ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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17話 最下層

 

 

 白兎が発現させているらしい重力場に包まれたまま、

 俺は巨大な縦穴を延々と降下していく。

 

 途中からは泣き叫ぶ気力も失せていた。

 泣き叫んでもどうにもならないことに気づいたからだ。

 

 ただ、目を閉じて早く穴底への到達を祈るだけ。

 

 

 そして、そんな時間が30分以上流れた後、

 

 

 コツン

 

 足裏に確かな感触が伝わった。

 

 

「……着いた?」

 

 

 恐る恐る目を開くと、

 そこに広がっていたのは、

 俺が想像していた地下空間とはまるで違う世界。

 

 

「なんだ……ここ……」

 

 

 床は滑らかな金属。

 継ぎ目一つ見当たらない銀灰色の床面がどこまでも広がっている。

 

 壁も同様。

 無数の幾何学模様が刻まれ、明らかに人の手が入った構造。

 

 もはやダンジョンではなく、何かしらの施設のよう。

 まるで宇宙船の格納庫を思わせる空間。

 その広さは直径30メートル近い円形。

 

 出口は一つだけ。

 その巨大な通路は大型車両が余裕で通行できそうな大きさ。

 

 

 色々驚く光景ではあるけれど、

 今はそれよりも、ようやく地に足を付けることができたことに、ただ安堵。

 

 

「はあ~………」

 

 

 溜まっていた恐怖心を吐き出すように、

 肩を落としながら大きく溜息をつき、

 

 次の瞬間、全身から力が抜ける。

 俺はその場にへたり込み、床へ両手をつく。

 

 唐突に気だるい疲労感に襲われ、

 そのままうつ伏せになって眠ってしまいたいような気分。

 

 30分以上も恐怖を味わい続けてきたのだ。

 心身のストレスから疲労困憊状態になって当然。

 

 

 パタパタ

『お疲れ様、マスター』

 

 

 へたり込む俺へと白兎が近づいてきて耳をパタパタ。

 労わってくれるように耳を揺らし、

 

 

 フリフリ

『ここがダンジョンの最下層だよ』

 

 

 トンデモナイ爆弾発言を放り込んできた。

 

 

「え……、ど、ど、どういうこと? い、一番下まで来ちゃったのぉ?」

 

 

 顔だけ上げて、白兎へと問う。

 驚きのあまり、声が上ずってしまう。

 

 

 ピコピコ

『ここならジュレさんを吃驚させる獲物を狩ることができると思う』

 

「お、おい! ダ、ダンジョンの一番下って………、い、一番強い敵が出てくるんじゃないか?」

 

 

 ダンジョンの最下層と言えば、ラスボス戦一歩手前の激戦区。

 

 大悪魔や闇騎士、死霊王や、巨人族、竜族……

 果ては、堕天使やら、吸血鬼、魔神に至るまで……

 

 街一つ容易く壊滅させそうな強敵ばかりが集う場所。

 闘神ではあれど、経験的にはまだレベル1に等しい俺が挑むような所ではない。

 

 

 声を震わせながら、尋ねる俺に、

 

 

 フリフリ

『僕とマスターなら、やっつけられるよ』

 

 

 白兎は謎な自信を見せてきた。

 

 

「コ、コラッ! 何、適当なことを………」

 

 

 白兎の軽い口調に、俺が文句を言おうとしたその時、

 

 

 フルッ!

 白兎の耳が僅かに震え、

 

 

 ピコピコ

『マスター、来たよ』

 

「へ? 何が?」

 

 

 白兎が何者かの接近を通達。

 

 しかし、すぐさまその情報を理解できず、

 目を白黒させる俺の耳に…………

 

 

 ズシンッ!

 

 

 巨大な振動が床を揺らした。

 

 

 ズシン、ズシン、ズシンッ!

 

 

 この大ホールの唯一の出口の奥から響いてくる重音。

 とてつもない重量物が動いているような響き方。

 

 

 やがて、出口からゆっくりと姿を現す、その正体は……

 

 

「…………は?」

 

 

 俺は言葉を失った。

 

 デカい。

 とにかくデカい。

 

 全長8メートル近い漆黒の巨体。

 雄々しき鬣を持つ獅子の頭。

 左右には竜と山羊の頭。

 背中から生えた巨大な翼竜の翼。

 鋼鉄の蛇と化した長い尾。

 

 ファンタジーゲームの知識を持つ者ならピンとくる形状。

 ギリシャ神話で語られる魔獣キマイラ、そのままの姿。

 

 しかも、その体は鎧のような金属で覆われていた。

 その目には赤い光が点灯しており、機械種、それも、

 人類の敵、レッドオーダーであることが分かる。

 

 

 赤く輝く複数の瞳が3m以上高みからこちらを見下ろしている。

 

 明らかに森で出会ったメカ熊よりも大きく、

 その威容は一目見るだけで心を圧し折る迫力に溢れる。

 

 

「あ……」

 

 

 声が震える。

 身体が動かない。

 

 戦うなんて一欠けらも脳裏に浮かばない。

 青雲剣を抜くという選択肢さえ選べない。

 

 頭では分かっている。

 だけど、手が動かず、足も動かない。

 

 ただ、本能だけが叫ぶ。

 

 逃げろ。

 勝てない。

 勝てる相手じゃない。

 

 

 気がつけば、俺は尻もちをつきながらズリズリと後退していた。

 ひきつけを起こしたかのように短く途切れ途切れの呼吸を繰り返し、

 どうにかしてこの死地から逃れようと藻掻く。

 

 

 けれど、逃げ場なんてない。

 キマイラとの距離はもう3mくらいしかない。

 

 

 ズシン!

 

 さらに近づく。

 もうその牙は俺の目の前。

 

 

「あ……あ……」

 

 

 もう口からは意味をなさない声しか出ない。

 

 終わった。

 俺の異世界生活はここで終了。

 

 

 ヒロインも作れず、

 人助けもできず、

 ラスボスも倒せず、

 

 ただ、人知れぬダンジョンの最下層にて、

 巨獣に食われて終わる。

 

 

 俺はこの世界でも、何も成し遂げられずに終わるのか………

 

 

 そんな絶望が俺の胸を埋め尽くした時、

 

 

 

 フルッ!

『てい!』

 

 

 白兎が耳をフルッと揺らし、

 俺に迫ろうとしていたキマイラへと蹴りを一発入れる。

 

 その動きは特に速くも無く、力強くも無い。

 俺の目にはただジャレついたようにしか見えなかった。

 

 

 しかし、次の瞬間。

 

 

 ドゴォォォォォォォォン!!

 

 

 凄まじい轟音が鳴り響き、

 目の前の巨獣キマイラの胴体部分が爆砕。

 

 辺りに金属片がばら撒かれ、

 分断された頭部と後部が床へと転がる。

 

 

 ゴスンッ!

 

 

 2m近い頭部が重い音を立てて目の前に落下。

 

 その目が一瞬ギラリと赤く輝き、

 まるで俺を恨むような視線を向ける。

 

 

「ひいいいいいいいっ!!」

 

 

 ちょうど目が合ってしまい、その恐怖で、

 恥も外聞も無く、女の子のような悲鳴をあげる俺。

 

 

 しかし、その赤い目の輝きは、すぐにエネルギーが切れてしまったかのように消え失せる。

 俺を貪り喰うはずの顎は、ただの金属の置物と化す。

 

 それはもう脅威でもなんでもない。

 

 俺の命を狙ってきた巨獣ではなく、

 ただの今日の俺の成果物となり下がった。

 

 

「…………」

 

 

 しばらく、俺は口を開いたまま固まっていたが、

 

 

「白兎……」

 

 

 ようやく自分の命が助かったと理解。

 ゆっくりと俺の命を救ってくれた救い主に振り返る。

 

 

「お前……本当に強いんだな……」

 

 

 メカ熊の時もそう思ったが、今のは次元が違う。

 あんな巨大な怪物を、まるでゴミでも払うかのように粉砕したのだから。

 

 だが、俺の称賛に、白兎は首を傾げ、

 

 

 フリフリ

『僕は強いけど、そもそもこの機械種キマイラ、そんなに強くないよ?』

 

「え? マジか?」

 

 ピコピコ

「機械種キマイラはカオスモンスタータイプの中位でしかないからね。その上のディバインビーストタイプだったら、もう少し手間がかかったかも」

 

 

 カオスモンスタータイプ?

 ディバインビーストタイプ?

 機械種の種別だろうか?

 

 しかし、それよりも気になったのが………

 

 

「その機械種キマイラ………、あのメカ熊よりも弱いのか?」

 

 フルフル

『そりゃあ、機械種キマイラの方が弱いよ。マスターが言うそのメカ熊は【森の守護者 フンババ】の従機だからね。1機1機がディバインビーストタイプ下位に匹敵するんだもん』

 

「また、新しいのが出てきた。何だよ、その【森の守護者】って?」

 

 

 白兎に尋ねると、返ってきたのは割と洒落にならないこの世界の最大脅威の話。

 

 通常機とは比べ物にならないくらいの巨大なレッドオーダー。

 最小でも全長700m以上。

 最大では全長10kmを超すようなモノもいるという。

 

 『~の守護者』の異名にて、全部で7機存在。

 各地で広大な縄張りを築いているらしい。

 過去、何度も大規模な討伐軍が派遣されたが、ロクなダメージも与えられずに全て敗退。

 

 その戦力は全世界の人間の力を合わせても足りない程。

 まさしく人類にとっての最悪の敵。

 

 

「一番小さくて、全長700m? どうやって倒すんだよ、そんな奴?」

 

 パタパタ

『さあね? でも、機械種である以上、倒せない敵じゃないと思うよ。どこかに弱点があって、倒し方があるだろうから………』

 

 

 白兎はどこか達観したような雰囲気を醸し出しながら、

 ふと、じっと俺の方を見つめて、

 

 

「不滅の存在なんて無いんだよ……、どれだけ強くても、最強でも、無敵でも………、死ぬ時はあっけなく死んじゃうのだから」

 

 

 一瞬、目に悲し気な光を宿して、そう締めくくった。

 

 

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