ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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7話 疑念

 

 その後、ジュレから一通り『青銅の盾』のホームの説明を受けた。

 

 

「あっちは女の子達がいる建屋だから用もないのに近づかないようにね。コボルトが1機、番をしているの。下手に侵入しようとすると叩きのめされるから気をつけて」

 

「………白鐘の効果範囲内では機械種は人間を傷つけられないんじゃなかったっけ?」

 

「そのコボルトは『門番』のスキルを入れられているから。これは『護衛』スキルと似たような効果があって、条件に合致しない侵入者を撃退することができるようになるのよ。ちなみにかなり強いから力尽くで突破するのは無理だからね」

 

「そ、それって、白兎よりも?」

 

「もちろん!」

 

 

 俺の方を向いて、ぐっと拳を握り力強く断言するジュレ。

 その顔は挑戦的に見えるくらい自信に満ち溢れていた。

 

 

 うわあ………

 あれだけの戦闘力を見せた白兎よりも強いのか?

 白兎よりも威力の高いレーザーとか撃ってきたりするのかな?

 絶対に突破は無理。迂闊に近づかないようにしよう。

 

 いや……、別に女だけの寮に忍び込もうとは思わないけど。

 

 

 

「とりあえず、ヒロは戦闘員で頑張ってほしいと思う。ノルマは1週間に機械種ラット以上の晶石を10個が目安。ラビット1機を狩って、機体を丸ごと持って帰って来ても達成よ。その場合は特別報酬がでるかもね」

 

「ラビットかあ………」

 

 

 思わず足元の白兎を見る。

 

 コイツの同じ機種を狩るというのは、ちょっとばかり引っ掛かりを覚える。

 特に白兎は最初、黒い機体………、レッドオーダーだったし。

 できれば難易度は高くても、別の機種を獲物としたい。

 

 

「それより強い機種を狩ってきたら?」

 

「え? …………ラビットより強いので言うと、機械種コボルトや機械種ゴブリンかな? でも、銃も無しに狩るのは無謀よ。だいたいヒロは武器を持っていないでしょう?」

 

 

 あ、そうでした。

 確かに今の俺は丸腰だな。

 しかし、俺には頼れる相棒が………

 

 

「言っておくけど、ハクトちゃんだけではコボルトやゴブリンには絶対勝てないからね。飛び道具は使ってこないけど、向こうの方が何倍も力が強いんだから」

 

「ううっ!」

 

 

 そうだなよ。

 白兎は機械種ラビットで、そのラビットより強い機種なんだから当たり前か。

 

 でも、飛び道具は使って来ない………

 白兎はあのレーザーをぶっ放したけど、それより強いコボルトやゴブリンが使えないってことか。

 肉弾戦に特化しているという可能性もあるけど、どこか情報に齟齬があるような………

 

 

 黙って考え込む俺に、ジュレは諭すような口調で話しかけてくる。

 

 

「挑むなとは言わないけど、せめて勝てる算段をしてから挑まないと、命が幾つあっても足りないよ」

 

「そうだよな………、白兎1機じゃあ戦力が足りないか………」

 

「せめてヒロが援護してあげないとあっという間に破壊されちゃうと思う」

 

「そうか………、なら、俺が頑張らないと………」

 

 

 自分の手をじっと眺めてみる。

 

 タコ一つない綺麗な手。

 本格的な武道なんてやったこともなく、精々中学の時の剣道の授業ぐらい。

 『闘神』スキルにより最強になっているはずだか、機械種という元の世界では考えられない程の高性能なロボット相手にどこまで立ち向かうことができるのか。

 おまけに武器もないし………

 

 

「…………しょうがないわね~ ヒロ、ちょっと待ってて」

 

 

 そんな俺の様子を見て何を思ったか、ジュレは俺に一声かけてからその場を離れ、

 

 

「はい、これあげる」

 

 

 一抱えある錆だらけの剣を一振り持ってきてくれた。

 

 

「新人さんに渡せる武器って、本当は鉄パイプくらいなんだからね。これはフルーレの光学迷彩を見破ったヒロへのアタシからの投資!」

 

 

 グイッと強引にその剣を俺へと押し付けてくる。

 

 鞘から抜いてみると刃渡り80cm程の長剣が現れる。

 

 あちこちに錆が浮いているようだが、意外と造りは頑丈そう。

 少なくとも鉄パイプよりはマシであろう。

 

 

 ………っていうか、ロボット相手に鉄パイプを武器に戦うなんて、どんな罰ゲームなんだよ、それ!

 不良同士の喧嘩じゃないんだぞ! 命を賭けた戦闘だ!

 

 それを考えれば、まだ格好のつく剣であるだけ良かったと言える。

 物語の主人公である俺がずっと使うには物足りないが、間に合わせの武器としては十分。

 

 

「ありがとう、ジュレ。コレ、貴重な武器なんだろ?」

 

「まあね。この街まで私と兄さんを護衛してくれたデビット………ジョブシリーズ、ノービスタイプの騎士系、機械種エスクワイアのモノよ」

 

「のーびすたいぷ? …………あ、いや、何でもない」

 

 

 また知らない言葉が出て来た。

 でも、素直に尋ねたらまた不審に思われるかもしれない。

 

 ジュレの物言いからお世話になって人の………遺品なのであろう。

 ジュレの顔には僅かばかり沈痛な表情が浮かんでいる。

 ここは有難くいただいておこう。

 

 

「ジュレ。助かるよ」

 

「どういたしまして」

 

 

 俺の反応に満足した様子を見せるジュレであったが、

 

 

「………もし、これでヒロがコボルトやゴブリンが狩れたなら………」

 

 

 突然、俺に身を寄せてきた。

 抱き着かんばかりに近づいたジュレの身体から、女の特有の甘い香りが俺の鼻の奥を刺激する。

 

 

「次はもっと良いモノをプレゼントしちゃうかも………」

 

 

 耳元で囁かれた誘惑染みたセリフ。

 それは15、6歳の少女には似つかわしくない妖艶さが含まれていた。

 

 

「ジュレ………」

 

「フフフッ、ヒロには期待しているんだから………ね」

 

 

 そこまで言うと、ジュレはさっと俺から身を引き、悪戯っぽい笑顔を浮かべて、

 

 

「荒野を抜けてきたってことは、ヒロはそれなりに戦えるんでしょ。今度は武器を無くさないようにね!」

 

「ああ、頑張るよ」

 

 

 どうやらジュレは俺が武器を持っていなくて丸腰なのは、旅の途中で落っことしたと思っているようだ。

 この物騒なアポカリプス世界では武器を持たずに出歩くなんて考えられないことなのであろう。

 

 

「で、どうするの? 今日はまだ午前だから狩りに行くなら全然間に合うけど……、それとも今日のところは止めておく? 夕方には狩りに行っているメンバーが戻るから、彼等に色々と指導を受けてからでも良いと思うわ………」

 

 

 確かに先達者がいるなら話を聞いてから挑みたい。

 しかし、ここまでお膳立てされて、明日からにしますとはちょっと言いづらい。

 

 それに狩りに出ているメンバーというのは、この『青銅の盾』においても武闘派の面々なのであろう。

 そういった力の信望者達が、俺みたいな一目でひ弱そうに見える人間に対してどのような態度を取るのか………

 

 こういったことは最初が肝心なのだ。

 今の俺はジュレに目をかけられただけの少年に過ぎない。

 でも、俺がこの剣を以ってそれなりの成果を上げてきたなら、周りの目も違ってくるはず。

 

 ならば、今日中にそれなりの成果を獲得してこなくては!

 

 

「いや、今から狩りに行ってみるよ。せっかくこの剣を貰ったし………」

 

「本当は銃の方も持ち出したかったんだけど……、そっちは厳重に管理されているの。ごめんね」

 

「いやいや! これで十分さ」

 

 

 いきなり銃なんて渡されても、使いこなせるかどうか分からない。

 

 それよりも列記とした近接武器の方が俺の『闘神』スキルを活かすことができるだろう。

 

 

 ジュレから狩りをする場所や、機械種から晶石を取り出す方法なんかを簡単に聞く。

 さらに機械種から取り出した晶石を入れる袋を貰って、準備万端。

 

 

 

「では、行ってくる! ジュレから貰った剣でバッサバッサと倒してくるよ」

 

「気を付けてね。あんまり遅くならないように。日が暮れる前には絶対に帰って来てね」

 

「了解! 行くぞ、白兎」

 

 ピョン! ピョン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、この辺でいいか………」

 

 

 街から出て少し進んだところで立ち止まる。

 

 パタパタ

『どうしたの? 狩りに行くんじゃないの?」

 

 

 立ち止まった俺を足元から見上げながら耳を振るう白兎。

 

 

「狩りには行くさ。でも、その前に………」

 

 

 適当に転がっている岩に腰かけ、俺の言葉を待つ白兎へと視線を向ける。

 

 

 体長40cmの小さな機体。

 耳をフリフリ、鼻をヒクヒクさせている様はまるで本当に生きている兎そのもの。

 

 しかし、白兎が生物ではないのは確実だ。

 その体は鉄よりも軽く頑丈な金属で構成されている。

 さらには目にも止まらぬスピードで飛び回り、何十トンもありそうなロボットを素手でぶちのめす。

 おまけに口からレーザーを放つなんて、そんな生物いるわけない!

 

 

 さて、一体コイツは何なのだろうか?

 

 

 俺の脳裏に真っ先に浮かぶ疑問はそれだ。

 

 この世界独特のロボットである機械種というのことは理解した。

 それは先ほどジュレの話を聞いてよく分かった。

 

 しかし、いきなり現れて俺の味方になったという不自然さだけが解消できない。

 

 あの時は受け入れるしかなかったから、特に問い詰めることをしなかった。

 下手に問い詰めすぎて、俺から白兎が離れていく可能性を恐れたからだ。

 色々と聞きたいことはあったが、最低限に抑えた理由もそれだ。

 

 だけど今は街に辿り着き、『青銅の盾』に居場所を作ることができた。

 

 だからもう遠慮することなんて無い。

 果たしてこの白兎は俺の味方なのだろうか?

 それとも、何か邪な陰謀をその胸に抱いているのであろうか?

 

 

 

「白兎、お前に聞きたいことがあるんだが…………」

 

 フリフリ

『いいよ、何でも聞いて!』

 

「……………俺がこの異世界に来た理由を知っているか?」

 

 パタパタ

『知らないや。ごめんね』

 

「いや、いい。では質問を変えよう。なぜ、俺をマスターにした? なんで自分から従属契約を願ったんだ?」

 

 フルフル

『マスターに仕えたかったからだよ。僕のマスターはマスターだけだから』

 

「…………お前と会ったのは、昨日が初めてだよな?」

 

 フリフリ

『今のマスターと会ったのは昨日が初めてだよ』

 

 

 今の? どういう意味だ。

 その言い方はまるで………

 

 

「白兎は、今の俺じゃない俺に会ったことがあるのか?」

 

 フリ………

『ごめん………、それは話せないや』

 

 

 先ほどまで元気よく俺の質問に答えてきた白兎だが、この質問に対しうなだれるように下を向きながら言葉を濁した。

 

 

「話せない? それはなぜ?」

 

 パタッ………

『それが制約だから。僕のこととか、世界の状況こととかは話すことはできるけど、マスターに関することと、マスターが選ぶ道を妨げるようなことだけは話すことができないの』

 

「…………俺がマスターなのに?」

 

 ピコピコ

『僕も全部打ち明けたいけど、それをすると大変なことなるの』

 

「大変なことか………」

 

 

 つまり白兎は俺の味方だけど、何かの制限を受けて俺に全てを話すことができない。

 その大変なことというのがどのレベルのことなのか分からないが、なんとなく状況がつかめてきたような気がする。

 

 

「その制限というのは解除できるのか?」

 

 パタパタ

『マスターが自分で情報を集めていけば、僕が秘密にする必要もなくなって、そのうち解除されると思う』

 

「そうか……………」

 

 

 

 俺はゆっくりと立ち上がって、空を見上げる。

 

 

 青い空。

 白い雲。

 元の世界と変わらない風景。

 

 

 ただし、目線を地面と平行に向けると、そこは何もない荒野。

 さらには来た道を振り返れば、明らかに俺が住んでいた世界とは異なる街並みが広がっている。

 

 それは当然。

 なぜならここは異世界なのだから。

 

 

 

 ハッ

 馬鹿馬鹿しい。

 

 異世界ってなんだよ?

 それはゲームやアニメ、漫画、ネット小説の中だけの存在だろ!

 

 まともに考えて、そんなモノがあるはずがない…………

 

 

 この異世界に来た時に抱いていた考えとは真逆。

 

 いきなり荒野に飛ばされたというショックと、『チートスキルを得たかも』という興奮が冷めれば、現実的な思考が俺の頭を巡り出す。

 

 

 ならばここは夢なのだろうか?

 白兎とのやり取りも、ジュレに感じた高揚も、全て俺の夢の中の産物なのだろうか?

 

 

 ギュッ

 

 

 力一杯指で手の甲をつねってみる。

 

 当然痛い。

 

 

「はあ…………、夢に溺れていようが、論理的に考えようが、今の状況は変わらない」

 

 

 とりあえず、異世界に来たことは認めなくてはならない。

 その上で俺が何をしなければならないのかを考えなくては。

 

 

 まずは、今の所唯一の味方と言っても良い、この白兎は信じられるか?

 

 

 チラリと視線を向ければ、大人しく俺の命令を待っている様子。

 

 今までの白兎の献身ぶりを見れば、一生懸命俺の役に立とうと頑張ってくれている。

 

 しかし、俺には話せない秘密を抱えており、それが完全に信用できない要因ともなっている。

 

 まあ、自分から正直に話せない秘密がありますと答えるだけマシなのだろう。

 

 それに俺が自由に扱える貴重な戦力だ。

 

 ジュレの話ではあまり強くない機種らしいが、それでも、偵察、警戒等にも役に立ってくれるはず。

 

 ……………あの熊型ロボットとの戦闘を見て、この白兎が機械種の中では下位でしかないというのは、なかなかに信じにくいのだが。

 

 

 そして、白兎が言っていた、『今じゃない俺』の話。

 

 考えられるのは、『俺の前世』、『俺とそっくりさん』、『実は白兎の妄想 or 植え付けられた偽の記憶』等々。

 

 候補を挙げればきりがないが、これは今考えても仕方がないことだ。

 それに白兎はいずれ分かる的なことを言ってたし………

 

 

 さて、白兎についてはこれくらいか。

 俺の結論としては…………

 

 

 

『とりあえず白兎は俺の味方である前提で行動するしかない』

 

 

 

 でないと、今後の俺の活動はあまりにも非効率的になってしまうから。

 

 白兎の行動をいちいち疑っていたらきりがない。

 もうその辺は割り切るしかないのだ。

 何か不都合が起きたらその時に対処するしかない。

 

 だから、今は白兎を相棒として狩りを成功させよう!

 

 

 

「はあ…………、そろそろ狩りをしないとな。行くぞ、白兎!」

 

 パタッ!パタッ!

『了解! 僕、頑張るよ!』

 

 

 ジュレから貰った錆だらけの剣を肩に担ぎ、白兎と共に荒野の奥へと向かう。

 

 

 ふと、歩きながら頭の中で過ったことが一つ。

 

 もし、俺1人だったらかなり心細かったに違いない。

 

 誰かが俺と行動を共にしてくれていると言うのは何と心強いのか。

 

 

 だから、白兎。

 頼むからお前はずっと俺の味方でいてくれ。

 

 

 俺の隣を悠然と歩く白兎を頼もしく感じながら、俺はそう願わずにはいられなかった。

 

 




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