ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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26話 朱妃6

 

 

「まあ、ヤリチンだなんて……幻滅。減点50点」

 

 

 10m以上の高みから、いきなり無慈悲な宣告。

 

 半人半獣の巨人となるも、声だけは元の聞き惚れるような美声。

 けれども、その内容はこちらの心胆を寒からしめるのに十分。

 

 ちょっと格好つけたセリフ回しをしたら減点を喰らった。

 しかも、減点50点って、相当にヤバい。

 100点満点だとしたら、もう不合格確定じゃないか?

 

 

「え? ちょ、ちょっと待って………」

 

「残念ね。初心な坊やだと思ったのに……、まさか女の敵だったとはね。」

 

 

 その声に含まれるのは不満と不快感。

 明らかに失望したという感情を露わにしてくる。

 

 

「ち、違うんです! 話を聞いて……」

 

「初めてのお客様で、可愛らしい子が来たから、喜んでいたのに……、ショックだわ~、その若さでヤリチンだなんて……、折角、お茶まで振る舞ったのに!」

 

「い、いや! それは………」

 

「騙された~~、妾の乙女心が弄ばれたわ~~」

 

「さっきのは冗談です! 俺はヤリチンじゃあなくて……」

 

「あの情熱的な告白は嘘だったのね! 妾の身体だけが目当てだった……、何と酷い男なのかしら……、シクシク……」

 

「だから、違いますって!」

 

 

 身体目当てなのは事実だけど……

 いや、少し意味合いが違うのだが………

 

 

 何とか言い訳しようとするも、当の朱妃は聞く耳持たず、

 どこからかハンカチと取り出して目元の涙を拭うような仕草。

 

 全高15mの半人半獣の恐ろしげな巨人だが、

 元の姿である妙齢の女性を思わせる嫋やかな動作。

 

 あまりのギャップと取り付く島の無さに眩暈がしてきそう。

 けれども誤解されたままでは俺の目的は果たせない。

 自分で蒔いた種なのだから、何としても挽回せねばなるまい。

 

 

 しかし、一体どうやって誤解を解くべきか……

 だが、聞く耳持たない相手をどうやって?

 

 

 う~んと悩む俺に、横から白兎がうんざりした様子で声をかけてくる。

 

 

 フルフル

『マスター……、前にも言ったと思うけど、どうして似合っても無い、自分で格好良いと思うセリフやポーズを、空気を読まずに取ろうとするの? いつもいつも失敗ばかりじゃないか』

 

「うるせえ! そんな毎回やってないだろうが!」

 

 

 白兎の駄目だしに怒鳴り返す俺。

 

 白兎と出会ってまだ数日。

 精々、ジュレ相手に格好つけたくらい。

 『いつもいつも』と白兎に言われるほど無様を晒しているわけじゃない。

 

 

 しかし、白兎は俺の反撃に対して徹底抗戦の構え。

 

 

 パタパタ

『格好良いセリフやポーズは格好良い人がやるから様になるのであって、マスターがやると逆効果だからね。特に女性相手だと気持ち悪くなっちゃうんだよ』

 

「お、お、俺のどこが気持ち悪いんだよ!」

 

 ピコピコ!

『女性に対するマスターの普段の言動全てだよ! 意識し過ぎ! モテないのが丸わかり! はっきり言って挙動不審!』

 

「やめろ! 俺への根拠なき誹謗を連呼するな!」

 

 フルフル!

『これまでマスターが置かれていた境遇全てが根拠でしょ! 彼女いない歴何年?』

 

「ソレを俺に聞くなああああああああ!!」

 

 

 禁句も禁句!

 ソレを聞かれたら戦争しかないだろうが!

 どうせ「『年齢イコール』としか答えようがねえよ! 

 

 生まれてこの方、彼女なんてできた試しがない!

 だからこそ、この異世界に希望を求めているんだぞ、俺は!

 

 

「てめえ! 暴言吐くのもいい加減にしろ!」

 

 フリフリ

『マスターも、いい加減にきちんと自分を見つめ直したら!』

 

「なんだと!」

 

 パタパタ

『なんだよ!』

 

 

 相対していた機械種セイオウボのことも忘れ、

 ムキになって白兎とにらみ合う俺。

 

 

 ダンジョン最下層にて、

 最大の敵、朱妃を前に、

 主従が、仲間同士が、諍い合うという

 人間の業を凝縮したような浅ましい光景。

 

 なお、諍いの原因は、本当にくだらない理由である。

 

 

 

「クスクスクスクスクス………」

 

 

 

 そんな最中、

 俺の白兎との間に割って入るかのような笑い声が響く。

 

 驚いて笑い声がする方向を振り向けば、

 そこには、手で口元を隠しながら、

 肩を振るわせて笑う機械種セイオウボの姿。

 

 見上げるような巨体、

 人と獣が集合したような恐ろしい外見、

 5本の腕に凶悪な武器を構えた悪鬼羅刹の類。

 

 しかし、そんな笑う仕草は酷く人間臭い見える。

 変身する前の美女の姿が幻視できるくらいに。

 

 その目の朱色の光を悪戯っぽく輝かせ、

 こちらを面白そうに眺めながら笑う彼女。 

 

 

「やっぱり面白い子達ね。妾のこの姿を前に、喧嘩する余裕があるなんて……」

 

 

 そう感想を口にする朱妃にもう不機嫌な様子は見られない。

 少し前の、俺を非難していた剣呑な雰囲気は霧散。

 まるで、先のやり取りはなかったかのように………

 

 

 

「ああ! もしかして、俺を揶揄いました?」

 

 

 ふと、思い当たる節があり、尋ねてみると、

 

 

「フフフフ……、いきなり坊やが柄にもないことを言いだしたから、つい、ね……」

 

 

 茶目っ気たっぷりに打ち明けてくる。

 『てへ♡』という擬音が聞こえてきそう。

 

 姿形は凶悪な獣神だが、やはり中身は何も変わっていないと分かる。

 

 それ故に、だんだん俺も慣れてきたようで、

 言葉も口調も遠慮が無くなってくる。

 

 

「それは酷い! 本気で焦りましたよ!」

 

「あら? ごめんなさいね」

 

「折角、あのまま格好良い感じで立ち向かうつもりでしたのに!」

 

「フフフフ……、ソレは無理ね。白兎ちゃんの言うように、全然格好良い感じじゃなかったから……」

 

「セイオウボさんまで………、もういいです!」

 

「拗ねない拗ねない………、でも、坊やが張り切ろうとした所に水を差しちゃったのは事実よね………」

 

 

 俺の態度に、彼女は顎に手を当て、

 何か考え込むような仕草を見せた後、

 

 

 

「じゃあ、お詫びにハンデをあげましょう」

 

 

 そう言うと、朱妃は5本の手に持つ武器を、

 こちらに見せびらかすように前へと翳し、

 

 

「妾の5つの武器のうち、3つを坊やとの戦いでは封印します」

 

「え? それは………、ありがたいですが………」

 

 

 全高15mの巨人から振り下ろされる5本の武器。

 いずれも怖気が走るような凶悪に見える形。

 それが3本封印され、2本に減るとなると、その脅威も半分以下に。

 

 

「では、坊やがその封印する3つを選びなさい」

 

 

 さらに朱妃は、その封印する3つの武器の選択もこちらへと委ねてくる。

 

 

「俺が選ぶのですか?」

 

「そうよ。1つ1つ説明していくから、慎重に考えなさいね」

 

 

 そして、1つ目の武器……黒い液体を滴らせた長さ1m程の長針。

 

 

「この針は武器というより、呪いの触媒よ。この針で刺されると、中の液体が注入されて、その部分に刺青が浮かび上がるの。すると、その刺青を目印にレッドオーダーが優先的に狙ってくるわ。解除は非常に困難。刺青が浮かんだ個所を切り取っても別の所に浮かび上がるからね」

 

「……………呪いは勘弁してもらいたいなあ~」

 

 

 長さも他の武器と比べたら短め。

 殺傷力も低そうだが、敵からのヘイトが集中するというデメリットは厄介。

 

 いずれ仲間を増やして、安全な場所で指揮に注力したいと思っているが、

 そんな呪いを受けたら、気が休まる所がなくなりそうだ。

 

 だが、この戦いに絞れば害は少ない。

 さらに、武器としての能力は最低。

 針という形状では振り回すこともできず、

 俺に命中させるのも難しいであろう。

 

 であるなら、当たらないことを前提に、

 残す選択肢もアリなのだが……

 

 

 

 ポタッ

 

 

「んん?」

 

 

 俺が思考を続ける最中、

 針の先から滴り落ちる黒い液体がポタリと地面に落ちた。

 

 ただ、それだけの光景なのだが、気になって床の上の黒い染みとなった部分を見つめていると、

 

 

 モゾ……

 

 

 黒い染みが僅かに動きを見せた。

 凝視していなかったら気づかない程の微かな揺らぎ。

 

 

「………………」

 

 

 思わず、機械種セイオウボへと視線を戻すと、

 彼女は何も言わず平然と俺を見返すだけ。

 

 その口元がまるで微笑むかのように僅かに歪んで見える。

 その目の朱色の光がまるで俺を試すように輝く。

 

 

 ふう………

 

 

 俺は心の中で小さく溜息。

 

 どうやら、この選定は単純な武器の良し悪しで選ぶのは、危険である様子。

 外見に囚われず、秘めた能力も想像しながら選択すべきであろう。

 

 

 俺はもう一度気合を入れ直し、

 機械集セイオウボの説明の続きを促した。

 

 

 

 

 

 次に紹介されたのは、血塗られたような赤い短刀。

 

 

「これも呪いがメインね。これで少しでも傷つけられると五感の1つを失うの。人間だと、まず嗅覚を失うことが多いようね」

 

「ひえっ! 怖!」

 

 

 さっきの針は遅効性の呪いだが、こっちの短刀は即座に影響。

 まだ嗅覚はマシだが、もし、視覚を失えば、その瞬間に負けが確定。

 

 失われるなら嗅覚が一番多いとのことだが、

 どのくらいの確率なのであろうか?

 もちろん、どの五感であっても失われるのは真っ平御免。

 しかし、視覚以外なら即死にはつながらないという点は大きい。

 

 

「失うのは五感のうち、1つだけなのですね?」

 

「そうね、失われるのは1つだけ」

 

「複数回切られると、失う五感も増えますか?」

 

「う~ん………、複数影響を与えようと思うと、少し時間をおかないと無理ね。この戦闘に限れば、どれだけ切られようと影響は1つだけよ」

 

「嗅覚を失うケースが多いと聞きましたが、その確率はどのくらいですか?」

 

「80%くらいかしら。この短刀、元は鼻を削ぐためのモノだからね」

 

「……………」

 

 

 自然と手が自分の鼻を触ってしまう。

 直に鼻を削がれるわけではないだろうが、

 やはり嗅覚を失ってしまうのは怖い。

 

 

「ちなみに、機械種が相手だと、感覚を狂わせることが多いわね。外部情報の入力にノイズがたくさん入って、行動不能になるケースもあるわ」

 

 

「なるほど……」

 

 

 人間と機械種とでは現れる効果が異なると。

 まあ、機械種が嗅覚を失ってもあまり意味がないからなあ。

 

 

 

 

 

 3つ目は、見た目にも凶悪な鋸。

 ギザギザの鋭い歯が連なり、少し肌を撫でられただけでもズタズタに切り裂かれそう。

 威力は高そうだが、それだけではあるまい。

 果たして付随する能力は………

 

 

「こっちの鋸は、傷つけた相手の移動を封じる……、人間だと、足が動かなくなるわ」

 

「呪い、多くないですか!?」

 

「そうよねえ。でも、そういう仕様だから仕方ないわ」

 

 

 頬に手を当てながら、困り顔?を見せる朱妃。

 たとえ獣面でも、どこか目を引く優雅な動作。

 けれども、それで各武器の厄介度が薄まるわけではない。

 

 

 足が動かなくなれば、そこで終わり。

 視覚を失うのと同様、即敗北につながる仕様。

 

 だが、鋸という形状は武器としては使いにくい。

 当たらなければ良いという観点に基づくなら、

 まだ対処しやすいと武器と言える。

 

 

「切りつけられただけで足が動かなくなるのですか? 足に当たらなくても?」

 

「そうよ。どこに当たっても……、傷がついた時点でアウト」

 

「どのような原理で? 五感を失わせるのもそうですが……」

 

「傷口から虚数制御が流し込まれるの。それが人間の神経を乱し、歩行不能にしたり、五感を失わせたりするのよ」

 

「虚数制御?」

 

 

 また新しい異世界用語が出てきた。

 聞き返してもすぐには理解できないだろうから、ここは流して……

 

 

「抵抗は可能ですか? 治療は?」

 

「抵抗は難しいんじゃないかしら。最上級の発掘品のお守りでもなければ、ね。治療

も難しいと思うわ。再生剤を飲んでも意味が無いし……」

 

「再生剤………」

 

 

 名前からしてエリクサーみたいなモノだろうか?

 後で白兎に聞いておこう。

 

 

「でも、部位をまるごと機械義肢に交換すれば、元通りになることも多いわね」

 

「ああ、そういう手段があるのですね」

 

 

 こんな所だけSFチック。

 街の中では、出歩いている機械種以外、全然サイバネティックスな雰囲気は無いけれど、機械の腕や足を装着できる技術はあるらしい。

 

 たとえ『鋸』で切られたとしても、足を機械化するという保険もあるのか……

 となると、五感を失っても、機械の目や鼻に交換という方法が……

 

 いや、その前に戦闘に勝たないとどうしようもないけれど。

 最悪、白兎に奥の手を切ってもらって脱出すれば……

 

 

 

 4つ目の武器は、棒の先に鉤爪が付いたナニカ。

 孫の手を武器化したような形だが、一体どのような使い方をするのか……

 

 

「これはね、対男性にしか効果をあげない武器なのよ」

 

 

 なぜか朱妃は声を弾ませ、

 少しばかり嬉しそうに説明を開始。

 

 

「へえ? 男だけ、ですか?」

 

「そう。男性がこれに当たっちゃうと……男性の大事な所が抉り取られるの」

 

「ひゃあああああああ!!!」

 

 

 俺の口から悲鳴が上がり、

 思わず手で股間を隠してしまう。

 

 

「クスクスクスクス……」

 

 

 愉快そうに笑う朱妃。

 絶対に狙っていたに違いない。

 

 

「ちなみに妾としては、この武器は封印せず、残しておいた方が良いと思うわ~」

 

「絶対にノゥ!!!」

 

 

 反射的に力一杯全力でお断り。

 たとえ喰らっても、命に別状はないとは言え、

 ナニを抉り取られてしまえば、男としては死んだも同然。

 機械の〇〇〇を付けたって無意味!

 流石にそれは許容できない。

 必ず封印して、その存在を僅かでも表に出させることはあるまい。

 

 

 さっきから、酷い性能の武器ばっかりだと思ったが、記憶を掘り起こせば、

 この獣神状態の西王母は、刑罰を司る神でもあったことを思い出す。

 確か5本の腕に『五刑』と呼ばれる武器を持っていたはず。

 それぞれが囚人に罰を与える武器なのであれば、先ほどの性能も頷ける。

 

 中国には男性の性器を切り落とすという刑罰もあったのだ。

 それが原典と考えれば、機械種セイオウボが持つに相応しい武器と思える。

 

 そんな敵に挑まないといけない俺としては勘弁してほしい所だが。

 

 

 

 

 

 そして、最後の武器。

 処刑人が罪人の首を刎ねるような反り返った大刀。

 

 

「この武器の性能はシンプルよ。切りつけた相手を一定の確率で殺すの。機械種であっても、人間であっても……」

 

 

 ニコリと微笑む朱妃。

 何度も見た獣面での微笑みだが、

 どこか蠱惑染みた印象を与える。

 

 それは刑罰神としては当然の反応。

 罪人を処刑することこそ、最大の刑罰であり、

 その権能であると言えるのだから。

 

 

「これで5本の説明は終わり。さあ、坊やはどれを選ぶ?」

 

「……………………」

 

 

 問いかけてくる朱妃を前に、黙り込む。

 

 先ほどの説明を頭の中で繰り返しながら、

 どの武器を封印して、どの武器に立ち向かうのかを思索。

 

 

 

 長針は武器としては短く、対処はしやすい。

 しかし、万が一、アレで刺されたら、俺の異世界生活の行く末は真っ暗。

 

 敵に優先的に狙われるなんて悪夢。

 俺は危険な盾役もヘイト役も担うつもりなんてないのだから。

 

 あと、どうにも針から滴り落ちた毒液が気になる。

 毒液というより、アレは独自の意思を持つ粘液状のナニカなのではないだろうか。

 また、機械種セイオウボが見せた笑顔も………

 

 勘でしかないが、この針は封印してもらっていた方が良い気がする。

 

 

 

 短刀も同様、刀身が短く攻撃範囲が狭い。

 切りつけられてしまったら五感の1つを失うが、

 視覚以外ならその後の戦闘には影響は少ないと思われる。

 そして、失われる感覚は80%が嗅覚。

 嗅覚を失えば、匂いが分からないというだけでなく、

 食べ物の味も分かりにくくなるという。

 グルメな俺としては嗅覚を失うのは死ぬほど辛いが、

 他の4つに比べたら大分マシ。

 80%という確率を考えれば、被害で言えば一番軽微であろう。

 

 

 

 鋸は見た目凶悪だが、武器として使うならイマイチ。

 取り回しが悪く、振り回すのに向いていない形状。

 本来は大工道具であり、武器ではないのだから当たり前。

 

 当たると足が動かなくなる能力は厄介だが、

 他の武器も大概だから、どの道同じ。

 五感もそうだが、機械義肢に交換するという治療手段があるだけ希望がある。

 

 

 

 鉤爪は封印確定。

 あんなモノ、ブンブン振り回されたら、

 下腹部がヒュンとなってしまい、戦闘どころではない。

 

 

 

 大刀も封印確定。

 死んでしまえば全てが無意味。

 武器としても攻撃範囲が広く、

 あの巨大な腕で振るわれたら回避も困難。

 

 

 

 となると、封印してもらう武器は、

『針』『鉤爪』『大刀』…………、か。

 

 これで決まりだな。

 俺が挑むのは『短刀』と『鋸』だ。

 

 

 

 この3つの武器の封印を伝える。

 

 すると、機械種セイオウボは獣面を歪め、

 口元で笑みの形を作りながら最終確認。

 

 

 

「『針』『鉤爪』『大刀』を封印ね。では、妾は残る『短刀』『鋸』で相手をすることになるけど?」

 

「はい、ソレでお願いします」

 

「了解。じゃあ、封印っと……」

 

 

 俺が見ている前で、虚空に消えていく『針』『鉤爪』『大刀』。

 機械種セイオウボの手に残ったのは『短刀』『鋸』の2つ。

 

 

 

 

「さあ、待たせたわね。始めましょうか」

 

 

 右手に『短刀』を、

 左手に『鋸』を構える機械種セイオウボ。

 残る3本の腕は邪魔にならないよう自身の機体を抱きしめる形で固定。

 

 武器を3つ封印したとはいえ、

 両手で武器を振り上げる姿は、

 戦神のごとき威に溢れる。

 

 見上げるような高さ。

 獰猛な獅子を思わせる獣面。

 強靭な虎の下半身。

 背後でグネグネ動く豹の尾。

 背中に背負った頑丈そうな亀甲羅。

 

 複数の獣が無秩序に集まった外見。

 何度も感じたように、過去ゲームで登場したラスボスのごとき迫力。

 

 けれども、ラスボスならすでに嫌というほど討伐済。

 

 ゲームと現実という差はあれど、

 

 俺には『闘神』『仙術』スキルがあり、

 

 

 

「『青雲剣』……行くぞ」

 

 

 

 俺の手の中の青雲剣があって、

 

 

 

 パタパタ!

『マスター! 頑張って!』

 

 

 

 応援してくれる白兎がいて、

 

 

 

「セイオウボさん。俺は貴方を手に入れて見せます!」

 

 

 

 俺の中に欲望の炎がある限り、

 

 

 

「では、行きます!」

 

 

 

 もう怯みはしない。

 今、この時だけは、英雄になった気持ちで戦うのみ!

 

 

「だあああああああ!」

 

 

 勇ましく掛け声を発すると、

 

 俺の足は自然と前へと踏み出し、

 

 その勢いのまま、駆け出し始める。

 

 

 そして、此方を迎え撃つ構えの機械種セイオウボへと向かい、

 

 青雲剣を頭上高く振り上げ、

 

 

「でりゃああああああああ!」

 

 

 雄叫びと共に振り下ろした。

 

 

 

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