プボあじ!~カノープス風味~   作:秋乃落葉

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春天でプボの単勝馬券外したので投稿します。


第一話

 春、トレセン学園。咲き誇る桜が新たな門出に臨むウマ娘達を祝福するように桜吹雪を降らせる。

 トレセン学園は初々しい新入生たちで大賑わいだ。入学式すらこれからだというのに、興奮が抑えられない様子の若駒たちがあちこちで夢を語っている。私も混ざりたいな、と思えど、彼女にはその余裕がなかった。

 

 

「寮・・・どこぉ・・・?」

 

 

 両手に荷物を抱えた彼女は、完全に迷子になっていた。

 憧れのトレセン学園に足を踏み入れて舞い上がっていたのか、ちょっとだけ見物を、とうろうろしている間に自分の居場所を見失ってしまったのだ。事前に受け取っていた案内の地図を見ながら、自分がまず行くべき『栗東寮』を探しているのだが、如何せん敷地が広すぎて、歩けば歩くほど状況が悪化している。

 

 

 またしばらく彷徨って、彼女は途方に暮れる。額から流れる汗は、暖かな春の陽気がもたらすものだろうか。それを右手で拭って、思わず天を仰いだ。晴れ渡る青空に、一筋残った飛行機雲が映える。

 

 

「あ・・・、飛行機雲。綺麗だなぁ」

 

 

 彼女は飛行機雲が好きだった。広い大空を、何処までも駆けていくようにどこかに続く飛行機雲。その先にあるものを見たくて、無邪気に追いかけていった幼少の頃を思い出す。あの時も、夢中で街中を駆け抜けて、気づいた時には見たこともない景色の中にいて、迎えに来てくれた母に叱られたんだった。

 母には一人で知らないところまで走らないように怒られたけど、あの時感じた飛行機雲への憧れが、私をここまで連れてきてくれたんだ。そして、これからも。

 

 

「って、ぼーっとしてる場合じゃない!遅刻しちゃうよぉ~!!」

 

 

 はっとして腕時計を見る。まだ時間は少し時間はあるようだ。急いで栗東寮を探すべく、駆け出す。

 途中で芝生を突っ切った時だった。周りの建物を見回すあまり足元を見ておらず、ぎゅむっと何か柔らかいものを踏みつけ、それでバランスを崩してつんのめるように転んでしまった。

 

 

「いたた・・・、何・・・?」

 

 

 上体を起こして振り返ってみれば、相手も倒れていたウマ娘。・・・といっても、向こうはそこで寝ていたようで、両手で背伸びをしながら、あくびをしていた。

 

 

「あわわ!ごめんなさい!!私急いでて!踏んづけちゃいました!?」

「プボ~・・・。んん、よく寝た!」

 

 

 相手は踏まれていたことにも気づいていないようで、のっそりと起き上がると、そこで初めて彼女を認識したようで、倒れているのを不思議そうにみて、手を差し伸べた。

 

 

「どうしたの~?転んだ?」

「えっ、あの、貴女を踏んでしまったんです。ごめんなさい!」

「ええ~?そうだったんだ。全然気づかなかったプボ」

「プボ・・・?」

 

 

 謎の語尾に疑問を持ちながらも、その手を取り、起き上がる。その人は自分よりも背が高くて、少し毛先がくせ毛の、黒いボブカットのウマ娘。

 

 

「ありがとうございます。すみません、私急いでて、栗東寮に行かないといけないんです」

「栗東寮?すぐそこだよ~。一緒にいこっか?」

「ほんとですか!ありがとうございます!」

 

 

 落とした荷物を拾い、もう一度時計を見る。なんとか間に合いそうな時間に安堵して、二人で栗東寮に向かう。

 

 

 

  ◇  ◆  ◇

 

 

「おや、新入生のポニーちゃん。遅かったね」

「すみません~・・・。迷っちゃって・・・」

「ははは!トレセン学園は広いからね!仕方ないよ!私は栗東寮の寮長のフジキセキ。えーっと、君は・・・」

「はい!私、コントレイルって言います!これからよろしくお願いします!」

 

 

 黒髪ショートの、比較的小柄な彼女が名乗ると、フジキセキは少し驚いた顔をした。

 

 

「ほう!君が・・・。いや、失礼。よろしくね」

 

 

 フジキセキは手元のファイルをパラパラとめくり、コントレイルの名前を探す。

 

 

「コントレイル、コントレイル・・・。あった。ああ、ちょうどいい!ディープボンド、彼女は君と同室の子だ。部屋に案内してくれるかい?」

「プボ~!そうだったんだ~!わかったプボ!」

 

 

 コントレイルはここで初めて彼女の名前を知った。案内してくれた人が同室だったとは、なんという偶然だろうか。そのままディープボンドに連れられて自分たちの部屋になる部屋に向かう。

 

 

「一緒の部屋だったんですね!改めまして、私、コントレイルです!」

「私はディープボンドだよ~。気軽にプボって呼んでほしいプボ。それに、私も新入生だから敬語はいらないよ~」

「そうだったんだ!プボちゃん、背が高くて落ち着いてるから先輩かと思った!」

「そうでもないよ~。コンちゃんより大きいかもだけど、噂によれば、栗東寮には巨人がいるらしいプボ」

「ええ~?何それ!」

 

 

 部屋までの道中を話しながら向かい、コントレイルは仲良くなれそうでよかった、と胸をなでおろす。ちょっと不思議な人ではあるけれど。やがて部屋につき、荷物を下して、ようやく一息ついた。

 

 

「うぁ~!ここが今日から生活する部屋なんだ!凄い!私ほんとにトレセン学園に入学したんだ!」

 

 

 興奮冷めやらぬ様子で部屋を見渡しながら、荷解きするコントレイル。荷ほどきと言っても、生活必需品は学園が用意するため、さほどの量ではない。持ち込んだものを手際よく机に並べたり、収納にしまっていく。鞄の中も空になろうかというころ、一つの写真立てを手に取り、飾られた写真に見入る。

 

 

「ウマ娘の写真?どっかで見たことある人プボ」

 

 

 のそのそとやってきたディープボンドが、肩越しに写真をのぞき込む。その写真は、レース後のウィナーズサークルで取られた写真のようで、美しい黒い長髪をたなびかせたウマ娘が、右手で立てた三本指を高らかに掲げている。肩にかけられた優勝レイには、菊花賞の文字。

 

 

「うん、私のお母さん!三冠ウマ娘なんだよ!しかも無敗で達成したの!」

「はぇ~、凄いプボ~」

 

 

 日本のウマ娘の歴史上、クラシック三冠制覇を成し遂げたウマ娘は二けたにも届かない、偉大な記録。それを無敗で達成したウマ娘は、その中でもたった二人だけ。『英雄』と呼ばれたコントレイルの母と、トレセン学園の生徒会長であるシンボリルドルフ。ディープボンドはいまいちピンときていないようだが、それは本当に奇跡のような記録なのだ。

 

 

「トウカイテイオーさんやミホノブルボンさんでも成し遂げられなかった無敗の三冠、シンボリルドルフさんとお母さんだけが達成したその頂に、私も至りたいの。それが、私の目標!」

「凄い目標だねぇ~。私もコンちゃんの目標、応援するプボ!」

「ありがとう!でもプボちゃんもクラシック路線に来たらライバルだからね!」

「プボ~・・・。確かに。まあその時はその時プボ」

 

 

 二人の会話も落ち着いた頃、チャイムが鳴った。いよいよ、トレセン学園の入学式が近づいている。

 今、二人の物語が始まろうとしている。『英雄の後継者』と『稀代のズブウマ娘』の、軌跡の物語が。

 

 

 

  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 トレセン学園での生活が始まって数日、新入生達もつつがなく過ごしていた。が、今日は入学初日に勝るとも劣らない賑わいを見せていた。

 新入生達が初めてその才能を発揮するイベント、身体測定である。勿論それは身長体重の測定のみならず、競争能力の測定もある。というか、本命はそちらの方だ。

 この身体測定は、担当を探すトレーナーや、有力チームも注目している。いい結果を出せば、優秀なトレーナーやチームからのスカウトを受けることができるのだ。

 

 

「身体測定か~、緊張するね、プボちゃん!」

「プボ?走ったりするだけでしょ~」

「いやいや、すっごく重要なんだよ!いい記録を出して、注目してもらえれば、専属トレーナーさんが見つかるかもしれないし!もしかしたらリギルやスピカに入れるかも!」

「ほぇ~、頑張るプボ~」

 

 

 間の抜けた声と少し眠たげな表情で、やる気があるのかわからないディープボンドに対して、コントレイルはやる気満々といった様子で、軽く体を動かしたり、柔軟をしたりしている。それを周りのウマ娘達がちらちらと見ているようだ。

 数日のうちにコントレイルの噂は広まっているようで、大多数は伝説的なウマ娘の子供がどんなパフォーマンスを見せるのかという興味から、一部の血気盛んなウマ娘からはあわよくば負かしてやろうという対抗心から、コントレイルへの関心と注目が高まっていた。

 

 

 ──時を進めて、身体測定の中の大一番。いや、これを行うついでの身体測定と言っても差し支えないだろう。模擬レースの開幕だ。毎年恒例のこの舞台には、今年の若駒たちを見ようと、関係者やトレセン中のウマ娘が観戦にやってくる。その中には、彼女たちも含まれていて。

 

 

「あっ、あそこ!あれって、シンボリルドルフ会長じゃない!?会長もレース見に来てるんだ!見られるの緊張する~!」

「会長だけじゃないって!その隣にいるの、ミスターシービーさんとナリタブライアンさんだよ!?やば~!!」

 

 

 模擬レースの開始を待つ新入生から黄色い歓声が飛ぶ。彼女たちの視線の先には、三冠ウマ娘の称号を持つウマ娘が三人。ミスターシービー、ナリタブライアン、そしてシンボリルドルフ。一人だけでも伝説的な人物が、三人もそろっていれば、新入生たちが色めき立つのも致し方ないというものだ。

 

 

「ふふ、今年の新入生たちも元気だな。ブライアン、初めての模擬レース、いきなり勝利を『もぎ』とるのはどの子だと思う?」

「チッ・・・。知るか。私が見に来たのは一人だけだ。あんただってそうだろう。シービー」

「一人だけってことはないでしょ。全てのウマ娘には、無限の可能性がある。・・・ま、あの子を特別見ておきたいって言うのは、同感だけどね」

 

 

 彼女たちが示し合わせたわけでもなく、観戦の場に一堂に会したのは、他でもなくコントレイルの走りを見るため。

 

 

「『英雄』の娘は、どんな走りを見せてくれるのかな。できることなら、直々に競争してみたいものだね。ちょっと模擬レースに混ざってこようかな?」

「はは、気持ちはわからないでもないが、遠慮してくれ。──彼女たちの心を折りかねない。未来ある者たちにすることではない、な」

「やだな、冗談だよ。そんなに凄まないでよ、ルドルフ」

 

 

 シービーとルドルフのやり取りを横目に、ブライアンは無言でコントレイルを観察し続ける。彼女が求めるのは、己に並び、抜き去りうる力を持つ者のみ。ひりつくような、勝負を与えてくれるもののみ。

 

 

 

  ◇  ◆  ◇

 

 

 

「っ・・・!?」

 

 

 模擬レースの出走を待つコントレイルの背筋に、ぞくりと寒気が走る。

 

 

「コンちゃん?どうしたプボ?」

「や、ちょっと寒気というか・・・」

「だいじょーぶ?次のレース、コンちゃんの番プボ?」

「うん、一瞬感じただけだから・・・。プボちゃんは私の次だよね。一足先に行ってくる!」

 

 

 多くの人々の注目を背に、コントレイルが模擬レースへ向かっていく。

 レースは1600m。スピードが求められるが、ある程度のスタミナもなくては勝ちきれない、ウマ娘の試金石ともいえるマイル戦。彼女の素質を見極めるには、絶好の条件。近づく出走に、誰もが期待と少しの緊張を持って見守る。

 

 

「コンちゃ~ん!頑張るプボ~!」

 

 

 ゲートに入ったコントレイルは、ディープボンドの声援に片手で親指を立てて答え、すぐにスタートに備える。そして、ガタン、というゲートが開く音と共に、彼女たちは走り出した。




ほとんどコントレイルが主役のようになってしまいましたが、主役はプボです(重要)

長くなってしまったので、レース以降は次回に。
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