「どりゃあ!!」
ザンッ!!
俺が振り下ろした『青雲剣』の刃は、
機械種コボルドを肩口から斜めに両断。
俺の攻撃を受け止めようとした腕ごと真っ二つ。
胴体から右上半身滑り落ち、数秒後には、
残った左側もバランスを失って後ろに倒れる。
「ふう………」
周りに動く敵がいなくなったのを確認してから、
大きく息を吐いて肩を落とす。
パタパタ
『マスター、大丈夫?』
耳をパタパタさせながら近づく機械種ラビットが1機。
俺が苦手とする周りの小粒な敵を掃討してくれていた白兎。
「ああ、大丈夫だ。結構慣れてきたぞ」
青雲剣を肩に担ぎながら笑顔で返事。
思っていた以上に身体が動き、敵を倒すことができたので上機嫌。
ここはダンジョンの地下3階。
ダンジョンに入ってからすでに1時間以上が経過。
地下2階では、機械種スネークを3機撃破。
白兎が見事な技の冴えを見せ、『天兎流舞蹴術 絶 天兎抜刀牙』を以って頭だけを刈り取った。
また、宙を飛ぶ蝙蝠型……機械種バットの群れを、白兎が『天兎流舞蹴術 目からレーザー』にて殲滅。
こちらは塵一つ残さず灰と化した。
白兎によれば、機械種バットの晶石は価値が低く、逃がす方が面倒くさいからとの理由。
そして、地下3階から出現したのが機械種コボルド。
全高120cm程度の犬頭の半人型。
奇しくも『青銅の盾』のバルークが従属させていた機種と同じ。
そして、女子寮の門番も………、姿形だけは同じ。
背は低いが人型だけあって、自分にとっては戦いやすい相手。
白兎に宣言していた通り、俺が青雲剣を携えて挑み、一刀の元に切り捨てた。
剣から放つ衝撃波ではなく、その刃を振るっての直接攻撃。
以降、破竹の勢いで進み、
すでに倒した機械種コボルドは、
今倒したばかりのこの1機を合わせて3機に上る。
「もう負ける要素は無いな。ただの一振りで両断できるんだから」
この快進撃の理由は明らか。
全身金属製であるはずの機械種コボルドを、
容易く切り裂ける『青雲剣』の力が大きい。
向こうが腕で防御しようが、構わず腕ごと切断できるのだ。
先制攻撃の一閃で勝負が決まってしまうという秒殺の連続展開。
衝撃波を放たなくても、『青雲剣』は十分に強い。
敵の防御を許さない武器の力は想像以上。
また、どのような敵も必ず白兎が察知してくれることもある。
奇襲されることなく敵を見つけ、こちらから仕掛けることができて、
最初の攻撃で倒せるのだから、負けることの方が難しい。
「こんなに簡単なのに、高く売れるのだから、割りの良い敵だな」
白兎によれば、機械種コボルドの晶石の価値は約2,000M。
日本円にして20万円。3機分ともなると60万円。
1階で手に入れた機械種リザード3機の晶石(1個30M)など、もはや誤差。
僅か1日で60万円を稼ぐというのは、かなり凄いことなのではないだろうか?
これで俺は60万円を手に、青銅の盾へと凱旋。
ジュレなんか大喜びで俺を迎えてくれるだろう。
もしかしたら、ハグして頬にキスくらいしてくれるかもしれない。
また、窓から見えたあの黒髪の美女も、この成果を見せつければ俺に興味を持ってくれるはず。
俺の懐には白兎に貰った30万M……3000万円があるが、それとは別。
自分の手で稼いだということが重要なのだ。
稼げる男は将来性豊かであり、安定した収入が期待できる。
モテないはずがない!
これで非モテ生活もおさらばだ!
思わず、ジュレやあの美女が俺に言い寄ってくる姿を想像。
これこそ俺が夢にまで見た、嬉し恥ずかし異世界モテモテ生活!
「フフフフ、これは俺に運が向いてきたようだなあ……、フフフフ……」
嬉しさのあまり、含み笑いが漏れ出す。
自分でも少々馬鹿げた妄想だと思わなくもないが、
それでも楽しくてやめられない。
そして、そんな俺に更なる幸運が舞い降りる。
フルフル!
『マスター、出たよ!』
「んん、何だ? 白兎。何が出たんだ?」
フリフリ
『宝箱だよ』
「何!」
白兎の報告に目を剥く俺。
すぐさま辺りをキョロキョロ見渡すと、
いつの間にか通路の真ん中に、デンッと置かれた宝箱が一つ。
「これが………、宝箱?」
大きさは1m×40cmくらい。
外見はまさに宝箱そのもの。
いかにも『お宝が入っていますよ』と言いたげな造り。
「本当に宝箱が出るんだな………」
いつ、どうやって現れたのか?
俺や白兎に気づかれることなく、
まるでその場に湧いて出たかのように、
宝箱は出現していた。
気になると言えば気になる。
しかし、今はそんなことより、その中身の方が気になって仕方がない。
だが、宝箱といえば、注意しないといけないのが………
「白兎!」
フリフリ
『大丈夫。鍵はかかっていないし、罠も無いよ』
「そうか………」
ゲームでは宝箱には罠がつきもの。
また、鍵がかかっているケースがほとんどで、
盗賊系の職業による罠外しや開錠作業が必要。
しかし、白兎がそう断言する以上、その必要は無い様子。
ならば、宝箱を前に躊躇する理由もない。
「これは本当に運が向いてきているぞ。ジャックポットか、確変という奴か……」
俺は逸る気持ちを抑えつつ、宝箱の歩み寄り、
「さて、どんなお宝が………」
その蓋に手をかけて、蝶番の部分を指で捻り、
パカン!
宝箱を開封。
中を覗き込むと、そこには………
宝箱の底に鎮座するのは棒状の何か。
取り出してみてみると、長さ80cmくらい、
直径3、4cmくらいの鉄の棒のようなもの。
中は空洞になっていて、重さは2、3kgぐらいか。
手に持って振り回すと、空気を切るブンッと音が鳴る。
武器にはちょうど良い、長さと重さの奇跡的なバランス。
正しく機械種を倒すために作られたような……
「鉄パイプじゃねえか! これ!!」
手に入れたお宝………、鉄パイプを握り締めて絶叫。
期待させるだけさせておいて、これはあまりに酷くないか!
パタパタ
『そうだね、鉄パイプだね』
「何で宝箱に鉄パイプが入っているんだよ!(怒)」
ピコピコ
『だから言ったじゃない。こんな低階層では鉄パイプが出るって』
「聞いていたけど………、でも、これはあんまりじゃないか! 俺のワクワクドキドキを返せ!」
先ほどまで絶頂であった運勢がいきなり落ち込んでしまった気分。
誰と言うわけでもなくクレームを申し立てるが、
当然、誰からも反応は無く………
フリフリ
『マスター、ここはまだ地下3階。宝箱でお宝と呼べる物が出てくるのはもっと下の階層からだよ』
「う…………」
パタパタ
『これも言ったと思うけど、ここはスラムチームの少年達がメインにしている狩場だからね。そこまで価値のあるお宝はなかなか出ないよ』
「ああっ! クソッ! 所詮は初心者用のダンジョンか………」
事前に聞いていた通り、ここは本職の狩人が寄り付かない低難易度ダンジョン。
もちろん手に入る成果も彼等からすれば取るに足らないレベル。
俺が浮かれていた60万円も、その程度なのであろう。
白兎は1M=100円と言っていたが、そのまま元の世界の価値で考えるのは危険。
100円と言っても、時代によって価値は異なり、インフレ事情によって上下する。
俺の感覚では60万円あれば、数ヶ月の生活費を賄える額だが、この世界……、この街では、そうではないのかもしれない。
大金ではないとは思わないが、機械種を狩る人間にとっては大したことが無い額である可能性は高い。
当たり前の話だが、どこの世界も稼ぎ話には敏感。
このダンジョンがそんなに稼げる場所なら、もっと人々が群がっているはず。
そうなっていない段階で、
このダンジョンで稼げる額はたかが知れているということ。
つまり、今、俺が手にした60万円……6,000Mもその程度。
「あ~あ………、折角、異世界モテモテ生活の始まりだと思ったのに……」
これではジュレもあの黒髪の美女も手に入らない。
容姿に秀でているわけではない俺だ。
飛び抜けた稼ぎがなければ、異世界モテモテ生活など無縁。
機械種コボルトを3機狩ったぐらいでは、
とても飛び抜けた稼ぎとは言えない様子。
冷静に考えれば当然。
あのバルークだって、機械種コボルドを従属させているのだ。
しかも、俺が見たあの1機だけとは限らない。
他のメンバー達も当たり前のように機械種コボルドを従属させているかもしれないのだ。
もし、そうだとすれば、俺が3機くらい持って帰っても、
そこまで驚かれないであろう。
ジュレの反応も、『頑張ったね』の一言ぐらい。
それでは、ハグにもキスにも届かず……あの黒髪の美女に興味を持ってもらえない。
そんなの嫌だ!
折角ここまできたのだから、
せめてジュレの好感度を上げるくらいの成果を持ち帰りたい!
その為にはもっと価値のある獲物が必要。
俺の実力は、機械種コボルド相手でも余裕なのだ。
これより強い機種が出てきても倒せるはず。
「白兎、もっと強い獲物はいないのか? ジュレを吃驚させるくらいの!」
焦燥感に突き動かされるように、白兎へと問う。
自分でも調子に乗っていると思うが、
白兎がいて、青雲剣があるなら、
もっと強い敵でも問題ないと確信。
すると、白兎は俺の言葉を数秒吟味。
そして、俺を見上げながら耳をフリフリ、提案してきた。
フルフル
『じゃあ、もっと下へと降りてみる?』
「え? このダンジョンって、3階までじゃなかったか?」
白兎の話では3階より下は土砂に埋もれていて降りられないはず。
だが、白兎は耳をピンと立てて俺へと説明。
その内容は…………
フリフリ
『土砂を掘り進めば良いんだよ』