ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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24話 朱妃4

 

 

「で、どうするの? 白兎ちゃんと一緒に挑んでくる?」

 

「えっと、その場合は………」

 

「もちろん、ハードルは上がるわね。妾が見たいのは坊や本人の力なのだから」

 

「………分かりました。俺1人でお相手します」

 

 

 

 広いホールの中央で向かい合う俺と機械種セイオウボ。

 

 向かい合うと言っても、彼女との距離は20m以上。

 

 これから両者戦おうという距離としては、

 近接戦を挑むにはやや遠く、

 遠距離戦で撃ち合うにしては近い。

 

 剣を主武装とする俺と、

 どう見ても術者タイプである機械種セイオウボとの戦闘であれば、

 両者とも妥当な距離であると言える。

 

 

 今回は文字通り、機械種セイオウボとの一騎打ち。

 白兎を参戦させれば心強いが、先ほどの話から、

 彼女は俺の力を測りたがっているのは明らか。

 それは純粋な戦力だけではなく、俺の心も試そうとしているに違いない。

 

 白兎と一緒に挑むのであれば心強いが、俺へのマイナス査定が入るのは確実。

 彼女を手に入れたいと思うのであれば、ここは俺1人で挑むのがベスト。

 

 

 フルフルッ!

『マスター! 頑張って!』

 

 

 少し離れた場所から白兎が応援。

 いつの間にか着込んだ応援団服に必勝鉢巻、

 手には応援団旗を持ってフリフリと振り回す。

 

 

 軽く手を振って、白兎に応え、

 青雲剣を構え直して、機械種セイオウボへと向き直る。

 

 

 決して条件は悪くないはず……

 

 彼女は『力』を見せて、とだけ言った。

 

 『勝て』とも『戦え』とも、言わず、

 また、『試す』とも言わなかった。

 

 つまり、彼女の主に相応しい『力』を見せたのなら合格ということ。

 ハードルはかなり下がっていると見ていい。

 

 ただし、油断は禁物。

 おそらく機械種セイオウボの心持一つで難易度は変わる。

 

 どの辺が響いたのかは分からないが、

 俺と白兎の気心が知れたやり取りが、

 彼女の俺への好感度を上げたのは間違いない。

 

 だが、折角上げた好感度も、俺が不甲斐ない所を見せた瞬間に幻滅することだってありうる。

 あっという間に好感度が急下降して、難易度が爆上がりする可能性だってあるのだ。

 

 ここはなけなしの勇気を振り絞り、堂々たる態度を維持しつつ、

 機械種セイオウボとの戦闘に挑まなくてはならない。

 

 白兎の助けも無しに、

 青雲剣ただ一つを頼りに、

 彼女へと俺の『力』を見せつける………

 

 

 

 とはいえ、いきなり青雲剣で切りかかっていくのもハードルが高い。

 

 相手は妙齢の女性。

 しかも、絶世の美女。

 

 人類の敵であるレッドオーダーだが、

 すでに敵として見るのが難しい状態。

 

 むしろ、俺の今の好感度からすると、

 青銅の盾でお世話になったジュレに迫る勢い。

 

 温和な性格、お茶目な部分。

 巫山戯合っていた俺と白兎を笑って許すおおらかさ。

 元の世界も合わせ、ここまで良い人と出会ったことは稀。

 

 そんな人相手に、武器を振りかざして迫るのは、

 俺の心情的に非常に困難。

 

 しかし、俺の『力』を見せつけなければ、

 仲間になってくれることない。

 

 さて、一体どうしたものか………

 彼女を傷つけずに俺の力を見せつける方法は無いものか?

 

 ここはいっそ、こちらからではなく、

 彼女から仕掛けてもらい、その攻撃を苦も無く処理することで、

 俺の力を示した方が良いのかもしれない。

 

 

 

「どうしたの? 坊や。こないのかな?」

 

「…………………」

 

「もしかして、怖気づいた?」

 

「いえ………、できれば、そちらから攻撃してもらえませんか?」

 

「ふ~ん………、怖気づいたのではなく、女性相手に剣を振るうのが苦手なのかな?」

 

「う………」

 

 

 俺の図星を突いてくる機械種セイオウボ。

 問題児を見つめる先生のような目で、

 穏やかながらも厳しく俺を指導。

 

 

「これから先、坊やが立ち向かう相手は、女性型よ…………、赭娼、紅姫、朱妃。その大半は人間の形をしているわ。そんなので、この先一体どうするおつもり?」

 

 

 そうは言いましても、女性相手に暴力を振るうのは……

 万が一、傷つけてしまったらと思うと、なかなかに手が出ない。

 

 

「もう……、しかたありませんわね」

 

 

 機械種セイオウボは軽く溜息をつき、

 その美しい繊手を俺の方へと向けた。

 

 

「では、こちらから参りましょう。遠慮なく行きますわよ」

 

 

 機械種セイオウボからの攻撃宣言。

 

 

「まずは………灼熱の炎」

 

 

 その翳した掌に、紅蓮の火球が生まれた。

 最初は拳ほどだった炎は、瞬く間に膨れ上がる。

 

 

 直径1m……、3m……、5m……

 

 

 最後には家一軒が丸ごと飲み込まれそうな巨大な火球に。

 

 どう見ても人間相手に撃つサイズではない。

 こんなの、ぶつけられたら、骨すら残らないかもしれない。

 

 

「ちょっ……、デカすぎ……」

 

「さあ、対処してみなさい。これぐらい1人で何とかできないようでは、先はありませんよ」

 

 

 俺の泣き言に被せるように、

 機械種セイオウボは挑戦的な言葉を叩きつけてきた。

 

 

 フワリ、と放られた火球が俺へ迫る。

 速度は決して速くない。

 だがちょっと避けたところで、この火球が炸裂すれば、

 辺り一帯焼き尽くされるのは確実。

 

 

 ならば、ここは迎撃するしかない!

 俺の手の中にある青雲剣であれば可能!

 

 『炎』に対抗するのは『水』だ!

 

 

「『青雲剣』!」

 

 

 俺は必死の形相で青雲剣を掲げる。

 

 

「水だ! あの火球を打ち消すぐらいの量を出せ!」

 

 

 柄の宝玉が蒼く輝いた。

 

 

 ドオオオオオォォォォッ!!

 

 

 剣先から大量の水が噴き上がる。

 流れる川がそのまま出現したような激流。

 

 水は剣先から少し離れた空中で巨大な水球を形成。

 その大きさは火球の1.5倍程度。

 鎮火させるには十分な量。

 

 

「行け!」

 

 

 俺は『青雲剣』を振りかぶり、

 迫りくる火球へと水球を投げつける。

 

 

 ゴオオオオオォォッ!!

 

 

 真正面から水球と火球へとぶつかり合い、凄まじい水蒸気爆発が発生。

 辺り一面が真っ白になり、水蒸気を過分に含んだ熱風が俺の顔へと吹き付けてくる。

 

 

「うわっ!」

 

 

 思わず腕で顔を庇う。

 

 だが、すでに時は遅し。

 熱風が俺の頬を撫で、顔全体を高熱が襲う。

 

 この現象は当然の結果だが、

 瞬時にそこまで頭が回らなかった。

 

 通常なら、あっという間に焼け爛れていたであろう熱量。

 

 しかし、俺が感じたのは少しばかり熱いお湯を被った程度。

 どうやらこれくらいの熱は、『闘神』である俺には通用しない模様。

 

 だが、熱風には耐えられても、何千度あるか分からないような炎は別。

 炎熱耐性があるかどうか、まだ決めつけない方が良さそうだ。

 

 

 しばらくすると、白煙が晴れる。

 

 炎は綺麗さっぱり消え去り、

 辺りは足元が浸かるくらいの水浸し。

 

 そして、向かいには機械種セイオウボの艶姿が見える。

 

 足元の水を避けるように数センチだけ浮遊している様子。

 

 そして、その表情に浮かぶのは微かな笑み。

 俺の対応に満足したような雰囲気を醸し出していた。

 

 

「水の扱い方がお上手ね。それもその発掘品の効果かしら?」

 

「まあ、そんな感じです」

 

「フフフ……、そんな凄い発掘品に認められているね、坊やは。流石は白兎ちゃんのマスターって所ね」

 

「ハハハハ……、ありがとうございます」

 

 

 機械種セイオウボからの評価。

 一つの試練が終わった後のやり取り。

 

 何気ない日常会話であるようだが、

 一つ間違えたら焼死していたかもしれないことを考えると、異常とも言える光景。

 

 だが、これが、俺が進もうとしていている道なのであろう。

 危険と隣り合わせの狩人業。

 

 正直、危ない橋は渡りたくないのだが、

 それでも、俺が目指す所に辿り着くためには、

 ある程度身体を張って行かなくてはならないのだ。

 

 

「では次、行くわよ」

 

 

 機械種セイオウボからの次なる試練の開始宣言。

 

 

「今度はビリビリだから上手く防ぎなさい」

 

 

 パチッ。

 

 

 セイオウボの指先で紫電が弾ける。

 

 そして、次の瞬間、彼女の指先から青白い雷光が生まれ、

 バリバリと雷鳴を轟かせ始める。

 

 

 それは何万ボルトあるか分からない高圧雷流。

 空から降り下ろされるはずの雷霆が地上へと降臨。

 

 

 あの雷がこちらに向けて発射されたら避けられるわけがない。

 雷速の攻撃など躱しようが無く、物理的な障壁を以って防ぐしかない。

 

 

 瞬時に脳裏に浮かんだのは、元の世界の避電設備。

 当たり前のように家々に設置されているはずのアレだ。

 

 

「『青雲剣』!」

 

 

 俺は慌てて剣を床へ突き立てる。

 

 

「地より出でて柱となれ!」

 

 

 剣の柄の宝玉が黒く光る。

 それに合わせて、『土』の力が剣から床へと伝わり、

 

 

 ゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 床から土柱がせり上がってくる。

 俺を囲むように幾本もの土柱が高さ3m近くまで伸びた。

 

 まるで石で作られた林のごとく。

 金属を過分に含む層を表面に、

 電流を床へと流す為の芯を埋め込んだ土柱が顕現。

 

 これが俺を雷から守りうる避雷針。

 これで電撃を防ぐことができるはず。

 

 

 そして、次の瞬間。

 

 

 ズドォォォォォン!!

 

 

 天地を裂くような雷鳴。

 眩く閃く雷光が迸る。

 

 

 放たれた雷撃は俺ではなく、

 周りの土柱へと吸い込まれるように命中。

 

 

 轟音。

 閃光。

 眩しさで一瞬視界が真っ白になる。

 

 砕け散った雷が蜘蛛の巣のように周囲へ走り、

 俺の身体にも幾筋かが飛び移った。

 

 さらに足元に浸る水からも感電。

 紫電が走り、俺の全身を駆け昇る。

 

 

「うぎゃっ!」

 

 

 俺の身体がビクンと跳ねる。

 皮膚表面にピリッとした感触が生じ、

 驚いて声を漏らしてしまう。

 

 

 だが、それだけ。

 痺れることも火傷することも無く、

 無事電撃をやり過ごすことができた様子。

 

 

「ふぅ……避雷針のおかげか……」

 

 

 俺は胸を撫で下ろす。

 

 ある程度、電撃の威力を分散できた故に、

 ほぼ被害を受けなかったのであろう。

 

 足元の水溜まりからも感電したのは予想外だったけど、

 ゴム底だったからか、どうやらほとんど通電せずに済んだ模様。

 

 

 

「水よ、引け!」

 

 

 俺が青雲剣を翳して命令すると、

 辺りの水溜りが一瞬で消滅。

 

 これからは周りの環境にも気を遣わなくてはなるまい。

 今後『青雲剣』を使う時は、きちんと後始末しておかなくては。

 今回のような二の舞は御免。

 

 

 

「随分と多芸ね、その発掘品は? 『生成制御』に『錬成制御』まで組み込まれているの?」

 

「『生成制御』? 『錬成制御』? ………多分、そうじゃないですかね?」

 

 

 物珍しそうにする機械種セイオウボからの質問に、適当に答える俺。

 

 あの機械種ビショップには『宝貝』と答えたが、

 正しく理解できたとは思えなかった。

 

 どうせ説明しても彼女に理解できるはずもない。

 明らかにこの世界の理から逸脱した存在なのだから。

 

 

「フフフフ、坊やにはまだまだ秘密がありそうね?」

 

 

 機械種セイオウボは蠱惑に微笑みながら、

 チラリと流し目を俺へと向ける。

 

 背筋がゾクゾクッとするほどの色っぽさ。

 俺への興味を強めている様子。

 

 

「楽しみね、どこまで妾が引き出せるのかしら?」

 

 

 今まで穏やかで落ち着いた雰囲気を纏っていたが、

 俺との戦闘に興奮しているのか、少しだけ様子が変わったように思える。

 

 優しいお姉さんから、峻厳たる女神へ。

 ただの少年を眺める目から、己への挑戦者を見つめる目へ。

 

 

「さあ……、次はどう対処するのかな?」

 

 

 そう呟くと、彼女は掌の上に、

 透明な液体を浮かべた。

 

 ぷるり、と震える小さな水滴。

 それが徐々に膨れ上がり、直径1m程の水球まで成長。

 

 俺が炎とぶつけて相殺した水球よりもずっと小さめ。

 だが、朱妃が生成する以上、ただの水ではありえない。

 

 

「超強力な濃硫酸よ」

 

 

 俺の疑問の目に応えるように、

 ニコリと笑ってその正体を説明。

 

 

「当たったらドロドロに溶けちゃうからね」

 

「そんな液体を笑いながら飛ばそうとするのどうかと思いますけど!」

 

 

 先ほどから殺意が高い。

 本当に気に入られているのかと疑問に思うくらい。

 

 しかし、一応、事前に説明してくれているのだから、

 一定の配慮をしてくれているのだ、と信じたい。

 

 

「えい」

 

 

 可愛らしい声とともに、直径1mの液体球が俺へと飛ぶ。

 機械種セイオウボから投げつけられた濃硫酸の塊が迫りくる。

 

 

 土で受け止める、

 風で散らす、

 水で薄める、

 

 などを考えたが、どれも確実性が薄く、

 濃硫酸の効果がその場に残ることを考えると、

 迂闊には選べない。

 

 ならば、ここは………

 

 

「一気に焼き尽くす!」

 

 

 青雲剣を振り翳して、

 柄の宝玉へと力を集中。

 宝玉に赤い光が灯り、

 空色の剣身が仄かに光る。

 

 

「炎よ!」

 

 

 俺の呼びかけに応じ、剣先から真っ赤な炎が吹き上がる。

 そして、炎の剣と化した『青雲剣』を振りかぶり、一閃。

 

 

 その一振りによって炎の斬撃が撃ち出され、

 俺と機械集セイオウボの間で濃硫酸の塊と衝突。

 

 

 ボンッ!!

 

 

 炎と液体の衝突に白い水蒸気が爆発的に広がる。

 これは2つ前の試練の焼き回し。

 2度も同じミスを繰り返しはしない。

 

 爆ぜた瞬間、刺激臭を伴う白煙が立ち込めるが、

 

 

「風よ!」

 

 

 青雲剣に命じて風を発生。

 突風が巻き起こり、猛毒に等しい白煙を散らして無害化。

 

 

「ふう……」

 

 

 これも上手く対処できたことに安堵の溜息。

 

 

「これも切り抜けることができた……」

 

 

 何度か攻撃が命中したものの、全くの無傷という結果に、

 思わず会心の笑みが浮かび上がる。

 

 機械種セイオウボを攻撃せずして、俺の力を示せた形。

 今の所、彼女からの試練は全て完璧に近い形でクリアできたと思う。

 

 

 やってやったぞ、白兎!

 

 

 思わずチラリと白兎がいる方角へと視線を移す。

 

 すると、白兎は耳をパタパタ『まだ油断しないで!』と鋭く警告。

 

 

 ハッと、まだ試練が終わっていないことを思い出し、

 すぐさま機械種セイオウボへと視線を向ける。

 

 すると、彼女はどこからか取り出した扇で口元を隠しながら、実に楽しそうに笑っていた。

 

 

 

「ウフフ……素敵ね」

 

 

 朱色の双眸が嬉しそうに細められる。

 細められた目から洩れる朱の光が強く輝く。

 

 そして、身に纏う艶やかな衣装が薄く発光。

 全身から陽炎が立ち上っているかのごとく。

 

 また、その周りの空気が不自然な動きを見せる。

 まるでナニカの予兆であるかのように。

 これから起きるナニカの前触れであるかのように。

 

 

「お見事。妾の攻撃を防ぎ切ったことは評価に値します」

 

 

 機械種セイオウボからのお褒めの言葉。

 だが、決してそれだけで終わらないと感じる響きが秘められていた。

 

 案の定、彼女が紡ぐ続きの言葉は、

 俺の足りないモノへの言及であった。

 

 

「けれど、まだ足りない。坊やの心の強さを見ていない。迫りくる刃を退けることはできても、自分が信じるモノの為に、刃を振るう覚悟が見えない。それでは、どこかで頭打ちよ。決して頂には届かない……」

 

 

 別に頂に上るつもりは無いのですが……

 

 

 セイオウボの言葉に、

 俺は声を出さずに心の中だけで反論。

 

 

 そこそこ稼げて、安定した環境を維持できて、

 後は可愛いヒロインをゲットできれば、

 人生エンジョイ、それで十分じゃないですか?

 

 と、返すわけにはいかないのが辛い所。

 

 しかし、『心の強さ』という曖昧な概念を持ち出してきて来られても困る。

 

 そんなモノ、時と場合と状況によって、いくらでも変わってくる。

 同じ状況、同じ環境下であっても、その時々の心境により、

 心の強さなんて、上下するもの。

 

 その瞬間だけを切り取って、

 強い、弱いを言うのは違うと思う。

 

 さりとて、先方がソレを求めているなら、

 そのように演じる必要があるだろう。

 

 とりあえず真面目な顔で彼女の説法を受け入れているポーズ。

 ちょっとだけ、痛い所を突かれましたという雰囲気も見せておこう。

 

 

 

「だから妾に見せて頂戴。坊やの心の強さを………」

 

 

 

 続けて、俺に語り掛けてくる機械種セイオウボ。

 神妙な面持ちでの訴えだが、俺は内心、斜めに構えた冷めた思考を続ける。

 

 

 なんか、ゲームで出演する神様みたいなことを言いだしたぞ。

 主人公に試練を課し、合格したらアイテムとかくれるタイプ。

 

 事実、この試練に打ち勝てば、彼女自身をゲットできるのであろう。

 ならば、今、この瞬間だけ、『心の強さ』ってモノがあるように振る舞うのが吉。

 『心の強さ』に頼らない『闘神』の力を見せつけてやるとしよう。

 

 

 青雲剣を手に、機械種セイオウボと改めて対峙。

 何が飛んできても対処できるように、油断なく待ち構える。

 

 

 さて、機械種セイオウボの最後の試練はいかなるものか?

 

 炎、電撃、強酸は封じた。

 

 残る属性は、氷とか、風とか、光とか、闇とか……

 

 どう見ても、機械種セイオウボは魔術なんかが得意なタイプ。

 攻撃してくるとすれば、必ず魔術っぽいモノが飛んでくるはず……

 

 

 

 しかし、俺の思惑とは裏腹に、

 

 機械種セイオウボは魔術っぽい何かを飛ばすことも無かった。

 

 

 ただ、俺の見ている前で………

 

 セイオウボは静かに瞳を閉じ、

 

 その朱色の双眸が再び開いた瞬間、

 

 

 ゴォォォォォッ!!

 

 

 大気が悲鳴を上げた。

 

 彼女の全身から噴き上がる朱色の気流が、

 嵐となって大広間を揺るがす。

 

 床が砕け、天井から砂塵が舞い落ちる。

 その細くしなやかな機体が、ミシミシと音を立てて膨れ上がっていく。

 

 華奢な両脚は轟音と共に四肢へと分かれ、

 黄金と黒の縞模様を纏う巨大な虎の下半身へ変貌。

 

 腰からは豹のように長くしなる尾が伸び、

 床を一薙ぎするだけで石畳が紙のように裂ける。

 

 四本の脚の先には獅子を思わせる巨大な鉤爪。

 さらに背中では骨が軋むような音と共に巨大な甲羅が隆起する。

 

 幾重にも重なる漆黒の亀甲は鈍い光沢を放ち、

 古城の城壁すら思わせる圧倒的な堅牢さを誇示。

 

 やがて変化は上半身へ及ぶ。

 白磁のようだった美貌は、虎の面影を宿した凶悪な異形へ。

 

 裂けた口元からは虎のような牙が幾本も突き出し、

 人を喰らう獣の形相がソコに現れた。

 乱れた漆黒の長髪、その髪に揺れる朱玉の簪だけが彼女の面影を残す。

 

 

 そして、

 肩口が大きく裂け、

 新たな腕が生え始める。

 

 一対……、

 二対……、

 最後に右肩からもう一本。

 合計五本の腕が、まるで巨大な蜘蛛の脚のようにゆっくりと広がった。

 

 それぞれの腕には、禍々しい武器が握られている。

 

 黒い液体を滴らせる一本の長針。

 血塗られたように見える赤い短刀。

 鈍く光る刃が無数に連なる鋸。

 内臓を抉り取る形状をした禍々しい鍵爪。

 そして、首を刎ねるためだけに鍛えられたかのような反り返る大刀。

 

 その五つ全てが、業物と分かる威容。

 ただ、肉を、骨を、切り裂くだけではない仕様なのは明らか。

 

 

 気づけば、その巨体は15メートルを超えていた。

 美しき仙女の姿は跡形もなく消え失せ、

 そこに立っていたのは神話に語られる災厄そのもの。

 

 獣王の猛威と、処刑神の残虐さを一つの肉体へ押し込めた異形の獣神。

 朱色に燃える双眸が、ゆっくりと俺を見下ろす。

 

 

「ひっ!」

 

 

 怯えた声が俺の口から自然と洩れる。

 その視線を受けただけで、俺の全身の毛穴が総毛立った。

 

 

 まるで目の前にいるのはただの機械種ではない。

 人が決して逆らってはならない神そのもの。

 

 そして獣神となった機械種セイオウボは、

 牙の隙間から低く唸るような声を漏らした。

 

 

「……さあ、坊や。貴方の心の強さを妾に見せて……」

 

 

 その声だけは、以前と変わらぬ、

 鈴を転がしたような美しい声であった。

 

 

 

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