルトの門番なのであろう。
条件に合致しない侵入者を撃退できるという……
「………執事服? 門番には似合わないなあ」
門番であろう機械種コボルトは、
見るからに高そうな執事服を着こなしていた。
俺が思わずボソッと感想を呟くと、
その青く輝く目をジロリと向けてくる。
「あ、すみません」
あまりの視線の強さに、
ペコリと頭を下げて失礼な物言いを謝罪。
背の高さは小学生くらいであるのに、
醸し出す威圧感が半端ない。
形状からあのバルークが従属させていた機械種コボルドと同機種であろうが、
纏うフォーマルな執事服も相まって、俺が気圧される程の迫力を感じてしまう。
「し、失礼しました!」
ササッと挨拶だけ返して、スゴスゴと早足でその場を去ろうとする俺。
白兎も足を早めて俺を追いかけてくる。
「ひえ、怖!」
声が聞こえないくらいに離れてから、ポツリと呟く。
睨みつけられた時、肝が冷えたのは事実。
睨まれただけで済んだのが御の字と言える。
余計な口は叩かないようにしようと心に刻み、
ホッと息をついて肩を落とす。
すると白兎が耳をフリフリ、横を歩きながら忠告を飛ばしてくる。
フリフリ
『マスター、気をつけて。あの機種、普通じゃないから』
「へ? そりゃあ、執事服を纏った機械種なんて珍しいだろうけど……」
パタパタ
『違う。あの機械種コボルド………、姿を偽っているみたい。多分、その本体は堕天使型だね。幻影じゃなくて機体ごと変化させているのだから、相当な高位機種だ』
「え? 堕天使?」
いきなり白兎から飛び出てきたビックネーム。
ファンタジー系のゲームでも堕天使と言えば、
強キャラが多く、ラスボスも務めるくらいの格がある。
大別すれば、あの有名なルシファーやサタンも堕天使に相当。
弱く見積もっても鬼や巨人、魔獣に匹敵する脅威。
決してスラムで門番をしているようなキャラじゃない。
一つの街を占領していたり、お城の最上階で待ち構えているようなボス級。
「なんでそんな強キャラが門番を務めているんだよ」
小声で白兎へと問いかけると、
ピコピコ
『さあ? でも、門番をしているのだから、『青銅の盾』の誰かが従属させているんだろうね』
「そ、それはジュレとか、リーダーのジュラクとか………」
パタパタ
『それは分からないけど、チームの有力者であるのは間違いないんじゃない』
「えっと……、ジュレ、ジュラク以外のチームの有力者って、俺を勧誘してきたバルークとか、銃マニアっていうザードリ、あとは………」
指を折りながら、フロスに聞いた『青銅の盾』を構成する派閥のリーダーの名前を並べていき、
「あと、確か女性陣のリーダーがいたはず。名前は聞いていなかったけど……」
記憶を探りながら、遠ざかる女子寮を振り返ると……
「え? 誰?」
女子寮の2階の窓から、黒髪の女性が俺を眺めていた。
常人なら顔形の見分けがつかない程の距離だが、闘神スキルを身に宿す俺の視力はかなり遠くまで正確に見通すことができる。
年の頃は17、8歳くらいだろうか。
美しい光沢を放つ長い黒髪。
こちらを冷たく見通すような深緑の瞳。
非の打ち所がない程整った白皙の美貌。
とにかく、俺が今まで見たことが無いような美女。
テレビや映画で出演する女優なんか目じゃない。
まるで絵画の中から抜け出してきた貴婦人。
あるいは神話に登場する女神。
この荒廃したスラムの風景の中で、
彼女だけが別世界の住人のように見えた。
フルフル?
『マスター、どうしたの?』
急に立ちどまった俺に、
白兎が声をかけてくる。
「いや、窓から美女が………あれ? いない………」
白兎へと数秒視線を移した間に、
窓越しに見えた美女はいなくなっていた。
「……………誰だったんだろ? 『青銅の盾』の関係者なのだろうけど……」
パタパタ
『誰かいたの?』
「ああ、もの凄い美女が……、熱っぽい目で俺を見ていてな……、もしかして惚れられたかもしれん」
ピコピコ
『マスター、妄想に浸るのは良くないよ』
「うるせー! ………まあ、熱っぽい目と言うのは嘘だけど」
どちらかというとこちらを冷静に見定めているような目であった。
まるで実験動物を見る研究者のような冷たい目。
しかし、その美貌は最上級!
俺のヒロインに相応しい女性であるのは間違いない!
「帰ったらジュレに………、いや、ここはフロスに聞くか。ブロックを賄賂にしてあの美女の情報を聞き出そう」
ふむ!
また、一つ楽しみができてしまった。
ダンジョン探索でお宝を見つけてジュレを喜ばせ、
フロスに先ほど見た美女の情報を聞き出し、何とか接点を持とう。
未だルートを決めかねている身なのだ。
ここは当面、ジュレと先ほどの美女を並行しての攻略を目指すとしよう!