「なぜ、妾の機種名を………」
俺の言葉を受けて呆然とする朱妃……機械種セイオウボ。
まさか俺のような少年に機種名を見抜かれるとは思ってなかったに違いない。
目が大きく見開かれ、瞳の奥の朱色の光が強く瞬く。
その顔に浮かぶのは信じられないといった表情。
驚いた顔もまた魅力的。
成熟した美貌に、少女のような幼さが映し出される。
それは普段隠していた部分が曝け出される程に、
動揺しているということであろう。
機械種セイオウボが、初めて人間に見せた狼狽した姿であったのかもしれない。
出会った当初から落ち着いた立ち振る舞いを見せてきたが、
何のヒントも無しに自身の名を当てられたことに驚きを隠せない様子。
我、奇襲に成功セリ
機械種セイオウボの動揺を前に、
心の中で喝采を上げる。
会話の主導権を握るための最初の一投としては、それなりに効果があった模様。
これで機械種セイオウボは俺を無視できず、一定の興味を持ってくれただろう。
恥ずかしいのを我慢して、一世一代の告白を行った甲斐があったというもの。
あとは、俺が最後に『くだしゃい!』って噛んだのを、
そのまま何事も無かったかのようにスルーしてくれたら完璧………
なんで、俺って、いつも締まらないんだろうね?
一番盛り上がる場面でNG出してしまったに等しい。
頼むから、さっきの噛んだ部分は無かったことにしてくれ!
触れずに流して、話を先に進めて頂戴!
祈るような気持ちで、機械種セイオウボを見守る俺。
やがて、彼女は自身で動揺を抑え込み、
朱色に輝く双眸をこちらに向けて口を開く。
「なるほど………、ここに辿り着いたのは偶然ではないということかしら?」
俺に対しての問いというよりは、自分に対しての確認であろう。
俺は黙って視線を見返すだけに留める。
「最初は、可愛らしい少年とラビットが偶然、迷い込んだ程度にしか思っていなかったけど………」
目を細め、口にほんの僅かな笑みを浮かべ、
機械種セイオウボはジッと俺を見据えながら、
「まさか、妾に挑むに相応しい資格を持っていた、なんて……」
「資格、ですか?」
彼女の独り言に近い発言に、つい、口を挟んでしまう。
『資格』とは何だ?
さっきのやり取りと何か関係があるのだろうか?
「『資格』とは、妾達の赤に染められた晶石に響くナニカよ」
俺の不躾な質問に、機械種セイオウボは気を悪くすることなく答えてくれる。
「『力』であっても良い。『知恵』でも、『勇気』でも、『行動』でも、『言葉』でも、『美しさ』でも良い。妾達、赤爵の………、言わば心を動かすモノよ。それは人間だけが持つと言われているの。妾達はそうしたモノに出会った時……、膝を屈してその者に従う………」
「ええ? じゃ、じゃあ………」
俺の告白が機械種セイオウボの心にクリティカルヒットした?
もしかして、このまま戦闘も無しに俺のモノに………
「坊や、早合点し過ぎよ。『資格』はあくまで壇上に上がれただけのこと。真に認めるには、まだ足りないわ」
「そ、そうですか……」
「少しがっつき過ぎね。そんなでは、女の子にモテないわよ」
「す、すみません……」
鼻息荒く前のめりになる俺に、
機械種セイオウボは眉を顰めて苦言。
うう……
早合点してしまったか……
折角稼いだ好感度が減ってしまったかもしれん。
だけど、彼女が言うように、壇上に上手く上がれたのは事実。
これ以上、好感度を減らさないようにして、
何とか、次にステージに移りたいけど……
あと、何気に、俺の告白の『くだしゃい!』部分は触れられないまま。
どうやら、俺が思っていたほど、気にすることではなかったということか……
と、思っていたのだが、
パタパタ
「セイオウボさん。うちのマスターが、がっついてごめんなさい。決して悪気があったわけじゃなく、少しうっかり屋さんなだけなの。渾身を込めた告白だったのに、最後で【くだしゃい!】って、噛み噛みになるような人だから」
俺の隣に座る白兎が横から余計なフォロー。
白兎オオオオオ!
何で、わざわざその話題を今、口にするウウウウゥ!!
白兎の思わぬ発言に、
目を剥いて口をパクパク、
心の中で絶叫する俺。
しかし、そんな俺を他所に、機械種セイオウボは、
その話に乗っかる形で、俺の告白を駄目出し。
「ああ、そうだったわね。折角の情熱的な口説き文句だったのに、最後で台無し……、ちょっと残念だったかな~………、流石に『くだしゃい!』は無いわよねえ?」
フルフル
『いつも無理やり恰好つけようとして、逆にもっと格好悪くなっちゃうの』
「そういう人、いるわよねえ。恰好良いセリフや行動が致命的に似合わない人。決してそれが悪いわけじゃないけど……、似合わないことはしない方が良いわね」
ピコピコ
『それを認めたがらないのが一番いけないと思う。格好悪いなら、格好悪いままで、やり方があるのに……、悪い方向に背伸びし過ぎ! もっと謙虚にならなきゃ!』
「自分を大きく見せたがるのは殿方の気性だけど、中身が伴わないのに、粋がるのは見ていて辛いものがあるわね」
フリフリ
『セイオウボさん! もっと言ってやってください! うちのマスターは懲りないので!』
「コラッ! 白兎! お前、どっちの味方だああああ!!!」
テーブルをドンッと叩いて、白兎を掣肘。
これ以上余計なことを言わせないよう、掴みかかろうとすると、
フルフルッ!
『本当のことを言っただけでしょ!』
捨て台詞を残して、テーブルの下へと逃げる白兎。
すぐさまテーブルの下を覗き込むが、白兎の姿は見つからず……
ふと、テーブルの向こうに気配を感じて、顔を上げてみれば……
「あらあら?」
パタパタ
『お邪魔しま~す』
なんと白兎は機械種セイオウボの膝の上にチョコンと座っていた。
「ウフフフ……、可愛いわね」
なぜか機械種セイオウボは上機嫌。
膝の上の白兎を甘やかすように頭をナデナデ。
白兎も嬉しそうに耳をフルフル。
自分の可愛さをアピールするかのように、
斜め45度の決めポーズを披露。
椅子に座った美女とウサギの、実に絵になる光景。
このまま絵画にして美術館にでも飾っても違和感が無い程に。
「は、白兎……、お前……」
なぜか、その光景にショックを受けてしまう俺。
白兎を取られてしまったような気分になってくる。
いつの間にかヒロインを寝取られてしまった主人公の気持ちというべきか?
って! 違う!
別に白兎は俺のヒロインではない!
むしろ、機械種セイオウボの方が俺のヒロインであろう!
いや、これは逆に俺のヒロインが白兎に寝取られてしまったのだろうか?
このままでは俺のセイオウボさんが白兎の魔の手に……
おのれ! 白兎!
お前が俺の
俺の目を以ってしても見抜けなかった!
こうなったら、もう最後の手段しかない!
正攻法で戦いを挑み、この手でヒロインを勝ち取るしか!
「白兎! セイオウボさんを賭けて、俺と勝負しろ!」
パタパタ
『ほほう? 身の程知らずとはまさにこのこと。告白の最後で【くだしゃい!】って噛み噛みするマスターが、セイオウボさんに相応しいとでも?』
機械種セイオウボの膝の上で偉そうに胸を張る白兎。
耳をパタパタ、俺を挑発するかのような切り返し。
「うるせえ! そこまでそのネタを引っ張るんじゃねえ!」
堪らず一喝。
そして、仕切り直しで、再度宣言。
「お前を倒して、セイオウボさんを手に入れる!」
拳を握り締め、白兎へと不退転の覚悟を見せつける。
ピコピコ
『よかろう! マスターが勝てば、彼女をくれてやろう!』
悪役っぽく言い返してくる白兎。
そう言いつつ、当の彼女の膝の上なのだから、微妙に決まらない。
テーブルを挟んでにらみ合う俺と白兎。
視線と視線がぶつかり合い、今にも火花が飛び散りそうな雰囲気。
美女を賭けての勝負となれば当たり前。
互いの意気込みは天元突破しそうな勢いで高まる。
なんでダンジョンの最下層にて、
ダンジョンマスターである朱妃の前で、
自分の従属機械種と対峙しなくちゃならないんだ? とは思いつつ。
そんな最中、勝手に賭けの対象にされた機械種セイオウボが動きを見せた。
膝の上の白兎を両手でソッと持ち上げ床に置き、
パンパン!
立ち上がって両手を打ち鳴らした後、
俺と白兎へと向かって、
「はいはい。勝手に妾を賭けの賞品にしないの。それから、坊や達が仲が良いのはもう分かったから………、この辺でお開きにしなさい。お話が進まないでしょ!」
このお巫山戯の中止を要請。
人類に仇成すレッドオーダー、
その最高位である朱妃としては当然の行い。
「すんません!」
フルフル
『ごめんなさい。調子に乗り過ぎました』
素直に頭を下げる俺と白兎。
途中から、悪乗りし過ぎてしまったのは間違いない。
ああ……、やってしまった。
またも、好感度を下げてしまったかもしれない。
どうにも白兎と一緒だと、子供染みた行動を取ってしまう。
長年連れ添った友達のような距離感。
会ってまだ数日のはずなのに、ここまで俺に影響を与えるのはなぜか?
白兎が巫山戯始めると、つい、こっちも気を許してしまいがち。
もちろん、セイオウボさんの前で、巫山戯てしまった言い訳にはならないのだけど……
あまりの申し訳なさに、しばらく顔を上げられず。
視界の端に移る白兎もペコリと頭を下げたまま。
すると、やがて、俺の耳に『クスクス』と小さな笑い声が聞こえてきた。
驚いて顔を上げると、機械種セイオウボが、その相好を崩し、
口元を袖で隠しながら、愉快そうに笑っている姿が目に入った。
ふと、目が合うと、機械種セイオウボはニッコリと微笑み返し、
「本当に、坊や達、面白いわね。ここまで心を動かされたのは久しぶりよ」
鈴を転がすような楽しげな声で俺達を賞賛。
そして、とびっきりの笑顔を見せてくれながら、
「坊やなら、本当に妾を従えることができるかもね………」
と、意味深な発言を口にして、
「さあ、後は、妾を従えるに相応しい『力』を見せて。そうすれば、妾は………」
朱色の目をギラリと輝かせ、
声に期待と歓喜を含ませて、
俺に向かって挑戦的な視線を投げかけてきた。