ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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5話 護衛

 

「じゃあ、ヒロ。案内するね」

 

「あ、はい。よろしく」

 

 

 突然、俺の前に現れた少女。

 青銅の盾所属のジュレと名乗り、俺へと歓迎の言葉をかけてくれた。

 

 それに対し、俺も自分を『ヒロ』と名乗り、彼女に付いていくことに決めたのだ。

 

 聞けば、『青銅の盾』というのは、スラムにある少年少女で構成されたチームであるらしい。

 元々俺達もスラムに向かう予定だったから好都合。

 

 ただ、白兎が何か言いたそうにしていたのは気になったのだけど………

 

 

 ピコピコ

『マスターの決めたことには従うよ。僕は口出しできないから……』

 

 

 少しだけ寂しそうな様子であったが、ジュレが白兎に挨拶をすると元気を取り戻し、いつもの雰囲気で耳を揺らしていた。

 

 

「えっと……、ハクトちゃんね。よろしく」

 

 パタパタッ

『こちらこそ、よろしくね』

 

「うわあ……、良い反応。この子、随分とチューンナップしているみたいね。ほらほら、お手」

 

 フルフル、 ポンッ

 

「わあ、賢い!」

 

 

 どうやらあっという間に白兎とジュレは仲良くなった様子。

 

 

 ふむ、いいな。

 兎と美少女の触れ合い………

 

 あれ? 

 そう言えば、今気づいたけど………

 白兎って、言葉を話しているんじゃないんだよな。

 

 でも、なぜか耳を振るうと、俺に言いたことが伝わってくる。

 これはどういう理屈だ。

 

 白兎の能力なのか、それとも機械種はそういう仕様なのか……

 そもそも、白兎の言いたいことって、俺以外の人間にも聞こえているのか?

 

 

「えっと、ジュレさん。この白兎からの言葉って聞こえます?」

 

「え? 何を言っているの? 機械種ラビットに会話機能はついてないよ」

 

 

 ちょっと驚いた顔をしながら答えてくれるジュレ。

 どうやら白兎の言葉は俺にしか聞こえないようだ。

 

 

「あははははっ、そうですよね。でも、俺って何となく白兎の言いたいことが分かるような気がするんです」

 

「あ~、それって分かる気がする~。兄の機械種カーバンクルも会話機能が無いけど、言葉が通じているみたいに以心伝心で動くし……」

 

「カーバンクル?」

 

「うちの兄の従属機械種なの。モンスタータイプの上位よ。軽量級では珍しい攻性マテリアル機器を装備しているとっても強い機種」

 

 

 カーバンクルと言えば、スペイン人が見たと言う伝説上の生き物だよな。 

 頭に宝石をはめ込んでいて、その宝石を得たモノは富と名声を得るという。

 日本ではリスみたいな姿でゲームキャラとして出てくるのが有名。

 確か希少なモンスター扱いであったはず。

 

 

「へえ……、強いんだ。うちの白兎とどっちが強いかな?」

 

「あははははっ、それは流石にカーバンクルよ。機械種ラビットはビーストタイプの下位でしかないから」

 

 

 マジか!

 白兎よりも強いって………

 

 

 俺の脳裏に焼き付いているのは、あの巨大な熊型ロボを一方的のボコる白兎の姿。

 さらには、宇宙戦艦のメガ粒子砲かと思う程の大口径のレーザー。

 森を引き裂き、大地を削った光の暴流。

 

 アレより凄い破壊力を秘めた攻撃手段を持っているのだろうか、そのカーバンクルは?

 

 しかも、白兎は機械種の中では下位であるような言い方だった。

 

 ひょっとして、機械種と言うのは人間など比べ物にならない程恐ろしい存在なのでは………

 

 

 

 

 

 

 

 ジュレに導かれ、街から少し外れた通りを進む。

 

 人通りは少なく、どちらかというと薄暗い印象が漂うエリア。

 

 活気も無く、寂れた感じと建物が並ぶ一角。

 

 

「あともう少しで『青銅の盾』のホームに着くから」

 

「…………ちょっと雰囲気が悪そう」

 

「まあ、スラムだからね。でも、ここにいるのは私達くらい少年少女だけよ」

 

「私達くらい………、えっと、俺って何歳くらいに見えます?」

 

「え? ………多分、私と同じ15歳くらいじゃないの?」

 

「あ、そうですね。そのくらいだと思います」

 

 

 ふう………

 やっぱり若返ってたか。

 しかも15歳くらいとは………

 

 でも、もう一度15歳からやり直せるとすれば悪くない。

 あの灰色だった青春をやり直すのだ。

 

 具体的には彼女が欲しい。

 俺の隣を歩くジュレぐらい美少女なら何の文句も無い。

 

 こうやって偶然に出会ったという縁があるのだから、ひょっとしてジュレは俺の為に用意されたヒロインなのかも………

 

 チラリと横目でジュレを見れば、ニコニコと楽しそうに笑顔を浮かべて俺を案内してくれている。

 

 金髪美少女、且つ、セーラー服みたいな服。

 まるで外国人が俺のクラスに転向してきて、俺が校内を案内しているみたいな雰囲気。

 まあ、案内してくれているのはジュレの方だけど。

 

 それに横から見ると、ジュレのスタイルはなかなかだ。

 歳の割りに良いモノをお持ちのようで………

 

 

「んん? どうしたの、ヒロ?」

 

「い、いえ、何でも………」

 

 

 イカン!

 女子は男子の視線に敏感なのだ。

 俺の露骨に胸を見ていたとかバレたら、俺の好感度が激減してしまう。

 ここは紳士な感じでいかないと。

 例えば、不良が絡んで来たら、俺が追い返すとか………

 

 『闘神』スキルで人間の中では個人戦闘力最強になっているはず。

 いくらなんでも不良には負けないであろう。

 

 でも、銃とか持ち出されたらどうしよう。

 流石に呂布でも銃で撃たれたら死んじゃうよね?

 その場合は白兎に頼るしかないか………

 

 

 

 少しばかりビクビクしながら、スラムの中を進んでいく。

 

 しかし、道端で座り込む不良っぽい若者何人かに胡乱な目で見られたりするものの、 特に絡まれることもなかった。

 

 

 

「…………治安が悪そうな割には、絡んできそうな雰囲気は無いなあ」

 

「ヒロがハクトちゃんを連れているのが大きいね。誰も機械種相手に喧嘩しようと思わないから」

 

「やっぱり機械種は強いんだ? じゃあ、機械種を護衛にしてたら絡まれたりしなのかな?」

 

「もちろん! ………ハクトちゃんみたいにきちんと護衛スキルを入れているならという条件が付くけどね」

 

「護衛スキル?」

 

「え? 知らないの?」

 

 

 吃驚した顔を俺に向けるジュレ。

 

 

「ハクトちゃんって、絶対に護衛スキル中級以上を入れているよね? 何で知らないの?」

 

「え、えっと………」

 

 

 恥を忍んで、機械種に詳しくないことを打ち明けると、ジュレは少しばかり訝し気な表情をしながらも護衛スキルについて語ってくれた。

 

 街の中央には白鐘が設置してあり、街全体に白鐘の恩寵が行き届いている。

 その中では機械種は人間に危害を加えることができない。

 これは人間に従うブルーオーダーであっても同様。

 これには例外が無く、たとえ自分のマスターが人間に襲われていても、手出しができないほど強制力の強いモノらしい。

 

 これを緩和させるのが『護衛』スキルなのだそうだ。

 

 白鐘の恩寵は『人間を傷つけるな』と強制してくるが、この『護衛』スキルを機械種に入れることで、『人間を守る為なら、人間を傷つけても構わない』というロジックを晶脳内で完成させる。

 そうすることで、相手から襲われた時に限り、その相手を攻撃できるようになるという。

 

 また、護衛スキルには等級があって、等級が高いモノほど、その条件が緩やかになる。

 

 護衛スキルが最下級なら、相手が実際に攻撃して来ないと反撃できないが、等級が上がると相手が攻撃動作を取っただけで先制攻撃をすることができるようになる。

 また、護衛スキルが低いと非殺傷の武器でないと攻撃できないが、高いとある程度融通が利くようになるらしい。

 

 

「勉強になります!」

 

「ふう……、ヒロも機械種使いなら、その辺はもっと学ばないと駄目だよ」

 

「イエス、マム!」

 

「もう!」

 

「あはははは、すみません」

 

 

 本当に色々と勉強になった。

 機械種と言うのは意外に扱うのが難しそうだ。

 

 しかも街中ではそんなにガチガチの制限があるとは……

 

 このスラムのように危険な場所もあるのだから、機械種を仲間にしたら護衛スキルは必ず入れるようにしないと………

 

 

「んん? そう言えば、ジュレさんは機械種を連れていませんけど、大丈夫なんですか?」

 

 

 ふと、今、気づいたこと。

 

 彼女は俺達と会った時から1人であった。

 

 この世界が元の世界の現代日本のごとく治安が良ければ問題無いが、もし、女の子が独り歩きもできないくらい治安が悪いのであれば、護衛は必ず必要ななず。

 たまたま俺と出会ったから、こうして白兎を護衛として連れて歩くことになっているけど、俺達と出会わなければどうなっていたことか。

 

 

 この俺の疑問に対し、ジュレは悪戯っぽく微笑み、

 

 

「さて、どうしてでしょう?」

 

 

 なぜか疑問で返してきた。

 

 

「どうしてって………、実はジュレ自身がスッゴク強いとか?」

 

 

 ネット小説ではよくある展開。

 可憐な美少女が男を押しのけて強いなんて、現実離れした話が山ほどある。

 

 

「ブブッ! 不正解!」

 

 

 だけど俺の答えを、ジュレは唇を尖らせて否定。

 

 

「アタシは見た目通りのか弱い女の子です!」

 

「うーん………、だとすると………、ジュレの背後には大物がいて、その大物を恐れて誰も襲おうとしないとか?」

 

「残念! ハズレ! 確かにアタシの兄は青銅の盾のリーダーだけど、それぐらいじゃあ、アタシみたいな美少女を前にしたら不良たちは留められないよ」

 

「ええ! では………」

 

 

 考え込む素振りを見せながら、俺の前を歩く白兎に視線を向ける。

 何となく白兎に頼れるような気がして、答えを求めてみると、

 

 白兎は耳をフリフリ、その答えを教えてくれた。

 

 

 

「よし! 分かった! ジュレの右肩に見えない護衛がいる」

 

「ええっ!」

 

 

 俺の答えを受け、ピタリと足を止めたジュレ。

 

 その顔に浮かぶのは、信じられないとばかりの驚いた表情。

 

 

「ど、どうしてわかったの?」

 

 

 ジュレはぎゅっと眉を寄せて険しい顔をしながら、俺の方を向いて問いかけてくる。

 

 

「フ………、簡単なことだよ。服の撓みと、風の動き、それと君の足取りを見れば分かる…………、君は歩くとき、やや右側に重心が傾いていた。それはつまり、右肩に何かを乗せている………とね」

 

 

 嘘です。

 なんか適当に言いました。

 

 でも、白兎から教えてもらいましたって、信じてもらえそうにないし。

 女の子の前だからちょっとばかり良い恰好をしたいということもある。

 

 …………バレるとめっちゃカッコ悪いけど。

 

 

 

「…………そうなんだ。凄いね。スケベ心でアタシの胸を見ていたわけじゃないんだ」

 

 

 

 うわ、バレてた!

  

 

 

「ふうん………、これは期待できそう。ヒロと出会えたのは幸運だったかも」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいね。俺も君と出会えたことは幸運だったと思うよ」

 

「フフフフッ」

「あははははっ」

 

 

 しばらく向かい合って、笑い合う俺達。

 

 そして、

 

 

「………姿を見せなさい、フルーレ」

 

 

 ジュレは自分の右肩に目を向けて命令。

 

 すると、ジュレの右肩に座る体長30cmくらいの妖精を模したようなロボットが現れた。

 

 絵本で出てくる妖精そのままの姿。

 背中には蝶のような羽根。

 美少女フィギュアみたいなデザイン。

 

 これが機械種とするなら、機種名は機械種フェアリーか、もしくは……

 

 

「これがアタシの護衛。機械種ピクシーのフルーレよ」

 

「ピクシー………」

 

 

 妖精の名前ではフェアリーに次いで有名かもしれない。

 イングランドの妖精の一種。

 悪戯好きで姿を消して色々悪さをするという伝説がある。

 姿を消せるのもそれが元ネタなのであろう。

 

 

「凄いでしょ。軽量級で光学迷彩を使えるなんてもの凄く珍しいんだから。普通だったらマテリアル幻光器に幻光制御(上級)を入れないと使えない能力なんだからね」

 

 

 機械種ピクシーのフルルを肩に置きながらドヤ顔のジュレ。

 随分とこの機械種がご自慢のようだ。

 

 

 また知らない単語が出てきたな。

 でも、何となくニュアンスで言いたいことが分かる。

 

 確かにステルスモードは大変役に立つだろうな。

 しかも機体が小さいから偵察に出すならまず見つからない。

 

 

「凄いな。見えない護衛か。しかも空を飛ぶんだよね?」

 

「もちろん! でも、機械種グレムリンと同じでほとんどモノを運べないんだけどね」

 

 

 歩きながらジュレと機械種の話を続ける。

 

 この少女は随分と機械種について詳しいようだ。

 

 おかげで少しの間であったけど、かなりの情報を仕入れることができた。

 

 

 

「着いたよ、あそこが『青銅の盾』のホーム!」

 

 

 目的地に着いたのは、街に入ってから30分少々。

 

 ここから見えるのは、横に長い2階建ての建物。

 

 中からは金属を叩いたり、擦ったりするような音が響いている。

 

 スラムチームのホームというよりは金属加工工場だ。

 

 

「もう一度言うね。ヒロ、我が青銅の盾のホームへようこそ!」

 

 

 ニッコリと俺に笑顔を向けてくれるジュレ。

 

 大輪の華とまではいかないけれど、野に咲くパンジーやチューリップの花が咲いたような華やかさを秘める笑み。

 

 最初出会った時より、さらに魅力的に見えた。

 

 

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