ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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18話 進行

 

 

 白兎が倒してくれた機械種キマイラの頭部、

 及び、下半身部分を七宝袋へと収納。

 

 全長8mもの巨大な機械種の残骸が、

 小さな巾着袋に収納される光景は圧巻。

 

 あれだけの質量が魔法のように光の粒子と化して『七宝袋』の中へと消えていく。

 俺の手の中にある『七宝袋』が仙人の秘宝である宝貝だと強く実感。

 

 

「あのデカさだから、晶石もデカいよなあ………、この七宝袋が無ければ、持って帰るのが大変だったな」

 

 

 たとえリュックサックがあったとしても、重いモノを入れたら動きが鈍る。

 さらに、敵の攻撃で破壊されたら意味が無いから、無意識に庇おうとするだろう。

 

 持ち帰るお宝が増えれば増えるほど、そういったデメリット部分が大きくなる。

 危険が増し、最悪の場合、お宝を抱えたまま帰らぬ人になってしまうこともある。

 

 されど、お宝を持って帰られなければ意味が無い。

 それも多ければ多い程良いに決まっている。

 

 結局、たくさんのお宝を持ち帰りたい欲望と、

 自分自身の身の安全を秤にかけるしかなくなるのだ。

 

 しかし、この七宝袋があれば万事解決。

 どれだけの数の財宝も、苦も無く運ぶことができる上、

 周りからお宝を運んでいるという事実も隠蔽。

 

 安全にホームまで持ち帰ることが可能となる。

 果たして、今回のお宝は、いかほどの価値がつくのであろうか?

 

 

「白兎。この機械種キマイラの晶石、いくらぐらいになるんだ?」

 

 パタパタ

『そうだね~、多分、100万Mは軽く超えるかな?』

 

「何?! ………100万Mって………、1億円?」

 

 

 何気なく白兎に尋ねると、返ってきた答えは予想以上の金額。

 

 インフレが進むにも程がある。

 つい数時間前、初獲得の機械種リザードの晶石3個合わせて90Mで頬を緩ませ、

 地下3階で機械種コボルトの晶石3個を手に入れ、6000Mで大喜び。

 

 だが、ここで入手した機械種キマイラの晶石は、いきなり100万M。

 あまりに額が大きすぎてイマイチ実感できない。

 

 

「なんだよ………、機械種キマイラって、そんなに強くない奴なんだろ? 何でそんなに高いんだ?」

 

 フルフル

『強くないって言っても、僕達にとっては、だよ。この街の一般の狩人なら一目散に逃げるに一択。近隣に現れたら、街の総力を以って当たらないといけない相手だね』

 

「そんな大物をお前は蹴り一発で粉砕したのか………」

 

 

 やべえ。

 この兎、俺が思っていた以上にヤバい。

 

 街の総力を以って当たらないといけない相手を瞬殺する兎………

 

 つまり、この白兎1機で街を滅ぼすことも可能だということ。

 

 実際はこの街を守護する『白鐘』があるのだから、

 そう簡単にいかないだろうけど、この兎が秘める力は俺個人で保有して良いモノじゃないぞ………

 

 

 頼もしいと思う反面、

 その底知れぬ実力に恐れを抱いてしまいそうになる。

 

 俺はコイツのマスターとして、

 上手くやっていけるのだろうか? ………と。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで用事は済んだな………」

 

 

 目的であったジュレを吃驚させるくらいのお宝を手に入れた。

 ならばもうこんな危険地帯にいる必要は無い。

 

 

「白兎、帰るぞ」

 

 フリフリ

『え? もう帰るの?』

 

「ジュレへのお土産はこの機械種キマイラで十分だろ。何せ1億円の価値があるんだから………」

 

 

 すでに白兎から貰った3000万円を超えた額を稼ぐに至った。

 もはや名実ともに1億円プレーヤー。

 

 これで俺の異世界モテモテ生活は決まったようなモノ。

 大金を手に凱旋すれば、俺のチームでの地位は爆上がり。

 ジュレや黒髪の美女から持て囃され、ウハウハな毎日が続くに違いない。

 

 

 しかし、そんな俺の甘過ぎる皮算用を、

 白兎が耳をピコピコさせながら打ち砕いてくる。

 

 

 ピコピコ

『マスター、言っておくけど、僕が言っていた晶石の価値は、一般的な狩人が秤屋で換金する額だからね。マスターがその晶石を『青銅の盾』に提供しても、そのまま100万Mにはならないと思うよ』

 

「何! どういうことだ?」

 

 

 俺が険しい剣幕で問い詰めると、

 白兎は『狩人』『秤屋』の関係について説明してくる。

 

 

 『狩人』は『秤屋』に認められて初めて『狩人』になるという。

 『秤屋』とは、この世界の商社のような組織であり、

 機械種の晶石や残骸をマテリアルに変換する『秤』という機器を所有。

 

 『狩人』はレッドオーダーを狩って、

 その晶石や残骸を『秤屋』に持ち込む。

 『秤屋』は所有する『秤』で晶石や残骸をマテリアルに変換し、

 手数料を抜いて、狩人にマテリアルを支払うという仕組み。

 

 『秤屋』は世界各地に存在し、中には世界を跨ぐような巨大組織もあるという。

 その『秤屋』に『狩人』と認められていなければ、どれだけ価値のある晶石や残骸を持ち込んでも、マテリアルに変換してくれない。

 

 では、『狩人』ではない者が晶石や残骸をマテリアルに変換してもらおうと思えばどうするのか?

 

 それはその『秤屋』の下請けである『取次屋』を通すしかないそうだ。

 当然、『取次屋』も手数料を取るから、手取りは減る。

 

 しかも、力関係から、法外な手数料を要求され、手元には3分の1も残らないことがほとんどであるとか………

 

 

「おい! それじゃあ、俺が手にした成果も、めっちゃ目減りするじゃないか!」

 

 パタパタ

『多分そうなるね。あと、マスターの場合、『青銅の盾』も手数料を抜くだろうから、手に入るのは5分の1以下かも』

 

 

 なんという搾取前提の社会構造か!

 労働者の権利はどこへ行った!

 

 しかし、まあ………、元の世界でも人類皆平等なんて夢物語。

 地位や所属によって待遇が変わるのは当たり前。

 

 今の俺の身分は根無し草の風来坊。

 『青銅の盾』というスラムチームの客分でしかない。

 

 そういった商取引で不利益を受けるのは仕方がない。

 それが嫌なら早く成り上がるしかないのだ。

 

 今は少しでも手元に残るだけでもありがたいと思い、

 理不尽な環境を抜け出すことに注力しなくては………

 

 

 

「ということは、もう少し成果を集めていた方が良いな。こんな稼ぎの良い場所はなかなか無い上、次に来ようと思ったら、もう一回大穴にフリーフォールしなくちゃならないから」

 

 

 あの苦行でしかなかった大穴へと下降。

 いくら白兎が一緒にいて安全だったとしても、

 あんな思いはそう何度もしたいモノではない。

 

 だとすると、今は稼げるだけ稼ぐのがベスト。

 幸い、怪我一つ無くここまで来ることができた。

 万全の状態で挑めるのだから、ここは先に進まない手はない。

 

 

「白兎、この先の敵は対応できそうか? 多分、機械種キマイラ並みの敵が出てくるだろうが………」

 

 フリフリ

『この程度だったら何機いても敵じゃないよ。でも、この先に進むとしたら、最奥にいるはずの色付きには気をつけてね』

 

「色付き?」

 

 パタパタ

『いわゆるダンジョンマスターのこと。赤の帝国の幹部連中だね』

 

 

 白兎の話では、赤の帝国には6種類の幹部がいて、それぞれ『赤系統』の色を特徴としているらしい。

 

 主に男性型を『緋王』『臙脂公』『橙伯』、

 主に女性型を『朱妃』『紅姫』『赭娼』と呼ぶ。

 

 『緋王』と『朱妃』が一番強く、どれも位の高い神や魔神、邪神、魔王の名を持つ超高位機種。

 

『緋王』『臙脂公』『橙伯』は、野にあって世界を気まぐれに徘徊。

 『朱妃』『紅姫』『赭娼』は、街の近くに『巣』『砦』『塞』『城』を作って、その最奥で狩人達を待ち構えているそうだ。

 

 ちなみに『巣』は一番規模が小さく、地下にできる。

 『巣』が成長すると、地上に建造物ができて『砦』になり、

 『巣』が横に広がって他の『巣』と統合すると『塞』になる。

 そして、最大限まで成長しきると『城』と呼ばれる赤の帝国の出城となり、

 その周辺区域は赤の帝国の領土になり下がるという。

 

 

 ピコピコ

『ダンジョンは複数の【塞】の集合らしいから、最奥にいるのは【朱妃】になるだろうね』

 

「『朱妃』? ということは女性型なのか………」

 

 

 『妃』というくらいだから、美人の機械種なのだろう。

 どちらかといえば『紅姫』の方が気になるけど………

 

 

「その『朱妃』は倒したら仲間に出来るのか?」

 

 フルフル

『損傷少なく倒すことができて、適正級の蒼石があれば、ブルーオーダーして従属させることができるよ』

 

「『蒼石』? ……ああ、白兎を黒から白に戻した青い水晶のことか」

 

 

 適正級ということは、蒼石には等級があるのだろう。

 今、手元には無いが、白兎の言うように、できるだけ機体を傷つけないように倒して、その遺骸を七宝袋に保管しておけば良い。

 

 そして、蒼石を見つけてから修理して従属させれば、

 俺をマスターと仰ぐ美女型機械種が手に入る………

 

 

「よっしゃ! とりあえず、その美女………『朱妃』を手に入れることを目標に進んでみようか!」

 

 パタパタッ?

『え? 【朱妃】を………、それは危険じゃないかな……』

 

 

 白兎は一瞬戸惑うような反応、

 そして、しばらく鼻をフンフンさせる仕草を見せ、

 

 

 フルフル

『………あんまり嫌な感じはしないから、何とかなるのかな? まあ、僕とマスターなら大丈夫か………、それに………』

 

「ああ、俺とお前ならできるさ!」

 

 ピコピコ

『そうだね! 何かそんな気がしてきたよ!』

 

 

 一転賛成の立場を表明する白兎。

 俺と似たような勢いで楽観的な判断っぽい。

 

 思慮深いように見えて、どうにも要所要所で適当さが目立つ。

 けれど決して悪い気はせず、どこか似た者同士のシンパシーを感じてしまう。

 

 

「さあ! 行くぞ!」

 

 フリッ!

「おうさ!」

 

 

 俺と白兎は威勢良く声を上げ、

 大ホールの出口へと向かい、

 ダンジョンの最奥へと進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 ホールを出てしばらく進むと幾つかの分かれ道に遭遇。

 

 さて、どっちに行こうかと悩んでいると、

 白兎が『多分こっち』と耳をフルフル、俺を誘導。

 

 

「何で分かるんだ?」

 

 パタパタ

『なんとなく』

 

「なんとなく、なら仕方ないな」

 

 

 どうせ正解なんてわからない。

 ならば白兎の勘を信じて進むのも良いだろう。

 

 

 そして、その後も何度か現れる分かれ道を、

 白兎の示す通りに進んでいくと、

 

 

 

 ピコッ!

『敵だよ』

 

「来たか………」

 

 

 今度は醜態を晒すまいと、意を決して青雲剣を抜き放ち正眼に構える。

 

 

 前回の機械種キマイラは、心構え無く、力関係も分からず、いきなり出てこられたから、あそこまで怯え切ってしまったのだ。

 白兎が予想以上に強いと分かっている今なら、そこまで怯えることも無い。

 

 

「さあ、来い!」

 

 

 威勢良く啖呵を切る俺の前に現れた敵の姿は………

 

 

 

 

 剣を構えた黒騎士2機。

 どちらも区別がつかないくらいにそっくりな外見。

 

 騎士甲冑を模した真っ黒な装甲。

 肩や腕、脚に刺々した突起物が埋め込まれた凶悪そうなデザイン。

 

 手には刃渡り1m強の長剣が1本。

 黒光りする刃はいかにも切れ味が良さそう。

 

 フルフェイスヘルメットから洩れる、此方を射抜くような赤い光。

 俺や白兎への激しい敵意が垣間見える。

 

 

 見た感じ強そうではあるが、機械種キマイラ程の脅威は感じない。

 『青雲剣』の衝撃波で容易く倒せそうな気がする。

 

 しかし、ここがダンジョンの最下層と言うことを考えると油断は禁物。

 敵は物理攻撃が得意な近接戦闘系だと思うが、特殊能力とかあると厄介。

 

 ここはやはり白兎に意見を求めるべきだろう………

 

 

「白兎! コイツ等は………」

 

 

 俺が足元にいる白兎へと尋ねようとすると、

 

 

 フルフル

『剣風………、剣雷………』

 

 

 なぜか白兎はボウッとした様子で黒騎士2機を見つめていた。

 そして、ナニカの名前のような言葉をポツリと呟き、

 考え込むような仕草を見せながら耳を振るわせる。

 

 

 パタパタ

『さっきのキマイラもそうだけど……、活性化が起きていないのに、マスターから聞いていた通り………』

 

「んん? ………どうした白兎? 知っている機種なのか?」

 

 ピコピコ

『………うん。まあ、そんなところ』

 

「で、強いのか?」

 

 フリフリ

『……彼らはジョブシリーズの騎士系ストロングタイプ、機械種パラディンだよ。見ての通り人型で使いやすく、整備性も拡張性も高い人気機種。騎士系ともなれば、狩人にとっては垂涎の的、だね。ぜひとも仲間にするべき!』

 

「おお……、聖騎士か! なんか、白兎、ベタ褒めだな」

 

 パタパタ

『それくらいの機種なんだよ! 絶対に壊さないようにしてね………っていうか、ここは僕がやる! きちんと修理できるように倒すから、マスターは後ろに下がっていて!」

 

 

 随分と気合が入っているらしい白兎。

 自分の手で2機を倒すと宣言。

 

 

「分かった……、任せたぞ」

 

 

 白兎がこう言う以上、任せた方が良いに決まっている。

 俺だと、重要部位を避けて攻撃するなんて器用な真似はできないから。

 

 

 獲物に襲いかかろうとする四足獣のような姿勢を取る白兎。

 耳がピンと張り、今までにない緊張ぶりが見て取れる。

 

 それだけあの2機が手ごわいのか、

 それとも、絶対に仲間しようという意思が強いのか。

 

 

 

 俺は白兎の邪魔にならないよう、5m程後ろに下がった……

 

 

 その瞬間、

 

 

 ガタンッ!!!

 

 

 目の前で突然床から壁がせり上がってきて、

 俺と白兎を分断する形で通路を遮断。

 

 

「え? ………ちょ、ちょっと!! 白兎おおおお!」

 

 

 いきなり白兎と引き離されてしまったことに慌てる俺。

 思わず白兎を呼びながら、通路を塞ぐ壁に駆け寄ろうとすると、

 

 

「いけませんナ。仲間と引き離されたぐらいデ、そこまで狼狽するとハ……」

 

 

 突然、背中に投げかけられたしゃがれた声。

 

 

「この最下層まで辿り着いた勇者なのニ、それはあまりにも情けなイ」

 

 

 不躾に俺を非難する言葉。

 些か語尾が不明瞭。

 しかし、はっきりと俺を侮蔑する感情が含まれていることが分かる。

 

 

「だ、誰だ!」

 

 

 もう一度青雲剣を構えなおしながら振り向き、誰何の声を飛ばす。

 

 

 すると、視界に入ったのは、黒い僧服を纏った人型機種。

 顔全体を覆う仮面付きの僧帽に、螺子くれた僧杖。

 いかにも邪教の司祭であるかのような外見。

 

 目に当たる部分から洩れる光は人類の敵である証の赤。

 黒騎士と同様、人間である俺を激しく憎む感情を秘める。

 

 

「ふム? 『誰?』と問いましたナ。ならば答えて進ぜよウ。拙僧はジョブシリーズ、ストロングタイプ、機械種ビショップ。妃殿下より、このダンジョンの最下層の管理を任された『迷宮主代(セネシャル)』………」

 

 

 機械種ビショップと名乗った黒司教。

 表情は見えないが、ニヤリと笑ったような雰囲気を見せて、

 

 

「妃殿下に代わリ、拙僧が歓迎いたしましょうゾ。『来訪者』殿……」

 

 

 俺のことを意味ありげな異名で呼んできた。

 

 

 

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