「で、どうするの? 白兎ちゃんと一緒に挑んでくる?」
「えっと、その場合は………」
「もちろん、ハードルは上がるわね。妾が見たいのは坊や本人の力なのだから」
「………分かりました。俺1人でお相手します」
広いホールの中央で向かい合う俺と機械種セイオウボ。
向かい合うと言っても、彼女との距離は20m以上。
これから両者戦おうという距離としては、
近接戦を挑むにはやや遠く、
遠距離戦で撃ち合うにしては近い。
剣を主武装とする俺と、
どう見ても術者タイプである機械種セイオウボとの戦闘であれば、
両者とも妥当な距離であると言える。
今回は文字通り、機械種セイオウボとの一騎打ち。
白兎を参戦させれば心強いが、先ほどの話から、
彼女は俺の力を測りたがっているのは明らか。
それは純粋な戦力だけではなく、俺の心も試そうとしているに違いない。
白兎と一緒に挑むのであれば心強いが、俺へのマイナス査定が入るのは確実。
彼女を手に入れたいと思うのであれば、ここは俺1人で挑むのがベスト。
フルフルッ!
『マスター! 頑張って!』
少し離れた場所から白兎が応援。
いつの間にか着込んだ応援団服に必勝鉢巻、
手には応援団旗を持ってフリフリと振り回す。
軽く手を振って、白兎に応え、
青雲剣を構え直して、機械種セイオウボへと向き直る。
決して条件は悪くないはず……
彼女は『力』を見せて、とだけ言った。
『勝て』とも『戦え』とも、言わず、
また、『試す』とも言わなかった。
つまり、彼女の主に相応しい『力』を見せたのなら合格ということ。
ハードルはかなり下がっていると見ていい。
ただし、油断は禁物。
おそらく機械種セイオウボの心持一つで難易度は変わる。
どの辺が響いたのかは分からないが、
俺と白兎の気心が知れたやり取りが、
彼女の俺への好感度を上げたのは間違いない。
だが、折角上げた好感度も、俺が不甲斐ない所を見せた瞬間に幻滅することだってありうる。
あっという間に好感度が急下降して、難易度が爆上がりする可能性だってあるのだ。
ここはなけなしの勇気を振り絞り、堂々たる態度を維持しつつ、
機械種セイオウボとの戦闘に挑まなくてはならない。
白兎の助けも無しに、
青雲剣ただ一つを頼りに、
彼女へと俺の『力』を見せつける………
とはいえ、いきなり青雲剣で切りかかっていくのもハードルが高い。
相手は妙齢の女性。
しかも、絶世の美女。
人類の敵であるレッドオーダーだが、
すでに敵として見るのが難しい状態。
むしろ、俺の今の好感度からすると、
青銅の盾でお世話になったジュレに迫る勢い。
温和な性格、お茶目な部分。
巫山戯合っていた俺と白兎を笑って許すおおらかさ。
元の世界も合わせ、ここまで良い人と出会ったことは稀。
そんな人相手に、武器を振りかざして迫るのは、
俺の心情的に非常に困難。
しかし、俺の『力』を見せつけなければ、
仲間になってくれることない。
さて、一体どうしたものか………
彼女を傷つけずに俺の力を見せつける方法は無いものか?
ここはいっそ、こちらからではなく、
彼女から仕掛けてもらい、その攻撃を苦も無く処理することで、
俺の力を示した方が良いのかもしれない。
「どうしたの? 坊や。こないのかな?」
「…………………」
「もしかして、怖気づいた?」
「いえ………、できれば、そちらから攻撃してもらえませんか?」
「ふ~ん………、怖気づいたのではなく、女性相手に剣を振るうのが苦手なのかな?」
「う………」
俺の図星を突いてくる機械種セイオウボ。
問題児を見つめる先生のような目で、
穏やかながらも厳しく俺を指導。
「これから先、坊やが立ち向かう相手は、女性型よ…………、赭娼、紅姫、朱妃。その大半は人間の形をしているわ。そんなので、この先一体どうするおつもり?」
そうは言いましても、女性相手に暴力を振るうのは……
万が一、傷つけてしまったらと思うと、なかなかに手が出ない。
「もう……、しかたありませんわね」
機械種セイオウボは軽く溜息をつき、
その美しい繊手を俺の方へと向けた。
「では、こちらから参りましょう。遠慮なく行きますわよ」
機械種セイオウボからの攻撃宣言。
「まずは………灼熱の炎」
その翳した掌に、紅蓮の火球が生まれた。
最初は拳ほどだった炎は、瞬く間に膨れ上がる。
直径1m……、3m……、5m……
最後には家一軒が丸ごと飲み込まれそうな巨大な火球に。
どう見ても人間相手に撃つサイズではない。
こんなの、ぶつけられたら、骨すら残らないかもしれない。
「ちょっ……、デカすぎ……」
「さあ、対処してみなさい。これぐらい1人で何とかできないようでは、先はありませんよ」
俺の泣き言に被せるように、
機械種セイオウボは挑戦的な言葉を叩きつけてきた。
フワリ、と放られた火球が俺へ迫る。
速度は決して速くない。
だがちょっと避けたところで、この火球が炸裂すれば、
辺り一帯焼き尽くされるのは確実。
ならば、ここは迎撃するしかない!
俺の手の中にある青雲剣であれば可能!
『炎』に対抗するのは『水』だ!
「『青雲剣』!」
俺は必死の形相で青雲剣を掲げる。
「水だ! あの火球を打ち消すぐらいの量を出せ!」
柄の宝玉が蒼く輝いた。
ドオオオオオォォォォッ!!
剣先から大量の水が噴き上がる。
流れる川がそのまま出現したような激流。
水は剣先から少し離れた空中で巨大な水球を形成。
その大きさは火球の1.5倍程度。
鎮火させるには十分な量。
「行け!」
俺は『青雲剣』を振りかぶり、
迫りくる火球へと水球を投げつける。
ゴオオオオオォォッ!!
真正面から水球と火球へとぶつかり合い、凄まじい水蒸気爆発が発生。
辺り一面が真っ白になり、水蒸気を過分に含んだ熱風が俺の顔へと吹き付けてくる。
「うわっ!」
思わず腕で顔を庇う。
だが、すでに時は遅し。
熱風が俺の頬を撫で、顔全体を高熱が襲う。
この現象は当然の結果だが、
瞬時にそこまで頭が回らなかった。
通常なら、あっという間に焼け爛れていたであろう熱量。
しかし、俺が感じたのは少しばかり熱いお湯を被った程度。
どうやらこれくらいの熱は、『闘神』である俺には通用しない模様。
だが、熱風には耐えられても、何千度あるか分からないような炎は別。
炎熱耐性があるかどうか、まだ決めつけない方が良さそうだ。
しばらくすると、白煙が晴れる。
炎は綺麗さっぱり消え去り、
辺りは足元が浸かるくらいの水浸し。
そして、向かいには機械種セイオウボの艶姿が見える。
足元の水を避けるように数センチだけ浮遊している様子。
そして、その表情に浮かぶのは微かな笑み。
俺の対応に満足したような雰囲気を醸し出していた。
「水の扱い方がお上手ね。それもその発掘品の効果かしら?」
「まあ、そんな感じです」
「フフフ……、そんな凄い発掘品に認められているね、坊やは。流石は白兎ちゃんのマスターって所ね」
「ハハハハ……、ありがとうございます」
機械種セイオウボからの評価。
一つの試練が終わった後のやり取り。
何気ない日常会話であるようだが、
一つ間違えたら焼死していたかもしれないことを考えると、異常とも言える光景。
だが、これが、俺が進もうとしていている道なのであろう。
危険と隣り合わせの狩人業。
正直、危ない橋は渡りたくないのだが、
それでも、俺が目指す所に辿り着くためには、
ある程度身体を張って行かなくてはならないのだ。
「では次、行くわよ」
機械種セイオウボからの次なる試練の開始宣言。
「今度はビリビリだから上手く防ぎなさい」
パチッ。
セイオウボの指先で紫電が弾ける。
そして、次の瞬間、彼女の指先から青白い雷光が生まれ、
バリバリと雷鳴を轟かせ始める。
それは何万ボルトあるか分からない高圧雷流。
空から降り下ろされるはずの雷霆が地上へと降臨。
あの雷がこちらに向けて発射されたら避けられるわけがない。
雷速の攻撃など躱しようが無く、物理的な障壁を以って防ぐしかない。
瞬時に脳裏に浮かんだのは、元の世界の避電設備。
当たり前のように家々に設置されているはずのアレだ。
「『青雲剣』!」
俺は慌てて剣を床へ突き立てる。
「地より出でて柱となれ!」
剣の柄の宝玉が黒く光る。
それに合わせて、『土』の力が剣から床へと伝わり、
ゴゴゴゴゴッ!!
床から土柱がせり上がってくる。
俺を囲むように幾本もの土柱が高さ3m近くまで伸びた。
まるで石で作られた林のごとく。
金属を過分に含む層を表面に、
電流を床へと流す為の芯を埋め込んだ土柱が顕現。
これが俺を雷から守りうる避雷針。
これで電撃を防ぐことができるはず。
そして、次の瞬間。
ズドォォォォォン!!
天地を裂くような雷鳴。
眩く閃く雷光が迸る。
放たれた雷撃は俺ではなく、
周りの土柱へと吸い込まれるように命中。
轟音。
閃光。
眩しさで一瞬視界が真っ白になる。
砕け散った雷が蜘蛛の巣のように周囲へ走り、
俺の身体にも幾筋かが飛び移った。
さらに足元に浸る水からも感電。
紫電が走り、俺の全身を駆け昇る。
「うぎゃっ!」
俺の身体がビクンと跳ねる。
皮膚表面にピリッとした感触が生じ、
驚いて声を漏らしてしまう。
だが、それだけ。
痺れることも火傷することも無く、
無事電撃をやり過ごすことができた様子。
「ふぅ……避雷針のおかげか……」
俺は胸を撫で下ろす。
ある程度、電撃の威力を分散できた故に、
ほぼ被害を受けなかったのであろう。
足元の水溜まりからも感電したのは予想外だったけど、
ゴム底だったからか、どうやらほとんど通電せずに済んだ模様。
「水よ、引け!」
俺が青雲剣を翳して命令すると、
辺りの水溜りが一瞬で消滅。
これからは周りの環境にも気を遣わなくてはなるまい。
今後『青雲剣』を使う時は、きちんと後始末しておかなくては。
今回のような二の舞は御免。
「随分と多芸ね、その発掘品は? 『生成制御』に『錬成制御』まで組み込まれているの?」
「『生成制御』? 『錬成制御』? ………多分、そうじゃないですかね?」
物珍しそうにする機械種セイオウボからの質問に、適当に答える俺。
あの機械種ビショップには『宝貝』と答えたが、
正しく理解できたとは思えなかった。
どうせ説明しても彼女に理解できるはずもない。
明らかにこの世界の理から逸脱した存在なのだから。
「フフフフ、坊やにはまだまだ秘密がありそうね?」
機械種セイオウボは蠱惑に微笑みながら、
チラリと流し目を俺へと向ける。
背筋がゾクゾクッとするほどの色っぽさ。
俺への興味を強めている様子。
「楽しみね、どこまで妾が引き出せるのかしら?」
今まで穏やかで落ち着いた雰囲気を纏っていたが、
俺との戦闘に興奮しているのか、少しだけ様子が変わったように思える。
優しいお姉さんから、峻厳たる女神へ。
ただの少年を眺める目から、己への挑戦者を見つめる目へ。
「さあ……、次はどう対処するのかな?」
そう呟くと、彼女は掌の上に、
透明な液体を浮かべた。
ぷるり、と震える小さな水滴。
それが徐々に膨れ上がり、直径1m程の水球まで成長。
俺が炎とぶつけて相殺した水球よりもずっと小さめ。
だが、朱妃が生成する以上、ただの水ではありえない。
「超強力な濃硫酸よ」
俺の疑問の目に応えるように、
ニコリと笑ってその正体を説明。
「当たったらドロドロに溶けちゃうからね」
「そんな液体を笑いながら飛ばそうとするのどうかと思いますけど!」
先ほどから殺意が高い。
本当に気に入られているのかと疑問に思うくらい。
しかし、一応、事前に説明してくれているのだから、
一定の配慮をしてくれているのだ、と信じたい。
「えい」
可愛らしい声とともに、直径1mの液体球が俺へと飛ぶ。
機械種セイオウボから投げつけられた濃硫酸の塊が迫りくる。
土で受け止める、
風で散らす、
水で薄める、
などを考えたが、どれも確実性が薄く、
濃硫酸の効果がその場に残ることを考えると、
迂闊には選べない。
ならば、ここは………
「一気に焼き尽くす!」
青雲剣を振り翳して、
柄の宝玉へと力を集中。
宝玉に赤い光が灯り、
空色の剣身が仄かに光る。
「炎よ!」
俺の呼びかけに応じ、剣先から真っ赤な炎が吹き上がる。
そして、炎の剣と化した『青雲剣』を振りかぶり、一閃。
その一振りによって炎の斬撃が撃ち出され、
俺と機械集セイオウボの間で濃硫酸の塊と衝突。
ボンッ!!
炎と液体の衝突に白い水蒸気が爆発的に広がる。
これは2つ前の試練の焼き回し。
2度も同じミスを繰り返しはしない。
爆ぜた瞬間、刺激臭を伴う白煙が立ち込めるが、
「風よ!」
青雲剣に命じて風を発生。
突風が巻き起こり、猛毒に等しい白煙を散らして無害化。
「ふう……」
これも上手く対処できたことに安堵の溜息。
「これも切り抜けることができた……」
何度か攻撃が命中したものの、全くの無傷という結果に、
思わず会心の笑みが浮かび上がる。
機械種セイオウボを攻撃せずして、俺の力を示せた形。
今の所、彼女からの試練は全て完璧に近い形でクリアできたと思う。
やってやったぞ、白兎!
思わずチラリと白兎がいる方角へと視線を移す。
すると、白兎は耳をパタパタ『まだ油断しないで!』と鋭く警告。
ハッと、まだ試練が終わっていないことを思い出し、
すぐさま機械種セイオウボへと視線を向ける。
すると、彼女はどこからか取り出した扇で口元を隠しながら、実に楽しそうに笑っていた。
「ウフフ……素敵ね」
朱色の双眸が嬉しそうに細められる。
細められた目から洩れる朱の光が強く輝く。
そして、身に纏う艶やかな衣装が薄く発光。
全身から陽炎が立ち上っているかのごとく。
また、その周りの空気が不自然な動きを見せる。
まるでナニカの予兆であるかのように。
これから起きるナニカの前触れであるかのように。
「お見事。妾の攻撃を防ぎ切ったことは評価に値します」
機械種セイオウボからのお褒めの言葉。
だが、決してそれだけで終わらないと感じる響きが秘められていた。
案の定、彼女が紡ぐ続きの言葉は、
俺の足りないモノへの言及であった。
「けれど、まだ足りない。坊やの心の強さを見ていない。迫りくる刃を退けることはできても、自分が信じるモノの為に、刃を振るう覚悟が見えない。それでは、どこかで頭打ちよ。決して頂には届かない……」
別に頂に上るつもりは無いのですが……
セイオウボの言葉に、
俺は声を出さずに心の中だけで反論。
そこそこ稼げて、安定した環境を維持できて、
後は可愛いヒロインをゲットできれば、
人生エンジョイ、それで十分じゃないですか?
と、返すわけにはいかないのが辛い所。
しかし、『心の強さ』という曖昧な概念を持ち出してきて来られても困る。
そんなモノ、時と場合と状況によって、いくらでも変わってくる。
同じ状況、同じ環境下であっても、その時々の心境により、
心の強さなんて、上下するもの。
その瞬間だけを切り取って、
強い、弱いを言うのは違うと思う。
さりとて、先方がソレを求めているなら、
そのように演じる必要があるだろう。
とりあえず真面目な顔で彼女の説法を受け入れているポーズ。
ちょっとだけ、痛い所を突かれましたという雰囲気も見せておこう。
「だから妾に見せて頂戴。坊やの心の強さを………」
続けて、俺に語り掛けてくる機械種セイオウボ。
神妙な面持ちでの訴えだが、俺は内心、斜めに構えた冷めた思考を続ける。
なんか、ゲームで出演する神様みたいなことを言いだしたぞ。
主人公に試練を課し、合格したらアイテムとかくれるタイプ。
事実、この試練に打ち勝てば、彼女自身をゲットできるのであろう。
ならば、今、この瞬間だけ、『心の強さ』ってモノがあるように振る舞うのが吉。
『心の強さ』に頼らない『闘神』の力を見せつけてやるとしよう。
青雲剣を手に、機械種セイオウボと改めて対峙。
何が飛んできても対処できるように、油断なく待ち構える。
さて、機械種セイオウボの最後の試練はいかなるものか?
炎、電撃、強酸は封じた。
残る属性は、氷とか、風とか、光とか、闇とか……
どう見ても、機械種セイオウボは魔術なんかが得意なタイプ。
攻撃してくるとすれば、必ず魔術っぽいモノが飛んでくるはず……
しかし、俺の思惑とは裏腹に、
機械種セイオウボは魔術っぽい何かを飛ばすことも無かった。
ただ、俺の見ている前で………
セイオウボは静かに瞳を閉じ、
その朱色の双眸が再び開いた瞬間、
ゴォォォォォッ!!
大気が悲鳴を上げた。
彼女の全身から噴き上がる朱色の気流が、
嵐となって大広間を揺るがす。
床が砕け、天井から砂塵が舞い落ちる。
その細くしなやかな機体が、ミシミシと音を立てて膨れ上がっていく。
華奢な両脚は轟音と共に四肢へと分かれ、
黄金と黒の縞模様を纏う巨大な虎の下半身へ変貌。
腰からは豹のように長くしなる尾が伸び、
床を一薙ぎするだけで石畳が紙のように裂ける。
四本の脚の先には獅子を思わせる巨大な鉤爪。
さらに背中では骨が軋むような音と共に巨大な甲羅が隆起する。
幾重にも重なる漆黒の亀甲は鈍い光沢を放ち、
古城の城壁すら思わせる圧倒的な堅牢さを誇示。
やがて変化は上半身へ及ぶ。
白磁のようだった美貌は、虎の面影を宿した凶悪な異形へ。
裂けた口元からは虎のような牙が幾本も突き出し、
人を喰らう獣の形相がソコに現れた。
乱れた漆黒の長髪、その髪に揺れる朱玉の簪だけが彼女の面影を残す。
そして、
肩口が大きく裂け、
新たな腕が生え始める。
一対……、
二対……、
最後に右肩からもう一本。
合計五本の腕が、まるで巨大な蜘蛛の脚のようにゆっくりと広がった。
それぞれの腕には、禍々しい武器が握られている。
黒い液体を滴らせる一本の長針。
血塗られたように見える赤い短刀。
鈍く光る刃が無数に連なる鋸。
内臓を抉り取る形状をした禍々しい鍵爪。
そして、首を刎ねるためだけに鍛えられたかのような反り返る大刀。
その五つ全てが、業物と分かる威容。
ただ、肉を、骨を、切り裂くだけではない仕様なのは明らか。
気づけば、その巨体は15メートルを超えていた。
美しき仙女の姿は跡形もなく消え失せ、
そこに立っていたのは神話に語られる災厄そのもの。
獣王の猛威と、処刑神の残虐さを一つの肉体へ押し込めた異形の獣神。
朱色に燃える双眸が、ゆっくりと俺を見下ろす。
「ひっ!」
怯えた声が俺の口から自然と洩れる。
その視線を受けただけで、俺の全身の毛穴が総毛立った。
まるで目の前にいるのはただの機械種ではない。
人が決して逆らってはならない神そのもの。
そして獣神となった機械種セイオウボは、
牙の隙間から低く唸るような声を漏らした。
「……さあ、坊や。貴方の心の強さを妾に見せて……」
その声だけは、以前と変わらぬ、
鈴を転がしたような美しい声であった。