ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

31 / 31
31話 宝箱

 

 

 

「旦那様、足元にお気をつけください」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 転移門から足を踏み出した俺の手を、芙瑶が優しく引いてくれる。

 

 先ほどまでの眩い銀色の光が背後で収束。

 楕円形をしていた転移門は、音もなく縮んで消滅。

 

 

 その向こうに見えた姿を思い出し、

 目を瞑って黙祷を捧げる。

 

 

 おそらく、俺の後悔が見せた幻であろう。

 それでも、彼女を偲ばずにはいられなかった。

 

 

「旦那様?」

 

「………あ、ごめん。行こうか」

 

 

 転移先となったのは、薄暗い石造りの通路。

 壁全体が薄く輝き、ぼんやりとした光で周囲を照らしている。

 

 見覚えのある景色………、

 まあ、ダンジョンの通路なんて、

 どこも似たような構造だろうけど。

 

 ここは一度通ったことがある通路。

 最下層へ落下する前、

 白兎と共に歩き回っていた地下3階。

 

 

「本当に一瞬だったな……」

 

 

 つい先ほどまで、遥か地の底にいたとは思えない。

 

 落下するのにかなりの時間を要した距離を、

 芙瑶の転移門は、瞬きする間に飛び越えてしまった。

 改めて考えても、とんでもない能力である。

 

 

「芙瑶、その転移門って、どれくらいの距離まで移動できるんだ?」

 

「正確な座標さえ把握できていれば、相応の距離まで可能です。ただし、距離が延びれば延びるほど、消費するエネルギーも増加いたします」

 

「やっぱり、無制限ってわけじゃないのか」

 

「はい。それに、強力な空間封鎖や『赤の威令』が濃い場所では、転移門を開くことができない場合もございます」

 

「なるほど……」

 

「それに発動の途中で邪魔が入りますと危険です。下手をすると出口との接続が切れ、永遠に次元を彷徨うことになる可能性も………」

 

「ひえっ! それは怖いなあ……」

 

 

 やはり、何でもできる万能能力ではなく、デメリットもある仕様。

 とはいえ、それでも十分すぎるほど便利。

 移動だけでなく、緊急時の脱出にも使える。

 芙瑶を仲間にできた恩恵は、俺が想像していた以上に大きそうだ。

 

 

 ピコピコ

『マスター、能力や宝箱の確認は後にしようよ。まずは安全な場所を確保しないと』

 

「あ、そうだったな」

 

 

 白兎に促され、周囲を見回す。

 

 今いるのは、どこから敵が現れるか分からない通路の真ん中。

 宝箱を取り出して中身を確かめるには、落ち着いて作業のできる場所へ移動した方が良い。

 

 しかし、ここはダンジョンの中。

 果たして安全な場所なんてあるのだろうか?

 

 

 パタパタ

『玄室を探そう。中の敵を倒せば、半日くらいのセーフエリアになるよ』

 

 

 俺が疑問の表情を浮かべると、白兎が耳をパタパタ、説明を追加。

 

 

 ダンジョンには玄室という部屋があちこちにあり、

 その中で待ち構える、少々強めの敵を倒すことで、

 およそ半日程度、その部屋自体が安全地帯になるらしい。

 

 ダンジョン探索は、数日、数週間、時には数ヶ月にも及ぶことがあり、

 この玄室を渡り歩いて、人間の活動に不可欠な休憩や睡眠を取るそうだ。

 

 

 実に人間にとって都合の良い設定。

 やはりゲームに酷似した世界だと言わざるを得ない。

 

 

「分かった。まずはそこに行こうか」

 

 

 俺達は白兎を先頭にして、地下2階の通路を進む。

 

 白兎が白い尻尾をフリフリしながら周囲を警戒。

 その後ろを俺が歩き、芙瑶が最後尾を務める。

 

 

 歩くこと20分少々。

 幸い敵に遭遇することなく、白兎が言う玄室を発見。

 

 

「旦那様、ここは妾が………」

 

 

 俺を守るように前に立ち、玄室の扉を開ける芙瑶。

 

 玄室の中にいたのは、上半身が角の生えた人間、

 下半身が山羊の形状をした機械種が2機。

 

 こちらを見た途端、ヒャッハー!とばかりに襲い掛かってきた。

 

 

 身長は140cm程度。

 武器らしい武器を持っていないようだが、

 両手の爪は熊のように長く鋭い。

 

 外見から、ギリシャ神話の妖精、サテュロスと思われる。

 陽気で悪戯好き、時には暴力的で好色な面を持つという。

 

 美女の姿である芙瑶を襲わんとする姿は悪漢そのもの。

 赤い目をギラギラ輝かせながら、口から『ギャギャギャッ!』と罵り声。

 両手の爪を振り上げて、扉の前で悠然と立つ芙瑶を攻撃しようとするが、

 

 

「無礼者」

 

 

 芙瑶が一言、発した。

 冷たく無慈悲に聞こえる声で。

 

 

 次の瞬間、

 

 

 ザシュンッ!

 

 

 2機のレッドオーダーは芙瑶に辿り着くことなく、

 無形の刃によって引き裂かれた。

 

 まるで見えない刃が数十回も同時に振り下ろされたかのよう。

 

 頭が、胴体が、四肢が、

 ミキサーに放り込まれたごとく一瞬でバラバラ。

 無数の金属片と成り果て、床に散らばることとなった。

 

 

 

 

 

 

「瞬殺だな………」

 

 

 床に散らばる金属片を眺めながらポツリ。

 

 当然ながら、回収対象の晶石もバラバラ。

 機体の方も鉄屑同然だから価値なんて無いだろう。

 

 

「申し訳ございません。あまりに無礼な者達でしたので、つい、力が入ってしまいました」

 

 

 しおらしく頭を下げてくる芙瑶。

 

 青く輝く目の光が不規則に揺れ、

 申し訳なさそうな雰囲気が伝わってくる。

 

 

「気にするな、どうせ誤差の範囲内だ」

 

 

 鷹揚な態度を見せつつ、芙瑶を許す。

 

 すでに俺の懐には1億円以上の価値がつくキマイラの晶石がある。

 今更地下2階の獲物に執着する理由も無い。

 それよりも気になるのが、芙瑶が見せた術の方。

 

 指一つ動かさずに敵を瞬殺。

 天と地ほどもレベル差があるだろうから、

 勝って当たり前だが、それにしても鮮やか過ぎる術の冴え。

 

 

「それより、さっきの術……、どういった現象だ?」

 

 

 何を、どうして、そのような現象が引き起こされるのか?

 

 興味本位ではあるが、話題を変える意味でも、

 芙瑶に問うてみることにする。

 

 すると、芙瑶は俺と目を合わせ、穏やかな表情で答を口にした。

 

 

「妾の空間攻撃でございます。対象の空間の位相をズラすことで、物体を切断します」

 

「空間を切ったのか………」

 

 

 芙瑶の答えを聞いて、背筋がゾクリ。

 

 空間の位相をズラして、物体を切断する技や術は、アニメや漫画でも登場する割とポピュラーなモノ。

 ただし、ほとんどの場合が最上級の奥義として設定されており、主人公や敵の必殺技として振るわれることも多い。

 

 存在する空間ごと切断されたら、どれだけ頑丈でも意味はない。

 強靭な皮膚だろうが、堅牢な鎧だろうが、構わず真っ二つ。

 文字通り、当たったら死ぬ必殺技なのだ。

 

 いくら相当な物理防御を持つ俺でも、

 物理を無視してくる空間攻撃には耐えられまい。

 

 

 

 何で、セイオウボさんは『空間攻撃』を使わなかったんだ?

 

 

 

 当然、俺の中で浮かび上がる疑問。

 

 

 分かりやすい『炎』や『電撃』、『酸』などよりも、

 不可視で飛んでくる『空間攻撃』の方が遥かに対処しづらいに決まっている。

 

 指一本動かさずに発動できるのであれば、

 俺との試練の最中、何十回も発動できていたであろう。

 

 

 もしかして………、いや、確実に、

 もの凄く手を抜いてもらっていたのではなかろうか………

 

 

 今更ながら、セイオウボさんの優しさに頭が下がるばかり。

 

 そして、俺的には良い感じで終わったと思っていた勝負も、

 彼女の『手加減』の元で成立していたと判明して、

 やはり過信は禁物だということが良く分かった。

 

 

 

 フルフル

『オールクリア。他に敵はいないみたいだね』

 

 

 俺と芙瑶が話している間、玄室の中を調べてくれていたらしい白兎。

 

 

 フリフリ!

『さあ、ここなら宝箱の検分をじっくりできるよ!』

 

 

 耳をフリフリ、機嫌良さそうに俺へと進言。

 

 

「確かにこの広さなら、十分だな………」

 

 

 玄室の中を見渡せば、教室2つ分を合わせたような広さ。

 ここでならお宝を広げても問題なさそう。

 

 

「芙瑶、さっき収納した宝箱を出してくれ」

 

「承知いたしました」

 

 

 芙瑶が部屋の中央へ進み、右手を前に差し出す。

 

 

 次の瞬間……

 

 ドンッ!

 

 

 玄室の床へ、宝箱が2つ現れた。

 

 

「おっ! 2つもあるのか!」

 

 

 思わず声を上げる。

 

 

 1つ目の宝箱は1m×40cm。

 以前、地下3階で機械種コボルトを倒した時に出現した宝箱と同じ。

 流石に中身まで一緒ではないだろうと思う。

 

 

 2つ目の宝箱は30cm×20cmと小さめ。

 まるで宝石でも入っているような大きさと造り。

 小さくても価値が高いモノだと良いのだが………

 

 

「おっと………、開ける前に罠を調べてもらわないと……」

 

 

 宝箱に手が伸びそうになった所で、

 罠があるかもしれない可能性に思い当たりストップ。

 

 白兎の方へと振り返り、声をかけようとすると、

 

 

「白兎?」

 

 

 白兎は無言で宝箱を見つめていた。

 青く輝く目は僅かながら揺らいでいるように見え、

 どこか困惑している様子は見て取れる。 

 

 

「どうした、白兎?」

 

 

 白兎の態度を不審に思い、尋ねてみると、

 

 

 パタパタ

『ううん、ちょっと、気になることがあって………』

 

 

 言いにくそうに口を濁らせ、

 気になると口にしつつ、その目を芙瑶へと向け、

 

 

 フルフル

『ねえ、芙瑶さん。出てきた宝箱って、この2つだけ?』

 

 

 何か意味ありげな質問を投げかけた。

 

 

「妾が亜空間倉庫に収納したのはこの2つで間違いありません」

 

 

 白兎の質問に対し、芙瑶は変わらない笑顔を向けながら返答。

 

 

「何か気になることがございましたか? えっと……、白兎さん?」

 

 

 芙瑶の目が真っすぐ白兎を捕らえる。

 

 その目の光は一片たりと揺らぐことは無く、

 その声には白兎の問いに真摯に応えようとする心遣いさえ感じさせる。

 

 

 数秒の間、白兎と芙瑶は無言で見つめ合う。

 

 蒼と蒼の光が交差。

 言葉を介さぬ探り合い。

 

 しかし、俺にはただ視線が交じり合っただけのように思えた。

 

 そして、沈黙を破ったのは白兎の方から。

 

 

 ピコピコ

『……………何でもないよ。僕の気のせいだったみたい』

 

 

 少しだけ目を伏せ、何かを言いたげにしながらも、

 その話題を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、白兎。宝箱を頼む」

 

 フルフル!

『りょーかい!』

 

 

 先ほどの微妙な雰囲気を消し飛ばすような元気な返事。

 俺からの依頼を受け、早速1つ目の宝箱へと鼻先を近づける白兎。

 

 宝箱の周りを鼻でフンフンしながら一周ぐるり。

 前脚で蓋をトントン叩いて、感触を確かめる。

 そして、前脚の爪を宝箱の鍵穴へと突っ込みカチャカチャ。

 

 そんな様子を離れた所で見学。

 

 俺が白兎へと抱く信頼は強固。

 今までの貢献がその証拠。

 

 『盗兎スキル(兎小僧級)』を持つ白兎であれば、必ずや罠を解除し、

 俺にお宝をもたらしてくれるであろう。

 

 

「……………旦那様」

 

「んん? 何だ、芙瑶」

 

「あの白兎さんは…………、通常の機械種ラビットではありませんよね? 一体何なのでしょうか?」

 

 

 そんな最中、芙瑶が近づいて来て俺の質問。

 どうやら機械種ラビットらしからぬ白兎の有能さが気になっている模様。

 

 

「まあ………、白兎は白兎だから………」

 

 

 言葉を濁す形での答えになっていない回答。

 

 純粋な機械種では無く、俺の宝貝と霊獣を兼務しているらしいことは、

 今の段階では話しても理解できまい。

 たとえ、芙瑶が超々高位機種であり、俺の何倍も知能が高くても、だ。

 むしろ、知能が高ければ高い程混乱するに違いない。

 

 そして、白兎との付き合いが長くなればなるほど、

 もっと理解できなくなってくる………

 

 

 

「随分と信頼してらっしゃるのね」

 

 

 芙瑶は俺の顔を覗き込みながら微笑み、

 

 

「少しだけ妬いてしまいますわ」

 

 

 ちょっとだけ拗ねたような顔を見せて、

 俺のパーカーの袖を指でつまんでくる。

 

 しっとりと濡れたように輝く蒼の瞳。

 少し身を屈んでの上目遣い。

 おまけに、さり気なく身体を寄せてくる手練手管。

 

 ひどく女性を感じさせる振る舞いだが、

 それが下品に見えないのは、

 生来に備える気品のせいであろうか。

 

 

「ん? ………芙瑶のことも大事に思っているぞ」

 

 

 普段ならドギマギしてのぼせ上がる場面であるが、

 未だ胸に残るセイオウボさんのことがあってか、

 冷静さを失うことなく、芙瑶へとフォロー。

 

 

「あら? ありがとうございます。妾も旦那様のこと愛しておりますわよ」

 

「アハハハハ、相思相愛だな。身に余る光栄だね」

 

 

 いきなりの愛の告白だが、これも軽く流す。

 今はどのような誘惑を受けても応える気になれない。

 

 

 そうこうしている間に白兎の罠解除が完了したようで、

 

 

 

 ピコピコ!

『開いたよ!』

 

「おお! よくやった!」

 

 

 女性に対する興味は抑制されていても、お宝に対する興味は別。

 

 一目散に宝箱へと駆け寄って中を覗いていると、

 

 

「わっか? ………いや、サークレットか、コレ?」

 

 

 中に入っていたのは金色のシンプルなサークレット。

 前部分に渦模様が2つあるのが特徴。

 

 

 フリフリ

『多分、防頭輪だね。頭用の防具。不可視の力場を発生させて頭を守るの』

 

「へえ? 頭用の防具って珍しいなあ」

 

 

 宝箱から取り出して手に取ってみる。

 

 

 頭というのは本来絶対に守らないといけない重要部位。

 だからこそ、歴史上当たり前に兜やヘルメットが戦場では使われていた。

 

 しかし、アニメや漫画では装備している者は少ない。

 顔が隠れてしまい、見栄えが悪くなってしまうという理由。

 

 登場人物が全員、顔が隠れるタイプのフルフェイスヘルメットを被っていたら、誰が誰だか分からなくなる。

 さらに顔が見えるタイプでも、髪型が見えないとキャラの判別が難しい場合もある。

 

 けれども、不可視の力場を発生させるような防具であれば、

 見栄えを気にする必要も無く判別も容易。

 

 何とも創作物に優しい防具である。

 まあ、俺の物語が漫画化される予定など欠片も無いのだが。

 

 

「白兎、これは俺がつけても大丈夫な奴か?」

 

 フリフリ

『嫌な感じはしないから大丈夫だよ』

 

「じゃあ、早速装備を………」

 

 

 似合うかどうかはともかく、一度装備してみたい。

 

 頭に帽子以外のナニカを被るなんて、

 学生時代の劇で王様役をした時に紙製の冠を被った時以来………

 

 

 

「おっ! これは……」

 

 

 頭に防頭輪を付けた途端、

 この防具の使い方が脳へと直接流れ込む。

 

 それはまるで情報の洪水。

 流されるまま、俺の脳裏に必要な情報が刻まれていく。

 

 

 フルフル?

『マスター、大丈夫?』

 

「旦那様!」

 

 

 白兎が耳をフルフル尋ねてきて、

 芙瑶が血相を変えて駆け寄ってくるが……

 

 

「だ、大丈夫だ! ちょっと吃驚しただけ……」

 

 

 両手をパタパタ振って笑顔を見せ、

 心配する2機へと平気であることをアピール。

 

 

「…………本当に凄いな、この世界の発掘品は………」

 

 

 装備しただけで使い方まで説明してくれる便利仕様。

 俺の『闘神』と『仙術』スキルにも見習わせてやりたいくらい。

 

 

「『特級』重装フォートレススーツ…………」

 

 

 流れ込んできた発掘品の情報が自然と口に漏れ出し、

 

 

「『斉天(せいてん)』………」

 

 

 その名を口にした瞬間、

 

 

 ピカッ!

 

 淡い金色の光が溢れ出し、額を中心に幾何学的な紋様が空中へ広がる。

 それは円環を幾重にも重ねた魔法陣にも見え、複雑な機械回路にも見えた。

 

 

 その直後……

 

 どこからともなく、機械的な音声が耳の奥へ響く。

 

 

 『装備認証を確認』

 『装備者を確認』

 『重装フォートレススーツ【斉天】、展開を開始します』

 

 

 俺の足元に、青白い光の輪が浮かび上がる。

 

 輪は高速で回転しながら全身を走査し、

 身体の寸法を測定するように頭頂まで駆け上がった。

 

 そして、次の瞬間、

 

 俺の周囲へ幾つもの銀色の亀裂が走り、

 その裂け目の向こうから、黄金と黒鉄で構成された巨大な装甲群が姿を現す。

 

 手甲、肩甲、胸甲、腕甲、脚甲、腰甲、兜……

 

 一つ一つが熟練工の手を以って鍛えられたような装甲。

 

 それらは見えない糸に引かれるように宙へ浮かび、俺を中心として円を描く。

 轟音を響かせながら装甲の動きが加速し、胸部装甲が真正面から飛来。

 

 

 ガコンッ!

 

 

 寸分違わず胸へ密着。

 同時に背面装甲が背中へ吸い付き、

 左右から肋骨を守るように装甲板が噛み合う。

 

 

 ガギンッ!!

 

 

 重厚な金属音。

 続いて肩甲、上腕、前腕、籠手が次々と接続される。

 

 

 ガシャァン!

 ガギィン!

 カシャン!

 

 

 まるで巨大な機械が自ら意思を持って組み上がるかのように、

 数十枚にも及ぶ装甲板が寸分の狂いもなく俺の身体へ固定されていく。

 

 脚部も同様。

 太腿を覆う重装甲。

 膝当て、脛当て、踵、巨大な足甲。

 

 一枚、また一枚と積み重なり、

 みるみるうちに重厚、且つ、堅牢な下半身を形成。

 

 最後に頭上へ現れたのは、絢爛な造りの頭部装甲。

 黒金を基調とし、額には黄金で作られた冠が輝く。

 

 冠に刻まれた意匠は、渦を巻く雲。

 それは空を駆け、千里を走る証。

 

 

 ゴォン!

 

 

 重い音と共に兜が閉じる。

 

 視界が一瞬暗転。

 しかし、次の瞬間、青白い光で満たされた。

 

 無数の情報が視界の端へ流れ込む。

 

 外部映像、温度、距離、地形、マテリアル反応。

 

 膨大な情報が一瞬で整理され、

 まるで昔から自分の身体であったかのように理解できた。

 

 

 さらに、

 

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

 

 背部装甲が展開。

 巨大な動力炉が低く唸りを上げる。

 

 黄金の装甲表面へ紅い紋様が一本、また一本と走り、

 龍の血管のように全身を巡る。

 腕や脚を覆う装甲は、俺の四肢を中心に外側へ大きく延長され、

 内部の補助骨格が動きを正確に追従。

 

 握った拳へ力を込める。

 ギシリ、と空気そのものが軋んだ。

 

 

「これは……」

 

 

 身体が……、いや、纏った装甲が思い通りに動く。

 

 数百キロはあろう巨大な装甲を纏っているにもかかわらず、

 全く抵抗を感じず、自分の身体であるかのように可動。

 

 今までよりも遥かに視点が高い。

 おそらく身長は二メートル以上。

 

 鏡が無くとも分かる。

 今の俺は、人ではなく、全身機械を纏った機械兵。

 

 肩当ては逞しさを思わせる力強い曲線を描く。

 胸部には炎を象った意匠。

 腰には赤い飾り布が揺れ、背面からは長く伸びた機械式の尾がゆっくりと左右へ振られている。

 

 そして兜の奥では、蒼く輝く双眸が静かに光を放っていた。

 

 顔の作りは勇ましい猿王。

 

 花果山の仙石より生まれ、天界に反旗を翻し……捕縛。

 500年の長きに渡り五行山へと封印されたが、

 観世音菩薩の救済により、三蔵法師の弟子となって天竺への旅に同行。

 そして、無事目的であった経典を持ち帰り、その功を以って仏となった……

 

 その名を斉天大聖、孫悟空。

 

 そして、その猿王を模した重装フォートレススーツこそが、

 この『斉天』なのだ。

 

 

 

 フルフル

『凄い………』

 

 

 白兎が珍しく呆然と俺の姿を見つめている。

 

 

「素晴らしいですわ……、旦那様に相応しい雄姿……」

 

 

 芙瑶が陶然と呟く。

 両手を前で組み、祈るようなポーズ。

 

 

 片や最高位の朱妃。

 片や、幾度となく規格外の力を見せてきた白兎。

 その2機が揃って感嘆の声を漏らしている。

 

 

 それほどまでに、特級の重装フォートレススーツの力は凄まじい。

 

 これを使いこなすことができるなら、単独で紅姫や臙脂公を撃破できるほど。

 

 そして、真の力を引き出すことができたのなら、緋王・朱妃のレベルにさえ、手が届く………

 

 

 

「ふむ? 防御力は極大………、炎無効、電撃無効、重力耐性……、孫悟空を模しているなら当然か」

 

 

 頭に流れ込む仕様を口に出しながら確認。

 

 超重量級と真正面からぶつかり合っても難なく耐えられる強靭性。

 さらに、万が一破損することがあっても、本体の防頭輪が無事なら、

 時間と相応のマテリアルを注ぎ込むことで再生するという。

 これは仙桃園にて、不老不死の秘薬である仙桃を貪り喰ったという逸話からか。

 

 

「武装は………『光子制御』による『如意レーザー武具生成』……なんじゃそりゃ?」

 

 

 光を形にして武具を作れるらしい。

 もちろん如意棒のように伸ばすことも可能。

 

 

「『自動砲撃兵器群 小猿王』か………」

 

 

 小さな猿型自動兵器を無数に作り出すこともできる。

 これは孫悟空が得意としていた分身の術の再現であろう。

 

 

「『燃焼制御』『重力制御』『空間制御』………、何か一杯あるな、コレが使えるようになるのか……」

 

 

 機械種が使用するマテリアル術が使えるようになるらしいが、使いこなすには相応の訓練が必要な様子。

 

 

「あ………、飛行能力がつく。これも孫悟空だから当たり前だな」

 

 

 しかも、超空間飛行ブースター『筋斗雲』を使用すれば、大陸横断もあっという間………、ただし、乗りこなすのに失敗すると次元漂流の危機あり………、これは当分禁じ手だな。

 

 

「他にも色々あるみたいだけれど………」

 

 

 一度に全部頭に入れようと思ったら、流石に頭が痛くなってくる。

 仕様の全てを確認するのは、また今後の機会にするとしよう。

 

 

「俺の『闘神』スキルを隠すには、ちょうど良い目くらましになるかもしれん」

 

 

 素手で重量級を軽く捻る俺だから、もしかしたら、コレを使わない方が強いかもしれない。

 青雲剣の力も考えたら、十分に考えられる可能性。

 

 だが、人目がある所で、生身のまま暴れたら、不審に思われるのは確実。

 しかし、完全に正体を隠すことのできる『斉天』を纏えば、俺だと気づかれることはなく、人目を忍ぶカモフラージュにもなる。

 

 さらに、『斉天』を纏えば、空をも飛べるのだから、対応力は間違いなく向上。

 実質、武器が青雲剣しかない今の俺にとっては手数を増やす意味は大きい。

 

 おそらく単純な出力では生身の俺が上。

 だが、防御力、飛行能力、遠距離攻撃、正体隠蔽まで含めれば、総合力では比較にならない。

 

 

 

 

「『斉天』………、解除!」

 

 

 一言、解除と命じれば、瞬く間に俺の身体から離れ、

 亜空間倉庫へと消えていく装甲群。

 

 機械兵からいつもの生身の姿へ早変わり。

 わざわざ着る必要も、脱ぐ必要も無いというお手軽さ。

 

 

「よっと………」

 

 

 視点を大きく上げていたスーツが消え、重力に引かれて床へと降り立つ。

 

 そして、すぐさま解放感を感じる為に、

 う~ん……と両手を伸ばして大きく背伸び。

 

 

 ピコピコッ!

「マスター!」

 

「旦那様!」

 

 

 重装フォートレススーツから解放された俺へと、

 心配そうに声をかけてくる2機の仲間。

 

 

「おう! 素晴らしいお宝をゲットできたな!」

 

 

 俺は2機の心配を吹き飛ばすように、

 満足げな笑顔を浮かべて声を張り上げた。

 

 

 特級重装フォートレススーツ――『斉天』。

 

 

 思いがけず、とんでもない切り札を手に入れてしまったらしい。

 

 もっとも、今回手に入れた宝箱は、これだけではない。

 

 俺達の前には、未開封の小さな宝箱が、

 もう一つ残されているのだから。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

駆け出しハンターは英雄に憧れる ~だけども、どうやら人間は滅んでいるらしい~(作者:木乃実なぎ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 これは英雄に憧れた一人の少年の物語。▼ 生まれてこの方17年。母と二人、森の中で暮らしていた少年――ルキウスは、大きな理想を胸に旅へ出る。▼ 物語に出てくるような英雄に憧れて。▼ 胸が躍るような冒険譚を夢見て。▼ そうして辿り着いた最初の街で、彼は知る。▼「え? 人間は千年前に滅んだ種族?」▼「それも弱すぎて?」▼ 全七種族が暮らす自由交易都市エルドラン。…


総合評価:466/評価:8.5/連載:19話/更新日時:2026年07月17日(金) 00:00 小説情報

最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜(作者:窮北の風)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

ゲーム開始十年前。最強だった男は、最弱の見習い傭兵として戦場に立つ。▼かつて俺は、世界的人気ゲーム『Throne of Glory』で最強ギルドを率いるギルドマスターだった。▼しかしギルド任務の最中、操作していたキャラクターは強敵に倒されてしまう。▼……次に目を覚ました時、俺はそのゲーム世界に転生していた。▼しかも時代は、ゲーム開始の十年前。▼今の俺は、ただ…


総合評価:3217/評価:8.41/連載:81話/更新日時:2026年07月19日(日) 21:13 小説情報

ディストピアのネット友達が優秀すぎる(作者:名無しのペロリスト)(オリジナルSF/文芸)

ディストピア世界に転生した、元オタクOLは絶望した。▼飯がクソ不味いだけでなく、前世にあったサブカルチャーが絶滅していたのだ。▼それに都市に貢献しない者を生かしておくほど、アバシリシティは甘くない。▼だからと言って過酷な労働はしたくはないので、せめて身の回りの環境を改善するために仮想空間で色々していると、何故か上級市民のお嬢様がログインしてきて──。


総合評価:4223/評価:8.56/完結:28話/更新日時:2026年06月07日(日) 00:00 小説情報

くたばり損ない魔法少女わたしの独りゴト(作者:土縁屋)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

わたし、華亥ムラクモ♡ 自分語りが大好きな、どこにでもいる普通の女の子♡▼魔法少女として世界の平和を護ってたんだけど、やっと平和になったと思ったら異世界追放!? 許せムラクモ……これもお前が強すぎるが故だぜ……なんつって。▼飛ばされた先は剣と魔法のファンタジー世界。だってのになんだか近代的なの。下手すりゃわたしの世界より文明的なんじゃない? 夢こわれる。▼そ…


総合評価:1108/評価:8.05/連載:56話/更新日時:2026年07月18日(土) 18:00 小説情報

当店では美味しいお茶を必ずご堪能いただけます(他は微妙です)(作者:ShilonkS)(オリジナル現代/日常)

 なんか死んだ、ことまでは覚えている。▼ ああ、なんの意味もない人生だったんだなぁ、なんて思っていたら、真っ白な空間に、知らないおっちゃんが漂っていた。▼「ごめーん、間違ってキミ死んじゃった」▼「おっちゃん?」▼「お詫びにチート能力あげるし生き返らせたげるね」▼「おっちゃん……」▼「あ、どんな能力がいい? これでも日本のラノベ結構読んでるから希望に添えると思…


総合評価:725/評価:7.97/連載:15話/更新日時:2026年05月02日(土) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>