ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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19話 黒司教

 

 

 ダンジョンの最下層にて、白兎と引き離されてしまった上、怪しげな敵と遭遇。

 

 ペラペラと人間の言葉をしゃべるレッドオーダー。

 今まで白兎以外の機械種が話している所を見たのはコレが初めて。

 

 さらに『機械種ビショップ』、『迷宮主代(セネシャル)』と名乗っていたことから、只者ではあるまい。

 

 ビショップは日本語に訳すと司教。

 カトリックでは司教区を統括する高位聖職者。

 ゲームでは、プリーストの上級職であることが多い。

 

 セネシャルは多分、執事長や家令という意味があったはず。

 また、内管長や城主代行を意味する城代を指すことも。

 つまり、コイツはここの迷宮主である朱妃の代行役を担っているということ。

 

 ただでさえ、ビショップは分類では強キャラの位置づけ。

 仕様的には防御・回復魔法のエキスパートであるはずだが、

 ゲームによっては攻撃魔法も使うから油断はできない。

  

 そして、さらに『迷宮主代(セネシャル)』という役職持ち。

 弱いわけがない。

 

 と、なると俺1人で勝てるかどうかわからない。

 俺の手に『青雲剣』はあるけれど、 

 剣では対処できないような魔法を使われると厄介。

 その上、何かしらの特殊能力を持っているとしたら手に負えない。

 

 ここはあえて会話に乗っかり、

 できるだけ時間を引き延ばして、

 白兎の救援を待つべきか……

 

 先ほど、目の前の黒司教が俺に向けて言った言葉も気になる。

 それを聞いてみるとするか………

 

 

「『来訪者』とは何だ? なぜ、俺をそう呼ぶ?」

 

 

「ン? 違うのかネ。得体の知れぬラビットを従エ、曰くありげな剣を持チ、その割に特に鍛えた様子も無ク、戦場に慣れた雰囲気でもなイ。このダンジョンの最下層に来るにはあまりに不釣り合イ。それ故に、この世界に訪れたばかりの来訪者と思ったのだがネ」

 

「!!!!」

 

 

 黒司教の指摘に、思わず顔を歪める俺。

 

 あまりに心当たりがあり過ぎる内容。

 俺がこの世界に転移してきたことを言っているのは明らか。

 

 

「お前………、どこまで知っている?」

 

「おヤ? 図星だったかナ? 鎌をかけただけなのだがネ。まさか、本物の来訪者に出会うことができるとは………、大変光栄だネ」

 

 

 俺の問いに、煙に巻くような口調で返してくる黒司教。

 

 人を苛つかせるようなその態度。

 顔は仮面で見えないのに、ニヤニヤとした笑みを浮かべている雰囲気が伝わってくる。

 

 俺はムッとした表情を浮かべて再度問う。

 

 

「なんだよ! その来訪者ってのは!」

 

 

 すると、黒司教は鼻で笑うような素振りを見せ、俺の問いに素直に答える。

 

 

「来訪者とハ、いつかこの世界を訪れ、我等が崇める女帝陛下のお望みを叶える………かもしれない者。お主にその資格があるかどうかは分からんがネ」

 

「資格? ………資格とは何だ?」

 

「さテ? 拙僧は色無き者故、ソレを知る立場には無いナ」

 

「む! ………じゃあ、その……『赤の女帝』の望みって何だ?」

 

「ハハハハハッ! 女帝陛下のお望みを下々が推し量ろうなど不届き千万! 人間ごときには理解できぬヨ!」

 

「おい!」

 

 

 話を振るだけ振ってきて、肝心のことは話してこない。

 まあ、敵なのだから当たり前か。

 

 しかし、もう少しコイツから情報を引き出せないか?

 かなり貴重な情報を持っているように思える。

 

 とにかく、質問をぶつけてみて反応を探ってみるか……

 

 

 

「…………もし、俺がその来訪者なら、お前はどうするんだ? その……『赤の女帝』の元に連れて行くのか?」

 

「何を馬鹿なことを言うのかネ? お主が本当に『来訪者』である証拠もあるまイ」

 

「え? ちょっと待て! お前、さっき俺のことを本物の来訪者って……」

 

「言葉の綾だネ。真に受けてどうすル? お前が自分を来訪者と思い込んでいる狂人の可能性もあるではないかネ? もし、お主が『女帝陛下』が望む『来訪者』であるなラ………」

 

 

 そこで言葉を切り、ニヤリと笑うような雰囲気を醸し出す黒司教。

 

 

「その力を拙僧が試して進ぜよウ…………」

 

 

 俺を見下す口調で口を開き、僧杖を軽く掲げる。

 すると、その眼前に一本の細長い鉄の杭が、音もなく浮かび上がった。

 

 長さ20cmほど。

 裁縫に使う針を、そのまま何十倍にも大きくしたような形状。

 先端だけが異様なほど鋭く尖っている。

 

 黒司祭はその一本へ指を向け、

 

 

「『鉄芯』!」

 

 ギュンッ!!

 

 

 空気を裂く鋭い音。

 鉄芯は弩弓から放たれた矢以上の速度で一直線に俺へと飛来。

 

 

「うおっ!」

 

 

 反射的に『青雲剣』を振る。

 

 

 キィンッ!!

 

 

 火花を散らしながら鉄芯を弾き飛ばす。

 

 狙って弾いたというよりは、偶々剣に当たっただけであろう。

 だが、上手く迎撃できたのは事実。

 

 

「……ふう。危ねえ……」

 

 

 しかし、安堵したのも束の間。

 

 黒司祭の周囲に、1本、2本、3本……、

 

 次々と鉄芯が生み出されていく。

 もはや本数を数えるのが難しいくらい。

 

 鉄芯1本を迎撃できたのは奇跡に近い。

 当然、あれだけの量を発射されたら躱すのも弾くのも不可能。

 

 

「おいおいおい! ちょっと待って!」

 

 

 制止の声を上げる俺だが、

 当然のごとく黒司祭は無視。

 

 冷酷に、

 冷徹に、

 俺への死刑宣告を口にする。

 

 

「行ケ」

 

 

 ギュンッ! ギュンッ! ギュンッ!

 ギュンッ! ギュンッ! ギュンッ!

 ギュンッ! ギュンッ! ギュンッ!

 

 

 一斉に発射される鉄芯群。

 まさに面制圧攻撃。

 ショットガンの砲撃に近い。

 

 

 当然、剣1本では、その全てを弾くことができず、

 全身のその死の洗礼を浴びてしまう………

 

 

「ひゃああああああ!!」

 

 

 カンッ! カンッ! カンッ!

 カンッ! カンッ! カンッ!

 カンッ! カンッ! カンッ!

 

 

 もう叫ぶことしかできないまま、ほぼ全弾が命中。

 俺の身体全身に乾いた音が鳴り響き………

 

 

「あれ? ……痛くない?」

 

 

 全身に鉄芯の雨を浴びたはずだが、

 服の上から小石でも投げられた程度の感触しか感じない。

 

 呆然と自分の身体を見下ろすと、

 足元には、刺さることなく無数の鉄芯が床に転がっているのが見えた。

 

 

「え? どういうこと?」

 

 

 一瞬、死んだかと思ったが、全くの無傷であったことに驚く。

 

 痛みはない。

 手で身体のあちこちを弄ってみるが、傷どころか服すらも破れていない。

 

 『青雲剣』の剣身を顔の前に置いていたので、顔面は守られた。

 しかし、間違いなくあの鋭そうな鉄芯は、

 俺の身体に余すことなくぶつかってきたはず。

 

 だが、1本も突き刺さらずに床へと転がった。

 これは一体どういうことか……

 

 

 

「どういうことダ?」

 

 

 また、黒司教も俺と同じ感想を抱いた様子。

 赤い目の光が激しく揺らぎ、驚いているのが見て取れる。

 

 

「その服は防御系の発掘品カ? ならバ………」

 

 

 しかし、すぐに冷静さを取り戻し、

 俺をギラリと睨みつけ、しゃがれた声を発した。

 

 

「その顔面を貫ク!」

 

 

 その手の中の僧杖を俺へと突きつけ、

 杖の先端に再び鉄芯を生み出したと思ったら、

 

 

 ギュンッ!!

 

 カコンッ!!

 

 

 撃ち出された鉄芯が俺の額に見事命中。

 その速度は先ほどとは比べ物にならない程。

 

 何せ当たった瞬間、辺りの空気が震えたくらい。

 発射されてから当たるまで全く気付かなかった。

 もしかしたら音速に近い速度であったかもしれない。

 

 

 だが、これにも俺は無傷。

 甲高く響いた音に、思わず驚いて一歩よろめいただけ。

 

 

 え? 何 

 この攻撃、全然痛くない?

 金属かと思ったけど、プラスチックなのか、コレ?

 

 

 額を手で触りながら、床に落ちが鉄芯を拾い上げて力を加えてみる。

 すると、抵抗も無くポキンと折れる。

 

 質感からどう見ても金属製に見えるが、非常に脆い素材らしい。

 こんなに脆い素材では服も貫けまい。

 

 ギュッと握りしめれば、手の中で脆くも崩れ去る鉄芯を見つめ、

 黒司祭は何でこんな脆い素材を使ったのか? と考えていると、 

 

 

「き、奇怪ナ………、マテリアル機器が発動している様子も無ク……、無効化された様子もなイ。額に装甲版でも入れているのカ? だが、それくらいで止められるとも思えン………」

 

 

 

 俺以上に戸惑っている黒司祭。

 狼狽しているのがありありと分かる。

 

 だが、すぐさま我を取り戻し、

 

 

「これならばどうダ! 重波!」

 

 

 僧杖を取り出しブンと振るい、更なる攻撃を加えてくる。

 

 

 ズンッ!!

 

 

 俺の周り空気が震え、

 上から押さえつけられるような圧力が降りかかってきた。

 

 足元の床がビシビシと音を立てる。

 見えない重量物が圧し掛かっているかのように。

 

 俺の耳に、勝ち誇った黒司祭の声が届く。

 

 

「重量級をも抑え込む超重力だネ!」

 

 

 どうやら重力場を発生させたらしい。

 確かに前身に絡みつく見えない力場を感じる。

 

 

 しかし、

 

 

「これでお前はペシャンコ…………、ナ、ナゼ?」

 

 

 

 黒司祭の威勢の良い言葉が途中で中断。

 赤い目の光が驚きで激しく明滅。

 

 

 それもそのはず。

 当の俺が、押し潰されることも無く、

 平然としてその場に立ち尽くしているのだから。

 

 

「何が超重力だ? 嘘つけ!」

 

 

 両手を事も無げに動かしながら、

 黒司祭へと異議を唱える。

 

 御大層な説明の割には降りかかる圧力が弱すぎる。

 手や腕を動かすと僅かに抵抗を感じる程度。

 言われなければ気づかないくらいなので、

 実質、重力は5%も増えてはいまい。

 

 

 床がミシミシと音を立てているのは気になるが、

 劣化しているか、材質のせいであろうと、あまり深く考えずに判断。

 

 

「こんな弱い力で、どうやって重量級を抑え込むんだよ?」

 

 

 つい馬鹿にしたような目で黒司教を見てしまう。

 そして、ついでにポロッと挑発の言葉が漏れる。

 

 

「お前って、もしかして弱い?」

 

「!!! 減らず口ヲ………」

 

 

 俺の言葉にムッとした雰囲気を見せる黒司祭。

 

 

「ならバ、これを喰らうがいいネ!」

 

 

 僧杖を振り上げ、今度は黒い霧を生み出す。

 

 見るからに気化したガス状の集合体。

 人を包み込むには十分過ぎる量。

 

 そして、その黒い霧は自ら意思があるように、

 こちらへとゆっくり迫ってくる。

 

 

「一呼吸で全身が麻痺。二呼吸で肺が溶け落チ、三呼吸で死に至る猛毒だヨ。存分に味わうが良イ!」

 

「げっ! 毒ガスか?」

 

 

 ヤバい!

 こんな閉鎖空間で毒ガスを撒かれたらどうしようもないぞ。

 逃げ場は………って、後ろは壁だし、前からは毒ガスが迫ってくるし……

 

 いくら『青雲剣』でも毒ガスは切れない………

 

 いや、待てよ。

 『青雲剣』は地水火風を操れるから………

 

 

「『青雲剣』よ! 風で吹き飛ばせ!」

 

 

 『青雲剣』を前へと掲げて命令。

 その柄にはめ込まれた宝玉がキラッと光る。

 

 次の瞬間、『青雲剣』から突風が巻き起こり、

 迫りくる毒ガスを反対側に吹き飛ばす。

 

 突風を受けて、黒司教の僧服がバタバタとはためいて音を立てる。

 毒ガスを跳ね返された形だが、向こうは機械だから効果はあるまい。

 

 

 しかし、この現象に黒司教も驚いた様子で、

 赤く光る目をパチパチと点滅。

 

 

「なんト………、その剣も発掘品カ?」

 

「発掘品?」

 

 

 さっきから何度も聞いた言葉。

 何となく意味は分かるが、なぜ俺の服や青雲剣をそのように誤解したかは謎。

 

 

「違うな………、俺の手にあるのは『青雲剣』……『宝貝』だ!」

 

 

 『青雲剣』は『発掘品』ではなく、仙人が作り出す神秘……『宝貝』。

 この世界に所縁はなく、それだけに理外の力を発揮する。

 

 

 俺は『青雲剣』を構えながら、自信たっぷりに言い放った。

 

 

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