「どうだ? 俺の力を思い知ったか!」
得意げに言い放ち、黒司祭を再び挑発。
コイツがそんなに強い敵ではないと分かったため、
俺も気持ちに余裕を持って対応できる。
俺の挑発に、黒司祭は一瞬、
憎々し気に赤い目をギラっと輝かせた後、
「ふむ? これは予想外だったネ。ここまでやるとは思わなかったヨ。案外、お主が『来訪者』というのも本当かもしれないネ」
不意に雰囲気を柔らかくして、俺を認めるような発言。
いきなりの態度の豹変に、俺は眉を顰めつつ、
情報を引き出すべく質問を投げかける。
「俺の力を認めたのか? じゃあ、その来訪者について、もう少し詳しく教えてくれ」
「ハハハハ、せっかちだネ、来訪者(仮)殿ハ……」
「なんだよ、その(仮)は………、(仮)を外せよ」
「いやいヤ、そうはいかないネ。良く考えれバ、お主が『来訪者』である可能性は高くないヨ。なぜなら、『来訪者』は皆、美形だというネ。つまり、お主の面相では………ちょっと無理があるナ」
「ぶっ殺すぞ、てめえ!」
顔のことに触れられ、キレ気味になる俺。
なんで、レッドオーダーにまで顔について彼是言われなきゃならんのだ!
だが、俺の剣幕にも黒司祭は飄々とした雰囲気で応対。
「おやおヤ? 怖い怖イ。拙僧1機では勝ち目も無いかラ、ここは一先ず退却と行こうかネ」
と言うなり、バッと機体を翻して後方へと走り去る。
「コラッ! 逃げるな!」
俺は一瞬、その逃げっぷりに呆気にとられるも、
すぐさまその後を追いかける。
コイツのような知恵者っぽい敵は逃がすと厄介。
ここで仕留めなければ後々苦労するかもしれない。
だが、20mも走らないうちに、
通路の横から黒く巨大な影が飛び出してきた。
ガァァァァァァッ!!
響く獣咆哮。
通路脇の闇が爆ぜたように、視界一杯に黒が広がる。
それは、全長8メートルはある漆黒の巨狼。
全身黒い装甲で覆われた四足獣の戦闘機械。
「なっ………」
反応する間もない。
当然、避けることもできずに、
ガブリッ!!
「ぎゃああああああああっ!!」
俺の口から絶叫が迸る。
左腕を噛みつかれた。
巨大な顎が肘から先を丸ごと飲み込む形で。
このまま食われる………
そう思った瞬間、俺は本能のまま身体が動いた。
「離せええええ!!」
左腕を思い切り振り回す。
ブォンッ!!
巨大な狼が宙へ浮く。
いや、浮いたのではない。
俺の左腕にぶら下がったまま、振り回されていた。
ドゴォン!!
狼の胴体が壁へ激突。
その反動で今度は反対側へ。
ガン!!
床へ叩きつけられ、
ドゴンッ!!
今度は天井へ。
さらに壁。
床。
壁。
ドガン!
ガン!
ゴシャン!!
巨大な鉄の塊が、まるで玩具のぬいぐるみみたいに振り回される。
そのたびに巨狼の装甲がひしゃげ、
脚が折れ、尾が千切れ、
火花が辺りへ飛び散る。
「離せ! 離せよおおお!!」
しかし、そんな状態の巨狼に気づかず、
俺は食われまいと必死。
喰われる恐怖で半泣きになりながら、
左腕を滅茶苦茶に振り回し続ける。
一方の巨狼は、
ガン!
ドゴン!
ゴシャァッ!!
と、為す術もなく壁や床へ叩きつけられるばかり。
いつの間にかその四肢は千切れて、頭と胴体だけの状態。
赤い光を放っていた両目も瀕死であるかのように、か細い明滅を繰り返す。
それでも噛みついたままであるのは、狼としての本能であろうか?
顎辺りのモーターがギュンギュンと音を立て、未だ俺の手を噛み潰さんと唸りを上げる。
「こ、このおおお!!」
ようやく右手に『青雲剣』を握っていたことを思い出す。
左腕に噛み付いたままの首目掛けて一閃。
ザンッ!!
青い剣閃が走り、
巨狼の首が綺麗に切断。
胴体から切り離された巨狼の頭部は、
やがて噛み付く力を失い、
床へと落ちてその目の光を消失。
また、胴体も横倒しとなり沈黙。
頭部同様、その動きを止めた。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら、
恐る恐る噛まれてしまった左腕を見る。
「あれ……?」
袖に牙の跡はある。
だが凹んでいるだけで破れてもいない。
さらに剥き出しとなっている手の部分も無事。
転がっている巨狼の頭……口元を見れば、
空恐ろしくなるほどの牙が鋭く生えそろっているのが分かる。
アレで噛みつかれたらズタズタであるはず。
なのに、俺の手はまるで傷ついておらず、
血は一滴も流れていなかった。
「……なんで?」
俺は当然のように疑問を口にする。
そして、その回答は実に分かりやすく、
周りに転がっていた。
壁へ何度も叩き付けられたせいで装甲がボロボロになり、
原形を留めなくなった巨狼の残骸。
俺が振り回したことによる損壊。
常人が………いや、いくら最強武将であろうと、
10トンを超えるような質量を片手で振り回すなんてできるはずがない。
また、全長8mの巨狼に噛みつかれて全くの無傷であることも。
しかし、先ほど俺の手で行われたことは現実。
噛みつかれても……、
鉄芯を打ち込まれても……、
傷一つ負わなかったことも……
「…………」
俺は残骸を見た。
自分の左手を見た。
もう一度残骸を見た。
そして、俺がはじき出した答えは………
「…………ひょっとして、俺って……ものすごく強いのか?」
コイツ等が弱いのではなく、俺が強すぎて相対的にそう見えたのか?
鉄芯が刺さらなかったのも、牙が通らなかったのも、
重力場がほとんど俺に影響を与えなかったのも、
俺が規格外の力を持っていたから、ではなかろうか?
これが本当の『闘神』スキルの力。
あくまで人間でしかない最強武将の戦闘力が宿るのではなく、
文字通り『闘いの神』が俺の身体に宿ったのか……
ここで初めて自分の力を認識。
ジッと左手を見つめながら、しばし茫然。
しかし、そんな状態の俺の視界に、
「オノレ! よくもオルトロスヲ…………」
通路の先に僧杖を振りかざす黒司祭が写り込んだ。
退却せずにここに留まった所を見ると、
どうやら俺を偽装退却で誘い込み、
この巨狼……オルトロスと2機がかりで、
俺を袋にするつもりだった様子。
だが、俺がオルトロスを瞬殺したため、当てが外れてしまった模様。
それでも、俺に一矢報いるべく、何かしらの術を放とうとする構えだが、
「させねえ!」
すぐさま『青雲剣』を手に、黒司祭に向かって突撃。
まだ自分の身体の検証は済んでいない。
鉄杭、牙は通らなくても、重力を力業で打ち破れても、
熱や冷気、電撃などには弱い可能性だってある。
「だあああ!!」
気合い一閃。
雄叫びを上げて切りかかり、
『青雲剣』にてその首を跳ね飛ばそうとするが、
「空壁!」
黒司教が僧杖を持つ右手はそのままに、
反対の左手を前へと翳して、短く術名を唱える。
ガキンッ!
すると、見えない障壁が現れ、俺の斬撃を受け止めた。
「な……、な……、何んで?」
今まで出会ってきた敵、その全てを一刀の元に切り捨ててきた『青雲剣』。
その斬撃が初めて止められしまった形。
全幅の信頼を置いていた『青雲剣』を止められ、俺は激しく狼狽。
慌てて剣を引き、もう一度構えなおそうとした瞬間、
「もらいましたゾ! 『水牢』!」
黒司教の僧杖から水球が発生。
あっという間に巨大化し、運動会の玉転がしぐらいの大きさに。
そして、その水球は隙だらけであった俺の身体をすっぽりと飲み込む。
その術名のごとく、水でできた牢屋に閉じ込められてしまった模様。
「そのまま溺れ死になさレ!」
「ゴボゴボゴボゴボ………」
口を開ければ水が入ってくる。
慌てて口を閉じても周りが水ばかりなのだから状況は変わらない。
ヤバい!
このままでは………
一瞬、パニックになりかけるも、
つい、先ほど、自分が強いと認識したばかり。
水に包まれたぐらいで『闘神』が死ぬか? と疑問を抱き、
また、『仙人』でもある俺は、そもそも呼吸があまり必要ではないことを思い出す。
『仙人』は一呼吸するのに丸一日かけることもあるという。
息を止めたまま半日以上動き回ることだって可能。
現に、今尚、水の中で息を止めた状態にもかかわらず、
全く苦しむことはなく、動悸が激しくなることも無い。
ならば、この『水牢』によって俺が溺れ死ぬことはない。
であるなら、この状況を利用して、黒司教の油断を誘うべきであろう。
「ゴボゴボゴボゴボ……」
水牢の中で苦しむフリをしながら、黒司教の隙を伺う。
『青雲剣』の一撃を止められた。
もう一度、切りかかっても、同じように止められる可能性が高い。
黒司教は発していた術名『空壁』から想像するに、
おそらくはアニメや漫画でよくある『位相をズラした空間』を盾にした形であろう。
となると、通常の物理攻撃では突破できない可能性が高い。
どうにかして、『空壁』を発動できないようにする必要がある。
手を振りかざし、わざわざ術名を唱えていたことから、
発動には手を動かし、発声が必要だと思われる。
それを妨害することができれば、『空壁』の発動を封じられるかもしれない。
けれども、そんな発声・動きを妨害するような方法なんて………
んん? そういえば、
俺は今、まさに発声と動きを妨害されているな……、この大量の水で。
そして、俺の手には『地水火風』を操る『青雲剣』があるから………
「『青雲剣』よ! 水を従えろ!」
ザッパーン!!
俺を包み込んでいた水球が内側から弾ける。
卵の殻を破くように、
俺は水球からの脱出を果たす。
そして、弾けた大量の水を『青雲剣』の力で支配。
さらに、その量を何倍にも増やして、黒司教へと向かわせる。
「なんト! 拙僧の制御を奪っタ? 貴様ああア!」
「ハハハハッ! 奪われた方が悪いんだよ!」
黒司教の激高に、少しばかり悪っぽく言い返す俺。
「そらっ! お返しだ!」
水が濁流と化して黒司教を襲う。
幾本もの水流が大蛇のように這い、
その四肢を水圧で縛りつけ、
身動きできないように固定。
さらに、顔面を水で覆って発声を封殺。
これで準備は整った。
後はトドメを刺すだけ。
「行くぞ! 『青雲剣』!」
俺は通路を流れる水流の上に飛び乗り、
そのまま流れの上を水飛沫と共に駆け抜ける。
『青雲剣』の力を持ってすれば、水上歩行なんて朝飯前。
「とった!!」
今度こそ決めると、気合を乗せての一閃。
青雲剣の刃が煌めき、空色の閃光が身動きの取れない黒司教の首を薙ぐ。
ズバンッ!
切り離された首は1m程後ろに飛び、
水に濡れた床へとゴロゴロと転がって……停止。
その顔の仮面を恨めし気に俺へと向けながら、
自らを『