ヒロとウサギのアポカリプス世界冒険譚   作:やみくらげ

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9話 失意

 

「あれ? 知らない天井………、いや、空?」

 

 

 目を開ければ、夕暮れ色に染まった空模様。

 

 どうやらここは野外。

 そして、俺は地面に仰向けで倒れていたようだ。

 

 

「え? 寝てた、俺?」

 

 

 身体を起こして、服についた砂をパタパタとはたく。

 そして、辺りをグルリと見渡して、

 

 

「んん? 一体どういう状況だ?」

 

 

 確か、機械種ゴブリン目がけて、力一杯剣を振り下ろした記憶が残っているのだが………

 

 

 ピコピコ

『マスター、大丈夫?」

 

 

 視界に大きく映る白兎と思われる白い耳。

 相変わらず耳を揺らすだけで、言いたいことが俺に伝わってくるようだ。

 

 

「白兎? 何があったんだ?」

 

 パタパタ

『マスターがゴブリンを真っ二つにして、地面まで切り付けたの。そしたら、大爆発が起こったみたい』

 

「大爆発?」

 

 フルフル

『うん、その爆発に巻き込まれてマスターが気絶しちゃったの』

 

 

 爆発?

 

 でも、特に痛みも感じず、怪我をしているように思えないが……

 

 

 

 パタパタ

『怪我は無い? 痛い所があるなら僕が治してあげるよ』

 

「え? 白兎ってば、傷も癒すことができるのか?」

 

 フリフリ

『そうだよ。この前、ケアマネージャー1級の試験に合格して『ケア○ラ』が使えるようになったんだ』

 

「おい………、何でそこで『ケアル○』が出てくるんだ? しかもケアマネージャーの試験とは何の関係も無いぞ!」

 

 

 なぜにFFの白魔法?

 なんかコイツだけ別のゲームやっていないか?

 

 

 パタパタッ!

『通信教育で勉強を頑張ったから!』

 

「通信教育って………、もういいや………、頭が痛くなってきた」

 

 

 ゆっくりと上半身を起こし、手で頭を抑えながら何気なしに周りを見渡すと、

 

 

「!!! 何じゃこりゃあ!」

 

 

 俺が倒れていた場所から10m程離れた先の地面に大穴が………

 

 

「………マ、マ、マジ……か? そ、そんな威力……だったの?」

 

 

 あまりの惨状に言葉を詰まらせながら立ち上がり、穴の近くへと寄ってみる。

 

 

「ここまでかよ………、良く無事だったな、俺………」

 

 

 直径10mはあろうかというすり鉢状の大穴だ。

 深さは4m以上ありそう。

 ここで大爆発が起こったのは間違いない。

 

 

「て、言うか、なんで助かったんだ?_こんなのまともに受けたら体がバラバラになっても不思議は無い………って、もしかして、バラバラになっていたとか?」

 

 

 バラバラになった俺の身体を白兎が繋いで元通りにしてくれたとか?

 

 

 フリフリ

『バラバラになっていたら僕でも治せないよ』

 

「そうか………、『ケ○ルラ』でもそこまでの回復力は無いのか………」

 

 

 『ケア○ガ』だったら、接合とか再生とかできるのかな?

 

 ……って、いつの間にか、白兎がFFの白魔法を使えるのを受け入れてしまっているぞ。

 

 白兎に付き合っていると、どんどん常識が崩れていってしまような気がしてくる。

 

 

 

 

「…………服も全然傷ついてないな」

 

 

 見た感じ、黒のパーカーTシャツにも傷一つない。

 ジーパンも同様。

 

 まるで、バリアでも展開していたかのように無傷。

 

 

 

「やっぱり、あれって、この『青雲剣』の力か………」

 

 

 

 近くに転がっている空色の長剣『青雲剣』を眺めてポツリ。

 

 

 

 無造作に地面に置かれているだけだが、目を引きつけて止まない存在感を放っている。

 

 

「宝貝(ぱおぺえ)かあ………、確か、封神演義で出て来た仙人の武器だよなあ………」

 

 

 今の世の中なら某ゲームで出て来た『宝具』の方が有名かもしれないが、『宝貝』の方がずっと古い。

 おそらく『宝具』は『宝貝』を参考にしたモノであろう。

 摩訶不思議な現象を引き起こすマジックアイテムみたいな所も良く似ている。

 

 

「『青雲剣』は、封神演義の敵キャラ、魔家四将の一人、魔礼青の宝貝だったな」

 

 

 風や炎を巻き起こして敵を切り刻む能力を持っていたはず。

 

 だとすると、あの大爆発は、俺が全力でぶっ放し過ぎて自爆したのが原因ということ。

 

 

 

 青雲剣を拾い上げて、じっくりと品定め。

 

 鏡のように磨かれ傷一つない美しい空色の剣身。

 怖気が走る程に鋭く見える剣先。

 

 柄には小指の爪程の色違いの宝玉が4つ。

 戦場で持ち歩かれているより、美術館にでも飾られている方が似合いそうな宝剣。

 

 

「ふ~ん………、地水火風を操る力があるのか。風を巻き起こしたり、炎を放ったり………、でも、どちらかというと、剣を振るって衝撃波を放つのが得意……と」

 

 

 『青雲剣』から俺へと流れ込む意識。

 主として自分のことを知ってほしいと思う道具の業。

 

 目蓋の裏に沈着冷静な武人の姿が浮かんでくる。

 

 そして、なぜか申し訳なさそうにこちらへと頭をさげてくるイメージが……

 

 

「ああ、俺を巻き込んじゃったからか。気にするな、俺の使い方が悪かったから」

 

 

 随分と真面目で実直な性格であるようだ。

 俺が仕出かしたことなのに、『青雲剣』は自分を責めている様子。

 

 しかし、今回の件は俺がミスったことが原因。

 気にするなと返事を返して、

 

 

「オッケー、よろしくな、『青雲剣』」

 

 

 新しく手にした俺の為の武器へとの挨拶を済ませる。

 きっとこの剣で俺は更なる高みに昇ることができる。

 

 

 そして、

 

 

 

「さて、この『青雲剣』が生まれた原因だが………」

 

 

 ジュレから貰った長剣は何の変哲もないただの剣であった。

 それがいきなり宝貝化したのには必ず原因があるはず。

 

 

「俺が作り出した……、んだよな? ……………いや、正確にはジュレから貰った剣を変化させた………」

 

 パタパタ

『そうだね、そんな感じだった』

 

「これが俺の能力? 仙術スキルの力か? まさか仙術が使えるようになる前に宝貝を作っちゃうとはなあ………」

 

 

 

 傍で見ていた白兎からの意見を聞き、俺の想像が正しかったことを確認。

 

 

 封神演義では仙術の効力というのは実は大したモノではなく、宝貝の方がずっと強い。

 長い寿命を持つ仙人が何十年、何百年をかけて精錬するモノだから当たり前。

 

 そんな強大な力が俺の中に宿っている。

 『仙人』のスキルは『闘神』スキルに匹敵する程レア。

 それぐらいの効力が無いと、とても釣り合わない。

 

 

「俺が宝貝を作れるなら、バンバン作っていきたい所だけど………」

 

 

 ふと、思いついて、地面に転がる拳大の石を拾い上げ、

 

 

 じっと手の中に握り締めて念を凝らし、数分間の後、

 

 

 

「駄目だ! 全然宝貝にできる気がしない! 『青雲剣』が偶然だったのか、それともナニカの条件があるのか………」

 

 

 なんとなくだが、材料の方に問題があるような気がする。

 

 地面に落ちているただの石では駄目なのだ。

 宝貝に材料にできるくらいの『格』が必要。

 

 

「他に宝貝にできそうなモノは…………、手持ちには無いなあ」

 

 

 スマホもなければ筆記用具も無い。

 当然、武器なんてもっていない。

 

 宝貝の強弱に材料が影響するなら、そこそこ質の良いモノを揃えた方が良いに決まっている。

 

 

「これは課題だな。この街で稼いで武器を買う。それを片っ端から宝貝に変えていくか」

 

 

 

 俺の力が判明した。

 『仙術』スキル由来だと思われる、モノを『宝貝』に変化させる能力。

 

 ようやくこの世界で俺が活躍できる道が見えて来た。

 あとは、金を稼いで力を溜めていくとするか。

 

 

 

 フリフリ

『マスター、そろそろ夜になっちゃうよ。夜になると虫が出てくるから早く街に戻った方が良いよ』

 

「あ! もうそんな時間か………、結構長い間気絶していたんだな」

 

 

 俺が今後の方針を決めたタイミングで、白兎からの申し出。

 確かにすでに空は夕焼け色。

 

 

 フルフル

『気持ちよさそうに寝ていたから無理に起こさなかったの。ごめんなさい』

 

「いや、いい。自爆して気絶した俺が悪いんだ。気にするな」

 

 

 そうと分かれば街へと帰還するしかない。

 忘れ物は………

 

 

「あ! ジュレに貰った剣の鞘は………」

 

 パタパタ

『それはここにあるよ』

 

 

 白兎が俺へと差し出してくる長剣の鞘。

 

 

「ほっ………、良かった。無事だったか」

 

 

 あの爆発の中、よく壊れなかったものだ。

 

 流石に街の中に入るのに、長剣を抜き身で持ち歩きたくはない。

 

 ただでさえ悪目立ちしそうな美しい宝剣なのだ。

 隠せるものなら隠しておいた方が良い。

 

 

「あとは………持ち帰る獲物を………」

 

 

 あの爆発したゴブリンは粉々だろうけど、白兎が倒したのがあるはず。

 

 

 フリフリ

『ごめん、それもあの爆発で粉々になっちゃった』

 

「ま、マジか…………」

 

 

 一ヶ所に集めて近くに置いていたのが仇になってしまったか。

 

 まさか、ここまで来て手ぶらで帰ることになろうとは………

 

 

「仕方ない。次、頑張るとしよう」

 

 

 あれだけ勢いよく飛び出して来たのに、まさかの成果ゼロ。

 ジュレに何て言えば良いのだろう。

 

 

「なかなか上手くいかないモノだなあ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意気消沈で『青銅の盾』のホームに戻った俺を待ち構えていたのは一人の少女。

 

 

「ヒロ! 遅かったじゃない!」

 

 

 建物に入るなり、ジュレが駆け寄ってくる。

 

 

「怪我はない?」

 

「大丈夫。怪我一つないよ」

 

「そう? 無理してない? 元気無さそうだけど?」

 

「ほ、本当に平気だから! そ、それよりも………ゴメン!」

 

 

 折角剣を貰ったのに、何一つ成果を得ることができなかったことを謝罪。

 

 

「あれだけ大口を叩いたのに………、申し訳ない」

 

 

 やっぱりジュレが最初に言っていた機械種ラット辺りにしておいた方が良かったかもしれない。

 そうしていれば、今のような惨めな思いをすることは無かったであろう。

 

 

「…………しょうがないよ。そんな日もあるんだから気にしないで」

 

 

 ジュレからかけられた暖かい言葉。

 

 それすら受け入れるのには少しばかりの痛みを伴う。

 

 ここで期待外れと罵倒でもされていた方が気が楽だったかもしれない。

 

 ジュレに対する興味も失い、フラットな気持ちで次を迎えることができたのだから。

 

 でも、こんな優しくされたのなら、絶対に次は失敗できなくなる。

 

 その期待が俺にとっては重苦しい。

 

 

「明日は………、頑張るよ」

 

 

 少なくとも宝貝『青雲剣』の力は知れた。

 明日はその力を活かしながら、戦うことができる。

 そうすれば、ゴブリンよりも強い敵を狙えるだろう。

 

 次はきっとジュレをビックリさせることになるはずだ。

 

 

 

「そう……、でも、怪我をしないようにね。怪我さえしなければ、何度でもやり直しがきくんだから。それにまだヒロはチームに入ったばかりよ。焦って無理をする必要なんてない」

 

「うん………、ありがとう」

 

 

 確かにまだ『青銅の盾』に入って初日。

 向こうも早々に俺が成果をあげてくるなんて期待していないはず。

 だけれども…………

 

 

「ほう? ソイツか? お前の新しい手駒は?」

 

 

 俺とジュレの間に割り込む、尊大そうな若い男の声。

 

 

「また誑し込んだのか? 懲りない奴だな」

 

 

 声の方を振り向けば、俺より少し年上の男が立っていた。

 

 浅黒い肌にがっしりとした体つき。

 縮れ気味の黒い髪を短く刈っており、まるで南米のサッカー選手のような風体。

 

 その男の後ろには従者のように2人の少年が控えており、その横には荷物持ちのような佇まいの機械種が1機。

 

 犬っぽい頭をした機械種ゴブリンより少し小さい機種………、おそらくこれが機械種コボルトか?

 

 その機体は明らかに人の手で改造されていると分かる仕様。

 冴えるような青い帯がたすき掛けのように塗布され、左手の甲に小さめの盾が装着されていた。

 

 

「…………何の用? バルーク。貴方には関係ないでしょう?」

 

「フンッ! 『青銅の盾』に新たな機械種使いが増えたのだろう。なら俺も無関係ではあるまい。なにせこのチームには、俺とお前の兄も合わせ、機械種使いがたった4人しかいないんだからな」

 

「だからなに? このヒロは私が見つけたんだけど?」

 

「誰が見つけようが『青銅の盾』に入ったのだから同じだろう。即ち俺の後輩ということだ。最近他のスラムチームの活動が活発化しているからな。対抗する為にぜひ俺のグループの戦力として迎え入れたい」

 

「機械種使いを引き入れたのはアタシの功績よ。無視しないで!」

 

 

 俺がカラーリングされたコボルトに気が取られているうちに、なぜかジュレと若い男、バルークが言い争いを始めている。

 

 内容はおそらく俺の処遇。

 

 多分、同じ『青銅の盾』でありながら、ジュレとこのバルークという男はライバル関係にあるのかもしれない。

 

 機械種使いは貴重だと聞いていたが、取り合いになるまでなのか?

 これだけジュレが必死になる程。

 

 それに他のスラムチームか。

 この『青銅の盾』以外にも幾つかあって、スラム内で抗争でもしているんだろうか?

 少々気になるところだが…………

 

 

 

「おい! お前、ヒロと言ったな」

 

「あ、はい………」

 

「俺はバルーク。青手、緑手にして、機械種使いだ。お前が上を目指すのであれば、俺に着いた方が良いぞ」

 

「はあ…………」

 

「それに………」

 

 

 そこでバルークは言葉を切り、視線をジュレへと向けてから、ニヤッと口を歪めた。

 

 

「もし、お前が女を求めるなら、ソイツは止めておけ。どれだけお前が尽くそうとも、肌1つ触らせてくれないぞ」

 

「なっ! バルーク!」

 

「あははははっ、嘘ではあるまい!」

 

「…………アタシはチームトルネラみたいに、男を篭絡して利用するようなことはしない!」

 

「そうか? 向こうは割と簡単に抱かせてくれるらしいからな。見返りがあるだけ、お前よりもマシじゃないか? まあ、その後はなかなかに大変のようだがな。あはははははっ!」

 

 

 言うだけ言って、その場を去っていくバルーク。

 

 ジュレは悔しそうに歯噛みしながら、その背中を睨みつけていた。

 

 

 




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