ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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14話 迷宮

 

 

「ここか? ダンジョンは………」

 

 

 街から歩いて30分少々。

 白兎に案内されて辿り着いたダンジョンがあるという場所。

 

 人工的に作られた巨大な壁が遥か先まで聳え立つ。

 まるで水が抜けてしまったダム跡のような構造。

 

 壁には所々大穴が開いていて、

 どうやらその穴から中に入れるようだが………

 

 

 フルフル

『こっちだよ、マスター』

 

 

 白兎は勝手知ったる場所であるかのように俺を誘導。

 壁に開いた大穴の一つへと導く。

 

 

「中は結構広いな。トラックが通れそう」

 

 フリフリ

『一応、全高10m未満の重量級までなら通れるようになっているよ』

 

「全高10m………って、そんなのいるのか?」

 

 

 森で遭遇したメカ熊が全高7m以上あったように思う。

 あれよりデカいとなると、もはや人間が敵う相手ではないだろう。

 

 

 パタパタ

『前にも言ったと思うけど、山より大きな機械種だっているからね』

 

「山より……ねえ。どうやって戦えば良いんだろ」

 

 

 対抗するならスーパーロボットに搭乗する必要があるな。

 そうなると、もはや俺の『闘神』スキルなど何の役にも立たない。

 

 今後の展開としてありうるのは、操縦できる巨大ロボの入手であろう。

 

 当然、いきなりロボットの操縦なんてできないから、一からの訓練が必須。

 

 座学から始まって、

 何ヶ月もの実施訓練を経て、

 操縦免許の取得を目指すというイベントが始まる………

 

 SFの定番と言えば定番。

 機械が溢れるこの世界であれば十分にあり得る話。

 

 しかしながら現在の境遇では、巨大ロボットの入手なんて夢のまた夢。

 山よりもデカい機械種と出会ったのなら、逃げるしかないのが現状。

 

 

「そんなデカい敵とは出会いたくないな………」

 

 

 俺のモットーは『勝てる相手としか戦わない』だ。

 物語の主人公としては、あるまじき発言だが、俺の本音。

 

 安心・安全第一。

 けれど、儲けるチャンスを逃さない。

 

 この心がけを胸に、俺はこれからダンジョンに挑むのだ!

 

 

 

 ピコピコ

『マスター、どうしたの? 早く入ろうよ』

 

「お、おう………」

 

 

 白兎に促され、ハッと我に返る。

 

 やはり俺も男の子。

 ダンジョンを前に、なかなかに無心ではいられない様子。

 

 

「よし! 行くぞ!」

 

 

 パンパンと自分の頬を叩き、気合を入れてから、

 恐る恐るダンジョンへと足を踏み入れる。

 

 

 そこはコンクリートの壁に囲まれた無機質な世界。

 静寂が支配する沈黙の空間。

 自分の呼吸と音だけがやたら大きく響いているような気がしてくる。

 

 

「随分と明るいんだな………」

 

 

 辺りを見渡しながら初ダンジョンの感想を呟く。

 

 白兎から事前に聞いていたが、

 天井や壁全体が薄く発光しており、

 視界の確保には問題が無い模様。

 

 元々俺には暗視機能があるから真っ暗闇でも大丈夫なのだが……

 

 

 パタパタ

『マスター、もうここは敵地だよ。油断しないで』

 

「ああ、分かった」

 

 

 白兎の言葉に大きく頷き、

 腰に括りつけた鞘から『青雲剣』を引き抜く。

 

 

 鋭く研ぎ澄まされた長さ80cm程の剣身は、

 雲一つ無い青空をそのまま写し取ったような空色一色。

 

 柄にはめ込まれた色違いの4つの宝玉がキラリと輝き、

 神秘的な印象を振り巻く。

 

 これぞ、仙人が保有すると言われる秘密兵器『宝貝』。

 『封神演義』にて、主人公である太公望の前に立ち塞がった強敵、魔家四将の一人、魔礼青が携えていた魔剣。

 

 金属を容易く両断する無双の刃。

 柄を握って念じれば、地水火風の四元素を操り、

 一振りすれば衝撃波が放たれる遠近兼用武器。

 

 俺の手の中で『青雲剣』が喜びの感情を伝えてくる。

 持ち主である俺に振るわれるのを今か今かと待ち望んでいたのだ。

 

 

「さあ、行くぞ! 白兎!」

 

 パタパタ!

『はーい!』

 

 

 『青雲剣』を右手に持ち、

 白兎に先頭を任せて、

 俺は先へと続くダンジョンの通路を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく進んだ先で前を歩く白兎が立ち止まる。

 

 

 フルフル

『マスター、敵だよ』

 

 

 俺に振り向きながら耳をフルフル、

 敵の発見を伝えてきた。

 

 

「あれか………」

 

 

 20m程先に赤い光が2つ点灯しているのが目に入る。

 

 良く目を凝らして赤い光の元を見つめると、

 薄暗さに紛れるような黒い機体が浮かび上がってきた。

 

 全長25cm程のネズミ型機械種が1機。

 赤く光る両目。

 金属製の鋭い前歯。

 

 形状から機械種ラットであろう。

 ダンジョンに巣くう最もポピュラーなレッドオーダー。

 白兎から事前に聞いていた通りの姿形。

 

 

 ダダッ!

 

 

 俺に発見されるや否や、床を激しく蹴りつけ、

 一直線に俺へと突っ込んでくる。

 

 

「速っ!?」

 

 

 予想以上に素早い動き。

 機械だけあって、その俊敏さは元の世界の鼠以上。

 

 だが、事前に白兎が敵の存在を察知。

 すぐに攻撃に移れるよう青雲剣を構えていたこともあり、

 この宝貝の力を以ってすれば迎撃するのは容易。

 

 

「白兎! 俺がやる!」

 

 

 俺を守るために動こうとしていた白兎を制止。

 

 記念すべきダンジョンの敵1号なのだ。

 青雲剣もあることだし、ここは俺の手で仕留めたい!

 

 迫り来る機械種ラットへ向けて剣を振り上げ、

 

 

「喰らえっ!」

 

 

 思い切り振り下ろした。

 

 

 ザンッ!!

 

 

 振り降ろしに合わせ、無形の衝撃波が発生。

 迫りくる機械種ラットを津波のように飲み込み、

 

 

 ドガァン!!

 

 

 その機体を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 頭も胴体も尻尾も関係なく粉々。

 金属片が辺り一面に飛び散る。

 

 

「おおっ! 一撃!」

 

 

 思わずガッツポーズ。

 

 しかし……

 

 

 パタパタ

『マスター』

 

「ん?」

 

 フルフル

『晶石も吹き飛んじゃったよ』

 

「…………」

 

 

 白兎の冷静なツッコミを受けて、

 改めて目の前の惨状へと視線を向ける。

 

 そこにはバラバラになった残骸しかない。

 当然、換金できる晶石も粉々であろう。

 

 

「……あれ?」

 

 ピコピコ

『張り切るのは良いけど、もう少し加減しようよ』

 

 

「うわああああああああああっ!」

 

 

 思わず声をあげ、頭を抱える俺。

 

 せっかく敵を倒したのに収穫はゼロ。

 くたびれ損の骨折り儲け。

 

 

「何やってんだよ、俺!?」

 

 ピコピコ

『衝撃波の威力が高すぎるんだよ。多分、直接剣で攻撃した方が良いね』

 

 

 嘆く俺に白兎が近づいてきて助言。

 

 

「あんなに速いのは無理!」

 

 

 だが、俺は白兎の提案を速攻却下。

 

 

「見ただろ? あんな小さくて素早い奴に当てられるわけないぞ!」

 

 

 剣を振るって床を素早く走る全長25cmの鼠に当てるのは至難。

 

 何せ俺は、ゴルフでも止まっているボールに空振りする人間なのだ。

 チョコマカと動く鼠にナイスショットするのは不可能。

 

 

 フルフル

『困ったねえ。この階層に出るのは小さくて素早いレッドオーダーばっかりだよ』

 

「もっとデカいのはいないのか? もっと当てやすくて動きの鈍い奴!」

 

 ピコピコ

『さっきはデカい敵とは出会いたくないって言ってなかった?』

 

「7mとか10mとか、山よりデカいとかじゃなくて……、俺より少し小さいくらいがちょうど良いんだ! あと、できれば弱そうで、でも、倒せば高く売れそうな……」

 

 フリフリ

『なんか勝手なことばっかり言っている……』

 

 

 俺の勝手な言い草に、白兎は若干呆れつつ、

 

 

 パタパタ

『もっと下の階層に行けば、ちょうど良いのが出てくるはずだよ。マスターの出番はそれからってことで。だから、この階層の敵は僕が相手をするね』

 

「ああ、頼む」

 

 

 これが適材適所というモノだろう。

 小さくて素早い敵は、同じく小さくて素早い白兎が相手をするのが順当。

 まだ俺の出番ではないということなのだ。

 

 

 

 

 白兎を先頭にさらに通路を進む。

 

 

 その数分後、白兎が再び足を止めた。

 

 

 パタパタ

『来たよ』

 

 

 通路の先。

 姿を現したのはトカゲっぽい形の機械種が複数……1、2、3機。

 形から機械種リザードと言った所。

 地面を這いながらこちらへと襲い掛かってくる。

 

 

 パタパタッ!

『僕が相手だよ!』

 

 

 白兎は俺の前へ颯爽と飛び出し、迎え撃つ構え。

 

 

 機械種リザードは全長20cm程度と、

 先ほどの機械種ラットよりも小さいが、数は3機。

 

 当然白兎の方が機体は2倍程大きい。

 だが、数に勝る敵にどう立ち向かうのか……

 

 

 

 フリフリッ!

『天兎流舞蹴術の奥義を見せてやる!』

 

 

 白兎は勇ましく声を発し、後ろ脚で立ち上がる。

 

 そして、両前脚を、翼を広げるように大きく開いて、

 奇妙なポーズで踊り始めた。

 

 まるで白鳥が湖面で泳ぐかのような振り付け。

 神秘的な舞踊。

 華麗なステップと手の動き。

 どこかバレリーナを見ている気分になってくる。

 

 ふと、頭に過る子供の頃に見たワンシーン。

 その踊りこそ、かつてTVアニメで放映された『聖闘〇星矢』内にて、

 『キグナスダ〇ス』と呼ばれた必殺技の前振り音頭。

 

 

「おい、白兎! それって……」

 

 

 俺が白兎へツッコミを入れようとした時、

 

 

 

 白兎の背後に白鳥の恰好をしたウサギの幻影が浮かび上がった。

 

 

 そして、白鳥ウサギ?の幻影をバックに、白兎は気合を入れて叫ぶ。

 

 

 ピコピコ!

『燃えろ! 僕のラビットコスモ!』

 

 

 ビシッと前脚を突き出し、繰り出す技は………

 

 

 フルフルッ!!

『ダイヤモンドラビットダスト!!』

 

 

 ドゴォォォォォッ!!

 

 

 白兎の拳?から白い冷気が奔流となって放たれた。

 

 一瞬で通路全体が凍り付き、

 3機のリザードを飲み込む。

 

 

 パキパキパキッ!!

 

 機体表面が氷結。

 機体ごと氷に囚われ完全凍結。

 

 絶対零度に近い冷気を以って、

 3機の機械種リザードはカチンコチンの氷像と化して動きを止めた。

 

 

 パタパタ

『君はラビットコスモを感じたことがあるか?』

 

 

 白兎が得意気に胸を張り、決め台詞を吐いて、このバトルは終了。

 

 

 だが、バドルが終わったからといって、

 やらないといけないことがまだ残っている。

 

 

「おい、白兎! 氷漬けにしてどうするんだ!」

 

 

 機械種リザードの機体は完全に凍り付き、床に張り付いている状態。

 晶石だけを抜こうにも、分厚い氷に覆われ手が出ない。

 

 

「これじゃあ持って帰られないだろ!」

 

 フリフリ

『そんなのマスターの力なら………、ああ、そうだ! その青雲剣で溶かしてみたら?』

 

「へ?」

 

 ピコピコ

『地水火風を操れるんでしょ?』

 

「…………おお!」

 

 

 言われてみればそうだ。

 確かに青雲剣は地水火風を操れる。

 

 

「……………」

 

 

 手の中の青雲剣へと意識を向ける。

 望むのは氷を解かす炎と熱。

 ただし、機体を溶かさぬように温度を調整。

 

 俺の意識を読み取り、柄にはめ込まれた赤い宝玉がキラリと光る。

 

 

 すると、次の瞬間。

 

 

 ボォッ!!

 

 

 リザード達を覆っていた氷が炎に包まれ、

 

 

 ジュウウウウウ……

 

 

 熱したフライパンに水を落としたような音が鳴り、暖かい湯気が立ち上る。

 

 みるみるうちに氷は溶けだし、10秒も経たずに消失。

 機体はそのままに氷だけを溶かすことに成功。

 

 

「おお……、やった! なんか魔法使いっぽい!」

 

 

 思わず感嘆の声が漏れる。

 初めて使う魔法のような効果に感動も一入。

 

 

 フリフリ

『マスター、凍らせただけだから、また動き出すかもしれないよ。気をつけて』

 

「おっと、そうだな」

 

 

 リザード達はぐったりとして動かないようだが油断は禁物。

 念のため首を捻って止めを刺した。

 

 

「脆いな………」

 

 

 金属で構成されているのだから、もっと固いのかと思いきや、

 まるでプラスチックでできているかのように簡単に首が折れた。

 

 

「あ、そうか。急激な冷気と熱で、金属疲労を起こしたのか……て! 中身は大丈夫か!」

 

 

 これで晶石が壊れていたら何の意味も無い。

 

 白兎の話では、この機械種リザードの晶石は、

 1個30Mくらいの価値があるらしい。

 これは日本円にして3,000円。

 3個合わせて9,000円。

 

 

 手持ちに3,000万円あるとはいえ、

 今後どのような出費があるか分からないから気軽には使えない。

 そう考えれば9,000円とて、

 決して無駄にできない金額であろう。

 

 

 俺が慌てて機械種リザードの状態を確かめようとすると、

 

 

 パタパタ

『大丈夫だよ。晶石は物理には弱いけど、温度変化には強いから』

 

「そうなのか?」

 

 フリフリ

『これくらいで晶石が壊れるなら、人間はレッドオーダー相手にもっと有利に戦えているよ』

 

「そうか……、良かったあ……」

 

 

 白兎の説明を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 

 そして、先日白兎から受け取った宝貝『七宝袋』をポケットから取り出し収納。

 

 

「ふむ……、やはりこれは便利だな」

 

 

 昨日の夜も散々試したが、流石は異世界モノの定番だけあって使い勝手は抜群。

 それだけに、他の人間に知られると大変。

 

 白兎の話ではこの世界にも『亜空間倉庫』というアイテムボックスに似た機能を持つ収納具があるらしい。

 

 もちろん大変高価なモノ。

 容量は3倍から10倍程度しかないが、

 それでも一財産になるくらいの品だそうだ。

 

 『七宝袋』は便利だが、その使い方には注意が必要。

 あからさまに手ぶらだと怪しまれるかもしれない。

 

 それ故に『青雲剣』もこうして腰に吊るしているのだ。

 『七宝袋』をある程度大っぴらに使えるのは、『亜空間倉庫』を持っていてもおかしくないくらいに稼げるようになってからであろう。

 

 今、『七宝袋』に収納した機械種リザードの残骸は、その第一歩と言える。

 これでジュレに胸を張って成果を誇ることができる。

 

 

「よし! これで2日連続成果無しは避けられたな」

 

 

 この世界に来て初めてのまともな成果。

 

 思わず拳を握り、にんまりとした笑顔が零れる。

 

 

 パタパタ

『良かったね、マスター!』

 

「いや、白兎のおかげだよ」

 

 

 お世辞でもなく、全くの言葉通り。

 白兎がいなければ、俺の異世界生活はもっと困難なモノになっていたであろうから。

 

 

「さて、もっと奥に進むぞ。この調子で、稼いで稼いで稼ぎまくるのだ!」

 

 フルフル

『おー!』

 

 

 俺と白兎は顔を見合わせて拳を突き上げ、鬨の声をあげる。

 

 そして、再びダンジョンの奥へと歩き始めた。

 

 

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